No | 121521 | |
著者(漢字) | 松本,幸爾 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | マツモト,コウジ | |
標題(和) | (+)-Haplophytineの合成研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 121521 | |
報告番号 | 甲21521 | |
学位授与日 | 2006.03.23 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(薬学) | |
学位記番号 | 博薬第1164号 | |
研究科 | 薬学系研究科 | |
専攻 | 分子薬学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 【序】 (+)-Haplophytine(1)は、中南米産のHaplophyton cimicidumの葉より得られた強力な駆虫作用を有する2核性インドールアルカロイドであり、Haplophyton cimicidumの葉を乾燥させたものはanticockroach/insecticidal powderとして古くから害虫駆除に用いられてきた(Figure 1)。1952年にSnyderらのグループによって単離され、さらに1973年にYates, Cavaらのグループによって構造決定がなされて以来、その複雑かつ特異な構造から合成化学者の興味を引き付けてきた1)。しかしながら、1の酸分解によって得られる(-)-aspidophytine(2)については、当研究室を含め合成例が報告されているが2,3)、特異な上部骨格を含めた1の全合成については未だ達成されていない。そこで我々は、(+)-haplophytine(1)の全合成研究に着手することとした。 【逆合成解析】 (+)-Haplophytine(1)は可逆的な骨格転位を起こすことが知られており、1に臭化水素酸を作用させるとジブロモ塩3として存在することが分かっている。そこでエポキシド4が合成できればエポキシ環の開環とともに骨格転位が進行し、1が合成できるのではないかと考えた。4はインドレニン5から導くものとし、5は(-)-aspidophytine(2)とテトラヒドロ-b-カルボリン6とのカップリングにより得られるものとした(Scheme 1)。 【基本骨格の構築】 まずはじめにモデル基質での検討を行った(Scheme 2)。7の4a位をヨウ素化後、トリフルオロメタンスルホン酸銀存在下、アニリン8とのカップリング反応を行ったところ、低収率ながら4級炭素を有する生成物9を1:1のジアステレオマー混合物として得ることができた。次に9のエステル基を加水分解し、生じたカルボン酸に対し塩化チオニルと塩基を作用させ、ラクタム環を構築した。続いてアリル基の除去を行い、さらに生じたアニリンの窒素原子をCbz基で保護することにより、高収率にて10へと変換した。次に鍵反応である4置換オレフィンのエポキシ化を試みた。10に対し氷冷下、塩化メチレン中でm-クロロ過安息香酸を作用させたところ、エポキシ化とそれに続く骨格転位反応が速やかに進行し、ビシクロ[3.3.1]骨格を有する11を収率よく得ることに成功した。最後に保護基の除去と、生じた2級アミンのメチル化を行い、目的のモデル化合物12の合成を完了した。 【重要中間体の合成】 次に左フラグメント合成における重要中間体20の合成を行った(Scheme 3)。まずo-アニシジンより数工程にて得られるアニリン13とグルタミン酸誘導体14の縮合を行い、アニリド15を得た。次にフェノール性水酸基の保護、及びアリルアルコールの保護基の変換を行い、高収率にて16へと導いた。続いてチオアニリド17へと変換後、当研究室で開発されたラジカル環化反応によるインドール環構築を試みた4)。17を室温にてラジカル条件に付したところ、速やかに環化反応が進行し、2位に不斉側鎖を持つインドール18を得ることができた。続いて3位側鎖アルコールのアセチル基をメシル基へと変換して19とし、さらに2位側鎖の分子内N-アルキル化を行うことで、テトラヒドロ-b-カルボリン20を光学活性体として得ることができた。 【ジアステレオ選択的カップリング】 1の不斉全合成を行うにあたり、20の4a位に生じる4級炭素の立体化学を制御する必要がある。そこで、20とアリール基とのカップリングの際、20の1位の側鎖を避けてa側より反応が起これば、望みの立体配置を有する4級炭素が構築できるのではないかと考えた。そこで、ラセミ体21とアニリン23を用いたカップリング反応とその生成物の立体配置の決定を行った(Scheme 4)。21にN-ヨードスクシンイミドを作用させることによりヨードインドレニン22とし、さらに前述の反応条件下アニリン23とのカップリングを行い、インドレニン24を2:1〜3:1のジアステレオマー混合物として得た。次に24のイミン部位の還元を行ったところ、1位側鎖の影響を受けa側より還元反応が進行し、インドリン25を収率よく得ることができた。続いてエステルの加水分解を経てラクタム環の構築を行い、得られた混合物から主生成物のみを単離精製し、ラクタム26をえることができた。しかし、4級炭素の立体化学についてこの時点での決定は困難であった。そこでメシル基及びCbz基の脱保護を行ったところ、27が単結晶として得られ、X線結晶構造解析によりアリール基がa側に配置した望みの立体化学を有していることがわかった。 【全合成に向けて】 続いて(+)-haplophytine(1)の全合成に向け、(-)-aspidophytine(2)とのカップリングを試みた(Scheme 5)。ヨードインドレニン28に対しトリフルオロメタンスルホン酸銀存在下、(-)-aspidophytine(2)を作用させたところ、予想に反し目的のカップリング体29を得ることはできず、種々の条件検討にも関わらず、目的物を得るには至らなかった。今後は、本合成研究で得られた結果を基に(+)-haplophytine(1)の全合成に向けた検討を行っていく予定である。 Scheme 2 Reagents and conditions (a) NIS, CH2Cl2, 0 °C; (b) 8, AgOTf, CH2Cl2, .10 °C, 32% (2 steps); (c) 1 M KOH, EtOH, rt; (d)SOCl2,cat.DMF;i-Pr2NEt,CH2Cl2,rt,56%(2steps);(e)cat.Pd(PPh3)4,1,3-dimethylbarbituricacid,CH2Cl2,reflux,93%;(f)CbzCl,NaHCO3,dioxane,rt,93%;(g)mCPBA,NaHCO3,CH2Cl2,0°C,82%;(h)H2,Pd/C,EtOH,rt,84%;(i) aq. HCHO, NaBH3CN, AcOH, MeOH-CH2Cl2, 0 °C to rt, 69% Scheme 3 Reagentsandconditions (a)14,WSCD・HCl,HOBt,CH2Cl2,rt,64%;(b)MsCl,i-Pr2NEt,CH2Cl2,0°C,97%;(c)PPTS,MeOH-ClCH2CH2Cl,50°C;(d)Ac2O,Py,rt,96%(2steps);(e)Lawesson'sreagent,ClCH2CH2Cl,50 °C, 81%; (f) n-Bu3SnH, Et3B, toluene, rt, 84%; (g) K2CO3, MeOH-CH2Cl2, rt, 90%; (h) MsCl, i-Pr2NEt, CH2Cl2,0 °C; (i) H2, Pd/C, EtOH-CH2Cl2, rt; (j) CbzCl, NaHCO3, dioxane-H2O, rt, 57% (3 steps) Scheme 4 Reagents and conditions: (a) NIS, CH2Cl2, rt; (b) 23, AgOTf, CH2Cl2, 0 °C, 44% (2 steps); (c) NaBH3CN, TFA,MeOH-CH2Cl2,rt,90%(d)2MLiOH,MeOH-THF,rt;(e)WSCD・HCl,CH2Cl2,rt,42%(2steps);(f)KOH,MeOH,reflux, 96%; (g) H2, Pd/C, EtOH-CH2Cl2, rt, 98% | |
審査要旨 | (+)-Haplophytine(1)は、中南米産のHaplophytoncimicidumの葉より得られた強力な駆虫作用を有するインドールアルカロイドであり、単離および構造決定以来、その複雑かつ特異な構造から合成化学者の興味を引き付けてきた(Figure1)。Haplophytineの酸分解によって得られる(-)-aspidophytine(2)については、当研究室を含めて全合成例が報告されているが、特異な上部骨格を含めた1の全合成については未だ達成されていない。松本は、近年当研究室で開発された手法を応用し、かつ新規方法論を用いて他に類を見ない構造を有する(+)-haplophytine(1)の全合成を目指した研究を展開した。 まず、モデル基質を用いてビシクロ[3.3.1]骨格構築の検討を行った(Scheme1)。ヨードインドレニン3とアニリン4との銀試薬を用いたカップリング反応によって5を与え、続く4工程の変換によりラクタム6を得た。6に対しm-クロロ過安息香酸を作用させることで、二重結合のエポキシ化とそれに続く骨格転位反応が速やかに進行し、ビシクロ[3.3.1]骨格を有する7を収率よく得ることに成功した。最後に2工程の変換を行ってモデル化合物8へと導いている。このように、タンデム反応を用いることによって(+)-haplophytine(1)の特徴的なビシクロ[3.3.1]骨格を効率的に構築していることは注目に値する。 次に松本は重要中間体13の合成を行った(Scheme2)。アニリン9とグルタミン酸10から5工程にて得られるチオアニリド11に対し、当研究室で開発されたラジカル環化反応によるインドール環構築法を適用することで、2位に不斉側鎖を持つインドール12を得ることができた。その後4工程の変換によって光学活性テトラヒドロ-β-カルボリン13へと導き、重要中間体の効率的な合成法の確立に成功した。 さらに、13とアニリン14とのカップリングを行い、インドレニン15を2:1〜3:1のジアステレオマー混合物として与え、そのうちの主生成物を5工程の変換によって16へと導くことで、4級炭素が望みの立体化学を有していることを確認した(Scheme3)。カップリング反応の立体選択性において若干の課題は残すものの、(+)-haplophytine(1)の不斉全合成に必要な4級炭素の立体制御が可能であることを見いだし、本合成法によって(+)-haplophytine(1)の全合成が達成されるもとの確信している。 以上のように、松本は他に類を見ない複雑かつ特異な構造を有する(+)-haplophytine(1)の全合成を目指して研究を行い、新規方法論の確立によってその不斉全合成への道を開いた。従って、薬学研究に寄与するところ大であり、博士(薬学)の学位を授与するに値するものと認めた。 | |
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