No | 121639 | |
著者(漢字) | 藤田,秀之 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | フジタ,ヒデユキ | |
標題(和) | デジタル写真の空間的組織化 | |
標題(洋) | Spatial Organization of Digital Photographs | |
報告番号 | 121639 | |
報告番号 | 甲21639 | |
学位授与日 | 2006.03.23 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(環境学) | |
学位記番号 | 博創域第221号 | |
研究科 | 新領域創成科学研究科 | |
専攻 | 環境学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 携帯電話に搭載される例を含めてデジタルカメラが普及し,私たちはかつてないほど日常的に写真を撮影するようになった.デジタル写真はWebや電子メールにより流通しており,私たちにはかつてないほど大量の写真を共有する環境がある.本研究は,デジタル写真という利用者にとって身近な媒体を対象とし,これを空間的に組織化することにより,ユビキタスコンピューティング社会において,情報コンテンツ空間が持続的に発展し,有効に活用される環境を検討する.本研究では,情報コンテンツ空間の持続的な発展と活用に関わる,以下の一般的な課題に取り組んだ. コンテンツの生産と組織化(人間-社会系) コンテンツの意味的な構造化(人間-機械系) ビジュアルコミュニケーション(人間-人間系)それぞれの課題に対して,デジタル写真を空間的に組織化することで,以下の環境を提案した. デジタル写真を空間コンテンツとして組織化する環境 人間と機械の協調によるデジタル写真の意味的な構造化の環境 デジタル写真を用いたビジュアルコミュニケーションを支援する環境以降で,それぞれの概要を述べる. デジタル写真を空間コンテンツとして組織化する環境 Webの情報空間は,不特定多数の利用者が協調することで,ボトムアップ的に発展してきた.このようなボトムアップ的な発展に不可欠なのが統一的なアドレス空間と,情報空間の適切なナビゲーションの枠組みである.Webにおいては,すべての情報コンテンツがIPアドレスという統一的なアドレス空間に組織化され,ハイパーリンクとキーワードサーチにより,テキスト空間としてのナビゲーションの手段が提供されている.一方で,モバイル・ユビキタスコンピューティング環境においては,実世界の位置や方向,場所といった空間キーを利用した情報空間のナビゲーションが必須であり,これを実現するためには,実空間をアドレス空間として,情報コンテンツを組織化する枠組みが有効である.加えて,実空間という統一的なアドレス空間に基づく組織化は,コンテンツ空間の持続的な発展の枠組みとなる.現在,萌芽的な位置情報サービスである,カーナビ,携帯電話での人ナビ,Webの電子地図などで利用される情報コンテンツは,公的機関や地図・測量会社により生産されている.地図データに代表される空間データの作成は,専門的な機器と技術を用い,コストをかけて行われてきた.精度や信頼性を必要とする道路データのような多くの空間データに関しては,今後も同様の枠組みが必要である.これに対して,実空間に組織化できる情報は,飲食店の評判や観光地の写真,個人の日記など多種多様である.このような,位置情報を主データではなく属性情報として持つ情報コンテンツを,空間コンテンツと呼ぶ.GPS携帯電話に代表されるように,通信環境や測位環境は,一部の専門家のものではなくなっており,一般的な利用者が空間コンテンツを生産する枠組みが実現できる可能性がある.不特定多数の利用者が参加することで,Webのように多様さや新鮮さや対的な量といった特徴を持つ情報空間が,ボトムアップに構築されることが期待できる. デジタル写真は,現在,多くの利用者が日々生産している情報コンテンツである.私たちは,実世界の特定の場所で,関心を持った特定の対象を,意図を持って写真を撮影し,場合によっては,コメントを加えてメールで送ったり,Webに公開したりする.つまり,デジタル写真は利用者や場所,撮影対象に関するさまざまな情報を含む情報コンテンツである.そこで本研究では,デジタル写真を実空間に組織化し,空間キーによる適切なナビゲーションの環境を実現することで,空間コンテンツとして組織化する枠組みを提案する.具体的には,デジタル写真の撮影位置や撮影方向といった空間属性や,コメントや注釈といったテキスト属性を取り上げ,空間構造と意味構造を考慮することで,デジタル写真を中心とした空間的なコンテクストを定義し,これに基づき,本研究の対象データである,地理座標空間に組織化した写真のデータ構造を定義する.また,写真を表現するユーザインタフェースとして,主体と対象という,写真が持つ意味的な構造を反映し得る矢印記号を提案する.続いて,空間的に組織化したデジタル写真を空間キーにより検索し活用するための枠組みとして,デジタル写真の空間的な検索インタフェースを検討する.例えば,ある対象が写っている写真,ここからここを見た写真,今見ている位置を横から見た写真,といった空間関係を活用した実用的な検索を実現する. 人間と機械の協調によるデジタル写真の意味的な構造化の環境 現在の情報技術における大きな問題点として,デジタル情報と実世界との結び付きの希薄さが指摘されている.情報を実世界に結び付けるためには,情報に実世界の意味と価値を与えることが必要である.情報の意味を,機械に自立的に理解させることを目的として,画像理解や自然言語理解といった技術が研究されてきたが,これは人工知能の究極の課題であり,現時点では,人間が,機械に理解できる形式で情報の意味を与え,これを機械が活用し発展させる枠組みが現実的である.情報に実世界の意味と価値を与える有効な手段は,機械や人間が協調的にインタラクションできる環境を構築することであり,人間の微妙な意味理解能力と機械の高速な計算・通信能力との融合が情報サービスの本質的な高度化をもたらすとされている. デジタル写真は,機械が自動的に認識できない意味的な構造を豊富に含むため,人間が意味を読み取る甲斐のある情報である.人間が写真の意味を読み取り,テキストとして明示化するという作業は,例えば,写真メールや,写真を利用したblogなどにおいても行われており,この場合,人間の意味理解の能力が,その場限りで使われているといえる.人間が読み取った意味を明示化し,適切なスキーマに基づいて組織化する環境を構築することで,機械による意味構造の再利用や発展が可能となり,人間と機械が協調する環境が実現できる.本研究では,人間と機械の協調によるデジタル写真コンテンツの意味的な構造化の環境を提案する.デジタル写真を空間的に組織化することで,人間が与えた意味構造を,実世界における空間構造に基づいて高度に活用する枠組みである.具体的には,利用者がデジタル写真に自由にテキストラベルを与え,Webを介して大量のデジタル写真やテキストラベルが協調することで,それらの空間的な関係に基づいて,テキストラベルや写真の撮影位置や撮影方向の情報が伝播し,質的な発展を実現する. デジタル写真を用いたビジュアルコミュニケーションを支援する環境 デジタルカメラが携帯電話に搭載されたことで,写真を撮影する機会が激増し,インターネットを代表とした通信環境が整ったことで,デジタル写真をメールとして送受信したり,Webに公開したりすることが一般的に行われるようになった.カメラ付携帯電話は手軽なデジタルカメラとして,私たちの日常生活の出来事を記録・蓄積し,"絶え間なき交信"のなかで「生活記録」を生成するひとつのデバイスとなるという指摘もある.デジタル写真は記録にとどまらず,コミュニケーションの媒体として活用されるようになった.図や写真,映像といった視覚情報を媒体とするコミュニケーションはビジュアルコミュニケーションと呼ばれる.本研究では,デジタル写真を媒体として行われるビジュアルコミュニケーションの中でも,空間的な事象の伝達を対象とする.場所や経路や調査記録といった実用的な内容から,日常的な行動記録や体験といった内容まで,空間的な事象を伝達する場合には,デジタル写真を活用する効果が高い.個人が大量のデジタル写真を所有し,情報伝達のために容易に利用できるようになった現在,主題にあわせて複数の写真を手軽に選択し,編集して活用する環境を構築することで,より効果的なビジュアルコミュニケーションが実現されることが期待できる. 本研究では,デジタル写真を単位としたビジュアルコミュニケーションを支援する環境を提案する.デジタル写真を空間的に組織化することで,複数の写真を手軽に選択し編集して空間的な事象を効果的に伝達する枠組みを提案する.具体的には,複数の写真による情報伝達のひとつの手段として,写真群に順序を与え,話の流れに沿って順番に写真を提示するスライドショーとする.写真と地図により,語られている場所や対象を常に視覚化し,写真画像と地図の連携したアニメーションにより,次の写真へ向けて空間内を移動するような視覚効果を与えることで,話の流れを視覚的な連続性として強化する.また,空間関係や時間関係等に基づく写真の選択と順序付けの一部を自動化することで,スライドショーを構成する写真シークエンスの編集を支援する. 本研究は,提案したすべての手法を空間アルバムソフトウェアと名付けたひとつのソフトウェアとして実装している.本ソフトウェアの活用事例として,大学・大学院の講義における,デジタル写真を活用したフィールドワークや,博物館における浮世絵のデジタルアーカイブの構築と展示を取り上げ,提案手法の有効性を論じる. | |
審査要旨 | 本論文は、デジタル写真という一般利用者にとって身近な媒体を対象とし、現実空間の位置や方向や映像の画角などの空間コンテクストを通して、一般利用者が容易にデジタル写真を空間的に組織化する利用環境を体系化している。また、ソフトウェア・ツールとしてこの環境を実現して、その有効性と現実性を明らかにしている。この環境により、多くの一般利用者が地図上でデジタル写真を管理・共有したり、個人的なデジタル写真をインターネット上で公開することにより、新鮮で多様性のある次世代の地図を協調的に生成・発展させる有効で持続可能な枠組みを明らかにしている点は、空間情報科学・情報学・測量学・情報デザインのそれぞれの学問分野において有用で、かつ新規性があると認められる。具体的には、大きく以下の3つの部分環境の提案と検討がなされている。 デジタル写真を空間コンテンツとして組織化する環境(第2、3章) 人間と機械の協調によるデジタル写真の意味的な構造化の環境(第4章) デジタル写真を用いたビジュアルコミュニケーションを支援する環境(第5章) 第1章は序論であり、背景と目的、及び本論文の構成を説明している。 第2章では、撮影位置や撮影方向といった空間属性および注釈などのテキスト属性に関して、空間構造と意味構造を考慮することで、デジタル写真を中心とした空間コンテクストを定義している。具体的には、写真に写る内容と地理座標空間とを対応付けるために必要十分な空間構造を持つ写真である空間スキーマ付写真を定義し、写真を表現するユーザインタフェースとして主体と対象という2つの概念により、写真が持つ意味的な構造を撮影ベクトル矢印で定義している。また、写真に付与されたテキスト属性を地理座標空間に位置付ける役割を果たすテキストラベルである空間ラベルも定義している。 第3章では、空間スキーマ付写真を対象に、利用者による問い合わせの入力や、利用者に提示する検索結果の視覚化において、主体の位置と対象の位置という意味的な構造を考慮したユーザインタフェースを提案している。 第4章では、利用者がデジタル写真にさまざまなメタデータを与え、インターネット上で大量のデジタル写真が協調することで、空間コンテンツとして質的に発展する環境を提案している。具体的には、GPSや方位センサー等で取得した値や、利用者が手入力した値を利用しつつ、各写真やラベルに不足する値を別の写真やラベルから補う手法を体系化し、デジタル写真とテキストラベルを対象とした、空間メタデータ相互補完手法を実現している。 第5章では、写真を単位とした言語的な枠組みを持つプレゼンテーションを支援するための環境を提案している。提案手法では、対象としている写真が撮影位置や撮影方向の情報を持つことを利用して、写真画像と地図の連携したアニメーションにより、話の流れに沿って空間を移動する視覚的な効果を与える手法を体系化し実現している。 第6章では、第2〜5章で提案した部分環境を試作した空間アルバムソフトウェアの活用事例として、大学・大学院の講義におけるデジタル写真を活用したフィールドワークや、博物館における浮世絵のデジタルアーカイブの構築と展示を取り上げ、提案した環境の有効性と実現性を論じている。 第7章は結論であり、本論文の成果をまとめている。 本論文の内容は、屋外での情報利用環境である、来るべきユビキタスコンピューティング環境において、デジタル写真と空間情報とネットワーク環境を使った全く新しいコミュニケーション環境を確立している点において、独創性と現実性を高く評価できる。また、第3、4章の内容は、それぞれ電子情報通信学会および情報処理学会の論文誌で採用され、すでに公表されており、情報学の分野において有用性と新規性が認められていると判断する。また、地図学や情報学の分野の国際会議でも審査付き論文が複数件採用され口頭発表しており、国際的にも本研究が評価されていると判断する。 なお、本論文第3章は、有川正俊、岡村耕二との共同研究であるが、論文提出者が主体となって体系化及び実装を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。本論文第4章は、有川正俊との共同研究であるが、論文提出者が主体となって体系化及び実装を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。 したがって、博士(環境学)の学位を授与できると認める。 | |
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