No | 122129 | |
著者(漢字) | 宮入,陽介 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ミヤイリ,ヨウスケ | |
標題(和) | 第四紀後期に噴出した火山灰の年代測定法 : 高精度放射性炭素年代測定法及び赤色熱ルミネッサンス年代測定法の改良と第四紀年代層序への応用 | |
標題(洋) | New measure for determination of Quaternary volcanic eruption age using Accerelator Mass Spectrometric Radiocarbon dating and Red Thermoluminescence dating | |
報告番号 | 122129 | |
報告番号 | 甲22129 | |
学位授与日 | 2007.03.22 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(理学) | |
学位記番号 | 博理第4992号 | |
研究科 | 理学系研究科 | |
専攻 | 地球惑星科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 大規模な火山噴火では、その噴出物は広域に飛散され同時間面を形成するため、地質学的、考古学的分野な鍵層として利用されている。つまり、大規模噴火の年代値は、地質学的には他の堆積層における年代値の基準、考古学上では考古遺跡及び考古遺物の年代値の基準として利用されている。そのため、テフラの高精度な年代測定や信頼性の高い年代測定手法の確立が重要である。現在から約5万年前までのテフラでは、主に放射性炭素年代測定法(以下(14)C法と表記)を用いて年代測定が行われ、また約10万年以前のテフラでは、主にK-Ar法を用いた年代測定が行われている。 しかしながら、(14)C年代測定の測定限界に近くなる数万年前の火山噴火年代測定では測定値にばらつきの多いことが指摘されている。本論文では第2章において、(14)C年代測定の試料選択法を検討し、過去約50,000年間におけるテフラの高精度(14)C年代測定法を確立した。特に、姶良-Tn(AT)テフラの年代測定において問題となっていた(14)C測定手法間の年代値の系統的な違いについて、同一試料を用いた(14)C測定手法間クロスチェックを行いその原因を検討した。その結果、測定試料選択と測定前処理の違いの二点において年代値の系統的な違いを生じる可能性があることを指摘した。この改良した(14)C年代測定法を適用し新たにATテフラと支笏第一(Spfa-1)テフラについて高精度年代測定を行った。その結果、ATテフラの(14)C年代は25,120±270BP,Spfa-1テフラは38,100±600BPであることが明らかになった。 (14)C年代の適用年代域はその半減期から考えて現在から約5万年前までである。その5万年前からK-Ar法の適応域の始まる10万年前までの年代域に噴出したテフラの年代を測定する場合には、十分な信頼に足る年代測定手法が確立されているとはいえない。本論文ではこの問題を熱ルミネッセンス年代測定法(以下TL法と表記)を用いて解決をした。TL法はその適用年代範囲が現在〜最大百数十万年前程度であり、5万年前〜10万年前間に生じている(14)C法とK-Ar法適用の空白域をカバーできる年代測定手法である。このTL法を用いて高精度、高信頼度のテフラの噴出年代測定法が確立できれば、この年代域の火山の噴火史の解明と地形・堆積物の編年に飛躍的進展が期待できる。しかし、従来のTL法のテフラに対する測定手法やその信頼性は十分には確立していない。 本論文では、テフラ中の石英粒子を用いた年代測定、特にその赤色のTLピークを用いた測定(RTL測定)に着目した。火山起源石英のTL測定においては、赤色の発光ピークが卓越していることが、以前から指摘されており、従来の青色発光ピークのTLピークを用いたTL測定(BTL測定)に比べ、精度の高い測定ができる可能性か高いことが指摘されている。しかし、TL測定において赤色発光をとらえるには加熱時に生じる黒体輻射の影響を減少させる必要があった。 本論文の第3章では、テフラに対するTL年代測定手法の開発及び適用について検討した。まずテフラの年代測定にRTL法を適用するために、RTL測定手法の改良を行った。黒体輻射の影響を減少させるため3点の改良を行った。第一に、測定器の光学フィルターの選択の改善を行い、黒体輻射由来の赤外線の検出器への到達率を減少させた。第二にRTL測定法測定条件を改良し、ヒーターを発生源とする赤外線の検出器への到達率を減少させた。第三に試料の石英の純化工程に改良を加え、石英の純度をほぼ100%にまで上げることが可能になった。この改良により測定試料のRTL発光強度が増加し、黒体輻射由来の赤外線ノイズに対してS/N比(つまり、RTL信号に対する黒体輻射信号の比)が向上した。また、石英純化効率の大幅な向上により、従来測定が困難とみられていた石英含有量の極端に少ないテフラに対してもRTL測定を可能にすることができた。 RTL年代測定法は(14)C法やK-Ar法の適用できない試料での報告例が若干あるのみで、(14)C法、K-Ar法などの高精度測定による、独立の年代決定が行われているテフラでの測定値をクロスチェックした例はなく、本研究が初の定量的試みである。本論文の第2章において高精度に(14)C年代測定法で年代決定されたテフラを用い、このRTL法の信頼性の確認を行った。さらに、信頼性の高いK-Ar年代測定値と比較を行い、7ka〜600kaまでの広範な年代範囲で放射年代測定とほぼ同等の高精度年代決定が出来ることを初めて明らかにした。(図1) 新たに測定法を確立したRTL年代測定法を用い、今までにその予想年代範囲が(14)C法とK-Ar法の適用外であったため、放射年代測定値が無かった3点のテフラ(銭亀女名沢テフラ、九重飯田テフラ、鬼界葛原テフラ)について年代測定を行った。銭亀女那沢テフラは函館沖を給源とするため北海道全域及び十勝沖における重要な示準テフラであるものの、その噴出時期が5〜10万年の時期に入るため年代がよくわかっていなかった。今研究で初めて年代値を得ることが出来た。また、九重火山の九重飯田テフラは同時期に活発化した阿蘇火山及び九重火山の噴火において重要な指準層となっている。そのため、多くの(14)C年代測定及びFT年代測定が行われてきているが、(14)C法では測定限界を超え、フィッショントラック(FT)法の測定では測定精度が十分とはいえなかった。また鬼界葛原テフラ(K-Tz)は先行研究におけるFT年代測定での精度が悪く、今まで用いられてきた年代値は層位関係からの推定値であった。九州から南東北近辺まで観察される広域テフラとして重要な示準層になる鬼界葛原テフラに対して、本研究により層位学的な推定値に初めて年代学的裏付けを与えることができた。 これらの測定結果は以下の通りである。銭亀女那沢テフラは85.0±10.2ka、九重飯田テフラは64.4+7.0kaであった。そして、鬼界葛原テフラ(K-Tz)の年代は96.7±7.1kaである。この結果はそれぞれの層序学的に予想された年代と矛盾しないものとなり本研究で確立した方法の有用性が確認された。従来の年代測定では、これらのテフラについて年代測定の技術的な問題で十分な精度をもった年代値を入れることが出来ておらず。本研究は、RTL法を採用することによりこれらの5〜10万年の年代域にあるテフラに対しても精度よい年代測定が可能なことを示した。 図1 高精度放射年代とRTL年代の比較 | |
審査要旨 | 本論文は,第四紀後期の火山噴火の年代測定手法を大幅に改良したものである.本論文は5章からなる.第1章では過去の関連研究をレビューし,本研究の目的を説明した.第2章では,加速器質量分析計(AMS)を使用した放射性炭素年代測定法((14)C法)を用いて,火山噴出物(テフラ)の年代を高精度で決定した.具体的には,サンプルの堆積後や実験室での二次的汚染について評価し,炭化木の試料選別法を新たに提案して,過去50,000年前までの高精度測定法を確立した.最初に,先行研究におけるテフラの(14)C年代の不一致について検討を行い,β線計数法の前処理過程ではAMS法よりも現代炭素による汚染を受けやすいことを指摘した.次に,前処理の段階ごとに汚染の生じやすい作業箇所を検討し,それらを改良することにより,低バックグラウンドの液体シンチレーション前処理システムを構築した.こうして確立した手法をATテフラとSpfa-1テフラに適用した.両テフラの(14)C年代は25,120±270BPと38,100±600BP(29.8calBP-30.8calBPと40,800-44,000calBP)であった.この結果は,深海堆積物コアから得られた酸素同位体層序と一致した. 第3章では,赤色熱ルミネッセンス(RTL)年代測定法を用いてテフラの年代を高精度で決定した.第四紀後期テフラの年代決定における最も深刻な問題として,(14)C法が適用できる現在〜50,000年前と,カリウム・アルゴン法が使用可能な約10万年前以前との間に50,000年間のギャップがあることと,放射性元素を含む鉱物やサンプルの偏在性があげられる.本研究ではそれらを克服すべく,RTL年代測定法に着目した.RTL法をテフラに適用する場合,測定の妨害となる長石類及び火山ガラスの除去が大きな課題であったが,本研究では珪弗化水素酸を用いた前処理と重液分離を組み合わせることにより,試料をほぼ完全に純粋な石英とする処理を可能とした.これにより,石英含有量が非常に少ないテフラ(1%以下)の測定を可能とした.また,測定シーケンスにSAR法を適用するとともに,測定試料の採取地をテフラの給源近くに限定し,試料中からの放射性元素の溶脱や含水量変動の影響が少ない環境で採取を行うことにより,蓄積放射線量と年間放射線量の見積精度を向上させた.さらに,TL測定装置にも検討を加え,ルミネッセンス光検出器に装着するフィルターの選択および測定に用いる試料皿の改良によってTL信号ピークと黒体輻射を分離し,測定精度を向上させた. 改良したRTL法の信頼度を,放射性元素によるテフラ年代と比較することにより検討した.自ら提案した(14)C法により測定したATテフラとSpfa-1テフラの年代と,既存文献における池田湖テフラと樋脇テフラの年代値は,RTL法による年代値と極めてよく一致し,後者が(14)C年代法・K-Ar年代法に匹敵する精度を持つことが判明した.したがって,放射年代測定の適用できない5〜10万年前のテフラに対して,今回提案したRTL法が有効と判断される. このRTL法を,噴出年代が不確定な3つのテフラである銭亀女那沢,九重飯田,鬼界葛原(K-Tz)に適用した.その結果はそれぞれ,85.0±10.2ka,61.5±5.0ka,96.7±7.1kaとなった.鬼界葛原テフラは酸素同位体ステージ(MIS)の5後半に噴出したことが分かっている広域テフラであり,重要な示準層であるが,先行研究のFT年代測定値は測定誤差が大きく,サブステージを決定できる精度はなかった.今回の測定値によって,K-Tzテフラの噴出時期をMIS5bと決定できた. 第4章では本研究の意義を検討した.今回提案した手法によって従来よりも精密な測定ができたことを,既存研究との詳しい比較を通じて確認した.また,他の年代測定法との比較や,第四紀の年代層序学との関連を論じた.第5章では本論文の結論を述べた. 以上のように本研究は鍵層としての価値がきわめて高い第四紀のテフラ層を高精度で年代測定する手法を提示したものであり,種々の手法的な改良を組み合わせることによって,従来は達し得なかった測定精度を実現したものである.本研究の成果を今後,噴出年代の不確定なテフラについて適用していくことにより,第四紀後半の環境復元に極めて重要な情報を与えることができる. なお,本論文の第2章と第3章は,兼岡一郎らとの共同研究であるが,論文提出者が主体となって調査・解析を行ったものであり,論文提出者の寄与が十分であると判断する.よって博士の学位を授与できると認める. | |
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