学位論文要旨



No 121631
著者(漢字) 澤田,有弘
著者(英字)
著者(カナ) サワダ,トモヒロ
標題(和) 重合ALEメッシュによる流体・構造連成有限要素解析に関する研究
標題(洋)
報告番号 121631
報告番号 甲21631
学位授与日 2006.03.23
学位種別 課程博士
学位種類 博士(科学)
学位記番号 博創域第213号
研究科 新領域創成科学研究科
専攻 環境学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 久田,俊明
 東京大学 助教授 鈴木,克幸
 東京大学 助教授 鈴木,雄二
 東京大学 助教授 高木,周
 東京大学 講師 渡邉,浩志
内容要旨 要旨を表示する

本論文は流体・構造連成問題を有限要素法によって解析する際の問題点を明瞭にし,既存の連成面追跡型ALE有限要素法(単一ALEメッシュ法)による流体・構造連成解析手法を重合メッシュ化することによって改良しようとするものである.具体的には重合メッシュによって解析領域全体と弾性体が存在する領域を取り囲む局所的な領域とを分離し,それによって幾何学的な適用能力を大いに向上させた流体・構造連成解析手法を提案している.その際,流体・構造連成問題の本質的な要素と数値解析の困難さとを共に含む現象として旗のはためき問題を主要な解析対象及び研究対象とし,最終的に本格的な旗のはためき問題の数値解析が行える手法にまで成長させることを目的としている.

本論文の構成は第1章にて全体に対する緒言を記述し,次の第2章で提案手法の基礎となる連成面追跡型ALE有限要素法による流体・構造連成解析手法を記述している.第3章では二次元版の旗のはためき問題を従来型の単一メッシュ法による解析結果,及び本現象に対する詳細な力学的研究結果が示されている.次の第4章にて本論文で提案する重合メッシュによる流体・構造連成解析手法を記述し,最後の第5章に本研究に対する決言が示されている.以後各章に対する概要を示す.

まず第1章の全体緒言は三部構成となっており,初めの1.1節にて本研究の背景と目的が記述されている.次の1.2節では既存の代表的な流体・構造連成解析手法やその周辺理論を紹介し,それらに対する筆者の考察が示されている.同時に提案手法の有効性やそれに至る経緯が示されている.そして最後の1.3節にて本論文の構成を示している.

第2章の流体・構造連成解析の基礎式は五部構成となっており,本章にて連成面追跡型ALE有限要素法による流体・構造連成解析手法を記述している.まず始めの2.1節ではテンソル解析による連続体力学の基礎を記述し,特に連成面追跡型ALE法の基礎となるLagrange法,Euler法,及びALE(arbitrary Lagrangian-Eulerian)法の定式化と,連続体に対するCauchyの運動法則から有限要素離散化時の基礎となる仮想仕事式の導入がなされている.次の2.2節では原始変数を流速と圧力とした混合法による非圧縮性Newton流体の定式化,及びその有限要素離散化手法と数値安定化手法が記述されている.本研究では流体要素には速度と圧力に同次補間を採用する六面体Q1Q1 要素を用いており,その数値安定化手法としてはSUPG/PSPG/LSIC法を採用している.次の2.3節においてはtotal Lagrange法による弾性体の幾何学的非線形解析手法,及び本研究で主要な解析対象となる旗のような薄肉構造物を離散化する四節点MITCシェル要素の定式化が示されている.この四節点MITCシェル要素は薄肉構造物の解析で問題となるロッキング問題を,面内歪成分を定次した補間関数によって再補間することにより解決した要素となっている.さらに有限回転を考慮した定式化も示され,これにより大回転に対する収束性が大幅に改善されている.次の2.4節では,流体と構造を一つの平衡方程式系として定式化する強連成定式化,およびその強連成解法が示されている.この強連成方程式は流体と弾性体の節点配置をその連成面において一致させることによって導かれ,強連成解法はその方程式を陰的なNewmark-β法によるアルゴリズムで解くことで実現される.最後の2.5節では,連成面追跡型ALE有限要素法で必要となる流体領域のALEメッシュの制御法が記述されている.この本研究で用いるメッシュ制御法は,まず連成面における変位を境界条件としてALEメッシュへ与えることで流体メッシュを移動させる弾性体制御法,と取り扱う問題の性質を生かした幾何学的な制御法を採用している.

第3章は連成面追跡型ALE有限要素法による二次元の旗のはためき問題の流体・構造連成解析となっており,第2章で記述した連成面追跡型ALE有限要素法によって二次元版の旗のはためき問題(以後,細糸のはためき問題と記述する)を解析した結果,及びその力学現象に対する研究成果が示されている.本問題は流体・構造連成問題の本質と数値解析の困難さとを共に含む問題であり,その力学現象も極めて奥の深いものとなっている.具体的には数年前まで本問題は常にはためくものと考えられていたが,近年の研究によって細糸がはためかない場合とはためく場合,及びどちらの状態も取れる状況が条件に応じて生じることが報告されており,それに関する詳細な記述は3.1節の緒言に示した.本研究ではこの問題に対して数値解析による現象解明を試み,細糸の質量密度,細糸の弾性係数,及び流体の流速,流体の粘性係数の影響を詳細に調査している.これは3.3節にてまとめられている.なお3.2節は本解析で導入される仮定を記述している.本研究の数値実験の結果,細糸と流体との共振状態が三安定状態の分岐に対して主要な影響を及ぼすことが明らかとなり,細糸がはためけなくなる臨界的な質量密度が存在することも確かめられている.これらは3.4節の結言にてまとめられている.さらに3.5節では補足的考察として,細糸の固有振動モードとはためきの安定状態の関係が示され,本問題は流れ場と細糸の共振状態が特に重要な役割を果たしていることが示されている.

次の第4章は重合ALEメッシュによる流体・シェル連成問題の数値解法となっており,六部構成で提案手法が記述されている.まず始めの4.1節の緒言で既存の連成解析手法の問題点が述べられ,4.2節にて簡単に流体・構造連成解析において最も重要となる強連成型の平衡方程式が示されている.次の4.3節において標準的な重合メッシュ法として境界条件をローカルメッシュとグローバルメッシュとで授受し合う方法を記述し,次に本研究の提案手法であるIB法をローカルメッシュからグローバルメッシュへの重合処理に用いる重合メッシュ法(OIB法)を記述している.それと同時に以後の比較解析に用いる,標準的なIB(immersed boundary)法をシェル要素によって離散化する場合の方法を記述している.次の4.4節においては,三つの検証用問題にて上記の解析手法を比較した結果が示されている.具体的には風船が膨らむような問題を簡略化した二次元問題の解析と,紙が舞い落ちる問題の二次元解析,及び第3章で単一メッシュ法にて解析した二次元版の旗のはためき問題の解析となっている.この比較解析によって標準的な境界条件を授受し合う重合メッシュ法を流体・構造連成問題に適用する際に問題となる点を明確にし,提案手法であるOIB法の有効性を示している.その結果,最終的に本格的な三次元のはためき問題のシミュレーションに成功し,その解析結果を4.5節に示している.最後の4.6節は本章の結言となっている.

最後の第5章は本研究の全体的な結言であり,本研究の概要及び研究成果,さらに今後の課題が示されている.具体的にはまず第3章の研究成果がそれにあたり,二次元版の旗のはためき問題の力学現象を詳細に研究し,三安定状態が出現する場合及びそのメカニズムを調べたことである.それと同じに本解析は今後,各種提案されている流体・構造連成手法及び今後提案される手法に対して確かな標準問題となるものと考えられる.次に第4章にて提案したIB型の重合メッシュ法は,従来の単一メッシュ法の計算の安定性と精度を備えつつ,従来法では解析が不可能であったような大変形問題及び幾何学的に複雑な流体・構造連成問題に対して,大きくその適用度を向上させることに成功している.その結果本格的な三次元のはためき問題のシミュレーションを成功するに至った.今後の課題としては,より極限的な大変形も取り扱えるように本手法を改良することがある.これは本重合メッシュ法のローカルメッシュの厚みをさらに薄くすることで可能である.しかしながらこれは同時に計算の安定性の低下を招くため,さらに研究を深める必要がある.

審査要旨 要旨を表示する

本論文は旗のはためき問題の流体・構造連成力学、及びその数値解析手法の構築に関する研究であり、五章から成る.まず第1章は本研究の背景や目的を含む緒言で、第2章は流体・構造連成解析の基礎式(単一ALEメッシュ法)、第3章は二次元の旗のはためき問題に関する研究、第4章は重合ALEメッシュ法に関する研究、そして第5章は論文全体の結言となっている.以下、各章の概要を述べる.

第1章では本研究の緒言が述べられている.本研究では、数値解析の分野で古くから挑戦的な課題として認識されている旗のはためき問題を主要な研究対象及び解析対象とし、その二次元問題を流体構造連成現象の標準問題として確立し,本格的な三次元問題を解析可能な手法を構築することを研究目的としている.これは流体構造連成解析分野で未だ確かな標準問題が存在しないことと、本格的な三次元の旗のはためき問題を解析可能な手法が提案されていないことを背景としている.なお既存の連成解析手法に対しても、その問題点や論文提出者の見解を含め、詳細にまとめられている.

第2章では本研究のベースとなる連成面追跡型ALE有限要素法による流体・構造連成解析手法(単一メッシュ法)を記述している.まず2.1節ではテンソル解析による連続体力学に関して簡単に述べ,特にLagrange法,Euler法,及びALE(arbitrary Lagrangian-Eulerian)法の概念と,有限要素離散化時の基礎となる仮想仕事式の導出がなされている.2.2節では非圧縮性Newton流体の定式化と,SUPG/PSPG/LSIC安定化有限要素法が示されている.2.3節では弾性体のtotal Lagrange法による幾何学的非線形解析手法と,旗のような薄肉構造物を離散化する四節点MITCシェル要素の定式化が示されている.2.4節では,流体と構造を一つの平衡方程式系として定式化する強連成定式化,およびその時間積分法が示されている.最後の2.5節では,流体領域のALEメッシュの制御法が記述されている.

第3章は単一ALEメッシュ法による二次元の旗のはためき問題の流体・構造連成解析によって構成され,本力学現象に対する研究成果が示されている.本問題は流体・構造連成問題の本質と数値解析の困難さとを共に含む問題であり,以後の重合メッシュ法の開発における確かな指針となると共に、各種の解析手法に対する標準問題となるものと評価される.特に本問題は条件に応じてはためく場合とはためかない場合とがあることが近年の実験的研究で報告されており、細糸の質量密度,細糸の弾性係数,及び流体の流速,流体の粘性係数などの影響を本数値解析によって詳細に調査することで、現象解明を行い、また複数の有意義な知見を得るに至っている.

第4章では本研究の主題である重合ALEメッシュによる流体・シェル連成問題の数値解法に関して記述されている.まず4.1節では既存の連成解析手法の問題点が述べられ,4.2節にて簡単に流体・構造連成解析において最も重要となる強連成型の平衡方程式が示されている.次の4.3節では標準的な重合メッシュ法として境界条件をローカルメッシュとグローバルメッシュとで授受し合う方法を定義し,次に本研究で提案するimmersed boundary(IB)法の力の分散をローカルメッシュからグローバルメッシュへの重合処理に用いる重合メッシュ法(以後OIB法)を記述している.4.4節においては,三つの検証用問題にて上記の解析手法の能力を比較した結果が示されている.具体的には風船が膨らむ問題を簡略化した二次元問題の解析と,紙が舞い落ちる問題の二次元解析,及び第3章の二次元版の旗のはためき問題の解析となっている.この比較解析によって標準的な境界条件を授受し合う重合メッシュ法を流体・構造連成問題に適用する際に問題となる点を明確にし、提案手法であるOIB法の有効性を示している.又その結果、本格的な三次元の旗のはためき問題のシミュレーションに成功し,解析結果が4.5節に示されている.

最後の第5章は本研究全体の結言であり,本研究の概要及び研究成果が示されている.まず一つ目の成果は、二次元の旗のはためき問題の現象解明に大きな貢献をしたこと、及びそれを標準問題として確立したことにある.二つ目の成果は、新たな重合メッシュ法を開発することによって、従来法では解析が不可能であったような大変形問題及び幾何学的に複雑な流体構造連成問題に対しても適用可能な手法を提案したことである.特に三次元の旗のはためき問題の解析までを可能とした点は前例の無いものとして評価される.

なお本論文は久田俊明との共同研究であるが、論文提出者が主体となって行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。

以上により、博士(科学)の学位を授与できると認める。

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