学位論文要旨



No 121715
著者(漢字) 石原,弘明
著者(英字)
著者(カナ) イシハラ,ヒロアキ
標題(和) 環境活動拠点の運営と計画に関する研究
標題(洋)
報告番号 121715
報告番号 甲21715
学位授与日 2006.06.15
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6320号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 長澤,泰
 東京大学 教授 伊藤,毅
 東京大学 教授 難波,和彦
 東京大学 助教授 西出,和彦
 東京大学 助教授 松村,秀一
内容要旨 要旨を表示する

 1990年代以降、市民活動のめざましい展開と行政の官民パートナーシップ(pubic private partnership) の取り組みにより、運営母体への住民参加を積極的に進める公共施設が増えている。この流れは自治体法の一部改正に伴って民間事業者の公共施設運営を可能にした指定管理者制度の導入によって、さらに検討の俎上に上ることが予想される。しかし、住民参加は事例の個別性や地域性が強いため、多くの場合、関係者が様々な試行錯誤をしながら独自に方法を見出して進めているのが現状である。また、施設計画にあたっては運営に参加する住民の施設利用特性も考慮すべきであるが、具体的に参加する住民が明確になる前に設計を終えてしまうことが多く、運営母体への住民参加と施設計画の関係性は、設計者の関心事の一つであるが、定性的に捉えることが困難であった。

 そこで本論文は、1990年代以降に建設が相次いだリサイクル啓蒙普及施設、あるいは環境学習施設と呼ばれる施設郡が、運営母体への住民参加を積極的に進めている状況に着目し、住民参加と施設計画の関係性に関する事例の横断的分析を行ない、計画学的な知見を得ることを目指している。

 論文は序論と結論を含む9章より構成されるが、それぞれの概要は以下の通りである。

 第1章は序論で、研究の目的・背景・方法・既往研究上の位置づけなどを論じた。

 先ず本論で扱う施設を「環境活動拠点」として定義し、その意味と範囲を明らかにするとともに、この施設郡にみられる運営母体への住民参加の特徴と課題について明らかすることで目的を述べた。

 次に研究背景として、運営母体への住民参加と施設計画の接点、施設計画と対置すべき対象が今日的な意味でのコミュニティ特性である点、施設計画とコミュニティ特性の分析視点等について述べ本論の方法を示した。

 最後に住民参加に関する既往研究と本研究の関わりについて解説した。

 第2章は1次調査として、1都3県のリサイクル啓蒙普及施設、環境学習施設30事例の基本的特性と機能を整理し、施設に関する基礎的な分析(ビルディングタイプ分析)を行なった。

 分析にあたっては、機能複合化の視点から施設を(1)リサイクルプラザ内施設、(2)単独施設、(3)複合施設、(4)その他施設の4つに分類し、機能の共通性と相違点を明らかにした。その上でこれらの施設郡の特徴として、リサイクル等の生活に密着した事業によってコミュニティニーズを生んでいること、このコミュニティニーズとより大きな環境保全というテーマをどのように同居させるかが施設の課題であることを述べた。

 第3章は住民参加の基礎的分析として、第2章で取り上げた施設の運営方法について、運営母体への住民参加を視点として類型化を行なった。分析に当たっては複合化された機能毎に参加状況を捉え、施設間の共通性と相違点が明らかになるように進めた。

 先ず施設全体の運営方法を(1)自治体直営型、(2)ボランティア参加型、(3)団体委託型の3つに分け、さらに細分項目として啓発事業、リサイクルショップ、家具展示販売の各機能の住民参加の有無を分け、30施設を12の運営方法に分けた。

 第4章は第3章で明らかにした運営方法について、各運営方法がどのような活動特性を持っているかを明らかにするため、活動内容と施設活用方法の分析を行なった。

 分析は活動の違いが明確になる実施事業数と事業実施場所を視点として行ない、(1)直営集客型、(2)直営+住民参加集客型、(3)住民参加集客型、(4)直営拠点型、(5)住民参加拠点型の5つに類型化し、各類型について事業特性を解説した。

 第5章は第3章の運営方法毎に、どのような組織化プロセスによって参加が進められたかを検証した。この検証によって(1)住民の組織化プロセスと設計プロセスの関連性、(2)運営方法と活動類型の成立背景、の2点を明らかにし、コミュニティ特性の抽出を行って施設計画との関係性について考察を行なった。

 また運営への住民参加の影響要因として、施設を開設した自治体の人口規模・人口密度と運営形態の関係を検証し、第7章・第8章の国内調査の基本的課題認識を明らかにした。

 第6章は市民参加による運営が啓発活動にどのような影響を及ぼすのか、さらに施設の利用方法にどのような特性が現れるのかを3つの定点観測調査によって明らかにした。

 調査は、(1)利用者行為とプランニングの関係性、(2)利用者行為とコミュニティ特性の関係性、(3)複合施設の複合化効果、という3つの視点から行い、施設の機能複合化の計画的視点、コミュニティ類型別のプランニング特性、等の評価を行なった。

 第7章は第2〜5章の考察を踏まえ、2次調査として全国のリサイクル啓蒙普及施設、環境学習施設の設置状況、施設特性を明らかにした。

 調査の結果多くみられたリサイクルプラザ内施設ついては特に体系的な分析をおこなった(第2章の補足研究)。

 第8章は、住民参加の影響要因について、自治体人口規模を視点として検証を行なった。

 検証の結果、(1)自治体直営型は人口密度の低い分布傾向を、(2)ボランティア参加型は国内自治体の分布傾向と類似した分布傾向を示し、(3)団体委託型は(東京特別区を中心とした)大規模市区と小規模市町に2極化する傾向が現れた。この傾向について事例検証を行ない、地域住民への団体委託は、東京特別区・近隣市区は人口の集積と自治体の強い独自裁量権を背景とし、小規模自治体は意思決定を一元的に行い得る組織の機動性の高さを背景として実現していることが明らかになった。また小規模自治体にも大規模自治体同様、複数のコミュニティ特性が確認できた。

 第9章は最後の章として本文全体をまとめたもので、これをもって結論とした。

 先ずここまでの章を振り返りながらその成果の概要をまとめ、改めてここで示した研究の意味を明らかにした。その上で本研究では成しえなかった事項を明らかにし、環境活動拠点と括った施設の課題を示しつつ今後の展望について述べ、論を結んだ。

審査要旨 要旨を表示する

 この論文は、1990年代以降に相次いで建設されたリサイクル啓蒙普及施設、あるいは環境学習施設と呼ばれる施設が、住民参加を運営母体へ積極的に進めている状況に着目して、その施設計画との関係が見られる事例の分析を通して、建築計画的な知見を得ることを目的にしている。

 本論文は、序論と結論を含む9章より構成される。

 第1章では、序論として研究の目的・背景・方法・既往研究分析を行っている。すなわち、環境活動拠点の定義、その意味と範囲を明らかにして研究の目的を述べ、次に研究の背景として運営母体への住民参加と施設計画との関係、施設計画とコミュニティ特性の分析での視点等を述べて、研究方法をも提示している。最後に住民参加に関する既往研究の考察を行っている。

 第2章では、1次調査として、1都3県のリサイクル啓蒙普及施設、環境学習施設30事例の基本的特性と機能と位置づけを整理し、施設に関する基礎的な分析(ビルディングタイプ分析)を行なっている。機能複合化の視点から施設を(1)リサイクルプラザ内施設、(2)単独施設、(3)複合施設、(4)その他施設の4つに分類し、機能の共通性と相違点を明らかにしている。結果として、生活に密着したリサイクル等をテーマとしていることによって、今日的な意味での地域のコミュニティのニーズが生まれ、地域のコミュニティのニーズと環境保全というテーマをどのように同居させるかという課題の解決策がこの種の施設を特徴づけていることを述べている。

 第3章では、住民参加の基礎的分析として、各事例における施設運営方法につき、運営母体への住民参加の視点からモデル化を行なっている。複合機能毎に参加状況をみることによって施設間相違が明らかになるように分析を進めている。施設全体を(1)自治体直営型、(2)ボランティア参加型、(3)団体委託型に3分類し、さらに啓発事業、リサイクルショップ、家具展・販売の各機能と住民参加の有無に細分類し、30施設を12の類型に分けて共通性と相違性とを論じている。

 第4章では、3章で明らかにした運営類型毎に、どのような活動特性を持っているかを明らかにするため、活動内容と施設活用方法の分析を行なっている。実施事業数と事業実施場所を軸にして、(1)直営集客型、(2)直営+住民参加集客型、(3)住民参加集客型、(4)直営拠点型、(5)住民参加拠点型の5つに、運営方法の違いが明確になるように類型化し、各々の事業特性を解説している。

 第5章では、3章に述べた運営類型のもう一つの視点として、組織化プロセスについて検証している。(1)設計プロセスと住民組織化プロセスの関連性、(2)運営類型と活動類型の成立背景、の2点をこの検証により明らかにし、コミュニティ特性と施設計画との関係性について考察を行なっている。また運営への住民参加の影響要因として、施設を開設した自治体の人口規模・人口密度と運営形態の関係を検証し、大規模国内調査を行う基本的課題認識を明らかにしている。

 第6章では、市民参加による運営が啓発活動にどのような影響を及ぼすのか、さらに施設利用の方法にどのような特性が現われるのかについて、3つの定点観測調査により明らかにしている。(1)プランニングと利用者行為特性、(2)利用者行為特性とコミュニティ特性、(3)複合施設特性という3つの視点から調査を行い、複合化における特性と留意点の分析、事例を通したコミュニティ類型別の計画特性の抽出、複合施設の複合化によるメリットの評価を行なっている。

 第7章では、2〜5章の考察を踏まえ、全国のリサイクル啓蒙普及施設、環境学習施設の設置状況、施設特性を明らかにしている。調査の結果、リサイクルプラザ内施設類型の事例が多く見られたため、特にこの事例について1章の補足研究として体系的な分析を行っている 。

 第8章では、住民参加の影響要因を自治体の規模の差に注目して検証を行なっている。自治体直営型は人口密度の低い分布、ボランティア参加型は自治体人口分布と同じ分布を示し、団体委託型の分布は、東京特別区を中心とした市・区部と小規模市町とに2極化が見られることを検証している。新たな事例の検証を通して、住民団体への委託は、住民の集積と強い独自裁量権を持つ東京特別区・近隣市区と共に、意思決定と責任が見える機動性の高い小規模自治体にも採用されていることを発見している。また小規模自治体にも大規模自治体と同様に複数のコミュニティ特性の存在を確認している。

 第9章では、各章の成果の概要をまとめ、改めて研究の意味を明らかにしている。また、本論文の限界と今後の課題を示して、結論としている。

 以上のように、本論文はリサイクル啓蒙普及施設、環境学習施設と呼ばれる新しいビルディングタイプの実態調査・観察と分析考察を通して基本的な知見を示し、建築計画学の発展に大きな寄与したものである。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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