No | 121887 | |
著者(漢字) | 曺,泳在 | |
著者(英字) | Cho,Young jae | |
著者(カナ) | ジョ,ヨンゼ | |
標題(和) | 生態村づくりのための集落評価体系の開発 | |
標題(洋) | Development of Village Appraisal System for Constructing Ecovillages | |
報告番号 | 121887 | |
報告番号 | 甲21887 | |
学位授与日 | 2006.09.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(国際協力学) | |
学位記番号 | 博創域第241号 | |
研究科 | 新領域創成科学研究科 | |
専攻 | 国際協力学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本研究では,一般農村における生態村づくりの課題及び方向提示のための集落評価体系の開発を目的に,(1)生態村の概念及び目標の再構築,(2)韓国農村の現況調査及び問題点の把握,(3)集落づくりのための集落落評価体系を開発,(4)農村集落への適用・評価の研究を行い,その各々の結果は次の通りである。 本研究では,「生活環境,生産環境,自然環境が調和を成し,その機能と役割が維持される持続可能な農村集落」を生態村と定義し,生態村の概念及び成立要件を再構築した。構築した村の概念は,(1)自然と調和する空間及び構造,(2)円滑な物質循環及び環境汚染の最小化,(3)健全な人間発展及び人間関係の形成,(4)伝統文化の継承・発展,(5)親環境的な生産活動,(6)自然と調和する生産空間,(7)安全な食料生産及び供給,(8)経済的な安定,(9)自然及び地域景観の形成,(10)生物生息基盤及び多様性の維持(11)自然エネルギー及び条件の効率的活用,(12)自然を破壊しない人間活動の12つである。 韓国の農村集落のうち,「風水地理伝統村」,「自然生態優秀村」,「農村観光村」の3つのカテゴリーで研究対象地を選定し,現況調査研究を行った。その結果,風水地理的伝統村の自然と調和する立地条件及び空間構造,自然生態優秀村の豊かな自然環境及び生態資源,農村観光村の良く維持されている農村自然景観及び伝統文化等は,生態村としての適用可能性が非常に高いと判断される。しかし,研究対象地の共通的な問題である,環境汚染の加速化,自然と調和を取れていない生産活動及び生産空間,経済的な不安定及び過疎化・高齢化等は,生態村づくりに大きな障害になっており,これらの問題解決のために,次のような対策が求められる。 既往の研究から,生態村として農村集落を評価するため,「自然と調和をなす集落の立地及び敷地」,「親環境住宅の造成」,「便利な集落空間」,「適正人口の維持」,「活発な住民活動及び伝統文化の継承」,「安全な生活及び個人開発機会の提供」,「十分な食料生産」,「親環境農業活動」,「経済的な安定」,「多様な職業及び所得機会」,「資源の節約」,「快適環境の形成」,「伝統農村景観の維持」,「生態系の保全」の14個の具体的な目標を設定し,この目標に対して20個の指標を構築した。さらに,構築した生態村の目標及び評価指標から,ファジィ理論を用いて,各指標に評価基準を設定し,各指標の評価→目標の評価→小項目の評価→大項目の評価を通して最終に集落を評価する体系を開発した。 開発した集落評価体系に対して,韓国と日本の農村集落のうち,研究対象地を選定して,適用・評価研究を行った。その結果,評価対象地において日本と韓国の農村が共通に持っている問題としては,人口および経済問題,そして高齢化に関する問題である。これは,ただ本研究の調査対象地だけの問題でなく,ほとんどの農村集落が負っている問題として,農村の持続可能性に深刻な阻害要因になっている。これらの問題を解決するためには,生活環境,生産環境,自然環境のあらゆる計画を通した人口流出防止および適正人口の維持,所得源開発および所得増大等の長期的な対策が必要であり,次の課題解決が求められる。 既存農村開発および整備方式の転換 これまで農村整備事業のほとんどは,生活・生産・自然環境を各々分けて行われてきた。生活環境整備は人間の利便性向上を目的に,整備事業が行われ,結果,自然環境と農村景観の破壊をもたらした。生産環境整備は食料生産の向上だけを目的とされ,化学肥料や農薬等による環境汚染と生態系の破壊を増加させた。また,自然環境整備のほとんどは,人間活動を制限する方法を採っていて,人間と自然の断絶をもたらした。生態村づくりには,これらの三つの要素のすべてが調和できる計画および事業制度が必要である。 住民意識構造の改革と積極的な参画 生態村では,これまでの人間中心の生活方式と,増産のための生産方式に対する意識の転換が必要である。加えて,過疎化,高齢化によって集落発展に関心を持ち得ない住民たちに対しても,親環境集落整備の必要性を認識させ,動機を付与し,住民主導の集落計画と管理が行われる必要がある。 経済・社会的な安定に関する対策 これまでの多くの生態村計画では,住民の自給自足的な生活,自然の中での人間発展が目的とされてきた。しかし,一般農村集落への適用にあたっては,経済・社会的な要素が必ず考慮される必要がある。これまでの過疎化の進行は経済的・生活福祉および教育を原因としているので,このような経済・社会的問題の解決が不可欠である。 以上の研究から,本研究で開発した持続可能性評価体系は,農村集落の持続可能性を良く評価できると判断される。今後,より多様な地域を対象にした検証研究のうえで,すべての農村集落に適用可能な体系の開発が求められている。 | |
審査要旨 | 本論文は、農村を生態村として整備するという目標を設定し、そのための集落評価体系を構築することを目的に、生態村の概念の整理、韓国農村における優秀集落の現地調査、生態村づくりのための「集落落評価体系」の構築、韓日の農村集落への適用と評価に関する研究を行っている。 まず序論においては、農村・農村集落をめぐる国際的な動向を説明し、これを研究の背景とし、そのうえで研究の目的を設定している。 第2章では、生態村の概念を整理している。生態村に関する韓国および諸外国の既往研究をレビューしたうえで、生態村を「生活環境(住む場)、生産環境(働く場)、自然環境(休む場)が調和を成し、その機能と役割が維持される持続可能な農村集落」と定義している。そのうえで、生態村の成立要件12項目を抽出している。すなわち、良好な生活環境の要件としての4項目、良好な生産環境の要件としての4項目、そして良好な自然環境の要件としての4項目を提言している。 第3章では、韓国の農村において優秀とされている農村集落の現況調査を行っている。農林部による各種の農村整備事業、環境部による優秀な集落の顕彰、そして行政以外による優秀集落の選定をレビューし、「風水地理伝統村」、「自然生態優秀村」、「農村観光村」による選定地区から本研究の対象地を計6集落選定している。そこでの現況調査の結果、風水地理的伝統村の自然と調和する立地条件及び空間構造、自然生態優秀村の豊かな自然環境及び生態資源、農村観光村の良く維持されている農村自然景観及び伝統文化等を抽出し、これらの集落が生態村として位置づけられる可能性が非常に高いと判断している。しかし、環境汚染の加速化、自然と調和の取れていない生産活動及び生産空間、経済的な不安定は、研究対象地の共通的な問題であり、生態村づくりの大きな障害になっていると指摘している。 第4章は本研究の中核をなす集落評価体系の開発の章である。まず既往の研究を整理し、生態村としての目標となる項目を抽出している。すなわち、生活環境大項目における6つの目標、生産環境大項目における4つの目標、自然環境大項目における4つの目標を、生態村づくりの目標項目としている。続いて、持続可能性の評価指標として、既往研究から空間レベルごとに26の指標を抽出し、さらにこれをまとめて、20個の評価指標を抽出している。それぞれの指標ごとに具体的な評価基準を設定している。各評価指標値から総合的な評価に至る過程には、ファジィ理論を適用し、各指標の評価は算術平均により、目標の評価ではファジィ言語規則Iを、小項目の評価ではファジィ言語規則IIを、大項目の評価ではファジィ言語規則IIIを用い、最終的に集落を評価する体系としている。 以上のようにして構築した集落評価体系の実用性を検証するために、韓国と日本の農村集落から研究対象地を選定して、評価を行っている。農村集落の選定にあたっては、本研究の目的に即して、生態村として先進的な地区を含むこととし、韓国全羅南道の楡川(ユチォン)集落、会竜(フェリョン)集落、日本の鳩山集落(千葉県香取市)を選定している。 各評価指標値を算出するために、統計数値の入手、現地における踏査、聞き取り調査、アンケート調査を実施し、生活環境、生産環境、自然環境それぞれにおける評価、そして最終評価値をファジイ理論に基づいて示している。 しかしながら、評価対象地が共通に持っている問題として、人口および経済問題、そして高齢化に関する問題を指摘している。これは、ほとんどの農村集落が負っている問題であり、農村の持続可能性において深刻な阻害要因になっていると指摘している。 第5章では、本研究を総括し、今後の課題を提示している。 本論文で提示した持続可能性評価体系は、多くの既往研究に基づいた理論的妥当性を有し、評価項目とその総合化が具体的に示されていることから、実用的でもあると評価できる。しかしながら、各項目の総合化においては、本研究で示したただ一つの方法だけが正しいとは言い切れない。例えば、ファジイ規則による客観的・公平な指標ではなく、より少ない指標による大胆な指標を用いるという考え方もあろう。そのためには、各種の総合化の方法の比較検討や、より多様な地域を対象にした実証研究も必要であろう。 とはいえ、本研究の提示する評価体系は、これまでにないものであり、農村空間計画分野において、すぐれた研究であり、先進国・途上国を問わず、農村開発の現場に適用できる可能性を有していると評価できる。以上により、本研究に対し、博士(国際協力学)の学位を授与できると認める。 | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/9275 |