学位論文要旨



No 121492
著者(漢字) 大島,浩子
著者(英字)
著者(カナ) オオシマ,ヒロコ
標題(和) Catnerine Bergego Scale日本語版(CBS)の有用性の検討 : 半側空間無視(Neglect)を有する脳卒中患者の生活障害の変化と評価
標題(洋)
報告番号 121492
報告番号 甲21492
学位授与日 2006.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(保健学)
学位記番号 博医第2740号
研究科 医学系研究科
専攻 健康科学・看護学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 菅田,勝也
 東京大学 教授 江藤,文夫
 東京大学 教授 大内,尉義
 東京大学 助教授 高山,吉弘
 東京大学 助教授 坂井,克之
内容要旨 要旨を表示する

背景:我が国における脳血管疾患、特に脳梗塞による発症率は高く、高齢になるほど増加している。地域でケアを提供する看護師、医療・福祉分野のスタッフにとって、脳卒中患者への生活支援は高齢者ケアの視点からも重要となっている。

右大脳半球損傷脳卒中患者の多くは、左片麻痺と同時に左半側空間無視(Unilateral Spatial Neglect以下Neglect)を有する。Neglectは、患者の機能的回復を不良にし、入院中から退院後の日常生活行動(以下ADL)能力の回復に負の影響を与え、リハビリテーションの効果にも悪影響をおよぼす。更に、Neglectの関連症候であるAnosognosiaは患者の障害受容、ADLの回復に悪影響をおよぼす。

先行研究は、ハビリテーション医学領域・神経内科領域を中心に行われており、看護研究の立場からなされたものは少ないNeglectを有する脳卒中患者の生活障害を看護の視点から評価する方法の確立と普及を行うことは急務である。

そのような中で、患者の日常生活におけるNeglect行動をチェックするための尺度The Catherine BergegoScale(CBS)が欧州で開発された。このCBSは、整容、着衣などADLに関する4項目、視空間・半側注意障害の6項目、の計10項目から構成された尺度である。使用する上で項目数が適切であり、評価基準が明確であることから有用な尺度と考えた。CBS日本語版を作成し、その臨床応用の妥当性を本邦において検討することは、Neglectの看護評価法を確立するうえで重要な課題であり、本研究で取り組むこととした。また、現在、CBSを用いてNeglectを有する脳卒中患者の入院中から退院後の追跡調査を行った研究は、国の内外を問わず見当たらない。そこで、Neglectを有する患者のADL上の変化の特徴を明らかし検討するために、CBSを用いた入院中から退院後の追跡調査を計画した。

目的:本研究では以下の2点につき検討を加える事を目的とした。

Catherine Bergego Scale日本語版(CBS)を作成し、本邦における使用の妥当性を検討する。

入院中から退院後の慢性期における機能障害の変化、CBSを用いたNeglect行動とその認知の変化を明らかにし、その特徴を検討する。CBSを用い、Neglect行動に関する予後推定が可能か検討する。

調査方法:調査に先立ち、原著者に使用方法を確認し、許可を得てCBS日本語版(CBS)を作成した。研究デザインは追跡観察研究である。入院時、退院時、退院後1ヶ月および3ヶ月の4時点における機能評価、面接調査を実施した。

対象:都内2カ所の高齢者専門医療センター神経内科病棟に入院した全脳卒中患者のうち、1)初発、2)右大脳半球損傷、3)神経内科専門医によるNeglect有りの診断を受けた、の3つの基準を全て満たし、同意が得られた患者とした。

A病院で調査期間中(2004年2月〜2005年6月)に入院した全脳卒中患者206名のうち、基準を満たした患者は61名であった。脳卒中や他の疾患が重症化した23名を除外し、対象となった患者は38名であった。B病院で調査期間中(2005年4月〜6月)に入院した全脳卒中患者16名のうち、基準を満たし、対象となった患者は4名だった。両病院の合計の42名(男性24名、女性18名、平均年齢73.9歳(標準偏差:8.7))から研究参加の同意を得て、本研究の対象とした。追跡中の脱落は無く、全42名を分析対象とした。

調査項目:基本属性の年齢、性別、同居家族、既往症、発症前の利き手などは、対象・家族から情報を得た。疾病に関する情報、即ち、病巣部位、支配血管領域、発症後日数、合併症の有無、退院先などは、担当医および医師記録から情報を得た。更に、入院時・退院時・退院後1ヶ月・退院後4ヶ月の4時点における機能障害の評価と面接を行った。CBSを用いてNeglect行動とその認知の評価を行うと同時に、The National Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)による脳卒中の重症度評価、Barthel Index(BI)による基本的ADL能力の評価、Mini-Mental State Examination (MMSE)による全般的知的能力の評価、線分二等分・線分抹消検査(机上Neglect検査)も施行した。

分析方法:カテゴリカルデータは各々の割合を記述し、経過4時点における機能障害とNeglectによる生活障害を記述するために、NIHSS、BI、MMSE、CBS得点の平均値を用いた記述統計をおこなったCBSの3得点と他の尺度、机上Neglect検査と間の関連を検討するためにSpearman順位相関係数による分析を用いた。予後判定のため、退院時のCBS総得点からNeglect行動の重症度別に患者群を分類し、退院時と退院後の各々の得点の分布を確認した。次に、退院時と退院後1・3ヶ月時の各々の相関係数を求めCBS総得点の一致を検討した。また、退院時のAnosognosia得点と退院後の改善度のパターンを検討した。

倫理的配慮:2ヵ所の調査病院における院内倫理審査委員会の承認を各々得た。研究手順・参加に関することは、書面により説明し、署名による同意を得た。

結果:

対象の属性は、男性24名(57%)、女性20名(43%)、平均年齢は73.9 (SD:標準偏差8.7)歳、発症後日数は平均3.4(SD1.4)日であった。

全対象における各評価得点の全体像は、入院時NIHSS得点は平均11.5(SD5.6)点、退院後3ヶ月時も平均7.5(SD4.5)点と中等度の脳卒中による機能障害を有していた。入院時BI得点は平均25.5(SD22.3)点、退院後3ヶ月時も平均62(SD33)点とADL能力は決して高くなかった。入院時MMSE平均得点は19.8(SD5.9)点と低かったが、退院3ヶ月時には平均25.6(SD3.9)と全般的知的能力は高かった。

机上Neglect検査の変化では、線分二等分検査によるNeglectありは、入院時は42名(100%)、うち軽度が20名(48%)、中等度は5名(12%)、重度は17名(30%)、退院後3ヶ月でもありが25名(60%)であった。線分抹消検査によるNeglectありは、全経過を通して30名(70%)前後であった。

CBS 3得点の変化からみた日常生活のNeglectであるが、入院時CBS-観察得点は平均13.7(SD8.5)点、退院後3ヶ月時でも平均10.8(SD8.0)点と中程度のNeglect行動を有していた。一方入院時CBS-自己評価得点は平均1.8(SDO.5)点、退院後3ヶ月でも平均4.3(SD3.1)点と低く、同時点における観察されたNeglect行動を、自分自身では軽い困難と認識していた。先の2得点の差CBS-Anosognosia得点は、入院時では平均12.0(SD8.7)点、退院後3ヶ月は平均6.5(SD2.8)点と中等度から軽度のAnosognosiaを有していた。

退院後3ヶ月におけるCBS3得点とNIHSS、BI、MMSE得点、線分検査の関連は、NIHSS得点について、CBS-観察得点には強い正の相関(r=0.88、p<.001)がみられた。CBS-自己評価得点には中等度の正の相関(r=0.63、p<.001)がみられた。CBS-Anosognosia得点には強い正の相関(r=0.88、p<.001)がみられた。

BI得点について、CBS-観察得点には強い負の相関(r=-0.87、p<.001)がみられた。CBS-自己評価得点には中等度の負の相関(r=-0.59、p<.001)がみられた。CBS-Anosognosia得点には強い負の相関(r=-0.83、p<.001)がみられた。

MMSE得点について、CBS-観察得点には中等度の負の相関(r=-0.70、p<.001)がみられた。CBS-自己評価得点には弱い負の相関(r=-0.35、p<.05)がみられた。CBS-Anosognosia得点には強い負の相関(r=-0.74、p<.001)がみられた。しかし、両得点に帝離例もみられた。

線分二等分検査いついて、CBS-観察得点には強い正の相関(r=0.92、p<.001)がみられた。CBS-自己評価得点には中等度の正の相関(r=0.46、<.01)がみられた。CBS-Anosognosia得点は(r=0.91、p<.001)強い正の相関がみられた。しかし、両検査に両離例もみられた。

CBS3得点の関連は、CBS-観察得点とCBS-自己評価得点には中等度の正の相関(r=0.78、p<.001)がみられた。CBS-観察得点と自己評価得点にはと強い正の相関(r=0.97、p<.001)がみられたCBS-自己評価得点とCBS-Anosognosia得点にはに中等度の負の相関(r=-0.62、p<.001)がみられた。

CBS得点からみた予後推定に関して、原版に従ったCBS-観察得点によるNeglect行動の重症度分類では、退院時、「Neglect行動なし」が8名(19%)、「軽度」は9名(21%)、「中等度」は9(21%)名、「重度」は16名(39%)であった。

退院時のCBS-観察得点と退院後1ヶ月(r=0.89、p<.001)、退院後3ヶ月(r=0.93、p<.001)に強い正の相関がみられた。退院時のCBS-Anosognosia得点と退院後1ヶ月(r=0.92、p<.001)、退院後3ヶ月(r=0.91、p<.001)に強い正の相関がみられた。退院時のCBS-Anosognosia得点とCBS-観察得点の関連は、退院時(r=0.94、p<.001)、退院後1ヶ月(r=0.89、p<.001)、に強い正の相関がみられた。

CBS-Anosognosia得点とCBS-観察得点(Neglect行動)の関連から、CBS-観察得点の改善はCBS-Anosogosia得点が高い患者でもみられ、CBS-Anosogosia得点が高い患者で改善しない患者もみられた。CBS-Anosogosia得点つまり病識の程度とCBS-観察得点の改善度には明瞭か関連は見出せなかった。

考察:

対象の特徴に関して、基本属性などは全国平均と類似していた。対象の退院後3ヶ月脳卒中の機能障害、ADL能力の回復経過、Neglect患者に関する先行研究と類似していた。また、机上Neglect検査の結果からも、Neglectを有する脳卒中患者の回復過程の変化を反映し得る妥当な対象が選定されたと考えられる。

日本語版CBSの妥当性に関して

CBS-観察得点とBI得点とのSpearman相関係数rは-0.87、線分二等分検査とのSpearman相関係数rは0.92、MMSEとのSpearman相関係数rは-0.61と各々強い関連を示している。原法で報告されている各々のSpearman相関係数はBI得点(r=0.63)、線分二等分(r=0.49)であり、日本語版CBSが原版を反映した妥当なものであることが示される。

CBSと他の評価項目の経時的関連に関して

全経過を通してCBS-観察得点CBS-Anosognosia得点と、NIHSS得点、BI得点とのの間に相関が強く認められるのは、病巣の大きさを反映している可能性も考えられる。また、Neglectのある例は、脳卒中の程度も重く、ADL能力回復が不良であることを本研究は示している。

一方、MMSE得点が改善してくるにも関わらず、全経過を通して軽度のAnosognosiaがみられることは、Anosognosiaと全般的知的機能障害が、必ずしも一致しないことを示唆しているAnosogosiaはそれと指摘しなければ家人が理解しにくい症候である。したがってケア提供者は、患者とその家族-の説明に際し、全般的知的機能低下に留意すると同時に、Anosognosiaの存在にも注意を向けるべきである。

また、机上Neglect検査とも強い関連がみられたことから、CBSは半側空間無視を観察する有用な尺度といえる。しかし、看護上注目すべきは、CBS得点とBI得点、机上Neglect検査の成績が乖離する例も存在することである。日常生活におけるNeglect行動が患者・家族にとり重要であり、その点を重視すべきことは当然であろう。CBSは机上Neglect検査では評価できない患者のADL面と視空間・半側注意障害に関するNeglect行動と、患者自身が認識している日々の困難感を評価し得る尺度である。CBS評価の重要性が今後高まる事が予想される。

CBSの経時変化に関して、入院時に受けた治療、ケアや説明が一定ではなく、これにより対象の障害やその認識に違いが生じる可能性が考えられる。そのため、本研究でもこれらの潜在的バイアスがCBSの得点に影響していることを否定できない。

しかし本研究の結果から、入院時にNeglectを有する患者は少なくとも退院後3ヶ月までは、日常生活におけるNeglect行動とその認識に関連した生活障害を有することが明らかとなった。一方、CBS-自己評価得点は全経過を通して低かったことから、退院後3ヶ月時でも、対象が日々経験しているNeglect行動を正しく認識できない障害を有することを示唆している。Neglect例における受容困難の原因の一端を明らかにしたものと言える。

CBSからの予後推定に関して

退院時のCBS-観察得点、CBS-Anosognosia得点と各々の退院後の2時点に強い正の相関がみられたことから、少なくとも退院時のNeglect行動が強いと退院後3ヶ月までのNeglect行動が強く継続する可能性を示している。退院時のAnosognosiaが強いと退院後3ヶ月まではAnosognosiaが高く継続する可能性を示している。退院時のCBS-観察得点、CBS-Anosognosia得点を用いることで、退院後のNeglect行動、Anosognosiaを予測することができる可能性が示唆された。これにより、CBSが入院中から退院後の患者のNeglectによる生活障害を予測し得る有用な尺度であることが示された。

退院時CBS-観察得点によるNeglect行動の重症度分類から、退院後3ヶ月のNeglect行動とAnosognosiaの程度を予測し、その程度によってケア提供者は、患者の生活予後の予測と患者に提供するケアの方向を考えることができる可能性が示唆された。

患者の病識、即ちCBS-Anosognosia得点の程度とNeglect行動の改善度については、明瞭な傾向を明らかにすることができなかった。しかし、Anosognosiaの程度が軽いと、患者自身がNeglect行動を認識することができる可能性が考えられる。このため、訓練や指導の方向を検討する上でAnosognosiaの程度は重要な視点であろう。

以上より、退院後の生活支援を検討する上でCBSの重要性がより明確になったと考える。

CBSの急性期使用に関して

CBS得点と他の尺度が、入院時よりも退院時以降に強い関連がみられたことは、CBSが慢性期の患者を対象に開発されたことや、急性期に評価できない「ぶつかる」「空間見当識」の2項目を0点と採点していることも影響していると考えられる。更に、意識障害も関与する可能性から、CBSは急性期の状態を適切に評価できない可能性が考えられる。CBSの急性期使用においては、できないADL「ぶつかる」、「空間見当識」を除いた簡易版ないし修正版CBSの作成なども検討課題と考えられる。

現状において、CBSを急性期例に応用する場合は、総得点の変化のみに着目するのではなく、継続的観察による下位評価項目の変化に注意をむけることが重要と考えられる。これにより、入院中から退院後の生活障害の出現を見通すことが可能となる。

看護への提言

CBSはNeglect特有の視空間・半側不注意などを含めた、日常生活における障害を評価することを可能とする有用な尺度である。急性期における評価の問題点はあるとしても、看護師はCBSを用いることで入院中から退院後の患者の生活障害を見通すことが可能となり、Neglectに着目した評価法にもとづくケア提供や障害の説明も可能となるだろう。また、患者と家族への障害の説明のありかたを検討する上でも、CBSから得られる多様な情報は有用であろう。

CBSの活用が、Neglectを有する脳卒中患者の生活障害の評価と看護ケアの提供の方向性を検討する一助となることを期待する。

結論:

Catherine Bergego Scale日本語版(CBS)を作成し、それが原版に相当する妥当な尺度であることを示した。CBSはNeglect特有の視空間・半側不注意などを含めた、日常生活におけるNeglectやAnosognosiaに着目した生活障害を評価することを可能とする有用な尺度である。

患者研究にCBSを活用し、Neglectを有する右大脳半球損傷脳卒中患者の、入院中の急性期から退院後の慢性期について、患者の自然経過を明らかにした。CBSの各得点を用いることで、患者の経過・予後を推測しうることを示した。CBS評価にもとづくケア提供や障害の説明を可能とするだろう。

急性期のCBS使用には「ぶつかる」、「方向性注意」を観察できない可能性が限界として示された。急性期にはCBS簡易版・修正版を作成し使用することの必要性が示された。
審査要旨 要旨を表示する

本研究は、左半側空間無視(Unilateral Spatial Neglect;Neglect)を有する右大脳半球損傷脳卒中患者の入院中の急性期から退院後の慢性期の機能、日常生活行動(ADL)能力、障害受容に悪影響をおよぼすとされてきた日常生活におけるNeglect行動とその認識について、Catherine Bergego Scale日本語版(CBS)を作成しその妥当性を検証し、CBSを用いた生活障害の変化の特徴を明らかにすると共に、CBSの活用可能性を検討したもので、以下の結果を得ている。

CBSを作成し、The National Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)、Barthel Index(BI)、Mini-Mental State Examination(MMSE)、線分二等分・線分抹消検査との関連を検討した。CBSと他の評価尺度に各々強い関連があることを明らかにし。本邦におけるCBSは、原版で報告されている各々の相関係数との比較から、原版に相当する妥当な尺度であることを示した。

CBS3得点、即ち、CBS-観察得点、CBS-自己評価得点、CBS-Anosognosia得点を用いた評価を行った。入院時にNeglectを有する患者は少なくとも退院後3ヶ月までは、日常生活における中程度のNeglect行動を有し、同時点で他者から観察されたNeglect行動を、患者自身は軽い困難と認識し、中等度から軽度のAnosognosiaを有する、という患者の自然経過を明らかにした。CBS3得点の経時変化の検討から、退院時のCBS-観察得点、CBS-Anosognosia得点と退院後の得点に強い関連がみとめられたことから、CBS3得点を用いることで、患者の経過・予後を推測しうることを示した。患者の病識、即ちCBS-Anosognosia得点の程度とNeglect行動の改善度については、明瞭な傾向を明らかにすることができなかった。

CBSは机上Neglect検査では評価できない患者のADL面と視空間・半側注意障害に関するNeglect行動と、患者自身が認識している日々の困難感、Anosognosiaを評価し得る有用な尺度であることが示された。

CBSと他の尺度との関連から、Neglectを有する脳卒中患者は、脳卒中の程度が重く、ADL能力回復が不良であることを示した。

CBS得点の経時変化と他の尺度との関連から、入院時より退院時以降に強い関連が示された。入院時の急性期には「ぶつかる」、「方向性注意」を観察できない可能性が限界として示された。CBSの急性期使用には、できないADL、「ぶつかる」、「空間見当識」を除いた簡易版ないし修正版CBSの作成などCBS簡易版・修正版を作成し使用することの必要性が示された。

CBSを急性期に応用する場合は、総得点の変化のみに着目するのではなく、継続的に観察することで下位項目の変化に注意をむけることが示された。これにより、入院中から退院後の生活障害の出現を見通すことが可能となり、Neglectを有する脳卒中患者の生活障害の評価と看護ケアの提供の方向性を検討する一助となることが期待される。

以上、本論文は、Neglect行動とその認識を測定するCatherine Bergego Scale日本語版(CBS)を作成し、それを用いてNeglectを有す患者の生活障害の特徴を明らかにしたところが独創的である。また、CBSは机上Neglect検査では評価できない患者のADL、Neglect行動、日々の困難感、Anosognosiaを評価し得るという点で有用性もあり、学位の授与に値するものと考えられる。

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