学位論文要旨



No 121855
著者(漢字) アルニダ
著者(英字) Arnida
著者(カナ) アルニダ
標題(和) 全身投与による光応答性遺伝子導入のための高分子ナノキャリアの設計
標題(洋) Polymeric Nanocarriers for Light-directed Gene Transfer After Systemic Delivery
報告番号 121855
報告番号 甲21855
学位授与日 2006.09.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6385号
研究科 工学系研究科
専攻 マテリアル工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 片岡,一則
 東京大学 助教授 吉田,亮
 東京大学 助教授 鄭,雄一
 東京大学 講師 山崎,裕一
 東京大学 講師 高井,まどか
内容要旨 要旨を表示する

Gene therapy promises considerable advances in the treatment of several important diseases. In this regard, a number of elegant molecular strategies have been design. However, the therapeutic usefulness is continually frustrated by inadequate systems for gene delivery. In particular concern is the absence of systems capable of systemic delivery following intravenous injection. On the other hand, it is well known that endosomal escape of DNA complex is a main obstacle in obtaining efficient transfection. Photochemical internalization technology offers a smart solution for endosomal escape by means of endosomal membrane disruption in light-directed manner, while PEgylation is believed to prolong the circulation of the complexes in blood. Hence, integration of these two concepts might solve the above-mentioned problems. Therefore, we developed PEgylated polymeric nanocarriers to deliver pDNA and photosensitizer separately or as one component. The feasibility of this strategy has been studied using PEG-b-PLL as vectors and successful result was demonstrated. To further develop this system, we made a synergy between buffering capacity of polymeric carrier bearing ethylene diamine unit and photointernalization concept to enhance the transfection efficiency of the transferred gene. Up to 1,000-fold enhancement of photochemical transfection was achieved with moderate photocytotoxicity when PEG-b-polyaspartatamide bearing 3 repeating units of ethylene diamine was used as pDNA vector. The next approach was to incorporate both pDNA and DPc photosensitizer in one component to ensure their simultaneous uptake and the same intracellular localization. In this regard, we constructed a novel ternary complex, which consist of triblock copolymer PEG-PMPA-PLL, pDNA and DPc. The excellent physicochemical properties of this complex and its ability to release DPc at endosomal pH lead to high enhancement of photochemical transfection with reduced photocytotoxicity. Moreover, as addition to PEG steric protection, the slightly negative charge of the complex might help in repelling the serum albumine from binding therefore provide a prolong blood circulation which has been foreseen in vitro by dynamic light scattering study.

審査要旨 要旨を表示する

 近年、重篤な疾病に対する新たな治療法として「遺伝子治療」に注目が集まっている。その成功のためには治療用遺伝子を患部へ送達するデリバリーシステムの確立が必要不可欠である。現在、様々なアプローチにより非ウイルス性キャリアの開発がおこなわれてきているが、特に全身投与を可能とするデリバリーシステムの構築は未だ成功に至っていない。このような研究背景に対し申請者は、ブロック共重合体による高分子ミセル型ナノキャリアに、光増感剤を組み合わせることで、ミセル化による長期血中安定性と光刺激による早期エンドソームエスケープを兼ね備えた「全身投与による光応答性遺伝子導入のための高分子ナノキャリアの設計」という研究テーマを立ち上げるに至っている。本学位請求論文では新規ナノキャリアの分子設計、物理化学的評価、生物学的評価を行っており、得られた実験結果をもとに新規デリバリーシステムの創製がまとめられている。

 第一章は序論である。ここでは遺伝子治療を成功させる上でクリアーしなければならない課題とそれに対する解決法を考察している。これまで長期血中循環が可能であることが確認されている高分子ミセル型ナノキャリアにおける一つの課題であるエンドソームからの脱出に対し、申請者は光増感剤によるphotochemical internalization (PCI)を導入することで、光照射による一重項酸素発生によりエンドソーム膜を脆弱化させ、エンドソームから高分子ミセルを脱出させるという方法論を考案し、本章でその意義と論点を明らかにしている。

 第二章では光応答性遺伝子導入高分子ナノキャリアを創製するための光増感剤の選択とin vitroにおける遺伝子導入実験を行っている。申請者は光増感剤同士のスタッキングによる消光を押さえるために、光増感剤をデンドリマー化したデンドリマーフタロシアニンを用い、その表面に負電荷を導入することでカチオン性セグメントを有するpoly(ethylene glycol)-b-poly(L-lysine) (PEG-PLL)とポリイオンコンプレックスを形成させ、光増感剤内包高分子ミセルを調製している。これとプラスミドDNAを内包した高分子ミセル(pDNA/PEG-PLL)を同時に細胞に作用させ、光照射することで光毒性を押さえつつ遺伝子導入効率が亢進されることを確認し、本システムが有用であることを示している。

 第三章は遺伝子導入効率を上げるために、プロトンスポンジ効果によるエンドソーム脱出が期待されるエチレンジアミンユニットを側鎖に有するブロック共重合体を用いたシステムへとベクターを展開している。この系において、ベクターのプロトンスポンジ効果とPCIの相乗効果により、光照射により遺伝子発現を3000倍に亢進されることを確認し、in vivoへの展開の有用性を示している。

 第四章ではトリブロック共重合体poly(ethylene glycol)-b-poly((3-morpholinopropyl)aspartatamide)-b-poly(L-lysine)(PEG-PMPA-PLL)を用いることで光増感剤と遺伝子を同一ミセル内に封入し、環境応答性架橋を導入した三元系コンプレックスへとキャリアシステムを展開している。この高分子ナノキャリアは、血中では架橋により安定に循環し、かつ細胞内に取り込まれると環境に応答して架橋が解離することで遺伝子が放出され、さらに光照射によるPCIによって遺伝子発現効率が高められることを期待したシステムである。物理化学的評価によりこの三元系高分子ナノキャリアは架橋されたプラスミドDNA/PLLコンプレックスをコアとし、中間層にPMPA/デンドリマーフタロシアニン、外殻をPEG鎖が多う三層構造を形成していることを確認している。In vitroの評価によりこの高分子ナノキャリアは光照射により25倍の遺伝子発現の亢進を確認している。

 第五章では架橋無しの三元系高分子ナノキャリアについて述べている。架橋導入率に対して遺伝子発現を検討したところ、架橋導入率とともに発現が落ちる結果を得たため、非架橋系の光応答性高分子ナノキャリアへと焦点を変更している。この三元系高分子ナノキャリアは血管透過性、細胞取り込みに適したサイズであること、表面電荷がわずかに負電荷を帯びているため血清タンパクとの相互作用が抑制され、長期血中循環が達成されるといった特性とともに、エンドソーム内のpHにおいてミセル中間層からデンドリマーフタロシアニンが放出されることでPCI効率が高められると同時に、ミセル内に内包されている遺伝子に対する光損傷を軽減できるといった優れた特性をも持ち合わせている。実際、本高分子ナノキャリアのin vitro評価系において遺伝子発現が光照射により130倍亢進したことを確認している。以上の結果を受けて、in vivoにおいて全身投与後に光照射することで位置・時間選択的に遺伝子発現を制御する時空間制御型システムが構築出来ることを示している。

 本論文の内容は、その独創的なアプローチや得られた成果の高い有用性から考えて、バイオマテリアル工学の分野において極めて秀逸であると判定される。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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