No | 121628 | |
著者(漢字) | 飯塚,淳 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | イイヅカ,アツシ | |
標題(和) | 二酸化炭素処理によるコンクリート廃棄物のトータルリサイクル技術開発 | |
標題(洋) | Development of a new total recycling process of waste concrete with a carbonic acid treatment | |
報告番号 | 121628 | |
報告番号 | 甲21628 | |
学位授与日 | 2006.03.23 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(環境学) | |
学位記番号 | 博創域第210号 | |
研究科 | 新領域創成科学研究科 | |
専攻 | 環境学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 第1章 研究の背景 コンクリートは、セメントと水、骨材から製造される建築材料である。世界中で広く使用されており、我が国でも年間数億tが製造されている。コンクリート原料となるセメントは、石灰石(主成分CaCO3)と粘土(主成分SiO2)等の焼成反応により製造される。セメントの主成分は、水硬性を持つケイ酸カルシウム塩(3CaO・2SiO2等)であり、これが水和することで強度を発現する。水和後のセメントの主成分は、水酸化カルシウムやケイ酸カルシウム水和物等の塩基性カルシウム化合物である。 日本においては約3500万tの廃コンクリート塊が毎年排出されており[1]、今後も増加傾向が見込まれている[2](Figure 1参照)。廃コンクリート塊は、建設リサイクル法(平成12年公布)によりその再利用が義務付けられており、現在100%近い再利用率を達成している。しかし、その利用先は主に路盤材である。新規道路建設需要は著しく減少しており、また、一方で廃コンクリート塊自体の排出量が増加している。このため新規な廃コンクリート塊の再利用技術確立が急務となっている。そこで、本研究では、炭酸水処理による新規なコンクリート塊再資源化プロセスの提案を行い、その評価を行うことを目的とする。 第2章 二酸化炭素処理による新規なコンクリート廃棄物リサイクルプロセスの提案 本研究では、コンクリート塊から再生骨材を製造する際に廃棄物として排出される廃セメント微粉末を原料として想定する。廃セメント微粉末の主成分は水和したセメントであり、この部分はコンクリート塊の重量の約3割を占める。微粉末を水中に分散させ、二酸化炭素を高圧で供給することで炭酸によるカルシウムの抽出を行う。抽出されたカルシウムは二酸化炭素常圧下で炭酸カルシウムとして析出する。これによりコンクリート塊から炭酸カルシウムを生産し、セメント水和物部分の再資源化を行う。提案するプロセスでは二酸化炭素が消費されるため、二酸化炭素排出量削減効果も期待される。 第3章 実験 3.1 試験装置図 本研究で用いた試験装置図をFigure 2に示す。直列に連結した二槽のバッチ式攪拌槽(共に内容積500mL)からなる。二酸化炭素はシリンダーから気相で供給される。反応溶液の攪拌はモーターを用いた二枚パドル翼で行われる。両反応槽からはステンレス製の焼結フィルター(5 μm)で内部の溶液をろ過しつつサンプリングすることができる。 3.2 廃セメント試料の性状 試験に用いた廃セメント微粉末は(株)立石建設から提供を受けた。試料は廃コンクリートから骨材を粉砕・選別処理によって再生した際に排出された廃セメント微粉末であり、実際に廃棄予定であったものである。廃セメント微粉末の粒径は約10〜200μmに分布していた。また、廃セメント微紛中のカルシウム含量は27.3wt%と測定された。 3.3 カルシウム抽出試験 廃セメント微粉末からのカルシウムの抽出試験を、廃セメント/水比が0.29〜2.9wt%,二酸化炭素供給圧0.9〜3.0MPa,温度291〜353K,の範囲で行った。結果の一例をFigure 3に示す。廃セメント/水比の大きい場合には、カルシウム抽出は平衡計算から予想される系の飽和カルシウム濃度を越えて速やかに起こることが観察された。しかし、カルシウム抽出率は約20%に留まった。廃セメント/水比が小さい場合には抽出率は90%近くに達したが、単位時間あたりのCa抽出量は低くなった。系に供給する二酸化炭素の圧力は水相中のカルシウムの飽和溶解度に影響を与える。供給圧力を変化させたところ、供給圧力の増加に伴いカルシウム抽出も速やかに起こることが確認された。抽出温度の影響は複雑であった。また、廃セメント微紛の細粒分からカルシウム抽出を行ったところ抽出速度の向上が確認された。 3.4 炭酸カルシウムの析出試験 炭酸カルシウムの析出試験を、二酸化炭素供給圧が0.9〜3.0MPa,析出温度30〜80℃,種結晶投入量0〜1.0g/300mL-水の範囲で行った。結果の一例をFigure 4に示す。種結晶の投入のない場合、水相中カルシウム濃度は、過飽和状態であったが、ほとんど減少しなかった。これは活性な析出表面のない場合には炭酸カルシウムの析出がほとんど生じないことを示している。また、投入する種結晶量を増加させることで炭酸カルシウムの析出速度を促進することが可能であることが分かった。 3.5 得られる炭酸カルシウムの純度と粒度 種結晶投入による炭酸カルシウム析出を試験を行ったところ、純度約98%,粒径:約17μm(種結晶粒径:約15μm)の炭酸カルシウムが得られた。これは、重質炭酸カルシウム(良質の石灰石を微粉砕したもの)として15円/kgで売却可能なスペックである[3]。また、二酸化炭素分圧0(N2バブリング)での再結晶化を行ったところ、純度約99%,粒径約8.4μm(軽質炭酸カルシウム:27円/kg相当[3]の品質)の炭酸カルシウムが得られた。尚、粒径は光散乱径であり体積基準の中間値で示した。 第4章 コンクリート廃棄物リサイクルプラントのプロセス設計 次に、コンクリート廃棄物リサイクルプラントのプロセス設計を行った。第3章で得られた速度データは経験式化し、プロセス設計に反映させた。プラントの条件設定は我が国において可能な限り現実的な条件設定となるように設定を行った。主要な仮定を以下に列挙する。尚、プラントの概要図をFigure 5に示す。 二酸化炭素源を石炭火力発電所とする。 コンクリート塊の年間処理量が 30,000t,90,000t,300,000t/年のケースを想定する。これは、コンクリート塊の年発生量の0.1,0.3,1%に相当する。コンクリート塊の3割がセメント微粉となる。 カルシウムの転化率:80%とする。再資源化技術である以上、高い転化率が現実に要求される。 製造された炭酸カルシウム:市場に売却し利益を得る。より売却益を高くするために、再結晶プロセスを導入する。 抽出残渣:再生砂として売却し利益を得る。 Ca抽出処理の1バッチの時間を10分と設定し、その他の処理速度はその時間を基準に設定した。バッチ処理開始のための準備時間を10分、処理後の清掃のための時間を10分とした。 以上の仮定に基づき基本ケースとして、Table1に示す6ケースを設定した。 尚、コスト試算においては、以下の項目を考慮した。 収入項目: (1)CaCO3販売額 (2)残渣販売額 支出項目: (1)人件費 (2)資材費 (3)減価償却費 (4)保守費 (5)ユーティリティ費(電力費+水道費) (6)排水処理費 (7)異物処分費 (8)二酸化炭素分離・回収費 二酸化炭素の分離・回収費は、共同研究先機密事項のため独立に計上した。試算の詳細はここでは割愛する。 第5章 コンクリート廃棄物リサイクルプロセスの評価 以上の前提のもと、セメント微粉末を受け入れ炭酸処理によって炭酸カルシウムを製造するリサイクルプロセスの経済性評価を行った。結果をTable 2に示す。再資源化プラント1施設あたりの年間の再資源化量を増加させることでプロセスの経済性は向上することが見て取れる。これは特に設備費と二酸化炭素の回収費においてスケールメリットが大きく働くためである。また、廃セメント微粉末内のカルシウムの転化率を50%と設定したケース1では、再資源化施設の採算が取れないことが分かった。また、転化率を80%と設定したケース2においても再資源化施設の採算が取れるのはケース2-b,cの場合のみであった。 これを日本全国でのコスト(コンクリート廃棄物3500万t処理の際の総コスト)、廃セメント微粉末1tあたりの廃棄物処理コスト、二酸化炭素消費量1tあたりの処理コストで表し直したものがTable 3である。まず、日本全国での再資源化コストであるが、日本全体でこの額だけの何らかの経済的援助があれば、経済的に成り立たないケースでも日本全体での再資源化処理が行えることを意味している。二酸化炭素消費量1tあたりの処理コストは、再資源化処理による二酸化炭素排出量削減コストを表す。再資源化技術導入がもたらす年間の二酸化炭素排出削減量は、日本全体で約200万tであり、その他の削減技術と遜色ないコストで削減が可能であることが示唆された。 第6章 結言 これまで技術的に困難であった、コンクリート塊のセメント水和物部分の新規な再資源化技術を提案し、その実現可能性を確認した。現在、我が国がおかれている境界条件のもと、セメント微粉末の再資源化を行った場合、十分に採算が取れる可能性を指摘した。 Figure 1 Variation over time of the waste concrete recycling rate and recycling plant numbers[2] Figure 2 Schematic drawing of the experimental apparatus Figure 3 The influence of the initial ratio of waste cement to water on the time course of calcium concentration in the water phase Figure 4 The influence of the amount of seed crystalon the time course of the calcium concentration in thewater phase Table 1 Example cases Figure 5 The schematic drawing of a proposed recycling plant for the example cases Table 2 Breakdown of revenue and costs of the proposedwaste concrete recycling plant Table 3 Environmental impact of the proposedrecycling process | |
審査要旨 | 本論文は7章から構成されている。 第1章では、まず、我が国におけるコンクリート廃棄物処理の現状が述べられ、我が国では近い将来、再利用しきれない余剰なコンクリート廃棄物の処理が問題となることが予測されている。また、コンクリート廃棄物の既存の再利用技術の概観とその問題点がまとめられている。以上から資源循環型の新規なコンクリート廃棄物の再資源化技術が必要とされている現状について述べられている。 第2章では、高圧二酸化炭素溶解水を利用した新規なコンクリート廃棄物の再資源化プロセスの提案が行われている。平衡論的、速度論的、社会的な観点から、提案した再資源化技術プロセスの検証が行われており、その実現可能性と有用性、特徴等が議論されている。提案されている再資源化技術はコンクリート塊をコンクリートに再生することを技術的に可能とするものであり、その社会的意義は非常に大きいと認められる。 第3章では、実験室での試験を通じて、コンクリート廃棄物から得られる廃セメント微粉末の再資源化が技術的に可能であることが確認されている。すなわち、実際のコンクリート廃棄物から高純度の炭酸カルシウム(カルサイト型)が、提案した再資源化処理によって得られることが確認されている。また、様々な条件下で行ったコンクリート廃棄物からのカルシウムの溶出試験及び炭酸カルシウムの析出試験の結果が報告されている。再資源化処理によって得られる炭酸カルシウムの純度と粒径についても測定が行われている。また、試験結果に基づき、再資源化プロセス中の各過程のメカニズムに対する考察が詳細になされている。 第4章では、第3章で得られた速度データの経験式化がなされている。すなわち、一定条件下でのカルシウムの溶出挙動、炭酸カルシウムの析出挙動が予測できるよう双方の処理速度が式化されている。 第5章では、提案する技術によって、我が国でコンクリート塊の再資源化を行う際の経済的実現可能性、また各種の環境影響評価を行うためのプラント設計が行われている。この際に、第3章及び第4章での結果がプラント設計に良く反映されている。また、企業への詳細な聞き取り調査に基づき現実的なプロセスの運転条件及び各種設定がなされている。 第6章では、第5章で行ったプラント設計に基づき、各種ケースにおける再資源化プラントの評価がなされている。経済的実現可能性に対する評価では、我が国で再資源化プラントを導入し、日本全体での廃コンクリート処理を行った場合の経済的なインパクトが試算されている。結論として、提案するプロセスが我が国において十分に経済性のあるプロセスとなりうることが指摘されている。また、廃棄物削減量、二酸化炭素排出削減量、排水量、電力消費量など各種環境影響の評価が行われている。再資源化プラント導入による環境影響軽減効果は大きく、また、競争力のあるコストで二酸化炭素排出量削減が可能であることが述べられている。また、提案する再資源化技術が、カルシウム資源の循環に対して持つ意義が、我が国におけるカルシウムのマテリアルフロー図に基づき指摘されている。 第7章では、結言として本論文の意義が述べられている。すなわち、これまで技術的に困難であったコンクリート廃棄物のセメント水和物部分の新規な再資源化技術を提案しその実現可能性を確認したこと、再資源化プロセス中の処理速度に関して実験的な測定を行い、速度の経験式化及びそのメカニズムに対する考察を行ったこと、我が国がおかれている状況下で再資源化プラントは経済的に十分に実現可能性を有すること、が指摘されている。 なお、本論文の第3章は、勝山泰郎との共同研究であるが、論文提出者が主体となって実験結果の分析と検証を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。第7章で述べられている結論は、我が国の廃棄物問題の解決と循環型社会の構築へ大きく貢献する成果である。したがって、論文提出者に博士(環境学)の学位を授与できると認める。 | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/6998 |