学位論文要旨



No 121741
著者(漢字) 高取,拓史
著者(英字)
著者(カナ) タカトリ,タクジ
標題(和) 中規模病院における医療設備と外来患者数の関連
標題(洋)
報告番号 121741
報告番号 甲21741
学位授与日 2006.07.19
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2766号
研究科 医学系研究科
専攻 社会医学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大江,和彦
 東京大学 教授 菅田,勝也
 東京大学 教授 大友,邦
 東京大学 助教授 今村,知明
 東京大学 助教授 松山,裕
内容要旨 要旨を表示する

緒言

 我が国における病院の特徴として、諸外国と比較して人口当たりの病院数が多く、患者が自由に病院を選択できることが挙げられる。一方、病院は運営上必要な収益を上げなければならないことから、病院数が不足しているとは考えられない地域では、外来患者の獲得競争が起こっている可能性がある。

 病院選択の要因として、病院の綺麗さ、看護の質、患者宅から病院までの距離又は時間、医師数、提供する診療サービスの多さ、大学病院との提携、病院の規模、開設主体、死亡率、費用などが海外の研究で報告されている。我が国でも、同様の研究はいくつかあるが、使われているデータが古く、現状を反映していない可能性がある。

 厚生労働省の「受療行動調査」(1996年)によると、100−499床の中規模病院の場合、「初診外来患者の病院選択理由」の上位3つは、1)「前に来たことがある」、2)「自宅等に近い」、3)「医療設備がよい」であった。このうち、3)のみが病院側にとって変更可能な要因である。他方、100床未満の小規模病院では、「医療設備がよい」を選択した外来患者は少なく、500床以上の大規模病院の場合は、数が少ないことや専門性が高いことから、数量的分析の対象とすることは難しいと考えられる。

 以上のような背景から、本研究の目的は、最新のデータを用い、我が国の中規模病院において、医療設備や医療スタッフ数の変化と内科系及び外科系外来患者数の変化の関連について検討することである。

方法

1. 1996年から1999年の外来患者数増減に関わる分析

(a)内科系外来患者を対象にした分析(分析1a)

 資料として、1996年及び1999年の「医療施設調査」、「病院報告」、「人口推計年報」、「民力:都道府県別民力測定資料集」を用いた。対象病院は100−499床の中規模病院とし、内科系外来患者数が0人の病院は対象から除いた(対象病院数は3513)。

 従属変数は、1996年から1999年にかけての1日当たり内科系外来患者増減人数とした。独立変数は、1996年から1999年の医療機器の増減台数、診療部門の増減面積、ICUの増減病床数、医師増減人数、看護師増減人数とした。交絡要因の調整のため、1996年時点の病床数と開設主体、1996年から1999年にかけての病院が所在する県の人口密度の変化、65歳以上人口割合の変化をモデルに含めた。分析方法は、重回帰分析を用い、上記の独立変数を一括投入した。

(b)外科系外来患者を対象にした分析(分析1b)

 資料は、分析1aと同様のものを用いた。対象病院は中規模病院とし、外科系外来患者数が0人の病院は対象から除いた(対象病院数は2438)。

 従属変数は、1996年から1999年にかけての1日当たり外科系外来患者増減人数とした。独立変数と交絡要因は、分析1aと同様にした。分析方法も、分析1aと同様である。

2. 1999年から2002年の外来患者数増減に関わる分析

(a)内科系外来患者を対象にした分析(分析2a)

 資料として、1999年及び2002年の「医療施設調査」、「病院報告」、「人口推計年報」、「民力:都道府県別民力測定資料集」を用いた。対象病院は100−499床の中規模病院とし、内科系外来患者数が0人の病院は対象から除いた(対象病院数は3460)。

 従属変数は、1999年から2002年にかけての1日当たり内科系外来患者増減人数とした。独立変数は、分析1aと同じ変数を用い、1999年から2002年の変化とした。交絡要因の調整は、病床数、開設主体は1999年時点のものを用い、病院所在県の人口密度の変化、65歳以上人口割合の変化は、1999年から2002年の変化とした。分析方法は、分析1aと同様である。

(b)外科系外来患者を対象にした分析(分析2b)

 資料は、分析2aと同様のものを用いた。対象病院は中規模病院とし、外科系外来患者数が0人の病院は対象から除いた(対象病院数は2358)。

 従属変数は、1999年から2002年にかけての1日当たり外科系外来患者増減人数とした。独立変数と交絡要因は、分析2aと同様にした。分析方法も、分析2aと同様である。

結果

1. 1996年から1999年の外来患者数増減に関わる分析の結果

(a)内科系外来患者を対象にした分析の結果(分析1a)

 重回帰分析の結果、有意になった変数は、人工腎臓(透析)装置増減台数(偏回帰係数β=0.47、p<0.01)、SPECT増減台数(β=5.50、p<0.05)、医師増減人数(β=0.82、p<0.01)、看護師増減人数(β=0.64、p<0.01)、病床数(β=0.02、p<0.05)、国公立病院(β=−15.53、p<0.01)、人口密度の変化(β=0.14、p<0.01)であった(調整済み決定係数=0.09)。有意になった変数の中で、人工腎臓(透析)装置増減台数、SPECT増減台数、医師増減人数、看護師増減人数、病床数、人口密度の変化の偏回帰係数は正であり、これらの増加が内科系外来患者数の増加と関連していた。一方、国公立病院の偏回帰係数は負であった。

(b)外科系外来患者を対象にした分析の結果(分析1b)

 有意になった変数は、MRI増減台数(β=15.01、p<0.01)、医師増減人数(β=1.49、p<0.01)、看護師増減人数(β=1.07、p<0.01)、病床数(β=0.03、p<0.05)、国公立病院(β=-25.61、p<0.01)、公的病院(β=-9.25、p<0.01)、人口密度の変化(β=0.34、p<0.01)であった(調整済み決定係数=0.17)。有意になった変数の中で、MRI増減台数、医師増減人数、看護師増減人数、病床数、人口密度の変化の偏回帰係数は正であり、これらの増加が外科系外来患者数の増加と関連していた。一方、国公立病院、公的病院の偏回帰係数は負であった。

2. 1999年から2002年の外来患者数増減に関わる分析の結果

(a)内科系外来患者を対象にした分析の結果(分析2a)

 重回帰分析の結果、有意になった変数は、X線CT増減台数(β=5.80、p<0.01)、医師増減人数(β=2.03、p<0.01)、看護師増減人数(β=0.23、p<0.01)、病床数(β=-0.03、p<0.01)、国公立病院(β=-9.10、p<0.01)、公的病院(β=-8.66、p<0.01)、人口密度の変化(β=-0.05、p<0.05)、65歳以上人口割合の変化(β=-6.89、p<0.01)であった(調整済み決定係数=0.07)。有意になった変数の中で、X線CT増減台数、医師増減人数、看護師増減人数の偏回帰係数は正であり、これらの増加が内科系外来患者数の増加と関連していた。一方、病床数、国公立病院、公的病院、人口密度の変化、65歳以上人口割合の変化の偏回帰係数は負であった。

(b)外科系外来患者を対象にした分析の結果(分析2b)

 有意になった変数は、MRI増減台数(β=5.84、p<0.05)、医師増減人数(β=1.43、p<0.01)、看護師増減人数(β=0.26、p<0.01)、病床数(β=-0.08、p<0.01)、国公立病院(β=-6.30、p<0.01)、人口密度の変化(β=-0.08、p<0.01)であった(調整済み決定係数=0.07)。有意になった変数の中で、MRI増減台数、医師増減人数、看護師増減人数の偏回帰係数は正であり、これらの増加が外科系外来患者数の増加と関連していた。一方、病床数、国公立病院、人口密度の変化の偏回帰係数は負であった。

考察

 1996年から1999年の中規模病院に来院する内科系外来患者を対象にした分析(分析1a)において、人工腎臓(透析)装置台数、SPECT台数、医師数、看護師数の増加と外来患者数の増加は関連を示した。1996年から1999年の外科系外来患者を対象にした分析(分析1b)において、MRI台数、医師数、看護師数の増加と外来患者数の増加は関連を示した。1999年から2002年の内科系外来患者を対象にした分析(分析2a)において、X線CT台数、医師数、看護師数の増加と外来患者数の増加は関連を示した。1999年から2002年の外科系外来患者を対象にした分析(分析2b)において、MRI台数、医師数、看護師数の増加と外来患者数の増加は関連を示した。

 外来患者数の増加と関連を示した医療機器は、内科系と外科系で異なった。内科系外来患者を対象にした分析1aでは、人工腎臓(透析)装置台数及びSPECT台数の増加と外来患者数の増加が関連を示し、分析2aでは、X線CT台数の増加と外来患者数の増加が関連を示した。外科系外来患者を対象にした分析1bと分析2bでは、MRI台数の増加と外来患者数の増加が関連を示した。

 本研究の長所として、病院が意思決定可能な医療設備や医療スタッフ数を取り上げて、外来患者数との関連を分析したことが挙げられる。特に、医療設備は、患者から認識されやすい病院の機能を表すもののひとつである。本研究は我が国の従来の研究とは異なり、外来患者を対象にして、医療設備や医療スタッフ数の変化と外来患者数の変化について分析し、さらに、全数調査である「医療施設調査」及び「病院報告」を用いて解析しており、外来患者の受療行動の解明に重要な貢献をなすと考えられる。

 科によって異なるものの、中規模病院における医療設備や医療スタッフ数の充実と外来患者数の増加は関連すると考えられる。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究は、外来患者の受療行動の一端を明らかにするため、我が国の中規模病院における医療設備や医療スタッフ数の変化と内科系及び外科系外来患者数の変化の関連について重回帰分析を用いて検討したものであり、下記の結果を得ている。

1. 1996年から1999年の外来患者数増減に関わる分析の結果

(a)内科系外来患者を対象にした分析の結果

 重回帰分析の結果、有意になった変数は、人工腎臓(透析)装置増減台数(偏回帰係数β=0.47、p<0.01)、SPECT増減台数(β=5.50、p<0.05)、医師増減人数(β=0.82、p<0.01)、看護師増減人数(β=0.64、p<0.01)、病床数)(β=0.02、p<0.05)、国公立病院(β=-15.53、p<0.01)、人口密度の変化(β=0.14、p<0.01)であった(調整済み決定係数=0.09)。有意になった変数の中で、人工腎臓(透析)装置増減台数、SPECT増減台数、医師増減人数、看護師増減人数、病床数、人口密度の変化の偏回帰係数は正であり、これらの増加が内科系外来患者数の増加と関連していた。一方、国公立病院の偏回帰係数は負であった。

(b)外科系外来患者を対象にした分析の結果

 有意になった変数は、MRI増減台数(β=15.01、p<0.01)、医師増減人数(β=1.49、p<0.01)、看護師増減人数(β=1.07、p<0.01)、病床数(β=0.03、p<0.05)、国公立病院(β=-25.61、p<0.01)、公的病院(β=-9.25、p<0.01)、人口密度の変化(β=0.34、p<0.01)であった(調整済み決定係数=0.17)。有意になった変数の中で、MRI増減台数、医師増減人数、看護師増減人数、病床数、人口密度の変化の偏回帰係数は正であり、これらの増加が外科系外来患者数の増加と関連していた。一方、国公立病院、公的病院の偏回帰係数は負であった。

2. 1999年から2002年の外来患者数増減に関わる分析の結果

(a)内科系外来患者を対象にした分析の結果

 重回帰分析の結果、有意になった変数は、X線CT増減台数(β=5.80、p<0.01)、医師増減人数(β=2.03、p<0.01)、看護師増減人数(β=0.23、p<0.01)、病床数(β=-0.03、p<0.01)、国公立病院(β=-9.10、p<0.01)、公的病院(β=-8.66、p<0.01)、人口密度の変化(β=-0.05、p<0.05)、65歳以上人口割合の変化(β=-6.89、p<0.01)であった(調整済み決定係数=0.07)。有意になった変数の中で、X線CT増減台数、医師増減人数、看護師増減人数の偏回帰係数は正であり、これらの増加が内科系外来患者数の増加と関連していた。一方、病床数、国公立病院、公的病院、人口密度の変化、65歳以上人口割合の変化の偏回帰係数は負であった。

(b)外科系外来患者を対象にした分析の結果

 有意になった変数は、MRI増減台数(β=5.84、p<0.05)、医師増減人数(β=1.43、p<0.01)、看護師増減人数(β=0.26、p<0.01)、病床数(β=-0.08、p<0.01)、国公立病院(β=-6.30、p<0.01)、人口密度の変化(β=-0.08、p<0.01)であった(調整済み決定係数=0.07)。有意になった変数の中で、MRI増減台数、医師増減人数、看護師増減人数の偏回帰係数は正であり、これらの増加が外科系外来患者数の増加と関連していた。一方、病床数、国公立病院、人口密度の変化の偏回帰係数は負であった。

 以上、本論文は、中規模病院における医療設備や医療スタッフ数の充実と外来患者数の増加は関連することを明らかにした。本研究は我が国の従来の研究とは異なり、外来患者を対象にして、医療設備や医療スタッフ数の変化と外来患者数の変化について分析し、さらに、全数調査である「医療施設調査」及び「病院報告」を用いて解析しており、外来患者の受療行動の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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