学位論文要旨



No 122072
著者(漢字) 梶原,福太郎
著者(英字)
著者(カナ) カジハラ,フクタロウ
標題(和) 重心系衝突エネルギー200AGeV金・金衝突における重いクオークの半レプトン崩壊からの単電子の測定
標題(洋) Measurement of Single Electrons from Semi-Leptonic Decay of Heavy Quarks in Au+Au Collisions at Root Snn = 200 GeV
報告番号 122072
報告番号 甲22072
学位授与日 2007.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第4935号
研究科 理学系研究科
専攻 物理学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 徳宿,克夫
 東京大学 講師 平野,哲文
 東京大学 教授 櫻井,博義
 東京大学 講師 井手口,栄治
 東京大学 教授 駒宮,幸男
内容要旨 要旨を表示する

 Strong suppressions of light flavored mesons in high transverse momentum (pT) region at midrapidity have been observed in high energy heavy-ion collisions at the Relativistic Heavy Ion Collider (RHIC). These suppressions are well explained by "partonic energy loss", or "jet quenching" effect, where high-pT-scattered gluons and light quarks suffer a significant energy loss by gluon radiations in the extremely dense matter. These results reveal that the medium created at RHIC is not conventional hadronic matter.

Open charms/bottoms are also important probes for high energy heavy ion collisions. So far, the energy loss of heavy quarks was theoretically predicted to be smaller than that of light quarks due to their large masses ("dead cone effect"). To measure open charm/bottom in high energy heavy ion collisions, we performed an indirect measurement in the PHENIX experiment, which is to measure single electrons (0.3 < pT< 9 [GeV/c]) from semileptonic decays of heavy quarks at midrapidity (|y|< 0.35) in Au+Au collisions at 〓sNN = 200 GeV (RHIC Year-4 run).

The obtained invariant yield as a function of pT shows a very strong suppression relative to the expectation from p+p collisions. On the other hand, the total invariant yield has binary-scaling property. These results indicate that heavy quarks also suffer the substantial energy loss in the medium produced at RHIC, but can not be explained by typical models of partonic energy loss, which are applied to suppression phenomena of light flavored mesons.

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は8章からなる。第1章は序章でありこの研究の背景が簡潔に述べられている。第2章ではさらに詳しくこの研究の理論的・実験的背景が述べられ、第3章では実験装置の詳細な説明、第4章では使用したデータに関しての説明が述べられている。第5章で実験データの解析手順が詳細に説明した後に、第6章で実験結果が提示してある。第7章ではその結果と様々な理論予測との比較を行ったあと、第8章で全体のまとめとなっている。

 本論文は、高エネルギーの重イオン重イオン衝突反応での重いクォーク生成反応を、重いクォークの崩壊からくる電子を捕えることで研究したものである。本研究は、米国ブルックヘブン国立研究所に建設された重イオン衝突型加速器(RHIC)において得られた、重心系エネルギー200AGeVでの金・金衝突事象を用いて行われた。

 高エネルギーの重イオン反応では、高温高密度の核物質が生成され、核子を構成するクォークとグルーオンからなる新しい相が起こる可能性が示唆されている。既にRHICからの実験結果として、高い横運動量を持つパイ中間子の生成量が、陽子・陽子衝突の単純な重ね合わせから考えるより減っていることや、ジェット現象の頻度が少なくなっていることなどが発表されており、高密度の環境において、核物質を通過中に、衝突で生じた高い横運動量を持つクォークのエネルギーが、大きく減衰しているという考察が得られていた。論文提出者は重いクォークでは減衰の度合いが軽減されるはずであるという理論予測があることに注目し、これを、世界で初めて高統計で測定することを考えた。

 重いクォークの生成を直接見るにはデータの統計が不足しているので、提出者は、重いクォークの崩壊からくる電子を捕えることにした。しかし、中性パイ中間子の崩壊などが起源の電子のバックグランドが非常に多いため、よい峻別手段を得ることが実験の大きな鍵となる。論文提出者は、パイ中間子の生成量からモンテカルロ模型を使ってバックグランドを見積もる方法と、実験的に故意にバックグランドを増やすことでその変化量を実測する方法との2通りで見積りを行い、両者が誤差の範囲で一致することを確認したうえで、重いクォークからの寄与を取り出すことに成功した。この手法は複雑であるが、非常に注意深く行っており、信頼性が高く、世界で初めての実験結果を得ることができた。

 測定結果からは、重いクォークの生成量は、比較的低エネルギーまで含めると、陽子・陽子衝突の重ね合わせと誤差の範囲で一致するが、高い運動量の領域では重いクォークが少なくなっていることがわかった。その減少の度合いは、軽いクォークの場合と同程度までになっており、重いクォークではその度合いが少なくなるとする単純なエネルギー減衰のモデルでは説明できないことがわかった。この意外な結果を説明するために、現在様々な理論モデルが提唱されてきたが、確定的なものはない。この研究は、高温高密度状態でのクォークの相互作用を研究する上で、非常に質の高い重要な情報を与えるものであり、実験結果自体で学位にふさわしい業績と考える。

 なお、本論文は、国際共同実験グループPhoenixでの共同研究であるが、この研究に関しては論文提出者が主体となって解析しており、また実験遂行に当たっても、論文提出者はデータ収集のためのトリガーの整備等で大きな貢献をしている。したがって論文提出者の寄与が十分であると判断する。

 したがって、博士(理学)の学位を授与できると認める。

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