No | 121716 | |
著者(漢字) | 竇,祖融 | |
著者(英字) | DOU,ZU RONG | |
著者(カナ) | ドウ,ソユウ | |
標題(和) | 鉄筋コンクリート造有孔梁のせん断抵抗機構と復元力特性に関する研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 121716 | |
報告番号 | 甲21716 | |
学位授与日 | 2006.06.15 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第6321号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 建築学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 鉄筋コンクリート系の建物を設計する時,経済性及び安全性を考慮して階高を低くするために,設備関係の配管に際して,必然的に梁に貫通孔を設けることになる。このような貫通孔を有する梁は「有孔梁」と呼ばれる。更に,開口はヒンジ領域にもできるなら,下がり天井による圧迫感を解消でき,設計の自由度を高める利点がある。 以前から開口補強方法提案されていて,最近は施工の容易性を配慮して鉄筋の折り曲げ位置と形状に工夫した閉鎖型金物と分離型金物が開発された。しかし,現在のせん断設計法は補強筋の折り曲げ位置の違いを評価できなく,ヒンジ領域に開口を設ける場合のせん断抵抗機構については確立されたモデルがないため,開口補強工法ごとに実験により補強効果を確認されている。また,有孔梁の復元力特性に関する研究はまだ不十分であり,例えば,開口が曲げ降伏時の剛性に及ぼす影響は考慮されていなくて,開口と補強方法が終局変形に及ぼす影響はせん断余裕度と関連しているなど,更に検討する余地があると考えられる。 本研究は,以上の問題の解決を念頭に置きながら,開口が鉄筋コンクリート梁の復元力特性に及ぼす影響を把握すること及び,有孔梁のせん断抵抗機構に基づいてせん断設計法を提案することを目的としている。 現在,コンクリート構造の研究において,概ね実験的研究,ミクロモデル(FEMなど)による解析的研究及びマクロモデルによる解析的研究に分けている。本研究の研究手法としては,(1)筆者らの実験を含めた実験結果を収集しデータベースとし,(2)FEM解析により部材内部応力分布を把握しマクロモデルの構築と検証に役を立ち,マクロモデルによる解析は現象の捉え方とミクロの見方にヒントを与えて,(3)構築したFEMモデルとマクロモデルの有効性を実験結果により検証し,(4)FEM解析とマクロモデル解析によりパラメーターを補間し,(5)上記の解析結果を基づき,構造設計に実用性のある設計式を導く。 研究の流れでは,研究背景・研究意義・研究手法を述べた後,既往の研究をまとめながら問題点と指摘する。次に,本研究に用いる有孔梁の有限要素解析法を説明し,この解析法の信頼性と適合範囲を実験結果によって確認する。その後,FEM解析を用いて,補強筋タイプ,補強筋量,せん断スパン比,開口位置などが有孔梁の復元力特性に及ぼす影響を検討し,種々の場合の内部応力分布を把握する。最後に,有孔梁の破壊メカニズムに塑性理論の上界・下界定理を適用させて,極限解析を行って有孔梁のせん断強度の上界解と下界解を求めて,その式又はアルゴリズムはせん断設計式又はせん断設計法として提案する。 第1章「序論」では,本論の研究背景,研究意義や研究手法について述べた。 第2章「既往の研究」では,有孔梁のせん断強度と復元力特性に関して,実験的研究と解析的研究をまとめてこれまで得られた知見と研究成果を述べながら,現行規範の有孔梁に関する理論を裏づける根拠は不明瞭であり,適用範囲に問題があるなどを指摘した。 せん断強度に影響を及ぼす諸因子とその影響は実験結果からまとめて,諸因子と影響を概ね把握できた。せん断強度の実験式,理論的なモデルとアプローチを紹介しながら,補強筋の折り曲げ位置と形状を考慮できないこと及び適用範囲が明瞭でないことを指摘した。 復元力特性では主に曲げ降伏時の剛性と終局変形への影響に着目し,既往の実験式と評価するアプローチを紹介しながら,その妥当性を指摘した。 第3章「有孔梁の非線形有限要素解析法」では,本研究に用いるFEM解析法を述べ,その合理性と信頼性を検証し,第4章の解析結果と研究成果の信頼性を裏づけるものである。 前半は本研究に用いる有孔梁のモデル化手法,材料非線形構成則,数値解析法をについて述べる。モデル化手法ではモデル化区間の選択,境界条件,円状開口を8角形でモデル化するなどに工夫した。材料構成則では,コンクリートの構成則,破壊エネルギーの導入,ひび割れモデル,鉄筋の構成則,鉄筋とコンクリートの付着すべり特性について説明した。数値解析法では,収束計算法,連立方程式の解法,収束判定標準ノルムについて述べた。これらは既往の研究成果を引用しながら,本解析の特徴に合わせた独自の考え方もある。 後半は有孔梁の有限要素解析を行い,FEM解析法の信頼性と解析結果の精度を確認した。無開口梁と,補強法,開口位置や破壊モードの違う有孔梁を解析対象とし,前述の解析法を用いてFEM解析を行い,実験結果との比較によって解析法の合理性と解析結果の精度を検証した。 第4章「FEM解析による有孔梁の耐震性能評価」では,複数の因子が有孔梁の復元力特性に及ぼす影響と種々の場合の内部応力分布を把握することを目的としている。 これまで開発された種々の開口補強筋を,形状,定着形式,折り曲げ箇所,溶接点などによって分類し,補強筋タイプ,補強筋量,せん断スパン比,開口位置が有孔梁の復元力特性に及ぼす影響を系統的に検討するために解析試験体を3つのシリーズに分けた。その中,開口補強筋タイプ,補強筋量をパラメーターとするシリーズ及び,せん断スパン比,材端から孔中心までの距離,梁上端から孔中心の距離をパラメーターとするシリーズがある。 解析結果に関して,各試験体の荷重変位関係,破壊モードと終局強度などをまとめて,諸因子による影響を明確化した。次に,有孔梁の復元力特性をモデル化し,補強筋タイプ,補強筋量,開口位置が弾性剛性,曲げひび割れ強度,曲げひび割れ発生後の剛性,開口ひび割れ強度,開口ひび割れ発生後の剛性など,それぞれの特徴点への影響について論述した。また,それぞれの場合の応力分布を示し,補強筋タイプ,補強筋量,開口位置などが有孔梁の応力分布と変形性状への影響について論述した。 第5章「有孔梁のせん断設計法」では,前述の有孔梁のせん断設計法の問題点を解決する設計法を提案することを,本章の目的としている。 塑性理論に基づく簡易なせん断設計法の提案を念頭に置きながら,材料の破壊理論と塑性構成則,塑性理論の上界定理,下界定理,それらに対応する破壊メカニズムについて紹介し,上界解と下界解を導き出すアプローチを述べた。 有孔梁のせん断強度の上界解を導く。有孔梁の破壊メカニズムは孔中心から材端までの距離によって3つのものに分けられ,両側が短い,両側が長い,一側が短い一側が長いものであり,それらは短スパン有孔梁,ヒンジ領域外に開口する有孔梁,ヒンジ領域内に開口する有孔梁に対応している。そして,短い側と長い側の上界値をそれぞれ求めて,3種の有孔梁の上界解はそれらの組合せであり,有孔梁の1つのせん断強度式として提案した。 梁と有孔梁からストラット・タイのモデルに置換える手法,横補強筋のモデル化手法,開口補強筋のモデル化手法,解析フローチャート,材料の破壊条件などを述べて,実験結果によって解析精度の検証も行った。下界定理とストラット・タイのモデルによって下界解を求めるアプローチを有孔梁のせん断設計法をとして提案した。 第6章「結論」では,本論の結論を総括するとともに,今後の研究課題について述べた。 | |
審査要旨 | 鉄筋コンクリート造の建物では、設備関係の配管に際して一定の天井高さを保ったまま経済性を考慮して階高は低く押えるため、梁に貫通孔を設けることが行われることがある。このような貫通孔を有する梁は「有孔梁」と呼ばれ、建物の構造安全性能確保のため、孔がない場合と同等の力学性能が得られるよう、開口周りの鉄筋を増やすなど、適切に補強を行う必要がある。 本論文は、有孔梁のせん断抵抗機構と有孔梁の復元力特性を明らかにして、より合理的な有孔梁の補強方法とするための設計方法について検討した研究であり、次の第一章から第六章よりなる。 第一章「序論」では、本論の研究背景、研究意義や研究手法について述べている。 第二章「既往の研究」では、有孔梁のせん断終局強度と復元力特性に関して、既往の実験的研究と解析的研究をまとめている。まず、実験結果からせん断強度に影響を及ぼす諸因子とその影響を調べている。さらに、既往のせん断終局強度の実験式と理論的なモデルを紹介し、現状ではそれらの設計法やモデルの適用範囲が明瞭ではなく、さらに、 開口周りの補強筋の折り曲げ位置や形状を考慮できる実用的な手法がないことを指摘している。 第三章「有孔梁の非線形有限要素解析法」では、 非線形有限要素解析を適用して、鉄筋コンクリート有孔梁の性能を推定する手法について述べている。この章の目的は、 実験結果と解析結果を比較し、解析手法の妥当性を、 第四章の非線形有限要素解析を用いたパラメトリックスタディの信頼性を裏づけることである。 前半では、本論文で使用した、非線形有限要素、材料非線形構成則、数値解析法をについて述べている。後半では無開口梁と有孔梁を解析対象として前述の解析法を用いて非線形有限要素解析解析を行い、実験結果との比較によって解析法の合理性と解析結果の精度を検討している。 第四章「FEM解析による有孔梁の耐震性能評価」では、複数の因子が有孔梁の復元力特性に及ぼす影響と種々の場合の内部応力分布をパラメトリックに把握することを目的としている。これまで開発された種々の開口補強筋を、形状、定着形式、折り曲げ箇所、溶接点などによって分類し、補強筋タイプ、補強筋量、せん断スパン比、開口位置が有孔梁の復元力特性に及ぼす影響を系統的に検討している。 解析結果を詳しく検討し、補強筋タイプ、補強筋量、開口位置が弾性剛性、曲げひび割れ強度、曲げひび割れ発生後の剛性、開口ひび割れ強度、開口ひび割れ発生後の剛性、終局せん断強度など、それぞれの特徴点への影響について述べている。 第五章「有孔梁のせん断設計法」では、塑性理論に基づく簡易なせん断設計法を提案し、有孔梁のせん断設計法の問題点を解決する設計法を提案することを目的としている。その一つとして、有孔梁のせん断強度の上界解に基づいた 有孔梁のせん断終局強度式を提案した。さらに、有孔梁をストラット・タイのモデルに置換え下界定理を適用して終局強度を求める手順を提案し、横補強筋のモデル化手法、開口補強筋のモデル化手法を示し、実験結果によって解析精度の検証を行っている。 第六章「結論」では、本論の結論を総括するとともに、今後の研究課題について述べた。 このように、本研究は、鉄筋コンクリート有孔梁の構造安全性と補強方法の有効性に関して新たな知見を加えたことは明白である。また、 理論的なモデルに基づく簡易な有孔梁のせん断終局強度の推定法を提案しその精度を検証しており、建築物の耐震安全性能の確保にとって有用な研究であり、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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