学位論文要旨



No 122153
著者(漢字) 付,广裕
著者(英字) Fu,Guang yu
著者(カナ) フ,ゴンヨウ
標題(和) 3-D不均質地球モデルにおいて潮汐力及び地震によって生じる重力変化
標題(洋) Surface Gravity Changes Caused by Tide-Generating Potential and by Internal Dislocation in a 3-D Heterogeneous Earth
報告番号 122153
報告番号 甲22153
学位授与日 2007.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第5016号
研究科 理学系研究科
専攻 地球惑星科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大久保,修平
 東京大学 教授 ゲラー,ロバート
 東京大学 教授 川勝,均
 東京大学 教授 加藤,照之
 東京大学 助教授 孫,文科
内容要旨 要旨を表示する

 本研究は3-D不均質地球モデルにおいて潮汐力及び地震によって生じる重力変化を調べたものである。

 一般的には、3-D不均質地球モデルに関する変位は球対称解と3-D効果による解という二つの部分に分けられることが証明されている。球対称地球モデルの解は球対称解であるとして、Takeuchi and Saito (1972)、Sun (1992)などは解を得た。3-D効果は地球の横方向の不均質の効果であり、さらに三つの部分に分けることができる。つまり、P波速度、S波速度と密度の効果である。あるいは弾性パラメーターλ、μと密度の効果といえる。Molodenskiy (1977; 1980)の潮汐理論は密度の効果を無視して、P波速度とS波速度の効果のみを研究したものである。我々は密度の効果について計算公式を導きだし、Molodenskiyの潮汐理論を発展させた。我々の計算公式では高次数の結果も計算できるので、本理論は、潮汐、荷重、地震などの物理問題に応用できる。

 次に、本研究は趙(2001)が提案した3-DでのP波速度モデルに基づいて、Karato (1993)の経験式を利用して、密度とS波速度モデルを作った。この三つのモデルを本研究の入力データとした。さらに,半日潮汐に関する重力潮汐ファクタ変化を計算した。計算結果によると、三つのパラメーターの効果のオーダーは同じ程度であることが分かった。よって、3-Dでの密度の効果は無視できない。まとめて計算すると、重力潮汐ファクタ変化の最大値は0.16%になった。この結果によって、Molodenskiyが計算した海洋・陸地モデルの値は、大きすぎることが分かった。その上、我々は、日潮、半日潮と長周期潮汐に関する潮汐重力も計算した。計算結果は平均潮汐重力に比べて、日潮は0.15%、半日潮と長周期潮汐は0.15%変化していることがわかった。

 さらに、本研究は3-D不均質地球モデルにおける新しいDislocation理論を提案した。そのためには、いろいろな難点を乗り超える必要がある。例えば、震源の取り扱い、高次数の計算、六つの独立解の公式化、などである。我々は、次の六つの独立なDislocationを選び、それぞれの公式も導いた:横ずれ断層型Dislocationが一つ、正断層型Dislocationが二つ、Tensitle断層型Dislocationが三つである。一般的なDislocationの解はこの六つの独立なDislocationの解を利用して得られるので、一般的な解の公式も提案した。

 最後に、日本の南方(30°N, 135°E)に地震を仮定し、震源の深さは300キロメートと637キロメートとした。この深さ近傍では横方向の不均質が相対的に大きいため,この深さを選んだ。さらに、数値計算も行った。計算結果は、地震による重力変化の3-D効果は球対称解に比べて1.3%ぐらい変化になった。この値は震源の深さによって変わる。地震による重力変化の弾性パラメーターμの3-D効果は、ほか二つの効果より相対的に大きいことが分かった。3-D地球モデルは高次数になるほど、現実の地球に近くなり、球対称モデルとの差も大きくなると予想される。使った地球モデルの次数が高くなるほど、3D効果の影響も大きくなることが分かった。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は6章からなり、3次元不均質地球モデルにおいて潮汐力及び地震によって生じる重力変化を理論的に求めたものである。第1章はイントロダクションであり、先行研究のレビューがなされ、それらの問題点を論じることにより、本研究の位置づけと地球科学的意義について述べている。

 第2章では、3次元不均質地球モデルに関する、一般的な変形場を求める理論が展開されている。そこでは球対称構造に対する変形場に対して微小な摂動場を付け加えることにより、不均質性構造に対する変形場が表現できるとして定式化を進めている。球対称地球モデルの解はTakeuchi and Saito (1972)、Sun (1992)などの先行研究で得られているので、摂動解を求めることが本論文の主眼となる。一般に地球の3次元不均質構造には、地震波速度の不均質性と密度の不均質性とがある。本研究に類似した理論にMolodenskiy (1977)のものがあるが、そこでは密度の効果を無視して、P波速度とS波速度の効果のみを研究したものである。本研究では密度の効果についても計算公式を導きだした。またMolodenskiyの潮汐理論では、2次の潮汐力ポテンシャルに対する地球の応答しか計算されていないが、本研究では3次以上の一般の潮汐力ポテンシャルに対する地球の応答も計算できる。以上を要するに、3次元不均質な地球について、潮汐力に対する変形理論を完成させたものと評価できる。さらにこの理論を発展させ、内部力源である点ディスロケーションに対する地球の変形応答の定式化を行った。これは、準静的な地球変形問題としては世界で初めての業績であり、審査委員会は高く評価した。

 次に第3章では、2章で展開された理論に基づく数値計算が実例として示されている。まず数値計算コードが正しいものであることを確認するために、Molodenskiy and Kramer (1980)と同一の3次元不均質地球モデルについて、半日周潮の重力潮汐定数の空間分布を計算した。計算結果は、強度も変動パターンも概ねMolodenskiy and Kramer (1980)を再現することができ、計算コードに大きな誤りがないことを確認している。さらに本研究ではZhao (2001)が提案した3次元不均質P波速度モデルに基づいて、Karato (1993)の経験式を利用して、密度とS波速度モデルを作った。この三つのモデルを本研究の入力データとした。さらに,半日潮汐に関する重力潮汐ファクタ変化を計算した。計算結果によると、三つのパラメーターの不均質性が重力潮汐定数に与える効果のオーダーは同じ程度であることが分かった。密度の効果は無視できるとされていた、従来の暗黙の仮定を明快に否定する結果を得た。まとめて計算すると、不均質構造の影響で重力潮汐定数は、日周潮は0.15%、半日周潮と長周期潮汐は0.15%程度変化することがわかった。これは現在のレベルの観測で検出するには小さいけれども、本研究の理論的な価値は近い将来の観測技術が進展したときには認められることとなるだろう。

 さらに、第4章では本研究では、3次元不均質地球モデルにおける、準静的なDislocation理論が提案されている。一般的なDislocationの解は、モーメント・テンソルの六つの独立な成分に対応した独立解の線形結合で表現できる。そこで本研究では、1つの横ずれ断層型の解、2つの縦ずれ断層型の解および3つの開口断層型の解を独立解に選び、その各々について、3次元不均質がもたらす摂動効果を定式化している。これは先行研究ではできなかったことであり、本研究の業績として認めることができる。

 さらに第5章では、4章の理論を用いて、シミュレーション計算がなされている。計算例では日本の南方(30°N, 135°E)に点震源を仮定し、震源の深さは300キロメートと637キロメートと100キロメートの3例について結果を示した。計算結果は、地震による重力変化は、地球が球対称であるときに比べて、3次元不均質性によって1.3%ぐらいの影響があらわれることがわかった。

 最後の第6章では、まとめとして結論および将来の研究についての展望が述べられている。

 以上を要約すると、本研究には、3次元不均質な地球が、潮汐力のような外力や地震のような内力に対してどのように応答するかを重力変化の観点から完全な形で定式化し、実際にモデル計算を行った、世界で初めての研究というきわめて重要な意義を認めることができる。したがって、博士(理学)の学位を授与できると認める。

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