No | 121545 | |
著者(漢字) | 片山,量平 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | カタヤマ,リョウヘイ | |
標題(和) | アポトーシス抑制分子FLIPの新規機能解析 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 121545 | |
報告番号 | 甲21545 | |
学位授与日 | 2006.03.23 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(薬学) | |
学位記番号 | 博薬第1188号 | |
研究科 | 薬学系研究科 | |
専攻 | 生命薬学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 【はじめに】 アポトーシスは核の凝集、断片化と、細胞の泡沫化を特徴とする死の様式であり、その異常は、癌、神経変性疾患、自己免疫疾患等につながる重要な現象である。アポトーシスでは細胞への刺激によって生じるシグナルが、細胞内を伝達し一連の分子群を介して、Caspaseと総称されるシステインプロテアーゼの活性化を伴い細胞死を引き起こす。このカスケードには様々なアポトーシス抑制分子が存在しており、細胞死の誘導にバランスをとっている。FasやTNFによるDeath Receptorを介したアポトーシスにおいてはFLIPがアポトーシス抑制分子として働いていることが知られている。 FLIPは約55kDaの蛋白質であり、Caspase8と高いホモロジーを有する。しかし、Caspaseの活性中心に対応するシステイン残基がないために、Fasシグナリングにおいて、Caspase8と競合し、Caspase活性化を阻害することでアポトーシスを抑制する。しかしFLIPのノックアウトマウスはCaspase8やFADDのノックアウトマウスと同様、胎生致死であり、その原因がいずれも心筋の発育不全であること、また一方、Fasのノックアウトでは発生に支障はないこと等のこれまでの報告から、FLIPにはFasシグナリング阻害以外の機能があると推測される。(Fig.1A,B) また、βカテニンはあらゆる細胞に遍く発現する約92KDaの蛋白質である。カドヘリンの裏打ち分子として細胞接着において重要な役割をしている。それと同時にWntシグナルのメディエーターとして発生における器官形成や細胞の癌化に重要な役割をすることが知られている。細胞質に存在するβカテニンは通常すみやかにユビキチン-プロテアソーム系で分解されているが、Wntシグナルが入ることでその分解が抑制され、下流の転写活性化がおこる。このβカテニン分解系の異常は細胞の癌化にとって、重要なステップであると考えられている。 本研究において、FLIP-Lがβカテニンの蓄積を引き起こし、さらにWntシグナリングの増強を引き起こすことを、in vitroとin vivo両方において明らかにし、その分子機構についてC末端領域に着目し解析を行った。 【実験・結果】FLIPによるβ-cateninの蓄積とそのメカニズム これまでの研究から、当研究室において、Ye胞においてFLIPの共発現によりS100A10が蓄積することが明らかとなっていた。そこで、FLIの一過性発現が同様にβカテニンの蓄積をするのではないかと予測し、解析をおこなった。 293T細胞に全長型FLIP(FLIP-L)とβカテニンを共発現させると、βカテニンの蓄積が、非顕著に見られた。次に、FLIPの各種欠損変異体およびsplicing variantであるFLIP-Sを用いて調べた結果、FLIPのN末端DEDドメインにβカテニン蛋白質蓄積の活性があることが確かめられたが、特にFLIP-Lに、強い活性が見られた。(Fig.2A)さらに、内在性のβカテニンに対してもFLIPが蓄積する作用を示すかどうかを調べた結果、内在性のβカテニンに対してはFLIP-Lのみがβカテニンを蓄積する活性を示し、その他の欠損変異体では見られなかった。(Fig.2B) この結果から、FLIPはそのDEDドメインでβカテニンの蓄積をひきおこし、その活性はFLIP-Lが最も強いことが明らかになった。そこで次に、このFLIPによるβカテニンの蓄積のメカニズムを解析した結果、ユビキチン化の阻害によるものであることが明らかとなった。(Fig.2C) FLIP-Lによるβcateninの局在変化とTcf転写活性化 Wntシグナリングやβカテニン分解系の異常があると、通常速やかに分解されている細胞質βカテニンは蓄積する。蓄積したβカテニンは、その一部が核移行し、核内で転写因子Tcf/Lefとcomplexを形成し転写活性化を引き起こす。そこで、FLIP-Lにより蓄積したβカテニンが核移行しているかについて、免疫染色により検討した。その結果FLIP-Lの一過性発現によってβカテニンが増加し、一部が核に移行している様子がみられた。(Fig.3)次にその下流のTcf転写活性化が誘導されているかどうかについてレポーターアッセイにより検討した。その結果、FLIP-Lの遺伝子導入により顕著なTcf転写活性化が観察された。が、その他のFLIP variantsでは転写活性化は観察されなかった。(Fig.4A)また、exogenousなβカテニンとFLIPとを共発現した場合はβカテニンの単独発現に比べTcf転写活性が更に増強した。しかし、C末欠損変異体およびFLIP-Sにおいては、転写活性のさらなる増強は見られなかった。(Fig.4B)FLIP-Sや他の欠損変異体ではexogenousに遺伝子導入したβカテニンの蓄積が見られるにもかかわらず(Fig.2A)、Tcf転写活性の増強がみられない(Fig.4B)ことから、FLIP-LによるTcf転写活性化は、βカテニン蛋白を細胞質に蓄積するだけではなく、何らかの転写活性化を増強する機能も重要であると考えられる。 このFLIP-Lによって生じるβcatenin/Tcf転写活性化をより生理的に近い条件で見るために、FLIP-LおよびそのスプライシングバリアントであるFLIP-Sの恒常性発現株をそれぞれ作成した。これらの細胞は一過性に過剰発現したFLIPと比べ、約1/50のFLIPを恒常的に発現した。この恒常性発現株はFLIP-L,SともにFas刺激によるアポトーシスに強い抵抗性を示し、FLIPがFasシグナルを阻害することが確認された。これらの細胞をWnt3aで刺激すると、FLIP-Lを高発現する細胞でのみ、Tcf転写活性の増強がみられた。(Fig.4C) 内在性FLIPの機能 内在性のFLIPにもWntシグナルを制御する機能があるかどうかを明らかにするために、FLIP-Lを高発現し、Wntシグナリング感受性の細胞を各種癌細胞から探索した。その結果、肺腺癌細胞A549がFLIPを比較的高発現しWnt3a感受性であることを見出した。そこで、内在性FLIPの蛋白量をshort hairpin RNA(shRNA)を用いて低下させ、Wnt3aに対する感受性を調べた。その結果、FLIPをノックダウンした細胞ではWnt3aによるTcf転写活性が減弱した。これらの結果から、A549細胞では、内在性FLIPがWntシグナリングを増強していることが示唆された。(Fig.5) in vivoでのFLIP-Lの機能 Wntシグナルは発生過程において体軸の形成にも重要な機能を果たしていることが知られており、カエルの卵割期において将来腹側になる領域にWntシグナルのメディエーターを微少注入すると二次体軸が形成されることが知られている。そこで、FLIPによるWntシグナルの増強がin vivoの系でも見られるか検討するために、FLIPのmRNAをXenopus Embryo 4細胞期の腹側赤道面に微少注入した。その結果、頻度は低く、不完全ではあるが二次体軸の形成が見られた。さらに、FLIPのmRNAをごく少量のβカテニンとともに微少注入すると、βカテニン単独に比べ、二次体軸の形成頻度が上昇した。また、FLIP-Sやその他の欠損変異体では二次体軸の形成は全く見られなかった。(Fig.6) この二次体軸の形成がWntシグナルの増強によるものかを調べるために、Xenopus胚の動物極(animalcap)を用いてTcf転写活性化をルシフェラーゼアッセイで検討した。その結果、FLIP-Lの用量依存的に転写活が見られた。これらの結果から、FLIP-LによるWntシグナリングの増強はin vivoの系においても確認された。 FLIP-LによるWntシグナル増強の分子機構解析 FLIPがWntシグナリングを増強するという新しい機能について、分子メカニズムを明らかにするために、FLIPのどのドメインがWntシグナリング活性化に重要なのかについて検討した。 C末端側を42アミノ酸短くした変異FLIP(Δ438)にはTcf転写活性化能がないことから、C末端近傍の領域がFLIP-LによるWntシグナル増強に関与することが推測された。C末のアミノ酸配列を解析した結果、核移行シグナル(NLS)に類似した配列があることを見出した。(Fig.7A)そこで、これまで細胞質蛋白質と考えられてきたFLIPが核にもある可能性を考え、FLIPを高発現する癌細胞を細胞質、核に分画した。その結果、FLIP-Lは細胞質、核の両方に存在するのに対し,FLIP-Sは細胞質画分に存在した。(Fig.7B)次に、FLIP-LのC末端近傍に存在するNLS類似配列の変異体を作製し、細胞内での局在を調べた。その結果、これらの変異型FLIP-Lはいずれも核への局在がほとんど見られなくなった。(Fig.7C)そしてこれらの変異型FLIP-LではTcf転写活性化能がなくなったことから、FLIP-Lの核局在がWntシグナルの増強に関与する可能性が示唆された。そこで、FLIP-LのN末端側に核外排出シグナル(NES)を付加したNES-FLIP-L(Fig.7D)を作製し、まず細胞内での局在を調べた。その結果、NES-FLIP-Lは主に細胞質に局在することが確認された。次にNES-FLIP-LのTcf転写活性化能について調べた結果、このNES-FLIP-Lは、exogenousなβカテニン蛋白質を蓄積する活性は野生型のFLIP-Lと全く同等に観察されたにもかかわらず、Tcf転写活性化能は明らかに減弱していた。(Fig.7E,F)この結果から、FLIP-Lの局在制御(核局在)がFLIP-LによるTcf転写活性化という機能にとって重要であることが強く示唆された。 【まとめ】 本研究において私は、FLIP-Lが従来のアポトーシス制御分子、としての働きのほかに、βカテニンのユビキチン化を阻害することによりWntシグナルを増強することを、in vitro,in vivoにおいて明らかにした。また、これまで細胞質蛋白として考えられてきたFLIP-Lが核にも局在していることを明らかにし、FLIP-LのC末端領域にNLSに類似した配列があり、その配列がTcf転写活性の誘導に必要であること、さらにはFLIP-Lの核局在がTcf転写活性化に重要であることを見出した。 FLIPはメラノーマなどの多くの癌で過剰発現していることが報告されている。これは、生体内で発生した癌細胞が宿主の免疫系から逃れて生き延びていく上で有利であり、このようなFLIPを高発現した細胞が選択的に生き残ってくるためであろうと考えてきた。しかしFLIPはWntシグナルを増強することにより、従来考えてきたより積極的に細胞癌化に関与する可能性が考えられる。今後、現在進行中であるFLIP-LのC末端領域結合蛋白の解析、及び、FLIP-LのC末に変異を持つマウスの解析を進め、さらに詳細にFLIP-Lの未知機能を解明していく予定である。 Fig.1A: FLIP分子の模式図。B:アポトーシスカスケードにおけるFLIPの機能 Fig.3: FLIP-Lによるβカテニンの局在変化 Fig.2A: FLIPによる外来性βカテニン蓄積。 B: FLIPによる内在性βカテニンの蓄積。 C: FLIP-Lによるβカテニンユビキチン化の阻害 Fig.5: 内在性FLIPをノックダウンした際のWnt3a応答性 Fig.6: FLIP-Linjectionによる二次体軸の誘導(Xenopus Embryo) Fig.7A: FLIP-LC末端領域のアミノ酸配列。B: 内在性FLIPの細胞内局在。C: NLS類似配列変異体の細胞内局在。D: NES-FLIP-Lの模式図。E: NES-FLIP-LのTcf転写活性化能。F: NES-FLIPによる外来性βカテニンの蓄積。 Fig.8: FLIP-Lの新規機能の模式図 | |
審査要旨 | アポトーシスは核の凝集、断片化と、細胞の泡沫化を特徴とする死の様式であり、その異常は、癌、神経変性疾患、自己免疫疾患等につながる重要な現象である。アポトーシスでは細胞への刺激によって生じるシグナルが、細胞内を伝達し一連の分子群を介して、Caspaseと総称されるシステインプロテアーゼの活性化を伴い細胞死を引き起こす。このカスケードには様々なアポトーシス抑制分子が存在しており、細胞死の誘導にバランスをとっている。FasやTNFによるDeath Receptorを介したアポトーシスにおいてはFLIPがアポトーシス抑制分子として働いていることが知られている。 FLIPは約55kDaの蛋白質であり、Caspase8と高いホモロジーを有する。しかし、Caspaseの活性中心に対応するシステイン残基がないために、Fasシグナリングにおいて、Caspase8と競合し、Caspase活性化を阻害することでアポトーシスを抑制する。しかしFLIPのノックアウトマウスはCaspase8やFADDのノックアウトマウスと同様、胎生致死であり、その原因がいずれも心筋の発育不全であること、また一方、Fasのノックアウトでは発生に支障はないこと等のこれまでの報告から、FLIPにはFasシグナリング阻害以外の機能があると推測される。 また、βカテニンはあらゆる細胞に遍く発現する約92KDaの蛋白質である。カドヘリンの裏打ち分子として細胞接着において重要な役割をしている。それと同時にWntシグナルのメディエーターとして発生における器官形成や細胞の癌化に重要な役割をすることが知られている。細胞質に存在するβカテニンは通常すみやかにユビキチン-プロテアソーム系で分解されているが、Wntシグナルが入ることでその分解が抑制され、下流の転写活性化がおこる。このβカテニン分解系の異常は細胞の癌化にとって、重要なステップであると考えられている。 本研究では、FLIPの未知機能をβカテニンとの関連に着目して解析することによって以下の成果を得た。 FLIPによるβカテニンの蓄積とそのメカニズム 293T細胞にβカテニンのみを遺伝子導入すると、分解が早く蛋白質発現量は少ないが、全長型FLIP(FLIP-L)とβカテニンを共発現させると、βカテニンの蓄積が非常に顕著に見られた。そこで次に、FLIPの各種欠損変異体およびsplicing variantであるFLIP-Sを用いて同様の検討をした結果、FLIPのN末端DEDドメインにβカテニン蛋白質蓄積の活性があることが確かめられたが、特にFLIP-Lに、強い活性が見られた。さらに、内在性のβカテニンに対してもFLIPが蓄積する作用を示すかどうかを調べた結果、内在性のβカテニンに対してはFLIP-Lのみがβカテニンを蓄積する活性を示し、その他の欠損変異体では見られなかった。この結果から、FLIPはそのDEDドメインでβカテニンの蓄積をひきおこし、その活性はFLIP-Lが最も強いことが明らかになった。そこで次に、このFLIPによるβカテニンの蓄積のメカニズムを解析した結果、ユビキチン化の阻害によるものであることが明らかとなった。 FLIP-Lによるβカテニンの局在変化とTcf転写活性化 分解系の異常やWntシグナリングにより蓄積したβカテニンは核に移行し、Tcf転写活性化を誘導する。そこでまず、FLIP-Lにより蓄積したβカテニン核移行しているかについて、免疫染色により検討した。その結果FLIP-Lの一過性発現によってβカテニンが増加し、一部が核に移行している様子が見られた。次に、その下流のTcf転写活性化が誘導されているかどうかについてレポーターアッセイにより検討した。その結果、FLIP-Lの遺伝子導入により顕著なTcf転写活性化が観察された。が、その他のFLIPvariantsでは転写活性化は観察されなかった。また、βカテニンとFLIPとを共発現した場合はβカテニンのみの発現に比べTcf転写活性が更に増強した。しかし、C末欠損変異体およびFLIP-Sにおいては、転写活性のさらなる増強は見られなかった。FLIP-Sや他の欠損変異体はβカテニンの共発現によりβカテニンの蓄積が見られるにもかかわらず、Tcf転写活性の増強がみられないことから、FLIP-LによるTcf転写活性化は、βカテニン蛋白を細胞質に蓄積するだけではなく、何らかの転写活性化を増強する機能も重要であると考えられた。 このFLIP-Lによって生じるβcatenin/Tcf転写活性化をより生理的に近い条件で見るために、FLIP-LおよびそのスプライシングバリアントであるFLIP-Sの恒常性発現株をそれぞれ作製した。これらの細胞は一過性に過剰発現したFLIPと比べ、約1/50のFLIPを恒常的に発現した。この恒常性発現株はFLIP-L,SともにFas刺激によるアポトーシスに強い抵抗性を示し、FLIPがFasシグナルを阻害することが確認された。これらの細胞をWnt3aで刺激すると、FLIP-Lを高発現する細胞でのみ、Tcf転写活性の増強がみられた。さらに内在性のFLIPにもWntシグナルを制御する機能があるかどうかを明らかにするために、FLIPを比較的高発現しWnt3a感受性がみられた肺腺癌細胞A549を用いて、内在性FLIP蛋白をshort hairpin RNA(shRNA)によりノックダウンし、Wnt3aに対する感受性を調べた。その結果、FLIPをノックダウンした細胞ではWnt3aによるTcf転写活性が減弱した。これらの結果から、A549細胞では、内在性FLIPがWntシグナリングを増強していることが示唆された。 in vivoでのFLIP-Lの機能 Wntシグナルは発生過程において体軸の形成にも重要な機能を果たしていることが知られており、カエルの卵割期において将来腹側になる領域にWntシグナルのメディエーターを微少注入すると二次体軸が形成されることが知られている。そこで、FLIPによるWntシグナルの増強がin vivoの系でも見られるか検討するために、FLIPのmRNAをXenopus Embryo4細胞期の腹側赤道面に微少注入した。その結果、頻度は低く、不完全ではあるが二次体軸の形成が見られた。さらに、FLIPのmRNAをごく少量のβカテニンとともに微少注入すると、βカテニン単独に比べ、二次体軸の形成頻度が上昇した。また、FLIP-Sやその他の欠損変異体では二次体軸の形成は全く見られなかった。 この二次体軸の形成がWntシグナルの増強によるものかを調べるために、Xenopus胚の動物極(animal cap)を用いてTcf転写活性化をルシフェラーゼアッセイで検討した。その結果、FLIP-Lの用量依存的に転写活性の上昇が見られた。これらの結果から、FLIP-LによるWntシグナリングの増強はin vivoの系においても確認された。 FLIP-LによるWntシグナル増強の分子機構解析 FLIPがWntシグナリングを増強するという新しい機能について、分子メカニズムを明らかにするために、FLIPのどのドメインがWntシグナリング活性化に重要なのかについて検討した。C末端側を42アミノ酸短くした変異FLIP(Δ438)にはTcf転写活性化能がなかったことから、C末端近傍の領域がFLIP-LによるWntシグナル増強に関与することが推測された。そこでC末のアミノ酸配列を解析した結果、核移行シグナル(NLS)に類似した配列があることを見出した。このことから、これまで細胞質蛋白質と考えられてきたFLIPが、核にも局在する可能性を考え、FLIPを高発現する癌細胞を細胞質、核に分画した。その結果、FLIP-Lは細胞質、核の両方に存在するのに対し、FLIP-Sは細胞質画分に存在することを見出した。次に、FLIP-LのC末端近傍に存在するNLS類似配列の変異体を作製し、細胞内での局在を調べた。その結果、これらの変異型FLIP-Lはいずれも核への局在がほとんど見られなくなった。そしてこれらの変異型FLIP-LではTcf転写活性化能がなくなったことから、FLIP-Lの核局在がWntシグナルの増強に関与する可能性が示唆された。そこで、FLIP-LのN末端側に核外排出シグナル(NES)を付加したNES-FLIP-Lを作製し、まず細胞内での局在を調べた。その結果、NES-FLIP-Lは主に細胞質に局在することが確認された。次にNES-FLIP-LのTcf転写活性化能について調べた結果、このNES-FLIP-Lは、exogenousなβカテニン蛋白質を蓄積する活性は野生型のFLIP-Lと全く同等に観察されたにもかかわらず、Tcf転写活性化能は明らかに減弱していた。以上の結果から、FLIP-Lの局在制御(核局在)がFLIP-LによるTcf転写活性化という機能にとって重要であることが強く示唆された。 以上、本研究はこれまでアポトーシスを阻害する分子として考えられてきたFLIPがβカテニンのユビキチン化を阻害し、Wntシグナルを増強することを明らかにした。この成果は、FLIPの生理機能を解明する上で重要な知見であり、また、細胞の癌化におけるFLIP分子の機能の新たな一面を見出したものであり、博士(薬学)の学位に値するものと判断した。 | |
UTokyo Repositoryリンク |