No | 121787 | |
著者(漢字) | 近藤,慎太郎 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | コンドウ,シンタロウ | |
標題(和) | 総胆管結石の効率的な診断について | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 121787 | |
報告番号 | 甲21787 | |
学位授与日 | 2006.09.27 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第2767号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 内科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 【背景】 総胆管結石の診断は、以前より腹部超音波検査や腹部CTといった画像検査により行われ、内視鏡的逆行性胆道膵管造影(Endscopic retrograde chongio-pancreatography: ERCP)にて結石を確認した上で結石除去術を行っていた。総胆管結石に対する腹部超音波検査や腹部CTのSensitivityはそれぞれ50-60%、50-90%といわれており、十分とはいえない。一方、ERCPの診断能は非常に高く、現在でも総胆管結石の診断においてゴールドスタンダードと考えられている。しかし、ERCPは侵襲的な検査であり、急性膵炎や胆管炎、腸管穿孔といった重篤な偶発症を生じる危険性があるため、診断の確定した患者に対しての治療として行われるのが理想的である。 近年、画像機器の進歩に伴い、総胆管結石の診断法として超音波内視鏡(Endoscopic ultarasonography: EUS)、磁気共鳴胆道膵管造影(Magnetic resonance cholangio-pancreatography: MRCP)、ヘリカルCT胆道造影(Helical computed-tomographic cholangiography: HCT-C)が登場し普及している。いずれも腹部超音波検査や腹部CTよりは診断能が高くERCPよりは安全といわれているが、これらを比較した十分な検討はなされていない。 本研究では、総胆管結石が疑われて東大病院消化器内科に入院した患者において、臨床所見、検査所見を検討し、総胆管結石患者の実態について検討した。また、近年導入された画像診断であるEUS、MRCP、HCT-Cの診断能について前向きに比較検討した。これらの検討により、総胆管結石の効率的な診断法について研究した。 【目的】 総胆管が疑われた患者の臨床所見、検査所見を検討し、総胆管結石の診断における診療の実態を明らかにする(研究1)。 また、近年導入されたEUS、MRCP、HCT-Cの診断能について前向きに比較検討する(研究2)。 以上により、新しい画像診断装置を勘案した総胆管結石の効率的な診断法について研究する。 【研究1の対象および方法】 2000年8月から2003年11月の間に総胆管結石を疑われて東京大学医学部附属病院消化器内科に入院した138例から、総胆管結石の既往歴のある30例、総胆管術後(先天性胆管拡張症術後など)6例を除いた102例を対象とした。ERCP、管腔内超音波(Intraductal ultrasonography: IDUS)の結果をGold standardとし、症状、血液検査、腹部超音波検査所見、CT所見について総胆管結石のある群とない群で比較検討した。また腹部超音波検査と腹部CTの診断能を検討した。 次に102例のうち胆管炎を伴っていた患者71例における、黄疸、抱合型ビリルビン高値、ALP高値、腹部超音波検査の総胆管結石に対する診断能を検討した。 【研究1の結果】 1.102例全例にERCPが施行され、最終的に総胆管結石と診断されたのは77例(75.4%)であった。総胆管結石を認めなかったのは25例(24.6%)で、その他、胆管癌1例(1.0%)、スラッジ1例(1.0%)、膿汁1例(1.0%)であった。 2.総胆管結石のある群の方がない群よりも抱合型ビリルビン値、CTの結石描出率が有意に高かった。 3.腹部超音波検査では、Sensitivityが31.1%と極めて低値であり、Accuracyも43.3%と低かった。腹部CTのAccuracyは62.3%であったが、Sensitivity、Specificityは58.9%、76.9%とともに比較的良好な結果であった。 4.胆管炎を伴った緊急ERCP患者71例においては、52例(73.2%)に総胆管結石を認めた。抱合型ビリルビン高値、ALP高値のSensitivityがそれぞれ75.0%、92.3%と高かった。 【2の対象および方法】 2000年8月から2003年11月の間に、自覚症状、生化学検査異常、腹部エコー異常などから総胆管結石を疑われた症例のうち、急性胆管炎を疑う症例、総胆管結石の既往のある症例、EUS、MRCP、HCT-Cが適応不能な症例(上部消化管の手術歴のある症例、閉所恐怖症、造影剤アレルギーなど)を除いた症例を対象とした。全症例に対しEUS、MRCP、HCT-Cを行った。最後にERCP/IDUSを行い、各検査結果を比較検討した。ERCP/IDUSにて総胆管結石を認めた場合は、内視鏡的に除去した。 【2の結果】 28症例がエントリーされた。男性16例、女性12例で、平均年齢は64歳 (38-93歳)だった。ERCP/IDUSにより、28例中24例(85.7%)に総胆管結石を認めた。直径5mm未満の結石が9例、5mm以上10mm未満が13例、10mm以上が2例だった。ERCP/IDUSの結果をGold standardとすると、Sensitivity、Specificity、Accuracyはそれぞれ、EUSが100%(24/24)、50%(2/4)、93%(26/28)、MRCPが88%(21/24)、75%(3/4)、86%(24/28)、HCT-Cが88%(21/24)、75%(3/4)、86%(24/28)だった。 MRCP、HCT-Cの偽陰性症例はすべて直径5mm未満の小結石であった。EUSの偽陰性症例は認めなかった。直径5mm以上の結石は全て、EUS、MRCP、HCT-Cのいずれでも指摘可能であった。総胆管結石症を疑われる症例のみ登録するというstudy designのため、本研究で各画像検査のSpecificityを評価することは困難であった。 本研究において重篤な偶発症は認めなかった。HCT-C施行時に胆道造影剤を投与した後に両眼瞼の掻痒感を訴えた症例が1例あった。またERCP後に腹痛を訴えた症例が2例あり、生化学検査異常、腹部CT所見より軽度の急性膵炎と診断した。全ての症例が保存的治療のみにて速やかに軽快した。 【考察】 研究1において、腹部超音波検査による総胆管結石のSensitivityは31.1%と十分とはいえなかった。しかし、胆管炎を伴っていた患者において、自覚症状、血液検査異常、腹部超音波検査所見から総合的に判断してERCPを施行した結果73.2%と高率に総胆管結石を認めた。 研究2において、総胆管結石に対してEUS、MRCP、HCT-Cはいずれも高いSensitivityを示した。各画像検査法を比べると、EUSは特に直径5mm未満の小結石例に対しMRCPやHCT-Cよりも高いSensitivityを持つことが示された。しかしEUSは内視鏡に特有の偶発症が起こりうるし、上部消化管の手術歴がある患者には適用できない。またEUSの診断能は術者の技量に多く依存する。MRCPとHCT-CはEUSよりも非侵襲的であるが、小結石のSensitivityが低く、MRCPは閉所恐怖症や心臓ペースメーカーなどがある患者には施行できない。またHCT-Cは造影剤に対してアレルギーがある患者には施行できないし、総胆管結石症にしばしば起こる閉塞性黄疸がある場合胆道系への造影剤の排出が障害され、胆管の描出ができなくなるという欠点がある。 胆管炎の存在が疑われる場合は、可及的速やかな結石の除去が必要である。研究1において、胆管炎を伴っていた患者の73.2%と高率に総胆管結石を認めている。排石が遅れると急性閉塞性化膿性胆管炎など重篤な症状をきたしうることを考慮すると、胆管炎の存在が疑われる場合は速やかなERCPも許容しうると考えられた。 胆管炎を伴わず、腹部超音波などで結石が確認できない場合は、EUS、MRCP、HCT-Cなどによる精査が必要である。Sensitivityを第一に考えた場合はEUSを第一選択とするべきである。しかしある程度の時間的猶予がある場合は、EUSより侵襲性が低いためMRCPかHCT-Cを第一選択とすることも考えられる。MRCPとHCT-Cのどちらを選択するかは、機器の規格や各検査法の適応による。もしどちらも問題なく施行可能な場合は、アレルギー反応を起こしうる造影剤を使用しないため、MRCPの方が望ましいと考えられる。もしMRCPにて結石が認められない場合は、小結石の有無を確認するためにEUSを施行するべきである。HCT-CはMRCPとほぼ同等の診断能であるため、施行する意義は少ないと考えられる。 【結論】 日常診療で行われる体外超音波検査、その他の一般検査では総胆管結石の診断能は十分ではない。EUSがMRCPやHCT-Cよりも小結石のSensitivityが優れているため第一選択とするべきだと考えられるが、診断に時間的猶予がある場合は、EUSより侵襲性が低いためMRCPかHCT-Cを第一選択としてもよい。両者ではヨードアレルギー反応を考慮するとMRCPの方が望ましいと考えられる | |
審査要旨 | 総胆管結石は閉塞性黄疸や急性閉塞性化膿性胆管炎をきたす可能性があるため、速やかな治療を要する疾患である。したがって、効率的な総胆管結石の診断は日常診療において重要な課題である。本研究では、2000年8月から2003年11月の間に総胆管結石が疑われて東大病院消化器内科に入院した患者において、臨床所見、検査所見を検討し、総胆管結石患者の実態について検討している。また、近年導入された画像診断である超音波内視鏡(Endoscopic ultarasonography: EUS)、磁気共鳴胆道膵管造影(Magnetic resonance cholangio-pancreatography: MRCP)、ヘリカルCT胆道造影(Helical computed-tomographic cholangiography: HCT-C)の診断能について前向きに比較検討している。これらの検討により、総胆管結石の効率的な診断法について研究し、下記の結果を得ている。 1.102例の適格例全てにERCPが施行され、最終的に総胆管結石と診断されたのは77例(75.4%)であった。総胆管結石を認めなかったのは25例(24.6%)で、その他、胆管癌1例(1.0%)、スラッジ1例(1.0%)、膿汁1例(1.0%)であった。 2.総胆管結石のある群の方がない群よりも抱合型ビリルビン値、CTの結石描出率が有意に高かった。 3.腹部超音波検査では、Sensitivityが31.1%と極めて低値であり、Accuracyも43.3%と低かった。腹部CTのAccuracyは62.3%であったが、Sensitivity、Specificityは58.9%、76.9%とともに比較的良好な結果であった。 4.胆管炎を伴った緊急ERCP患者71例においては、52例(73.2%)に総胆管結石を認めた。抱合型ビリルビン高値、ALP高値のSensitivityがそれぞれ75.0%、92.3%と高かった。 5.EUS、MRCP、HCT-Cを全て行った28症例に関して、ERCP/IDUSの結果をGold standardとすると、Sensitivity、Specificity、Accuracyはそれぞれ、EUSが100%(24/24)、50%(2/4)、93%(26/28)、MRCPが88%(21/24)、75%(3/4)、86%(24/28)、HCT-Cが88%(21/24)、75%(3/4)、86%(24/28)だった。 6.MRCP、HCT-Cの偽陰性症例はすべて直径5mm未満の小結石であった。EUSの偽陰性症例は認めなかった。直径5mm以上の結石は全て、EUS、MRCP、HCT-Cのいずれでも指摘可能であった。 7.以上の結果を踏まえると、胆管炎の存在が疑われる場合は速やかなERCPも許容しうると考えられた。胆管炎を伴わず、腹部超音波などで結石が確認できない場合は、EUS、MRCP、HCT-Cなどによる精査が必要であるが、EUSがMRCPやHCT-Cよりも小結石のSensitivityが優れているため第一選択とするべきだと考えられる。但し、診断に時間的猶予がある場合は、EUSより侵襲性が低いためMRCPかHCT-Cを第一選択としてもよい。両者ではヨードアレルギー反応を考慮するとMRCPの方が望ましいと考えられる 以上、本論文は総胆管結石患者の実態を明らかにし、EUS、MRCP、HCT-Cの3者の診断能を比較検討することによって、効率的な診断について検討した初めての論文であり、学位の授与に値すると考えられる。 | |
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