学位論文要旨



No 122006
著者(漢字) 樋口,克宏
著者(英字)
著者(カナ) ヒグチ,カツヒロ
標題(和) 長大水路におけるゲート管理手法の改善による水利用効率向上に関する研究 : タイ東北部ホワイルワンかんがい地区を事例として
標題(洋)
報告番号 122006
報告番号 甲22006
学位授与日 2007.03.12
学位種別 課程博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 博農第3088号
研究科 農学生命科学研究科
専攻 生物・環境工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 田中,忠次
 東京大学 教授 塩沢,昌
 東京大学 教授 宮崎,毅
 東京大学 助教授 山岡,和純
 筑波大学大学院 教授 島田,正志
内容要旨 要旨を表示する

1 序論

1.1 背景

 アジアモンスーン地域は,水資源の絶対量は,一見多いが,人口増,産業構造の変動などによる水需要の不均衡による深刻な水不足に悩まされている.水資源の開発も取り組まれてきたが,貯水池の適地も限られており,新規の開発が困難になってきている.水資源の利用効率を高めることに多大な努力が必要とされている.この中で,使用量が特に大きい農業用水の水利用効率の向上が大きな課題となっている.

 タイ国内の産業の中で農業部門は,名目GDPの10%程度のシェアを占める.今後も,農業部門を同程度に保つよう政策策定されている.

 タイでは,農業協同組合省王立潅漑局が潅漑事業を行っており,大規模潅漑において,水利用効率が低く,この効率の向上が望まれている.

1.2 既往の研究

 潅漑モデルとしては,タイでは,Water Allocation Scheduling And Monitoring (WASAM)やNorth-East Water Management And Systems Improvement Project (NEWMASIP)が適用されている.これは,有効雨量、作物種から日潅漑水量を週毎に補正して算出している.

その中では,操作遅れ,用水到達遅れ等の管理要素からの検討がされてはおらず,操作の影響が考慮できない.このような問題を扱うためには,用水を定常的な扱いではなく,非定常として扱う必要がある.

1.3 目的

大規模潅漑地域での水利用効率の向上に向けて

1.降水の時間・空間的変動の特性を把握すること

2.水分配の現状と課題を分析すること

3.水分配の管理向上のための現地モデルを作成すること

4.ゲート操作スケジュールを変動させた場合の水利用効率向上の可能性を検討すること

を検討する.

2 タイ東北部降水特性の検討

2.1 背景

 水資源計画上,対象地区の最大のインプットである降水の変動を知る必要がある.特に,潅漑計画において降水量の変動や相関の把握の重要である.

 タイにおける降水傾向に関する研究として、Tebakari et al.(2005)は、過去約20年間(1982-2000)の27ヶ所での記録を元に経年変動を調べ,13ヶ所でのパン蒸発量の減少傾向(信頼度95%)と降水量の変化傾向がないこと(信頼度90%)を明らかにした.また,Fukui et al.(2000)は,タイ東北部の降水量データ(1955-1993)の年降水量の変動を解析し,Nakhon RatchashimaとUbon Ratchathani,Udon Thaniの3地点のうち,南西部のNakhon Ratchashimaで降水量の減少傾向を示した.

2.2 目的

 タイ東北部16ヶ所,潅漑プロジェクトを含むタウドンタニ県10ヶ所・コンケン県14ヶ所における年・四半期降水量の経年変化を解析し,降水の特徴を検討する.

2.3 手法

2.3.1 降水指標

 タイの水文年は1月から12月とした.また,第一四半期(1〜3月)第二四半期(4〜6月)第三四半期(7〜9月)第四四半期(10〜12月)である.

降水指標としては,年降水量の長期トレンド,四半期降水量の長期トレンドを用いた.

2.3.2 手法

 経年トレンドの検出には,ノンパラメトリックのトレンド検定法であるMann-Kendall検定法(Mann, 1945;Kendall and Gibbons, 1990)を用いた

 また,トレンドの傾きについては,ノンパラメトリック手法であるSen検定(Sen,1968)を用いて求めた.

時系列データの回帰直線f(t)を式(1)と仮定する.

ここで,Qは回帰係数,Bは定数.

2.4 対象地域

■タイ東北部 タイ東北部の16地点を対象とした.対象の観測期間は48〜51年である.北部6地点,中央部5地点,南部5地点

2.5 解析結果

2.5.1 トレンドの解析

 タイ東北部で50年でのトレンド分析を行った結果を図1に示す.

2.6 結論

 時間分布のトレンド分析した結果,タイ東北部では,年降水量が,南西部で減少傾向が見られた.空間分布の相関分析した結果,タイ東北部のホワイルワン,ノンワイ潅漑地区では同一潅漑地区における観測値に相関が見られなかった.特に,特に第一四半期と第三四半期の相関が低かった.第三四半期の降水量が8割近くを占め,潅漑時期としても雨期潅漑の中心的な時期にもあたる.そのため,第三四半期の降水量の分布に配慮した水分配が必要となる.

3 潅漑水配分の現状と課題

3.1 背景と目的

 資金・職員数制約から生じる非効率な水管理の対処法として,世界的に農民参加型水管理手法が進められ(World Bank,1993),タイ・インド・中国・カンボジア等においても導入が図られている.受益者管理へ移行する場合,水分配が適正に維持されることが前提となり,指標として,公平性,妥当性,安定性等が提案されている.

 この章では,タイの中でも水管理技術の高いホワイルワン地区を例として,水分配の現状と問題を整理する.まず,上下流間での水分配と公平性を時系列分析し、つづいて,幹線水路から直接分水する末端水路の水量(以下,直接分水量)を,水収支法により推定,水分配の公平性と直接分水量の取水行動を分析する.そして,今後,農民参加型へ移行していく場合の管理の問題点を整理する.

3.2 使用データ

 管理記録には,ホワイルワン地区左岸幹線の2002/03年乾期(2003/1/1〜4/20),2004年雨期(2004/6/16〜10/25)をもちいた.

3.2.1 手法

 ゾーンの境界で測定された幹線流量から,ゾーン内で取水された日用水量を求め,ゾーン毎に用水量I(mm)を算定した.そして,ゾーン別水分配を月毎に集計した.

 各ゾーンでの水需要量の算定には,FAO(1998)の算定式を用いた.作物別要求水量CWRCは,次式を用いた.

CWRC=ETP×KC+LP+P-ER (2)

ここで,CWRC:作物種Cにおける作物別要求水量(mm),ETP:可能蒸発散量(mm),KC:作物係数,LP:代かき用水(mm),P:浸透量(mm).

 粗用水量Qdemandは作物要求量と潅漑効率を用いて算出する.

ここで,ES:潅漑効率.

 また,上下流の公平性の指標PEは,次式を用いた(Molden,1990)

ここで,T:測定期間数(月),CovR:地域間の変動係数(標準偏差を平均で除した値),I:実用水量(mm),Qdemand:粗用水量(mm).

3.2.2 結果と考察

 ゾーン毎の用水量と,有効降雨を求めた(図2).図2において,配分の傾向をみるために,分水量は全体取水量に対する比率で示した.(I+ER)は,潅漑初期1,2月には,ゾーン3,4で高く,全体の6割以上を占めている.潅漑後期の4月では,各ゾーンへの分水量は,ほぼ均等になった.期間を通しての公平性PEは,0.27であった.

 どちらの期間においても,上下流間での水分配は,有効降雨を加味した場合,潅漑開始時には不均等な水分配が,期間中に是正され,期間後半になり均等な配分に近付く傾向がみられた.

3.3 結論

 幹線全線での上下流間での水分配は,有効降雨を考慮した場合,潅漑開始時には不均等な水分配が,期間中に是正され,期間後半になり公平な配分に近付く傾向がみられた.しかし,最下流のゾーンは,稲の生長に支障が出るほどの水不足が認められた.

4 水配分モデルによる水利用効率の向上

4.1 はじめに

 今後潅漑用地が拡大できる可能性は難しいとされている.そこで,潅漑用水を確保するには,今ある水資源の効率的利用がすすめられている.効率的な水利用のため,施設の改修や農業気象情報の収集,農民との管理協力など様々な取り組みが行われている.特に,農民との協力体制が,農民参加型水管理手法の推進も受け,広く導入されている.しかし,どの程度の効果が期待でき,潅漑事務所側の役割はどう変わるのかについての研究は十分になされていない.用水管理は,日々の操作により,非定常的に変化する部分と,週・旬単位でみた場合の定常的な部分とを同時に考慮する必要がある.そのため、非定常的数値解析手法が必要である.特に,現地の操作の影響として,操作人の人数や行動を含めてモデル化しているモデルはない.

4.2 目的

1.ホワイルワン潅漑地区の幹線を次の点を考慮してモデル化

・操作人の人数と動線に応じたゲート操作スケジュール

・目標流量に対するゲート開度が決定可能

2.操作人数が増加した場合の影響を潅漑期間2週間で評価

4.3 非定常モデルの構築

4.3.1 非定常一次元モデルの概要

非定常計算には,中村・白石(1971)らの一次元モデルを用いた.基礎方程式は,

ここで,vは流速(ms-1),tは時間(s),gは重力加速度(ms-2),hは水深(m),nはマニングの粗度係数,Rは水理水深(m),Aは断面積(m2),Qは流量(m3s-1),qは横流入(m3s-1)である.

 差分には,時間・空間中央差分を用いる.

■水理構造物のモデル表現 水理構造物として、幹線内の構造物として、チェックゲート、サイホン、横越流堰、支線への分水工を次のようにモデル表現した.

チェックゲートのモデル表現 オリフィス式ゲート下部からの流出と上流からの越流を考慮する.

ここで,C:ゲート係数(=0.6),G0ゲート開度(m),WG:ゲート幅(m),Hup:上流側水位(m),Hdown:下流側水位(m)

ここで,C:ゲート係数(=0.6),G0ゲート開度(m),WG:ゲート幅(m),Hup:上流側水位Hdown:下流側水位

サイホンのモデル表現 サイホンの通過流量の算出には,管路の抵抗則にDarcy-Weisbachを用いた式(9)-(11)を使用した.

ここで,ΔH:上下流水位差(m),fv:ゲート損失係数,fo:出口損失(=1.0),l:管路長(m),D:管径(m).

4.4 ゲート管理のモデル化

 ゲート操作時間を次式で算定した.

ここでTi:ゲートiでの操作時刻(min),T(ini):オフィスの就業時刻(min),L:操作担当区間(m),NG:操作担当ゲート数,V(mov):移動速度(m min(-1)),Tope:ゲートあたりの操作時間(min),T(deley):操作担当区間に達するまでの時間(min)

4.5 水路粗度係数の決定

4.5.1 対象地区

 ホワイルワン潅漑地区の左岸幹線水路をモデル対象とした.全長48.9km,最大流量6.3m3/s,受益面積8,000haであり,幹線と支線,副支線計20本の水路からなる(図3).

4.5.2 流量観測

 期間は,2006年3月6-14日に行った.測定項目は,水位と,流量,ゲート開度である.水位計には,HOBO水位計12本を水路に設置した.

4.5.3 同定と検証

 流量観測の2日間のデータで、マニングの粗度係数を求めた.粗度係数をn=0.010,0.012,0.014,0.018,0.025の5段階を与え,水深の誤差量を検討した.その結果,n=0.012で水深の相対誤差量が最小となった.

この粗度係数を用いて,3月6-13日の水深データと比較した場合,十分な適合性が得られた.

4.6 結果と考察

 人数の影響を考察するため,期間として1日,2日での検討ならびに2週間でのシミュレーションを行った.

4.6.1 スケジュールの設定

 式12のパラメータを,実測をふまえ,次のように定めた.L=10,000m,NG =3,V(mov)=300m min(-1),T(ope)=10min.

 表1に各ゲートの操作時刻を示す.この表は,操作人数と開始時間を変えた場合を想定している.

 ここで,case1は,操作人数がゲート数と同数程度.case2〜4は,操作人数が1人,case5は2人とした.case2〜4では,操作開始時刻の遅れが与える影響も考察する.遅れ時間なし(T(ini)=0min,T(delay)=0min),1時間遅れ(T(ini)=60min,T(delay)=0min),2時間遅れ(T(ini)=120min,T(delay)=0min)に対応する.

4.6.2 評価の方法

 評価には,目標流量に対する相対誤差を用いた.

ここでVci:ゲートiからの流出量,Vdi:ゲートiからの計画流量.

 εaは該当ゾーン内での配分の影響を示す指標であり,εbは,該当ゾーンを通過する流量に与える影響を表す指標である.

4.6.3 2週間での影響分析

 代掻期間と通常期間に対応した全幹線での異なる流量に対して解析を行った.表2に目標流量を示す.

4.7 結論

 操作開始遅れが2時間以内,かつ,設定開度が事前に与えられている条件で,一日一回操作する場合を考察した.その結果,操作人の数を増やしたとしても,評価値は1%程度の変化であり,流量への影響はほとんどない.特に,上流・中流部では,設定流量に対して,適切なゲート開度が与えられると,必要流量が分水可能で,10%以内の誤差となる.しかし,下流部では,流量変動が大きい場合、誤差が10%以上であり,事前開放等の別の措置が必要であることが分かった.

5 結語

 第2章では,時間分布のトレンド分析した結果,タイ東北部では,年降水量が,南西部で減少傾向が見られた.空間分布の相関分析した結果,タイ東北部のホワイルワン,ノンワイ潅漑地区では同一潅漑地区における観測値に相関が見られなかった.特に,特に第一四半期と第三四半期の相関が低かった.

 第3章では,幹線全線での上下流間での水分配は,評価値が0.26でほぼ公平であるのに対し,幹線からの直接取水により,ゾーン内での公平性が0.56という悪い結果となった.幹線全体では,潅漑開始時には不均等な水分配が,期間中に是正され,期間後半になり公平な配分に近付く傾向がみられた.しかし,最下流のゾーンは,稲の生長に支障が出るほどの水不足であること.また,ゾーン1内の直接分水量の解析から,農民の取水行動は,必要な雨量と潅漑水量が補給された段階で取水行動が抑制され,取水を行わなくなることが分かった.第4章では,ゲート操作人数の影響と水分配の定量的把握を行うため,分水工と余水吐からなる一次元水路モデルを構築した.人数増加の影響は,2週間の潅漑期間では,必要分水量に対して1%程度であり,提案したモデルで決定した開度を用いることで上流部中流部は,妥当な分水ができることを示した.

図1 タイ東北部における年降水量のトレンド

Trend of Annual Precipitaion in Northeast Thailand

(1950-2000)

図2 上下流の水分配(2003年乾期,2004年雨期)

Water distribution (dry season, 2003 and rainy season, 2004)

グラフの柱内の数字は,水頭(mm)を示す.

図3 ホワイルワン潅漑地区の用水路図

図4 幹線全体への操作人数の影響

表1 ゲート操作時間

表2 番水時の配分流量

審査要旨 要旨を表示する

 アジアモンスーン地域での長大水路においては、用水の到達遅れ等の管理的要素が重要であり、用水を定常的な扱いではなく、非定常として扱うことが必要となる。本論文では、降水の時間的・空間的変動及び水分配の現状を分析し、長大水路におけるゲート操作スケジュールの影響を非定解析を適用して明らかにし、水利用効率向上に向けての分水操作について述べる、

 第1章では,論文全体の背景と課題に対して検討を行った.アジアモンスーン地域では,水資源の絶対量は多いが,水資源量の変動の大きさに加え,人口増,産業構造の変動などによる水需要の不均衡による深刻な水不足に悩まされている.これまで水資源の開発も取り組まれてきているが,貯水池の適地も限られており,新規の開発は困難になってきている.そこで,使用量が特に大きい農業用水の水利用効率の向上が大きな課題となっている.タイの農業部門は,名目GDPの10%程度のシェアを占めており、今後も,農業部門を同程度に保つような政策がとられている.そのような中で、同国では,大規模潅漑における低い水利用効率の向上が課題となっている.既往の潅漑モデルとして,タイでは,有効雨量、作物種から日潅漑水量を週毎に補正して算出している.しかしながら、水利施設における操作遅れ,用水到達遅れ等の管理要素からの検討がされておらず,操作の影響が考慮できていない.このような問題を扱うためには,用水を定常的な扱いではなく,非定常として扱う必要がある.そこで,本研究では,大規模潅漑地域での水利用効率の向上に向けて、次の4点に関して調査・解析を行った.

1. 降水の時間・空間的変動の特性を把握すること

2. 水分配の現状と課題を分析すること

3. 水分配の管理向上のための現地モデルを作成すること

4. ゲート操作スケジュールを変動させた場合の水利用効率向上の可能性を検討すること

 第2章では,水資源計画上,対象地区の最大のインプットである降水の年季別・地域間変動特性を検討した.タイ東北部16ヶ所,潅漑プロジェクトを含むタウドンタニ県10ヶ所・コンケン県14ヶ所における年・四半期降水量の経年変化を解析し,降水の特徴を検討した.時間分布のトレンドをSen法で分析した結果,タイ東北部では,年降水量の減少傾向が見られた.また、空間分布を相関分析した結果,タイ東北部のホワイルワン,ノンワイ潅漑地区では同一潅漑地区における観測値に相関が見られなかった.特に,第一四半期と第三四半期の相関が低かった.第三四半期の降水量が8割近くを占め,潅漑時期としても雨期潅漑の中心的な時期にもあたることから,第三四半期の降水量の分布に配慮した水分配が必要となることが明らかになった.

 第3章では,タイの中でも水管理技術の高いホワイルワン地区を例として,水分配の現状と問題を整理した.なお、この地区においては、現在、政府の役人が統一的に水管理にあたっている。まず,上下流間での水分配とその公平性を時系列分析し、つづいて,幹線水路から直接分水する末端水路の水量(以下,直接分水量)を,水収支法により推定し,水分配の公平性と直接分水量の取水行動を分析した.続いて,今後,水管理が農民参加型へ移行していく場合の管理上の問題点を整理した.

 解析の結果,幹線全線での上下流間での水分配は,有効降雨を考慮した場合,潅漑開始時には不均等な水分配が,期間中に是正され,期間後半になり公平な配分に近付く傾向がみられた.しかし,最下流のゾーンでは,稲の生長に支障が出るほどの水不足が見られ、不公平な分配が認められた.

 第4章では,操作人数が変化した場合のホワイルワン潅漑地区の幹線における水配分の変動を非定常モデルにより検討した.その際,従来の非定常モデルに加え,(1)操作人の人数と動線に応じたゲート操作スケジュール作成,(2)目標流量に対するゲート開度の決定,について考慮した.今後、水管理が農民参加型へ移行していく場合を想定して、操作人数が増加した場合の影響を潅漑期間2週間で評価を行った.

 操作開始遅れが2時間以内,かつ,設定開度が事前に与えられている条件で,一日一回操作する場合を考察した結果,操作人の数を増やしたとしても,評価値は1%程度の変化であり,流量への影響はほとんどない.特に,上流・中流部では,設定流量に対して,適切なゲート開度が与えられると,必要流量が分水可能で,10%以内の誤差となる.しかし,下流部では,流量変動が大きい場合、誤差が10%以上であり,事前開放等の別の措置が必要であることが分かった.

 第5章では,本研究で新たに得られた知見を要約し,提案したモデルを適用すれば,分水工のゲート操作開度の策定とその遵守により、分水精度が予見可能であることを示した。特に、(1)水分配モデルにより,幹支線全体における流況のシミュレートが可能となったこと,(2)水分配の誤差を減少するには,特にゲート開度の決定が重要であること,(3)必要用水量に対応するゲート開度の合理的な決定が可能なこと,(4)動線を考慮したゲート操作スケジュールを考慮することで,管理人数が変化した場合でも,2時間程度の操作遅れで収まる場合,誤差の影響が少ないこと.について論じた。

 以上、本論文は、アジアモンスーン地域の長大水路におけるゲート管理手法の改善を通じて、水利用効率向上に関する重要な知見、提案を示すなど、学術上寄与するところが大きい。よって、審査委員一同は本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。

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