学位論文要旨



No 121805
著者(漢字) バジュワ シャマス オル イスラム
著者(英字) Bajwa Shamas Ul Islam
著者(カナ) バジュワ シャマス オル イスラム
標題(和) 経路と出発時刻選択を考慮した渋滞ネットワーク解析
標題(洋) Analysis of Network with Queues considering Route and Departure Time Choice
報告番号 121805
報告番号 甲21805
学位授与日 2006.09.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6335号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 桑原,雅夫
 東京大学 教授 原田,昇
 東京大学 教授 柴崎,亮介
 東京大学 教授 清水,英範
 東京大学 助教授 清水,哲夫
内容要旨 要旨を表示する

本研究は、利用者均衡原理に基づく動的なネットワーク解析において、次の2点の理論的拡張を行ったものである:

(1) 経路選択だけでなく、モード選択と出発時刻選択を同時に考慮すること、

(2) 渋滞の延伸を考慮できるPhysical Queueを考慮すること。

さらに、実際の利用者のモードと出発時刻選択モデルを、首都圏利用者へのアンケート調査に基づいて構築し、Many-to-ManyのODパターンを持つ一般ネットワークにおける動的な確率均衡配分のヒューリスティックなアルゴリズムを提案した。

これまでの動的利用者均衡ネットワーク解析は、ODパターンがOne-to-Many(あるいはMany-to-One)に限定され、かつ渋滞の延伸が扱えないPoint Queueによるものがほとんどであった。Many-to-Manyの一般ネットワーク、Physical Queueへの適用に関しては、いくつかの研究報告が成されているが、リンクコストと渋滞待ち行列との関係が希薄であるなどの理論的問題が指摘されている。本研究の前半では、このような現状に対して次の理論的な整理と展開を行った:

・ One-to-Many ODにおけるPhysical Queueの理論展開(経路選択のみ)

出発時刻によって問題を分解できるというPoint Queueにおける知見に基づいて、Physical Queueを扱う場合についても同様の分解が可能であることを示し、Kinematic Wave理論を援用したアルゴリズムを提案した。

・ Many-to-One ODで複数ボトルネックを持つネットワークについてPhysical Queueの理論展開(経路と出発時刻の同時選択)

Point Queueにおける解析について、複数ボトルネックを持つ各種のネットワークへの理論整理を行った。特に、目的地への希望到着時刻による問題の分解可能性について整理を行った。次に、Physical Queueへの展開を行い、同様に希望到着時刻についての問題の分解可能性について論じた。

より一般的なMany-to-Many ODを持つネットワークについては、確率的利用者均衡原理に基づいたヒューリスティックなアルゴリズムを提案した。まず、首都圏の1都3県に居住する約250人についてモード選択と出発時刻選択に関するアンケート調査を行い、それに基づいて利用者選択行動モデルを提案した。モデル構築に当たっては、Multinomial Logit、Nested Logit、Cross-Nested Logit、Random Coefficient Logit, Error Component Logitという5種類の行動モデルを採用し、それぞれのモデルの特質を明らかにした。特に、出発時刻選択は、希望到着時刻という時間的制約、渋滞状況に対して敏感であること、またモード選択は利用者の年令、年収、車保有の有無、従業地に対して感度が高いことを示した。

動的確率均衡配分の解法アルゴリズムについては、既存研究で提案されているアルゴリズムをMany-to-ManyODにも適用できるように拡張し、仮想ネットワークを用いて、アルゴリズムの有用性について検証を行った。その結果、提案アルゴリズムは交通状態初期値に依存することなく、モデルパラメータの広い範囲で収束することがわかった。ただし、収束の速さは、初期値およびモデルパラメータ値に依存することを明らかにした。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は,渋滞したネットワークにおける経路選択と出発時刻選択を同時に考慮した動的ネットワーク解析について、利用者均衡原理に基づく理論研究と実用研究を行ったものである。特に、経路選択だけでなく、モード選択と出発時刻選択を同時に考慮すること、渋滞の延伸を考慮できるPhysical Queueを考慮する、という2点について理論的な新たな展開を行っている。さらに、実際の利用者のモードと出発時刻の同時選択行動モデルを、首都圏利用者へのアンケート調査に基づいて構築し、一般ネットワークにおける確率均衡原理に基づいた動的配分のヒューリスティックなアルゴリズムを提案している。

利用者均衡原理に基づいたこれまでの動的ネットワーク解析は、One-to-Many(あるいはMany-to-One)のODパターンに限られていること、かつ渋滞の延伸が扱えないPoint Queueを扱ったものがほとんどであった。Many-to-ManyのODパターンや、Physical Queueを扱っているモデルもいくつか提案されてはいるものの、リンクコストと渋滞待ち行列との関係が希薄であるなどの理論的問題が指摘されており、理論的には未知な領域が多い。

本研究では、このような現状に対して、以下のような興味深い理論展開を行っている。

(1) 経路選択のみを考慮したOne-to-Many ODにおけるPhysical Queueの理論展開については、出発時刻によって問題を分解できるというPoint Queueにおける研究成果に基づいて、Physical Queueを扱う場合についても同様の分解が可能であることを示している。動的な問題の分解は効率的に解を得るために、きわめて有用な知見である。

(2) 経路と出発時刻の同時選択を考慮したMany-to-One ODで複数ボトルネックを持つネットワークについて、Physical Queueの理論展開を行っている。まず、Point Queueにおける解析について、これまでの研究成果を整理し、複数ボトルネックを持つ各種のネットワークについて、目的地への希望到着時刻による問題の分解可能の条件を整理している。次に、Physical Queueへの拡張を行い、複数ボトルネックを持つネットワークについて、同様に希望到着時刻についての問題の分解可能性について論じている。

これらの理論研究の成果は、これまでの動的ネットワーク解析の課題を簡潔に整理するとともに、より一般性のあるモデルへの拡張に対して、きわめて有用な知見を与えるものとして、高く評価できる。

以上の成果は、決定論的な選択行動モデルに関するものであったが、より一般的なMany-to-Many ODを持つネットワークへの適用については、確率的利用者均衡原理に基づいたヒューリスティックなアルゴリズムを提案している。まず、首都圏に居住する約250人についてモード選択と出発時刻選択に関するアンケート調査を行い、Multinomial Logit、Nested Logit、Cross-Nested Logit、Random Coefficient Logit, Error Component Logitなど最新の研究成果に基づいたいくつかのモデル構築を行い、各モデルの特質を明らかにしており、学術的にきわめて興味深い成果を得ている。

また、一般ネットワークを対象とした解法アルゴリズムについては、既存研究で提案されているOne-to-One ODに適用できるアルゴリズムをMany-to-Many ODにも適用できるように拡張し、簡単な仮想ネットワークを用いてアルゴリズムの実用性について検証を行っている。その結果、提案アルゴリズムは交通状態初期値に依存することなく、モデルパラメータの広い範囲で収束するものの、収束の速さは、初期値およびモデルパラメータ値に依存することを明らかにしている。

以上のように、本研究は、理論的にきわめて難解な動的利用者均衡配分に関して、理論的な進展を見せており、今後のこの分野の理論展開に対して学術的にきわめて有用な知見を与えているものと高く評価できる。また、確率的な均衡配分についても実用的な選択行動モデルと解法アルゴリズムを提案しており、実務的にも有用性が認められる。

よって本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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