No | 121811 | |
著者(漢字) | 高,正遠 | |
著者(英字) | KO,JEONG WON | |
著者(カナ) | コウ,ジョンウォン | |
標題(和) | 火災加熱環境下におけるコンクリート中の熱・水分移動および爆裂に関する研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 121811 | |
報告番号 | 甲21811 | |
学位授与日 | 2006.09.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第6341号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 建築学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本研究の背景および目的 従来のコンクリートは不燃材料であり,火災による損傷について大きく取られていなかったが,実は,鉄筋コンクリート造建築物の室内火災においては,温度上昇が急激に生じ,柱,梁,床などのコンクリート構造部材の劣化が促進されることになる。特に,最近社会的要求によって建築物の超高層化が進行されることによって鉄筋コンクリート部材の超高強度化および超軽量化が要求される。この高強度コンクリート部材が用いられる超高層ビルにおける火災では,急激な加熱を受けることによって生じる爆裂による断面欠損現象が大きな問題として懸念されている。 このような火災加熱環境下におけるコンクリートの耐火性能に対する精度の高い性能評価ができるように様々な研究が進行されているが,その研究のほとんどがマクロ的な観点から見たコンクリート構造部材の熱変形による力学的性質の変化およびそこで発生する熱応力の解析に関するものである。それらの研究によると,高温加熱を受けるコンクリートの爆裂発生の要因は,コンクリートの急激な温度上昇,コンクリート部材の拘束条件による熱応力の増大,含水状態による蒸気圧の上昇,骨材の鉱物組成などが挙げられ,特に高温時のコンクリート内部に生じる熱応力の増大を爆裂の主な原因として扱っている。しかし,Hertzは重量含水率が3〜4%以下のような低含水率の場合には,コンクリートの爆裂が起こる可能性が低くなることについて,熱応力説だけでは説明きれないと報告している。すなわち,コンクリートは多孔質であり,常に水分を含んでいるため,コンクリートの爆裂メカニズムを究明するには,急激な温度上昇によるコンクリート中の水分挙動を把握することが不可欠な要因であると言える。しかしながら,実際のコンクリート内部の微視的な水分挙動メカニズムまでは明らかになっていないのが現状である。 そこで本研究では,実際起こる現象をミクロ的な観点から把握および検証するため,普通強度コンクリートと高強度コンクリートを想定し,さらにコンクリートの表層部の細孔構造を変化させ,表面含水率の変化を誘導することで,コンクリートの強度および表面含水率の変化が火災環境下におけるコンクリート中の熱・水分移動と圧力増大に関係し,爆裂につながる影響を実験的に把握するとともに,それらの現象を検証するため,コンクリート中の細孔構造モデルに基づく物質移動を考慮した熱・水分移動モデルを構築し,コンクリートの破壊条件を加えることで火災加熱環境下におけるコンクリート中の熱・水分挙動と爆裂との関係を明らかにすることを目的としている。 本研究の構成および各章の要旨 本研究では,火災加熱環境下におけるコンクリート中の細孔構造および熱・水分挙動に起因する力学的性質の変化とコンクリート表層部での爆裂メカニズムを明らかにし,実験的に把握するとともに細孔構造モデルを用いてコンクリート中の熱・水分移動モデルを構築し,コンクリートの破壊条件を設定した上で,コンクリートの爆裂予測モデルの構築を通じて検証を行い,水蒸気圧による爆裂メカニズムの究明を目指した。 ここでは,本研究の構成および各各章の要旨を以下にまとめる。 第1章では,「序論」と題して,研究の背景,研究の目的,既往の研究において本研究の特色,研究の構成をまとめた。 第2章では,「本研究と関連する既往の研究」と題して,高温時におけるコンクリートの熱的性質,コンクリートの爆裂に及ぼす影響およびコンクリートの高温性状に関する解析手法に関する既往の研究を概観した結果,知見が得られとともに,今後の研究に考慮すべき課題の必要性を認識することができた。 第3章では,「高温時におけるコンクリート中の含水率測定」と題して,高温時におけるコンクリート中の含水率測定の重要性および従来の含水率測定方法について比較検討し,電極法の合理性について考察した上で,本研究に用いた電極法において温度,含水率,電極間抵抗との関係を示した。さらに,高温環境下における電極法の信頼性向上のための今後の課題について述べた。 1) 従来のコンクリート構造体の含水率の測定法について既往の研究を中心に調べ,比較検討を行ったが,部材内部の含水率分布が測定可能な方法,さらに常温から高温まで幅広く適用可能なことなどを考えると,電極法による含水率測定方法が,火災加熱環境下におけるコンクリートのように急激な温度上昇が生じる場合,コンクリート中の含水挙動を連続的に把握する上で,もっとも合理的な方法であると考えられる。 2) コンクリートの比抵抗および電極間抵抗は,含水率および温度に強く依存していることが分かった。さらに,コンクリート中に埋設されている鉄筋などの金属物の影響は無視できるほど小さいことが分かった。 3) 本研究に用いた電極法では,キャリブレーション用試験体のシールの際に起こる含水勾配の問題を考慮し,加熱によるキャリブレーション用試験体の水分移動を考慮することによって実際加熱試験から得られる各温度における電極間抵抗値の誤差を抑えることができるものとした。 4) 今後の課題として高温・高圧環境下での水分の相変化と電極間抵抗との関係を明らかにする必要があり,含水率と温度依存性を考慮したコンクリートの比抵抗モデルの構築に力を入れる必要があると考えられる。 第4章では,「火災加熱環境下におけるコンクリートの細孔構造の変化と熱・水分移動および爆裂に関する研究」と題して,火災加熱環境下におけるコンクリートの熱的性質に対して,次の3つの構成に分けて実験的検討を行った。1つ目は,高温加熱下におけるコンクリート細孔構造の変化に関する研究であり,2つ目は,高温加熱下におけるコンクリートの力学的性質および水分逸散に関する研究,そして3つ目は,火災加熱環境下におけるコンクリート中の熱・水分移動と爆裂に関する研究である。これらの実験結果によってコンクリートの微細構造の変化,熱・水分移動および圧力形成がコンクリートの爆裂に及ぼす影響について以下の知見が得られた。 1) 高温履歴を受けたコンクリートの細孔構造の変化においては,水セメント比および乾燥開始材齢に関係なく,急激な温度上昇によって微細な細孔構造が崩壊し,その分大きな細孔が増加することが確認できた。一方,水セメント比25%では,累積細孔量の停留現象は確認されたものの,水セメント比55%の場合とは違い,温度が高くなるほど累積細孔量も増加する傾向を示した。 これらの結果により,水セメント比が低い含水状態の高強度コンクリートでは微細な細孔で生じるひび割れの伸長率が極めて大きくなることが予想される。 2) 水セメント比および乾燥開始材齢の違いによる結果により,若材齢で乾燥環境に曝されるほど,水分逸散量が大きくなり,水和度に大きく影響することが分かった。しかし,水セメント比が低くなると,若材齢から乾燥環境に曝されても高い水セメント比に比べて水分逸散量が比較的に少ないことで,長期材齢におけるコンクリートの高温加熱による質量減少率が大きくなることが確認できた。また,200℃以下の温度範囲での水分逸散量がもっとも大きいことが分かり,水セメント比が低くなるほど,熱応力が大きく生じることが分かった。 3) コンクリートの熱伝導特性は細孔径分布や含水状態によって異なり,水分移動に伴う顕熱と水分蒸発に伴う潜熱の影響によって温度勾配が支配され,水分移動が抑制されると温度の停留現象が起こる。また,その現象は水分移動の傾向から見て,コンクリートの細孔構造の連結性に大きく依存していることが分かった。 4) 火災加熱環境下におけるコンクリートの水分移動特性は,乾燥開始材齢および水セメント比によって変わるものの,細孔構造がポーラスであるほど,水分移動はし易くなり,逆に緻密であると,水分移動はし難くなることが確認できた。さらに,通常の60N/mm2を超える高強度コンクリートにおいて,組織が緻密であっても相対含水率40%以下のような気相率が高い不飽和領域が存在すると,その不飽和領域が水分の移動経路になることが分かった。 5) コンクリート中の水蒸気圧の増大は,水分移動速度に大きく依存することが分かり,水分移動が活発になると水蒸気圧が緩和される。逆に,水分移動が抑制されると水蒸気圧の急激な上昇により,爆裂が生じる可能性が高まることが分かった。 第5章では,「火災加熱環境下におけるコンクリートの爆裂予測モデルの構築」と題して,火災加熱環境下におけるコンクリートの爆裂を予測するため,コンクリート中の応力挙動および破壊挙動をモデル化することを目指した。 コンクリート中の熱伝導および水分挙動をモデル化するためには,水分の移動経路になる細孔構造のモデル化が必要になる。この細孔構造のモデル化および,細孔径に応じた局所的な熱力学的平衡を考慮することによって細孔中の凝縮水,吸着水および気相水量算出が可能になり,水分移動モデルにおいて水分移動現象を液状水(凝縮水+吸着水)と水蒸気(気相水)それぞれについて取り扱うことができた。特に,細孔中の水分移動現象は温度勾配および含水率勾配を駆動力とする熱力学的過程に基づくものと考えた。さらに,熱伝導現象では,コンクリートだけの熱伝導を考慮するのではなく,水分移動による顕熱および水分の蒸発による潜熱を考慮することで,含水状態のコンクリートにおける熱・水分挙動を予測することができ,コンクリートの爆裂に及ぼす水分影響について検証を行った。 第6章では,「結論」と題して,本論文で得られた成果と今後の課題に関して章毎に取り纏めた。 | |
審査要旨 | 高正遠氏から提出された「火災加熱環境下におけるコンクリート中の熱・水分移動および爆裂に関する研究」は、火災加熱環境下におけるコンクリート中の細孔構造および熱・水分挙動に起因する力学的性質の変化とコンクリート表層部での爆裂現象を実験によって把握するとともに、コンクリートの細孔構造の影響を考慮したコンクリート中の熱・水分移動モデルを構築し、水蒸気圧によるコンクリートの破壊条件を設定した上で、コンクリートの爆裂メカニズムの解明を目指したものである。 本論文は6章から構成されており、各章の内容については、それぞれ下記のように評価される。 第1章では、本研究の背景、目的、特色などが的確に述べられている。 第2章では、高温時におけるコンクリートの熱的性質、コンクリートの爆裂に及ぼす影響、コンクリートの高温性状に関する解析手法などに関する既往の研究を概観し、研究を進めるに際して考慮すべき課題の抽出が十分になされている。 第3章では、高温時におけるコンクリート中の含水率測定の重要性および従来の含水率測定方法について比較検討がなされ、電極法の合理性についての考察が行われた上で、本研究で用いられている電極法における温度、含水率、電極間抵抗間の関係が定式化されている。さらに、高温環境下における電極法の信頼性向上に資する今後の課題についても述べられている。 第4章では、火災加熱環境下におけるコンクリートの熱的性質に関して、高温加熱下におけるコンクリート細孔構造の変化に関する実験、高温加熱下におけるコンクリートの力学的性質および水分逸散に関する実験、および火災加熱環境下におけるコンクリート中の熱・水分移動と爆裂に関する実験がなされており、コンクリートの微細構造の変化、熱・水分移動および圧力形成がコンクリートの爆裂に及ぼす影響について数項目の重要な知見が得られている。 第5章では、火災加熱環境下におけるコンクリートの爆裂を予測することを目的として、コンクリート中の細孔構造のモデル化、細孔径に応じた局所的な熱力学的平衡のモデル化、温度勾配および含水率勾配を駆動力とする水分移動のモデル化、水分移動による顕熱および水分の蒸発による潜熱を考慮したコンクリート中の熱移動のモデル化、水蒸気圧による引張破壊のモデル化などを行った上で、有限要素解析を行うことにより、コンクリートの爆裂に及ぼす水分影響について理論的検証がなされており、高温加熱を受けることによってコンクリート中細孔構造の連結性と圧力上昇速度がコンクリートの爆裂に大きく影響することを見出している。 第6章では、本論文の結論および今後の課題が要領よくまとめられている。 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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