No | 121473 | |
著者(漢字) | 三村,佳弘 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ミムラ,ヨシヒロ | |
標題(和) | 強皮症皮膚線維芽細胞におけるトロンボスポンジンI(TSP-1)の発現について | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 121473 | |
報告番号 | 甲21473 | |
学位授与日 | 2006.03.23 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第2721号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 外科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 線維芽細胞による細胞外マトリックスの産生および分解は、様々な成長因子や炎症性サイトカインおよび細胞一細胞外マトリックス間の相互作用により制御されている。その中でも線維化病巣の形成に中心的役割を担っていると考えられているのがTGF-βである。培養強皮症皮膚線維芽細胞の特徴の多くはTGF-β刺激下の正常細胞の特徴に似ている。逆に、強皮症皮膚線維芽細胞において内因性TGF-β産生を抑制するとI型コラーゲンの発現が減少することが報告されており、強皮症皮膚線維芽細胞の特徴の多くはautocrine TGF-β loopの作用により維持されている可能性が指摘されてきた。TGF-βはlatent formとして分泌される。この形態ではTGF-βはその受容体に結合することはできず、その前に形態を変化させる(活性化される)必要がある。TGF-βの活性化メカニズムの1つがlatent TGF-βと細胞外マトリックスのひとつであるTSP-1との結合によるものである。そして、このTSP-1による活性化メカニズムはin vivoにおいてTGF-βの作用を発揮させる上で極めて重要であることが報告されている。TSP-1の発現が腎硬化症や腸管の線維化に深く関わっていることが示されている。これまで強皮症患者において血清TSP-1値が健常人よりも有意に高いことが報告されているが、TSP-1自体が強皮症の病態形成においてどのような役割を担っているかについてはわかっていない。 本研究は、培養強皮症皮膚線維芽細胞において、TSP-1がいかにTGF-βloopに形成に関与しているかということに焦点を当て、その皮膚線維化における役割を明らかにすることを主目的としている。まず培養強皮症皮膚線維芽細胞および強皮症皮膚におけるTSP-1の発現量について検討を行った。また、その実験過程において、TSP-1の発現亢進が強皮症皮膚線維芽細胞における細胞外マトリックスの産生亢進に関与している可能性を見出し、その機序を明らかにした。本研究により、(1)強皮症皮膚線維芽細胞におけるautocrine TGF-βloopの確立に、TSP-1依存性のIatent TGF-βの活性化が関与していること、(2)TSP-1 antisense oligonucleotideおよびTSP-1 blocking peptideにより強皮症皮膚線維芽細胞における恒常的なTGF-β signalingの活性化およびtype I collagenの発現亢進を有意に抑制できることが明らかとなった。これらの結果から、TSP-1は汎発性強皮症の治療のtargetとなりうる重要な蛋白であることが示された。 | |
審査要旨 | 本研究は強皮症において重要な役割を演じていると考えられているサイトカインの一つであるTGF-βの活性化に関わるトロンボスポンジンI(TSP-1)について、その発現と病態への関わりを明らかにすることを試みたものであり下記の結果を得ている。 培養強皮症線維芽細胞および強皮症皮膚におけるTSP-1の発現量(蛋白およびmRNA)は正常皮膚線維芽細胞及び正常皮膚に比較し有意に高いことが示された。 培養強皮症線維芽細胞をTGFβ1 antisense oligonucleotideまたは抗TGFβ中和抗体で処理するとそのTSP-1発現量は有意に低下し、培養強皮症線維芽細胞におけるTSP-1の恒常的強発現はautocrine TGFβ刺激により維持されている可能性があると考えられた。 培養正常線維芽細胞を外国性TGFβ1で刺激するとTSP-1の発現が増加することが示された。 培養正常線維芽細胞を外因性TGFβ1で刺激してもTSP-1 promoter活性には変化がなかったが、TSP-1 message stabilityは亢進した。TGFTGFβ11は培養正常線維芽細胞に対し、post-transcriptional levelで作用し、TSP-1の発現量を増加させることが示された。 同様に培養強皮症線維芽細胞におけるTSP-1の恒常的強発現はpost-transcriptional level(message stabilityが上昇すること)で作用し、維持されていることが示された。 培養強皮症線維芽細胞をTSP-1 antisense oligonucleotideやTSP-1 blocking pepetideで処理するとそのI型コラーゲン発現量やSmad3のリン酸化の減弱が見られた。強皮症線維芽細胞でみられるI型コラーゲン発現亢進やSmad3のリン酸化亢進をはじめとしたautocrine TGFβ刺激の亢進の少なくとも一部は内因性TSP-1によって維持されている可能性があることが示された。 逆に正常皮膚線維芽細胞にTSP-1を強発現させるとI型コラーゲン発現亢進やSmad3のリン酸化冗進が認められ、TGFβsignalingが亢進することが示された。 TSP-1を強発現させた正常皮膚線維芽細胞ではlatent TGFβ1添加でも、I型コラーゲン遺伝子転写活性の亢進が見られ、TSP-1による効果は内因性TGFβを活性化することに依存していることが示された。 以上、本論文はTSP-1が強皮症の病態形成において重要な蛋白であることを示し、今後強皮症の治療戦略に貢献なしうるものと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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