学位論文要旨



No 121754
著者(漢字) 今田,純
著者(英字)
著者(カナ) コンタ,ジュン
標題(和) 木質ボードのチップ配向角度の測定および評価に関する研究
標題(洋)
報告番号 121754
報告番号 甲21754
学位授与日 2006.09.04
学位種別 課程博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 博農第3072号
研究科 農学生命科学研究科
専攻 生物材料科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 安藤,直人
 東京大学 教授 太田,正光
 東京大学 助教授 信田,聡
 東京大学 助教授 江前,敏晴
 東京大学 助教授 井上,雅文
内容要旨 要旨を表示する

 配向性木質ボードにおいてエレメント・木材繊維の配向度は材料強度を決定する最も重要な要素である。

 まず、どのような情報を含む画像が効果的な配向評価試料となりえるかについて、配向評価の主な対象のひとつであるフォーミングマット表面エレメント配置の面から検討した。効果的にエレメント配置を表現できる画像として表面形状画像と従来のデジタル画像に着目し、表面形状画像によって効果的に配向が観測できる肉厚エレメントとして住宅廃木材チップを用い、モデル的な配向を持つフォーミングマットを製造し、配向を測定した。その結果から、デジタル画像フィルタによる配向性評価では、目視によるチップ境界内に含まれる機械によって抽出されたチップ境界点数のカウントによれば、表面形状画像の方が正確な結果を与える試料であることが示唆された。(表1)また、表面形状画像とデジタル画像に対する2次元高速フーリエ変換による配向関数および目視による配向関数(図1)から算出される配向度によれば、配向性評価の試料として同程度に有効であることが明らかになった。(表2)

 次に、実際的な木質配向ボードとしてOSBに着目し、表面木質繊維配向とヤング率の関係を説明することを試みた。OSB表面デジタル画像上の各所における繊維配向を算出し、各部分におけるヤング率の合計値と密度を説明変数、試験体のヤング率を目的変数として重回帰分析を行った。その結果、R2=0.81の精度でヤング率を説明することに成功した。(図2)

表1 チップ境界点数

図2 画像とパワースペクトルおよび配向関数

表2 デジタル画像・表面形状画像・目視から得られる配向度の比較

ヤング率実験値

ヤング率予測値

図2 ヤング率予測値と実験値の比較

審査要旨 要旨を表示する

 環境問題や資源問題が深刻さを増す中で、前世紀中に発展してきた大量生産大量廃棄に基づく生産システムを持続可能な成長に置き換える努力が各分野で行われている。そうした中で、木質パネルは生産過程だけでなく廃棄過程においても省エネルギーかつ低公害であり、期待が高まっている。特に、建築廃材、低質材等を原料として建築材料等に使用可能な木質パネルに転換する技術の開発あるいは改良が幅広く行われている。

 木質パネルとは、原料となる木質エレメントを接着して製造した板材料であり、合板、ファイバーボード、パーティクルボード、配向性ストランドボード(OSB)などに代表される。かつて日本では、東南アジア産の大径広葉樹材を原料とした合板が用いられてきたが、原料となる優良原木の枯渇、および環境問題などにより、針葉樹合板やOSB、MDF等の木質ボード類への転換が進んでいる。しかし、小さなエレメントで構成される木質ボード類は、強度を高めるためには比重を高めなければならず、強度比の点では合板の性能と比較すると低位である。このような理由で、木質ボードの開発では低比重かつ強度向上が主な課題とされており、小さなエレメントで高強度を実現するには材料内において木質エレメントの向きを揃え、木質繊維の方向を揃えることによって木質ボードの主応力方向の強度を高めた配向性木質ボードの技術開発が必要となる。配向性木質ボードにはOSB、配向性ファイバーボードなどがその代表とされる。

 配向性木質ボード類の配向性の評価に関する従来の研究は、製品もしくはフォーミングマットのデジタル画像からエレメント・木質繊維の配向を測定し、エレメント・木質繊維の配向と配向性木質ボード製品の強度との関係を定式化する目的で行われてきた。OSBについては、デジタル画像からOSB表面における木質繊維平均配向角度を算出し、重回帰分析によって強度との関係を定式化した例が報告されている。また、ファイバーボードにおいては、配向評価について高速フーリエ変換を用いて行った例が報告されている。しかし、これらの例で用いられている木質繊維配向算出処理方法はいずれも画像全体を処理対象とした大所的なものであるか、目視によるエレメント配向角度計測であり、画像中各所の木質繊維配向を機械的に取得する観点から検討された例はない。

 本研究では、配向性木質ボード表面の各所におけるエレメントあるいは木質繊維の配向からヤング率を予測するために、配向性木質ボード表面各所の木質繊維配向の測定法とその画像処理法について検討を行い、さらに、エレメントの配向と曲げヤング率との関係を求めている。曲げ試験時に引張側表面各部分の負担する引張力の合計が曲げヤング率に比例すると仮定し、実験によってその妥当性を考察している。

 第2章では、木質配向ボードの配向評価に使われる画像の取得方法と処理方法について従来の知見を総括し、第3章では、木質配向ボードの配向評価と配向による強度およびヤング率の予測に関する既往研究について記している。

 第4章では、いかなる情報を含む画像が効果的な配向性評価試料となり得るかについて、配向評価の対象となるフォーミングマット表面のエレメント配置を検討している。エレメント配置を表現し得る画像として従来のデジタル画像に加え、距離センサーによって測定される表面形状画像に着目し比較を行っている。試験体としては、解体された木造住宅から得られた廃材チップを用い、高配向、中配向、無配向の3種のフォーミングマットを製造し、デジタル画像と表面形状画像の結果を得て解析を行っている。その結果、配向性評価では表面形状画像の方がデジタル画像フィルタより正確な結果を与える結果が得られたが、その差はわずかであり、実際の製造ラインに推奨するレベルではないことが明らかになった。また、表面形状画像とデジタル画像は、2次元高速フーリエ変換による配向性評価のデータとしては同程度の結果が得られることを明らかにしている。

 第5章では、実際的な木質配向ボードとしてOSBに着目し、ハフ変換を用いてボード表面の木質エレメント配向を評価し、曲げヤング率の関係を説明することを試みている。OSBの表面デジタル画像からエレメント配向を算出し、各部分におけるヤング率の合計値と密度を説明変数、試験体のヤング率を目的変数として重回帰分析を行った結果、エレメントの配向の情報から材料全体の曲げヤング率を精度良く予測できることが示された。

 以上本論文は、木材資源の再利用あるいは低質材のボード化に際して、エレメントの配向性を画像データによって評価する方法について精査したものであり、配向性データは材料の曲げヤング率の予測にも適用できることを明らかにした。得られた知見は学術上、応用上貢献するところが少なくない。よって、審査委員一同は本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。

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