学位論文要旨



No 121869
著者(漢字) 高,穎
著者(英字) Gao,Ying
著者(カナ) ガウ,イン
標題(和) 合板張り木製枠組みパネルで組み立てられたドーム構造の解析手法に関する研究
標題(洋) Studies on Analysis Method of Timber-framed Panel Dome Structure
報告番号 121869
報告番号 甲21869
学位授与日 2006.09.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 博農第3074号
研究科 農学生命科学研究科
専攻 生命材料科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 太田,正光
 東京大学 教授 安藤,直人
 東京大学 助教授 信田,聡
 東京大学 助教授 稲山,正弘
 東京大学 助教授 佐藤,雅俊
内容要旨 要旨を表示する

 木材ならびに木質パネルはドーム構造建造物を作製するための構造材料として大変優れている。軽量で、強度的に優れており、また、加工も容易である。ジェオデシック・タイプと言われる木造ドーム建築物は、大きく二通りの方法で建設される。一つはトラス構造を主体としてドームを構成するの、もう一つは、木枠に合板パネルを張り、それを相互に組み合わせてドーム構造とするもの(これを「TFPドーム」と呼ぶ)である。

 本研究は、後者の構造に関して、その変形挙動を解析可能とする数値解析手法を開発することを目的とした。

 まず、構造体の解析の際にしばしば用いられる、トラス置換による有限要素法を適用して解析を行った。これを「単純トラスモデル」と呼ぶことにする。この方法では対象としたドーム構造は、120要素、46節点の立体トラスとしてモデル化された。この立体トラス・プログラムによって解析した結果は、しかしながら、ドームの1/10程度の縮尺模型を用いた負荷試験の結果と、変形挙動において一致しなかった。その理由は、トラス構造においては、負荷に対して、トラス部材に伸縮が発生することによって、外力に耐えるが、本構造では、パネルは木枠に釘で打ち付けられて固定されており、また、パネルは相互に枠材部分においてボルトで接合されているために、それらの接合部で部材相互のズレや開口が発生し、いわゆるトラス的な挙動をしないためである。

 そこで、次に、このパネル要素相互の分離挙動を再現することを目的として、応用要素法(Applied Element Method, AEM)による数値解析プログラムの開発を試みた。この手法は解析対象を、バラバラな要素が分布バネと呼ばれるもので図1に示すように法線ならびに接線方向に接合されたものとして扱うもので、破壊過程も扱うことが可能である。したがってこの方法はパネル相互の分離する過程を扱うのに適しているが、パネル形状が三角形で、かつ三次元空間に位置するために、プログラムを開発していく過程で、バネ接合の関係や境界条件を適切に表現することが難しいことが判明し、途中で別の手法を採用することになった。

 次に採用したのは、三次元トラス解析の有限要素法を基にして、図2に示すように、パネル接合ボルト等に相当する部分に比較的弱いバネを配置する手法である。これを行うために、トラス要素の座標を使用して、図3に示すように、球面を拡大することによってパネル要素間に隙間を開けて、自動的にバネ要素を配置する座標変換プログラムを作成した。なおパネル部分はほとんど変形しないので、この部分のトラス要素の剛性は大きく設定した。得られた形状は図4のようになる。新たに得られた構造は立体トラスのプログラムを利用して、計算を遂行することが可能であったが、計算の結果、図5に示すような、現実的でない変形挙動を与えたため、要素間に新たに回転剛性バネを付加することとした。こうして得られたドーム計算に使用する数学的モデルを「ハイブリッド・トラス・システム」と呼ぶこととした。このシステムでは、同じドームが、節点数225、バネ要素総数2745となる。また、このモデルでは変位の適合条件を満たすように、圧縮側の剛性率が高くなるようにしてある。

 併行して、模型実験によって、実際の変形を測定したが、その概要は図6に示す。ターンテーブル上に試験体を設置し、滑車を用いて、下部からワイヤーによって負荷をかけた。立体的な変形測定には三次元デジタルスキャナーを利用した。模型実験では、さまざまな負荷様式に対する変形挙動を確認するために、要素間を弾性ゴムで接続した試験体を用意した。これによって、実験結果と計算結果はその変形挙動に置いて良く一致した。また、図7に示すように、風圧のような、実験がむずかしい横からの負荷を受ける場合に対しても、計算によって、単純トラスモデルで得られるものとは非常に異なった、TFPドーム特有と思われる変形結果を得ることが出来た。

 次に、この計算プログラムを非線形解析可能なように拡張を行った。そしてパネル要素間をビスで接合した、模型実験を行い、その結果と弾塑性解析したものとの比較を行い良い結果を得た。

 以上のことから、ここで開発されたハイブリッド・トラス・システムを用いた解析手法は、TFPドームの挙動解析に対して有効であることが明らかとなった。

図1 応用要素のバネ位置

図3 座標変換の模式図

図2 単純トラスモデルとハイブリッド・トラス構造

図5 回転剛性バネがない場合の変形

図4 得られたモデル

図6 実験の概要図

図7 横からの負荷を受ける場合の比較

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、三角形に組んだ木枠に合板パネルを張り、それを相互にボルト接合で組み合わせて出来上がる半球型ドーム構造の強度、変形特性に関する解析手法を、新たに開発することを目的として研究を行ったもので、6章からなる。

 木材ならびに木質パネルは軽量で、強度的に優れており、また、加工も容易であるため、ドーム構造建造物を作製するための構造材料としても大変優れている。ジェオデシック・タイプと言われる木造ドーム建築物は、大きく二通りの方法で建設される。一つはトラス構造を主体としてドームを構成するの、もう一つは、木枠に合板パネルを張り、それを相互に組み合わせてドーム構造とするもの(これを本研究では「TFPドーム」と呼ぶ)である。後者の構造は、木材の枠同士をボルトで接合する等、変形をしやすい部分を含むのにもかかわらず、これまで、この形式のドーム構造を適切に解析する手法が無かったために、解析をする際には、トラス置換という便宜的手段が用いられることが多かった。しかしこの手法は、実際のドームの変形挙動を正しく再現しているとは言い難く、それによって解析された建物の安全性にも問題が残る。

 本研究はTFP構造のドームが示すさまざまな特異な変形挙動に対して、数値解析的な手法でその変形を再現する手法を開発することを目的としたもので、いくつかの独創的な試みがなされている。

 第1章においては、ここでの研究対象である木造ドーム構造のもつさまざまな長所が、強度的側面、エネルギー消費の面、省資源化の面から詳述される。また、第2章においては、本研究にかかわる様々な分野の既往の研究がまとめられている。

 第3章では、本研究で行った実験に関する詳細ならびに、シミュレーションに用いた三種類の数値解析手法に関して理論的誘導過程が示されている。研究対象としたTFPドームは、直径約10メートルのものであるが、実験は、1/7もしくは1/8の模型で行い、木枠相互の接合部の破壊の仕方、木枠に合板を打ち付けた釘の変形挙動等を調べ、基礎資料とした。解析に関しては、最初は通常の三次元トラス有限要素法(FEM)プログラムによる結果を調べた。その結果、トラス置換法では、枠材そのものに大きな変形が発生し、TFPドームの変形挙動を適切に表現できないことが明らかとなった。次に適応要素法(AEM)によるプログラム開発プロセスをしめした。本法は、手法として有力に思えたのであるが、三次元空間で、辺が様々な方向を向く、ドーム形状のような対象に対しては、境界条件が非常に複雑になることが明らかとなり、この手法による解析は、単純な場合に留まった。最後にパネル要素間に隙間を開けて、その隙間にバネ要素ならびに回転バネ要素を配置したハイブリッド・トラス有限要素法プログラムを開発した。次章以下で、この方法を用いてドーム構造の解析がなされた。ハイブリッド・トラスに関しては、回転バネ要素を配置しないと、実際と非常に異なるシミュレーション結果が得られるなど、興味深い結果も得られた。

 第4章では、木枠パネル相互を弾性バネで接合した場合に関して、五枚の三角形パネルからなる五角錐グループの変形挙動を実験で求めることにより、諸バネ定数を定めて、ドーム構造の変形挙動を解析している。ここで用いたモデルは原寸の1/13程度の寸法となる。ここの実験ではモデル・ドームの変形挙動を三次元デジタイザで立体的に追跡し、その結果をシミュレーションによるものと比較した。これより、ここで開発したハイブリッド・トラス・プログラムが、本研究対象のTFPドーム構造を適切に解析できることを明らかとした。

 三角形パネル間を、ボルトで接合すると、弾性バネではなく、弾塑性要素で接合したものとして解析する必要が出てくる。第5章では、このためのプログラム開発を行った。弾塑性要素によるシミュレーション結果は、ボルト接合(実験ではビス接合)による模型ドームの変形挙動を適切に再現することが出来た。これによって、本研究で開発したハイブリッド・トラス有限要素法プログラムは、TFPドーム構造の解析手法として有用であることが明らかとなった。

 第6章は総括である。

 以上本論文は、今日実際に建設されるジェオデシック・タイプの木造ドーム建築物のうち、変形しやすい接合部をもつ、合板張り木製枠組みパネルで組み立てられたドーム構造の解析手法を具体的に示したもので、学術上、応用上貢献するところは非常に大きい。よって審査員一同は、本論文が、博士(農学)の学位論文として相応しいものであることを認めた。

UTokyo Repositoryリンク