学位論文要旨



No 122118
著者(漢字) 太田,一陽
著者(英字)
著者(カナ) オオタ,カズアキ
標題(和) 高赤方偏移銀河の観測で探る銀河の形成・進化と宇宙再電離の歴史
標題(洋) The Galaxy Evolution and Reionization Probed by Observations of the High Redshift Universe
報告番号 122118
報告番号 甲22118
学位授与日 2007.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第4981号
研究科 理学系研究科
専攻 天文学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 吉井,譲
 東京大学 教授 川邊,良平
 東京大学 助教授 田中,培生
 国立天文台 助教授 山田,亨
 京都大学 助教授 戸谷,友則
内容要旨 要旨を表示する

 The most distant and the oldest galaxies spectroscopically confirmed to date have been Lyα emitters (LAEs) at redshift z= 6.6. Recently, several candidate galaxies at z>6.6 have also been found photometrically. However, these objects are too faint and spectroscopic confirmation of their redshifts is not likely feasible with current 8-10m class telescopes.

 We made a narrowband NB973 (bandwidth of 200Å centered at 9755Å) imaging of the Subaru Deep Field (SDF) using Subaru/Suprime-Cam and found two z=7 LAE candidates photometrically among 41, 533 objects detected down to NB973=24.9 (5σ, 2" aperture). Carrying out deep follow-up spectroscopy with Subaru/FOCAS, we identified the brighter of the two candidates as a real z=6.96 LAE. This demonstrates that galaxy formation was under way when the Universe was only 〜6% of its present age, establishing a new redshift record.

 On the other hand, it was recently found that the Lyα line luminosity functions of LAEs reduces to 40-60% from z=5.7 to 6.6 in the SDF. We also found the number density of z=7 LAEs was even only 17-34% of the density at z=6.6. This series of significant decreases in LAE density can be the result of galaxy build-up process during these epochs. However, considering the small evolution seen in the UV continuum luminosity function of LAEs, we suggest that this could be due to the completion of the reionization at around z 〜 6, beyond which the fraction of the neutral IGM hydrogen rapidly increased and attenuated the Lyα photons from LAEs.

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、すばる望遠鏡と独自開発の狭帯域フィルターを用いて、赤方偏移z=7のライマンα輝線銀河(LAE)を世界で初めて発見し、その赤方偏移に対応する時期とそれ以後の銀河の個数密度との比較から、銀河の進化と宇宙再電離の完了時期を考察したものである。

 本論文は7章から成る。第1章ではこれまでの遠方銀河探査と宇宙再電離の観測的研究の現状が概述されている。これまで知られていた最遠方銀河は赤方偏移z=6.6のLAEであり、それより遠方の天体は見つかっていないことが述べられ、また、z=6頃であると分かってきた宇宙再電離の完了時期を検証するためには、z=7のLAEの探査が必要であるという観点にたって、本研究の動機づけをおこなっている。

 第2章では、z=7のLAEの試験探査の結果と、それに続く本格的な探査への応用についてまとめられている。すばる望遠鏡の微光天体分光撮像装置(FOCAS)用に、z=7のLAEのライマンα輝線だけを選び出す狭帯域フィルターNB980(中心波長9800Å)を試作して、撮像・分光観測をおこなったが、z=7のLAEの発見には至らなかった。その理由として、観測視野の狭さと銀河の非一様な空間分布特性の影響、積分時間の短さ、フィルター波長内にある夜光輝線の干渉フリンジが大きかったことなどがあげられ、必要な改善策についての考察がなされている。

 第3章では、必要な改善策を施した観測手法について述べられている。広視野のすばる望遠鏡主焦点カメラ(Suprime-Cam)用に開発されたz=7のLAE探査用の狭帯域フィルターNB973(中心波長9755Å)を用いて試験撮像を実施し、視野中心を少しずらして撮った画像からフリンジを適切に除去できることを確認し、約70倍の探査体積から銀河密度の空間的なばらつきの影響も最小限に抑えられることを確認した。この結果を受けて、すばるディープフィールド(SDF)をターゲット領域とした2晩の本観測をおこない、NB973は主焦点カメラの感度限界に近い波長であったにもかかわらず、深い撮像データを得ることに成功した。

 第4章では、種族合成法を用いたz=7のLAE候補の選出手法について述べられている。モデル銀河のスペクトルを構築し、シミュレーションによって、NB973撮像データとSDFの他波長撮像データを組み合わせ、z=7のLAE候補を測光によって選び出す方法を確立した。また、候補天体が変光天体でない可能性なども定量的に調査し、最終的には厳密に2個のz=7のLAE候補を選び出した。

 第5章では、選び出した2個のz=7のLAE候補が本物であるかどうかを同定するために、すばる望遠鏡のFOCASで分光観測をおこなっている。高赤方偏移ライマンα輝線の特徴である非対称性や、他の輝線とは異なることの確認など、厳密な同定にもとづいて、1つが確実にz=6.96のLAEであることを確認した。これにより、最高赤方偏移の観測記録を更新し、宇宙が現年齢の僅か6%の時代にも既に銀河が形成されていたことを明らかにした。もう1つの候補は、z=7.02のLAEの可能性が考えられるが、分光時間が短くS/Nも悪いため、確実な同定には至らなかった。

 第6章では、今回探査したz=7のLAEの個数密度と、SDFで既にサンプルのあるz=5.7、6.6のLAEの個数密度を比較して、LAE自身の進化と宇宙再電離の完了時期とについての議論がなされている。それによると、z=5.7から6.6でLAEの個数密度が0.4-0.6倍に、z=6.6から7では0.17-0.34倍に減少していた。この一連の減少は、これらの時代にLAE自身が進化した結果を反映している可能性がある。しかし、LAEの紫外光(UV)光度関数を調べた結果、z=5.7-7でほとんど個数密度の変化が確認されず、LAE自身の進化の可能性は低いと考えられた。また、別の高赤方偏移銀河であるライマンブレイク銀河のUV光度関数の外挿や、準解析的銀河形成モデルから、LAE自身の進化による減少量を見積もったが、それを考慮しても尚、z=5.7-7でのLAEの個数密度の減少を全ては説明できない。宇宙の再電離はz=6頃に完了し、それ以前の時代に遡るにつれ、宇宙に存在したまだ電離されていない中性水素の量が急増し、LAEの出すライマンα光子が顕著に吸収・散乱され、個数密度が減少すると予測されている。従って、本研究で検出した、銀河進化だけでは説明できないz=5.7-7での一連のLAEの減少は、z>6での中性水素量の増加を反映し、z=6頃が宇宙再電離の完了時期であったことを支持すると考えられ、本論文ではこれを結論としている。

 第7章では、結論として本研究で得た結果を要約し、今後の研究への展望が述べられている。

 以上、本論文は、z=7の時代に銀河が既に形成されていた証拠を初めて発見し、赤方偏移ごとの銀河の個数密度の比較から宇宙再電離の完了時期がz=6頃であることを示した先駆的研究として高く評価できる。なお、本論文の一部は家正則、柏川伸成、古澤久徳、橋本哲也、服部尭、松田有一、諸隈智貴、大内正己及び嶋作一大との共同研究であるが、論文提出者が主体となって解析及び検証を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。よって、審査員全員一致で博士(理学)の学位を授与できると認める。

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