学位論文要旨



No 121510
著者(漢字) 川本,諭一郎
著者(英字)
著者(カナ) カワモト,ユイチロウ
標題(和) Altemicidinの合成研究
標題(洋)
報告番号 121510
報告番号 甲21510
学位授与日 2006.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(薬学)
学位記番号 博薬第1153号
研究科 薬学系研究科
専攻 分子薬学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 福山,透
 東京大学 教授 柴,正勝
 東京大学 助教授 金井,求
 東京大学 助教授 徳山,英利
 東京大学 講師 杉浦,正晴
内容要旨 要旨を表示する

【背景と目的】

Altemicidin(1)は1989年のTakeuchiらにより、Streptomyces sioyaensis SA-1758から単離、構造決定された抗生物質であり、微生物の代謝産物として単離された最初の6-アザインデンモノテルペンアルカロイドである1。最近、イソロイシルtRNA合成酵素阻害作用を有するAltemicidin類縁体も単離され2、注目を浴びつつある。構造上の特徴としては、b〓ヒドロキシ〓a〓二置換〓a〓アミノ酸とカルバモイルエナミンが挙げられる。多くの官能基を有するa〓二置換〓a〓アミノ酸の効率的合成には良い方法が無く、全合成にはその立体選択的な構築が鍵となるが、現在のところ全合成例はKendeらによる一例のみである3。そこで、活性、構造、両面において興味深いAltemicidin(1)の効率的な合成法の開発を目的として研究を行った。

【逆合成解析】

最初に逆合成解析を示す(Scheme 1)。四置換炭素への窒素原子の導入とその側鎖の伸長、及びエナミン下部の一炭素増炭等は合成の終盤で行うこととし、Altemicidinのアザビシクロ〓基本骨格を有する2を重要中間体として設定した。環状エナミド構造はアミド4よりラクタム3を経由して環拡大することにより構築するものとし、アミド4は二環性b-ケトエステル5より、四置換炭素とそれに隣接する二級水酸基を立体選択的に構築しつつ合成可能と考えた。さらに5はジアゾ化合物6の分子内C-H挿入反応により得ることとした。

【結果と考察】

最初に、C-H挿入反応前駆体12を文献既知のカルボン酸74より6工程にて合成した(Scheme 2)。まず、カルボン酸7をLAHで還元して得られるアルコールをメシル化体8とし、ニトリル9へと変換した。続いてDIBAL還元より得られるアルデヒド10をRoskampらの方法5により b-ケトエステル11とした後、ジアゾ化しC-H挿入反応前駆体12を得た。ここで触媒量の酢酸ロジウムで処理するとC-H挿入反応が良好に進行し、望みの環化体13の合成に成功した。このC-H挿入反応は当研究室で開発された手法をもとに、不斉非対称化への応用も検討されている6,7。

次に、b-ケトエステルa位のヒドロキシメチル化、ケトンの還元により四置換炭素とそれに隣接する二級水酸基を立体選択的に構築し、ジオール14とした(Scheme 3)。すなわち二環性化合物13のシス骨格を利用することにより、連続する四つの立体中心を効率良く制御できた。得られた14のジオールをそれぞれTBDPS基、MOM基で保護した後、アリルエステルをアミド16へと変換した。続いて、二重結合を酸化的に切断し、メタノール中酸処理することにより18としたのち、ヘミアミナール部分を還元しラクタム19を得た。ここでラクタム19をノシル(Ns)基により活性化し、TBDPS基の除去後イミドを塩基性条件に付したところ、開環したカルボン酸20が得られた。さらに、ベンゼン中CSA、キノリンで処理することにより二分子の脱メタノール化とともに環化が進行し、望みの環状エナミド21とした。以上のように、Altemicidinのアザビシクロ〓基本骨格を有する環状エナミド21を二環性b-ケトエステル13より13工程で構築することができた。

続いて得られた21に対し、官能基の導入を行った(Scheme 4)。得られたβヒドロキシカルボン酸21をトルエン中加熱還流下、DPPA、Et3Nで処理したところ、望みのCurtius転位反応が進行し、系中で生成するイソシアネートがアルコールで捕捉されたオキサゾリジノン22を得ることができた。次に22のエナミドからVilsmeier型の反応により一炭素増炭し、オキサゾリジノンのBocイミドへの変換、アルデヒドの酸化を行ない24とした。続いてフェニルエステル化、Ns基の除去後、共役カーバメート25のN-メチル化を行い、そのまま塩基処理することによりイミドが開いた化合物26を得た。

さらに開環により生じた一級水酸基をカルボン酸27へと酸化した後、そのアリル化、TMSIによるBoc基とMOM基の除去を行ないアミノアルコール28とした(Scheme 5)。ここで遊離したアミンに対し側鎖を導入した。すなわち、クロロスルホニルアセチルクロリドで処理するとまずN-アシル化された後、アンモニアガスを用いることにより残るスルホニルクロリドがアミド化された29が得られた。このように基本骨格構築後、四置換炭素への窒素原子の導入とその側鎖の伸長、及び一炭素増炭に成功し、現在全合成達成へ向け最後の変換を検討中である。

Takahashi, A.; Kurasawa, S.; Ikeda, D.; Okami, Y.; Takeuchi, T. J. Antibiot. 1989, 42, 1556.Houge-Frydrych, C. S. V.; Gilpin, M. L.; Skett, P. W.; Tyler, J. W. J. Antibiot. 2000, 53, 364.Kende, A. S.; Liu, K.; Jos Brands, K. M. J. Am. Chem. Soc. 1995, 117, 10597.Depres, J. P.; Green, A. E. Org. Synth. 1998, 75, 195.Holmquist, C. R.; Roskamp, E. J. J. Org. Chem. 1989, 54, 3258.Davies, H. M. L.; Hansen, T. J. Am. Chem. Soc. 1997, 119, 9075.(a) Kurosawa, W.; Kobayashi, H.; Kan, T.; Fukuyama, T. Tetrahedron 2004, 60, 9615. (b) Kurosawa, W.; Kan, T.; Fukuyama, T. J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 8112. (c) Kurosawa, W.; Kan, T.; Fukuyama, T. Synlett 2003, 1028.
審査要旨 要旨を表示する

Altemicidin(1)は1989年Takeuchiらにより、Streptomyces sioyaensis SA-1758から単離、構造決定された抗生物質であり、微生物の代謝産物として単離された最初の6-アザインデンモノテルペンアルカロイドである。構造上の特徴としては、β-ヒドロキシ-α-二置換-α-アミノ酸とカルバモイルエナミンが挙げられる。多くの官能基を有するα-二置換-α-アミノ酸の効率的合成には良い方法が少なく、全合成にはその立体選択的な構築が鍵となるが、現在のところ全合成例はKendeらによる一例のみである。そこで川本は、活性、構造、両面において興味深いaltemicidin(1)の効率的な合成法の開発を目的として研究を行った。

最初に、文献既知のカルボン酸2より6工程にて合成したα-ジアゾ-β-ケトエステル3を触媒量の酢酸ロジウムで処理してC-H挿入反応を行ない、望みの環化体4への変換に成功した(Scheme1)。このC-H挿入反応は不斉非対称化への応用も可能であり、注目に値する。

次に、β-ケトエステルのα位のヒドロキシメチル化、ケトンの還元により四置換炭素とそれに隣接する二級水酸基を立体選択的に構築し、ジオール5とした(Scheme2)。川本は、二環性化合物4のシス骨格を巧みに利用して、連続する四つの立体中心を非常に効率良く制御した。続いてアミド6へと変換した後、二重結合の酸化的開裂等によりラクタム7とした。ここでラクタム7をノシル(Ns)基により活性化し、TBDPS基の除去後イミドを塩基性条件に付すことにより、開環したカルボン酸8を得た。これをベンゼン中、CSA、キノリンで処理することにより二分子の脱メタノール化とともに環化が進行し、望みの環状エナミド9とした。以上のように、川本はAltemicidinのアザビシクロ[4.3.0]基本骨格を有する環状エナミド9を二環性β-ケトエステル4より13工程で構築することができた。

続いて得られた9に対し、官能基の導入を行った(Scheme3)。β-ヒドロキシカルボン酸9をトルエン中加熱還流下、DPPA、Et3Nで処理したところ、Curtius転位反応が進行し、系中で生成するイソシアネートがアルコールで捕捉されたオキサゾリジノン10を得た。次に10のエナミドからVilsmeier型の反応により一炭素増炭し、共役尿素構造構築の足がかりとなるホルミル基を導入した。

さらに9段階を経てアミノアルコール12へと変換した。ここでクロロスルホニルアセチルクロリドで処理したところ、N-アシル化後、アンモニアガスを用いることによりスルホニルクロリドがアミド化された13が得られた。13はアリル基の除去、フェニルエステルのアミド化によりaltemicidinへと容易に変換可能な中間体である。このように基本骨格構築後、四置換炭素への窒素原子の導入とその側鎖の伸長、及び一炭素増炭に成功した。

以上、川本は独自の方法論により、天然物へと誘導可能なすべての官能基を有するaltemicidin前駆体13への効率的合成経路を確立し、全合成達成への道を開いた。従って、薬学研究に寄与するところ大であり、博士(薬学)の学位を授与するに値するものと認めた。

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