学位論文要旨



No 122139
著者(漢字) 大石,裕介
著者(英字)
著者(カナ) オオイシ,ユウスケ
標題(和) 地磁気ダイナモシミュレーション : 内核境界のダイナモ作用への影響
標題(洋) Geodynamo simulations : Effects of the inner core boundary on dynamo action in the core
報告番号 122139
報告番号 甲22139
学位授与日 2007.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第5002号
研究科 理学系研究科
専攻 地球惑星科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 本多,了
 東京大学 教授 星野,真弘
 東京大学 教授 歌田,久司
 東京大学 助教授 岩森,光
 東京工業大学 教授 本蔵,義一
 東京大学 教授 浜野,洋三
内容要旨 要旨を表示する

地球の歴史の初期において地球コアは完全に溶融しており,その後の冷却に伴って内核が形成したと考えられている.内核形成年代はよくわかっていないが多くのモデルが太古代または原生代であったことを示唆している(e.g. Stevenson et al., 1983).一方で,古地磁気測定によると地球磁場は少なくとも35億年前には存在していた(McElhinny and Senanayake, 1980).従って,もし内核の形成年代が太古代以後であったとすると,地磁気ダイナモは内核のない状態で10億年以上,磁場を生成していたことになる.われわれは内核の存在がダイナモ作用に及ぼす影響を明らかにするために,内核のある場合とない場合のMHDダイナモシミュレーションを実施した.

内核の有無は対流領域の形状のほか,対流の駆動源にも相違をもたらす.内核形成以前はコアの冷却と放射性元素による内部発熱が主に対流を駆動するが,内核形成に伴い軽元素や潜熱の放出が下部境界において新たに浮力を生み出す.そこで本研究では内核の有無・対流の駆動源を,(1)内核なし・冷却のみ,(2)内核あり・冷却のみ,(3)内核あり・冷却と下部加熱(4)内核あり・下部加熱のみ,と設定した4つのケースのシミュレーションを行った.本発表ではこれらの結果に基づき,対流領域の形状と対流の駆動源のそれぞれがコアの対流および生成される磁場に及ぼす影響を明らかにし,地磁気ダイナモにおける内核の影響について議論した.

下部加熱の有無の対流への影響としては,(1)下部加熱があるときに内核境界付近での流れ場が発達し,(2)下部加熱がないときには,コアマントル境界下部での流れのみが活発化した。また,レイリー数の増加に伴い,特に下部加熱がある場合に,タンジェントシリンダー(内核に沿った回転軸に平行な仮想的な円筒)内部での対流が活発化した。内核の有無の形状による影響としては,(1)内核がある時にはタンジェントシリンダーに沿って,赤道面に向かう上昇下降流が発生したのに対し,(2)内核がないときには,回転軸付近で赤道面を貫くような流れが発達した。コア全体の平均運動エネルギーは,レイリー数とコアマントル境界の熱流量に対する下部加熱の寄与の割合の双方にほぼ比例し,内核の有無の形状による影響は見られなかった.

ダイナモ作用の影響として,下部加熱がある時のほうがない時よりも磁場生成の効率がよく,約30%,下部加熱がない場合よりも磁気エネルギーが増加した.しかし,増加した磁気エネルギーは,高波数成分でかつ,トロイダル成分が卓越していたために,表面磁場強度においては影響がなかった.また,コア表面の磁場のパターンに関しては,内核の有無の影響がみられ,(1)内核がある場合には,タンジェントシリンダーに沿う上昇・下降流に磁力線が集中したのに対し,(2)内核がない場合には,回転軸に沿って赤道面を貫く流れに磁力線が集中した.その結果として,軸対称性は内核がない場合のほうがよく,ダイポールの傾きが小さくなる傾向が見られた.

内核形成以前の磁場に関して,今回の結果からいえることは,ダイポールの傾きが小さかったことである.また,内核の形成に伴う内核境界付近での組成対流および潜熱の開始に伴い,磁場強度が強くなり,それ以前は弱かったという可能性が指摘されていた(Hale, 1987).しかし,本研究の結果では,表面磁場強度はコアマントル境界での熱流量でのみ決まり,下部からの浮力の効果は見られない結果が得られ,その可能性には疑問を呈するものとなった.実際、近年の信頼性の増した古地磁気強度測定法による磁場強度の測定では,太古代の磁場強度も現在とほぼ変わらないという結果がえられており(e.g. Smirnov et al., 2003),本研究の結果と整合的である。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は2部10章から構成される。1章は全体の導入部である。第1部(2章から5章)では、地球に近づけた物性パラメーターでの計算を実施するために、従来のダイナモシミュレーション手法に比べてより解像度が高く、高速の計算が可能な新しい計算方法を開発し、ダイナモシミュレーションを実施したことが述べられている。また第2部(6章から9章)では、コア内部の熱条件に着目し、地球内部で考えられるような内核表面の熱境界条件をパラメータとして、ダイナモシミュレーションを行い、生成される磁場の安定性と熱境界条件との関係を吟味している。

 2章は第1部の導入部である。3章では今回開発された新方法(フーリエスペクトル法)の定式化と計算コードを作成し、地球シミュレータへの適用までがまとめられている。4章では開発されたコードを用いて実際にシミュレーションを行なったことが示されている。まずダイナモシミュレーションコードのチェックに標準的に用いられているベンチマークテストの計算を実施し、開発されたコードがダイナモシミュレーションを正しく行なっていることを示している。さらにもう一桁エクマン数を小さくしたモデルでダイナモ計算を行い、従来のスペクトル法と同様の結果が得られることを検証している。5章では開発された新手法に基づく計算と従来のスペクトル変換法との計算速度の比較を行い、解像度が256次を超える高解像度の計算を行う場合には、従来のスペクトル変換法に比べて開発された方法がより有利で計算速度が速くなることを示している。現在の地球シミュレータの能力では、本計算コードの能力を十分に発揮することは難しいが、より能力の高い計算機では本計算コードが有用で、より現実の地球に近づけた計算が可能であると結論している。

 続く6章から9章が第2部である。第6章は第2部の導入部である。従来のダイナモシミュレーションの多くは流体層(外核)の上下の温度を固定した定常熱対流を駆動力とするダイナモモデルであり、マントルからの冷却を駆動源とする実際の地球とは異っている可能性がある。従来のダイナモモデルでは、内核表面と外核表面の境界の表面積の違いにより、内核表面での熱流量が大きくなり、内核境界近傍の運動が活発にする。一方、実際の地球ではマントルからの冷却が原動力となっているため、外核表層の運動が活発になる可能性が示唆される。このような考察から、本研究では内核表面の熱条件をパラメータとして変えてダイナモ計算をおこなっている。また内核の存在の影響を調べる為に内核がない場合に付いてもダイナモシミュレーションを行なっている。地球の内核はコアの冷却のために地球進化過程のある時期に誕生して成長してきたと考えられており、内核のないダイナモモデルは、地球の初期の磁場の様子を推定するためにも重要である。7章ではこのダイナモモデルの定式化が述べられ、8章で実際にシミュレーションの結果が述べられる。計算のパラメータとしてはコアからマントルへの熱流量に比例するレーリー数(Ra)と、内核表面から外核への熱流量とマントルから逃げ出す熱流量の比(Q)を用いて、パラメータスタディーを行なっている。計算結果の解析からは、速度場や磁場の空間分布、運動エネルギーや磁気エネルギーのRa依存性が、Qによって違ってくる様子が示されている。Raを一定とした場合、流体核内部での速度場及び磁場はQによって違っているが、表層の速度場やコア外部の磁場はQに依存しないこと等、地球磁場からコア内部の状態を知る上で、興味深い結果が得られている。次の9章では、重要な成果として、磁場の実空間及び波数空間での振る舞い、磁場の安定性等がRaとQによってどのように異ってくるかが示される。特に双極子が卓越した安定なダイナモ状態から、非双極子が大きく不安定なダイナモへの転移するRaが、Qによって変化することが示されたことは、地球磁場の変動の原因を考える上で重要である。最後に10章では第1部及び第2部の研究によって得られた知見が簡潔にまとめられている。

 以上述べたように、本論文は、大規模なMHDダイナモシミュレーションを実施することによって、コアのダイナモ作用による磁場生成過程を解明するための、あたらしい知見を得ている。特にコア表面での熱境界条件が一定であっても、内核表面の熱境界条件によって双極子が卓越する磁場から不安定な磁場に移り変わることを見出したことは、コアダイナミクスを理解する上で重要な発見である。

 なお、本論文第1部については、櫻庭中・浜野洋三との共同研究であるが、論文提出者が主体となって定式化及びシミュレーション計算を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。

 以上の理由より、博士(理学)の学位を授与できると認める。

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