No | 121520 | |
著者(漢字) | 冨成,祐介 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | トミナリ,ユウスケ | |
標題(和) | ケラマフィジンBの合成研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 121520 | |
報告番号 | 甲21520 | |
学位授与日 | 2006.03.23 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(薬学) | |
学位記番号 | 博薬第1163号 | |
研究科 | 薬学系研究科 | |
専攻 | 分子薬学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 【序論】 ケラマフィジンB (1)は沖縄県慶良間諸島原産の海綿Amphimedon属より単離されたアザビシクロ[2.2.2]環を有する五環性アルカロイドである1)(Scheme 1)。 本化合物は鏡像異性体の混合物として天然に存在し、白血病及び上皮性癌に対する抗がん活性を有している。また、マンザミンA (2)を始めとする抗腫瘍活性物質マンザミン類の生合成中間体であり、さらに、本化合物自身はビスジヒドロピリジン誘導体3の分子内Diels-Alder 反応によって生成するという極めて興味深い生合成仮説が提唱されている2)。1998年、1999年にBaldwinらは、この生合成仮説類似の全合成研究を報告した3)。しかしながら、大環状骨格の構築において高希釈条件を必要とするため大量化が困難であることに加え、長時間の反応時間を必要としていた。さらに、最終段階である分子内Diels-Alder 反応の収率は0.2-0.3%と極めて低収率にとどまっている。私はケラマフィジンB (1)の特異な構造とその生合成仮説に興味を持ち、本研究に着手した。 【逆合成解析】 Baldwinらによる分子内Diels-Alder反応の改善も視野に入れ、生合成仮説に基づいた逆合成解析を行った(Scheme 2)。分子内Diels-Alder 反応前駆体3は、Baldwinらの中間体4から誘導することとした。4は26員環化合物5より誘導することとし、Ns基を用いた環状2級アミン合成法4)を適用することで、5を合成することとした。また、5は共通の中間体6より、形式的に二量化することで誘導可能であると考えられる。 【合成研究】 ホモプロパルギルアルコール(7)を出発原料とし、6工程を経てcis二重結合を有するヨウ化物8とした(Scheme 3)。続いて、Z-選択的なHorner-Emmons反応を試みるため、安藤の試薬5)を作用させてホスホン酸エステル9とした。続くHorner-Emmons反応は円滑に進行し、Z-選択的に目的とする化合物10を与えた。 得られた共通の中間体10をそれぞれアルコール11及びNsアミド12へと変換した後、光延反応により連結して二量体13とした(Scheme 4)。さらに、PMP基及びBoc基を順次除去して環化前駆体14へと変換した。鍵となる大員環の構築は光延反応により円滑に進行し、良好な収率にて目的とする26員環化合物15を得ることができた。 26員環化合物15はNs基を用いて構築した過去最大の員数を有する化合物であり、本反応が極めて大きな環状アミンの合成にも有用であることを示すことができたと考えている。 続いて、15より5工程を経てアミノニトリルへと変換し、Baldwinらの合成中間体43)へと導いた(Scheme 5)。この結果、Baldwin中間体の効率的な合成法を確立し、ケラマフィジンBの形式的全合成を達成した。 続いて、トリフルオロ酢酸銀にて処理し、ビスジヒドロピリジニウム誘導体16へと変換した。 得られた16をBaldwinらの分子内Diels-Alder反応の条件に付した(Scheme 6)。この結果、主生成物としてビステトラヒドロピリジン18が得られたが、粗生成物の中に極少量のケラマフィジンB(1)の生成を確認した。 【新規ルートによる合成】 生合成仮説に基づく合成を試みる一方で、ケラマフィジンB(1)の効率的な合成ルートの確立を目指した研究も行った。すなわち、2,4-ジメトキシベンズアルデヒド(19)を出発原料とし、Baeyer-Villiger酸化、Claisen転位、ヒドロホウ素化を含む9工程を経てキノン21へと誘導した(Scheme 7)。キノン21と1-シロキシジエンのDiels-Alder反応は円滑に進行し、カルボニル基の還元及びアセチル化を経て高収率、高立体選択的に二環性化合物22を得た。続いて22の二置換二重結合のみを選択的にジオール化し、四酢酸鉛で処理することでジアルデヒドとして開環した。得られたジアルデヒドをジオキシムとした後、メタンスルホニルクロリドにて処理することでBeckmann型の反応によりジニトリル化合物23へと変換した。23のシアノヒドリン部位をフッ化銀によってアルデヒドへと変換した後、水素化ホウ素ナトリウムによって還元することでアルコール24を得ることができた。本合成経路は大量化が容易であり、今後の検討に十分な量の重要中間体24を供給することが可能となった。現在、24から環化前駆体25への変換について検討中である。 Scheme 3 Reagents and conditions (a) DHP, CSA, CH2Cl2, 88%; (b) n-BuLi, THF, -78 °C; PMPO(CH2)4Br, n-Bu4NI, HMPA, TMEDA, -78 °C to rt; (c) CSA, MeOH, 80% (2 steps); (d) Lindlar's cat., H2, quinoline, MeOH; (e) MsCl, Et3N, CH2Cl2, 80% (2 steps); (f) NaI, acetone, reflux, 85%; (g) (ArO)2P(O)CH2CO2Et, NaH, DMF, 86%; (h) NaH, THF, 0 °C; OHC(CH2)2NNsBoc, -78 to 0 °C, 81%; Ar = 2-isopropylphenyl. Scheme 4 Reagents and conditions (a) CAN, CH3CN-H2O, 92%; (b) TFA, anisole, CH2Cl2, 94%; (c) DEAD, PPh3, toluene, 96%; (d) TFA, anisole, CH2Cl2, 93%; (e) CAN, CH3CN-H2O, 91%. Scheme 5 Reagents and conditions (a) DIBAL, THF, 0 °C, 91%; (b) TPAP, NMO, CH2Cl2, 90%; (c) TBSCN, TBAF, CH2Cl2, 93%; (d) PhSH, Cs2CO3, CH3CN, 50 °C, 85%; (e) TBAF, THF, 0 °C; TMSCN, BF3oOEt2, 0 °C to rt, 65-73%; (f) CF3CO2Ag, MeOH, quant.. Scheme 7 Reagents and conditions (a) SeO2, aq. H2O2, t-BuOH; (b) K2CO3, MeOH-H2O, 99% (2 steps); (c) allyl bromide, K2CO3, DMF, 91%; (d) PhNEt2, reflux, 93%; (e) MOMCl, NaH, n-Bu4NI, DMF, 91%; (f) BH3oSMe2, THF; aq. H2O2, aq. NaOH; (g) PivCl, Py, 87% (2 steps); (h) CSA, MeOH, 98%; (i) CAN, CH3CN-H2O, 0 °C, 85%; (j) 1-tert-butyldimethylsiloxy-trans-1,3-butadiene, hydroquinone, 80 °C; NaBH4, MeOH, 0 °C; (k) Ac2O, DMAP, Py, 81% (2 steps); (l) OsO4, NMO, acetone-H2O, 90%; (m) Pb(OAc)4, CH2Cl2, 0 °C; (n) HONH2oHCl, Py; (o) MsCl, Py, 74% (3 steps); (p) AgF, CH3CN, 79%; (q) NaBH4, MeOH, 0 °C, 99%. | |
審査要旨 | ケラマフィジンB(1)は沖縄原産の海綿Amphimedonsp.より単離されたアザビシクロ[2.2.2]環を有する五環性アルカロイドである(Scheme1)。本化合物は鏡像異性体の混合物として天然に存在し、抗がん活性(白血病及び上皮性癌に対する毒性)を有している。一方、マンザミンB(2)を始めとする抗腫瘍活性、抗マラリア活性等多くの興味深い生理活性を有するマンザミン類の生合成中間体である。さらに、本化合物自身はビスジヒドロピリジン誘導体3の分子内Diels-Alder反応によって生成するという極めて興味深い生合成仮説が提唱されており、1998年、1999年にBaldwinらは、この生合成仮説類似の全合成研究を報告している。しかしながら、大環状化合物構築において、高希釈条件を必要とするため大スケールでの合成に問題があった。また、最終段階である分子内Diels-Alder反応の収率は0.2〜0.3%と極めて低収率にとどまっている。冨成はより効率的なケラマフィジンB(1)の合成法の確立を目指して研究を行った。 ホモプロパルギルアルコール(4)を出発原料とし、7工程を経てホスホン酸エステル6とした。続くAndo-Horner-Emmons反応は円滑に進行し、完全なZ-選択性にて目的とする化合物7を与えた。 得られた共通の前駆体7より二量体10へ変換した後、保護基を順次除去して環化前駆体とした(Scheme3)。大員環の構築はMitsunobu反応により円滑に進行し、短時間かつ良好な収率にて目的とする26員環化合物11を得た。26員環化合物11はNs基を用いて構築した過去最大の員数であり、本反応が極めて大きな環状アミンの合成にも有用であることを示した。続いて、11より5工程を経てアミノニトリルへと変換し、冨なりはBaldwinらの合成中間体13を0.6g以上合成した。すなわち、Baldwin中間体の効率的な合成法を確立し、形式的全合成を達成したことになる。最後に、Baldwinらの条件下、分子内Diels-Alder反応を試みたところ、単離には至っていないものの、粗生成物の中に極少量のケラマフィジンB(1)と思われるスペクトルデータを有する化合物の存在を確認した。 一方、より効率的な合成ルートの探索も行った。すなわち、2,4-ジメトキシベンズアルデヒド(15)を出発原料とし、Baeyer-Villiger酸化、Claisen転位、ヒドロホウ素化を含む9工程を経てキノン17へと誘導した(Scheme4)。 キノン17と1-シロキシジエンのDiels-Alder反応は円滑に進行し、カルボニル基の還元及びアセチル化を経て高収率、高立体選択的に二環性化合物18を得た。続いて18の二置換二重結合のみを選択的にジオール化し、四酢酸鉛で処理することでジアルデヒドとして開環した。得られたジアルデヒドをジオキシムとした後、メタンスルホニルクロリドにて処理することでジニトリル化合物19へと変換した。さらに、19のシアノヒドリン部位をフッ化銀によってアルデヒドへと変換した後、水素化ホウ素ナトリウムによって還元することでアルコール20を得た。本化合物はケラマフィジンB(1)を効率的に合成する上で必要となる全ての立体を有している極めて重要な中間体である。 以上のように、冨成は、ケラマフィジンB(1)の効率的な形式的全合成を達成し、生合成仮説に基づくDiels-Alder反応の詳細な検討を行うために十分なサンプル量の供給を可能とした。また、より効率的な合成経路の探索も併せて行い、ケラマフィジンB(1)の合成における重要中間体の合成経路を確立した。これにより、ケラマフィジンB(1)のみならず、その類縁体である強力な抗腫瘍活性物質マンザミン類の合成への道を開いた。したがって、薬学研究に寄与するところ大であり、博士(薬学)の学位を授与するに値するものと認めた。 Scheme 2 Reagents and conditions (a) DHP, CSA (cat.), CH2Cl2, 94%; (b) n-BuLi, THF, . 78 °C; PMPO(CH2)4Br, n-Bu4NI(cat.), HMPA, TMEDA, . 78 °C to rt; (c) CSA (cat.), MeOH, 88% (2 steps); (d) Lindlar's cat., H2, quinoline,MeOH; (e) MsCl, Et3N, CH2Cl2, 80% (2 steps); (f) NaI, acetone, reflux, quant.; (g) (ArO)2P(O)CH2CO2Et, NaH,DMF, 86%; (h) NaH, THF, 0 °C; OHC(CH2)2NNsBoc, . 78 to 0 °C, 81%; Ar = 2-isopropylphenyl. Scheme 3 Reagents and conditions (a) CAN, CH3CN-H2O, 92%; (b) TFA, anisole, CH2Cl2, 94%; (c) DEAD, PPh3, toluene85%; (d) TFA, anisole, CH2Cl2, 93%; (e) CAN, CH3CN-H2O, 91%; ( f ) D E A D , P P h 3 , t o l u e n e ( 0 . 0 1 M ) , 8 0 % ;(g) DIBAL, THF, 0 °C, 90%; (h) TPAP (cat.), NMO, CH2Cl2, 90%; (i) TBSCN, TBAF (cat.), CH2Cl2, 80%; (j) PhSH,Cs2CO3, CH3CN, 50 °C, 80%; (k) TBAF, THF, 0 °C; TMSCN, BF3. OEt2 (cat.), 0 °C to rt, 73%; (l) CF3CO2A g,MeOH. Scheme 4 Reagents and conditions | |
UTokyo Repositoryリンク |