学位論文要旨



No 121947
著者(漢字) 赤木,智
著者(英字)
著者(カナ) アカギ,サトシ
標題(和) 二酸化炭素ヒートポンプサイクルに適用される気液二相エジェクタの研究
標題(洋)
報告番号 121947
報告番号 甲21947
学位授与日 2006.12.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(環境学)
学位記番号 博創域第244号
研究科 新領域創成科学研究科
専攻 人間環境学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 飛原,英治
 東京大学 教授 岡本,孝司
 東京大学 教授 丸山,茂夫
 東京大学 助教授 鹿園,直毅
 東京大学 講師 党,超鋲
内容要旨 要旨を表示する

 本研究は,地球環境問題を背景として期待される自然冷媒の一つである二酸化炭素を冷媒として用いた,蒸気圧縮式ヒートポンプの高効率化を目的とし,その方法として期待されている二相流エジェクタの内部流動について,実験と計算の両面から解析を行うものである.

 一章において二酸化炭素冷媒の特徴と,サイクルCOP 向上方法としての膨張動力回収,膨張動力回収手段として膨張機と気液二相エジェクタを用いたサイクル,それぞれの機器の従来研究と本研究の位置付けについてまとめた.

 二章において気液二相エジェクタを用いた蒸気圧縮式ヒートポンプのサイクル特性をサイクルシミュレーションによって明らかにした.従来のサイクル計算において,膨張機が主に断熱効率をパラメータとして扱って評価する対し,エジェクタは内部流動を解く形でサイクル計算を行っていたため,両者のサイクルは統一的な尺度をもって比較されてこなかった.本研究ではエジェクタに関する断熱効率を定義し,両者の断熱効率を統一的な尺度として用いて,サイクルCOPそのものから,各種のパラメータがサイクルCOPに与える影響まで比較を行った.

 結果,膨張機とエジェクタそれぞれの機器自体の内部ではエントロピー生成が無い場合でも,膨張機サイクルの方がCOPが高いことを示した.また圧縮機効率が低くなると,膨張機によるCOP向上率は低下するのに対しエジェクタでは一定であるため,エジェクタサイクルの方がサイクルCOPが高くなることを明らかにした(Fig.1参照).

 次にエジェクタの内部流動を考慮したモデルにより,ノズル効率・ディフューザ効率がともに1であれば,吸引流がチョークするようなエジェクタ面積比が,蒸気圧縮式ヒートポンプに適用されるエジェクタの最適設計であることを示した.

 また,エジェクタには本来的に部分負荷特性に弱いという欠点があるので,ノズル出口における過膨張・不足膨張を考慮に入れて部分負荷特性を明らかにした.結果,エジェクタは負荷の変動に対応する際,気液分離器におけるマスバランスを満たすために圧力の変更を必ず伴い,COPの変動が大きくなることを示した.(Fig.2参照).

 二酸化炭素を媒体とする気液二相エジェクタの実際の性能を明らかにするために,実機と同様の構成であるFig.3に示す実験装置で実験を行った.三章において装置の説明と実験の概要を解説し,四章において実験結果を一次元的解析によって考察した.

 結果,直線混合部の長さに関して,過大の場合は管摩擦損失によって圧力回復が徐々に低下すること,逆に過小の場合は混合部内における駆動流と吸引流との間の,または液相と気相との間の運動量交換が不十分なままでより断面積の大きい空間へ噴出されるために,圧力回復が急激に低下することを示した(Fig.4参照).

 また直線混合部面積に関しては,過大であると運動量保存則に従って圧力回復が低下し,過小であると駆動流と吸引流との流速の接近と,混合部出口流速の増加による混合部内での運動量減少量の低下から,直線混合部内での圧力回復が低下することを明らかにした.

 本研究対象において等圧混合エジェクタと等面積混合エジェクタとのどちらが適しているかを明らかにするためにノズル出口クリアランスを離す実験を行い,他の条件が同じであればノズル出口クリアランスが小さいほど圧力回復が大きいという結果を得た.これは等面積混合エジェクタの方が圧力回復が大きいことを意味する.

 五章において混合部における軸方向の運動量交換を解析するためにk-εモデルを用いて気液二相エジェクタの混合部における二次元解析を行った.

 結果,駆動流と吸引流の気相同士の運動量交換は液滴の大きさによらず同様となるのに対し,気相と液相との運動量交換は液滴が大きいほど遅れるため,混合部内における昇圧が遅くなり,結果,混合部内での圧力回復の最大値が小さくなることを明らかにした(Fig.5参照).本モデルにおいては液滴径を10μmとしたときに実験結果との良好な一致を得た.

 また,ノズル出口クリアランスを遠ざけるほど,直線混合部入口の圧力は増加するが,直線混合部出口における圧力は小さくなることを示した(Fig.6参照).

Fig. 1 Effect of compressor efficiency on expansion-work-recovering cycle

Fig. 2 Part load performance of ejector-equipped vapor compression cycle Expansion valve

Fig. 3 Schematic of the experimental setup

Fig. 4 Effect of mixing tube length on pressure recovery

Fig. 5 Pressure distribution along the central axis in the mixing tube (Liquid droplet diameter : 10 50, 100 μm)

Fig. 6 Pressure distribution along the central axis from the mixing cone to the mixing tube(Nozzle outlet clearance : 2, 5, 8 mm)

審査要旨 要旨を表示する

 冷凍空調機器の冷媒として用いられているフロンを自然冷媒の一つである二酸化炭素に置き換えることによって地球温暖化の防止に貢献することが期待されている。しかし,二酸化炭素を用いる蒸気圧縮式ヒートポンプは従来のフロン系冷媒のものに比べてエネルギー消費効率が低いので,普及が進んでいない。そこで,本論文では気液二相流エジェクタを用いてヒートポンプサイクルの効率を向上させることを目的として,エジェクタ内部流動について,実験と計算の両面から解析を行っている。

 本論文は6章からなり,第1章において二酸化炭素冷媒の特徴や,膨張動力回収によるサイクルCOPの向上方法,膨張動力回収手段として膨張機と気液二相エジェクタを用いたサイクルの概要と従来研究をまとめ,本研究の位置付けを明らかにしている.

 第2章において気液二相エジェクタを用いた蒸気圧縮式ヒートポンプのサイクル特性をサイクルシミュレーションによって明らかにしている.従来のサイクル計算においては,膨張機が主に断熱効率をパラメータとして扱って評価するのに対し,エジェクタは内部流動を解く形でサイクル計算を行っていたため,両者のサイクルは統一的な尺度をもって比較されてこなかった.本論文ではエジェクタに関する断熱効率を定義し,それぞれの断熱効率を統一的な尺度として用いて,サイクルCOPそのものから,各種のパラメータがサイクルCOPに与える影響まで比較を行っている.

 その結果,膨張機とエジェクタそれぞれの機器内部ではエントロピー生成が無い場合でも,膨張機サイクルの方がCOPが高いことを示している.また膨張機やエジェクタの断熱効率が高い場合には内部熱交換が性能を悪化させることや,圧縮機効率が低くなると膨張機サイクルよりもエジェクタサイクルの方がサイクルCOPが高くなることを明らかにしている.次に,エジェクタの内部流動を考慮したモデルにより,ノズル効率・ディフューザ効率がともに1であれば,吸引流がチョークするようなエジェクタ面積比が,蒸気圧縮式ヒートポンプに適用されるエジェクタの最適設計であることを示している.また,エジェクタには可動部がないため部分負荷に対応しづらいという欠点があると言われているが,ノズル出口における過膨張・不足膨張を考慮に入れて部分負荷特性を明らかにしている.

 第3章においては,二酸化炭素を媒体とする気液二相エジェクタの実際の性能を明らかにするために実機と同様の装置で行った実験の概要をまとめている.

 第4章においては,実験結果をまとめて考察している.直線混合部の長さに関して,長すぎる場合は管摩擦損失によって圧力回復が徐々に低下することや,逆に短すぎる場合は混合部内における駆動流と吸引流との間の,または液相と気相との間の運動量交換が不十分なままで断面積の大きい空間へ噴出するために,圧力回復が急激に低下することを示している.また,直線混合部面積に関しては,過大であると運動量保存則に従って圧力回復が低下し,過小であると駆動流と吸引流との流速の接近と,混合部出口流速の増加による混合部内での運動量減少量の低下から,直線混合部内での圧力回復が低下することを明らかにしている.本研究対象において等圧混合エジェクタと等面積混合エジェクタとのどちらが適しているかを明らかにするためにノズル出口クリアランスを離す実験を行い,他の条件が同じであればノズル出口クリアランスが小さいほど圧力回復が大きいという結果を得ている.これは等面積混合エジェクタの方が圧力回復が大きいことを意味する.

 第5章において,混合部における軸方向の運動量交換を解析するためにk-εモデルを用いて気液二相エジェクタの混合部の二次元流動解析を行っている.気相と液相との運動量交換は液滴が大きいほど遅れるため,混合部内における昇圧が遅くなり,結果,管摩擦損失が蓄積して混合部内での圧力回復の最大値が小さくなることを明らかにしている.本モデルにおいては液滴径を約10μm以下としたときに,圧力回復の位置について,実験結果との良好な一致を得ている.また,等面積混合エジェクタと等圧混合エジェクタとの比較のためにノズル位置を変化させた計算を行い,ノズル位置を直線混合部から遠ざけるほど,直線混合部入口の圧力は増加するが,直線混合部出口における圧力は小さくなることを示している.

 第6章は,結論であり,上記に研究について総括し,得られた主な結果と新しい知見についてまとめている。

 本研究の全般にわたって論文提出者が主体となって実験及び数値解析を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。

 したがって,博士(環境学)の学位を授与できると判定する。

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