学位論文要旨



No 122215
著者(漢字) ウェブスター ネイット アレクサンダー
著者(英字) Webster Nathan Alexander
著者(カナ) ウェブスター ネイット アレクサンダー
標題(和) 戦術的な車線変更挙動を含む交通シミュレーションのためのドライバーモデル
標題(洋) Driver Model for Traffic Simulation, with Tactical Lane Changing Behavior
報告番号 122215
報告番号 甲22215
学位授与日 2007.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6420号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 桑原,雅夫
 東京大学 教授 柴崎,亮介
 東京大学 教授 清水,英範
 東京大学 助教授 鈴木,高宏
 東京大学 助教授 清水,哲夫
内容要旨 要旨を表示する

(本文) Abstract

 Until now, the lane change models used in traffic simulators to model driver behavior have only considered the lane change maneuvers one at a time, and the state of the surrounding vehicles has been assumed not to change. To improve the realism and applicability of traffic simulators, a lane changing model which includes sequential planning has been developed. This can better represent real driver behavior in which entire maneuver sequences of multiple lane changes are considered. The states of one's own vehicle and surrounding vehicles are predicted using a forward search tree which branches at each new lane change decision point.

 The lane changing algorithm developed in this research is capable of modeling discretionary lane changes, and will be shown to make an improvement in the simulation realism performance in representing driver lane changing behavior, compared to the models used in today's traffic simulators. A real vehicle trajectory data set is used in the model calibration and validation. The improved algorithm was shown to improve the simulation realism, thereby improving transportation facility planning and management.

論文要旨

 既存の交通シミュレーターに活用される車線変更ドライバーモデルでは個々の車線変更行動しか考慮されず、周辺車両状況は静的であった。交通シミュレーターの再現性および実用可能性を向上するために、本研究では連続計画を含む車線変更モデルが開発された。本モデルは複数の車線変更を含む実際のドライバーの連続運転挙動をより現実性高く表現できる。各々の新しい車線変更機会に枝を分岐させるフォーワードサーチツリー法を活用し、自車及び周辺車両の軌道を予測する。

 本研究の車線変更アルゴリズムはdiscretionary車線変更をモデル化することができる。本研究のモデルは現在交通シミュレーターに活用されているモデルより、車線変更の運転挙動の再現性が高いことを検証した。実際の車両軌跡データを用いて、キャリブレーション及びバリデーションを行った。本研究のモデルの再現性向上により、交通施設計画、運用、および政策評価の信頼性の向上に役立つ。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は,微視的な車両挙動のモデル化に際し、数秒先までの予測行動を組み込むことによって、車両の追従挙動および車線変更挙動の再現性を向上させたものである。

これまでにも車両の追従および車線変更挙動をモデル化した研究は数多く見られるが、数秒先までの周辺車両の動きを予測しながら自車の挙動を決定するモデルは存在していない。時と場所によって様々に異なると考えられるが、運転者は多かれ少なかれ何らか周辺車の動きを予測しながら、運転行動を行っているものと考えられる。本研究では、オンランプとオフランプがいくつか存在する直線の道路区間を対象として、そこにおける車両の予測行動を組み込んだ戦術的な車線変更モデルを構築している。

本研究では追従モデルも車線変更モデルも、これまでに多くの検証事例があるGippsモデルをベースとしている。追従モデルについては、基本構造はGippsモデルそのままであるが、車線変更モデルについて予測行動を組み込んでおり、予測モデルの特徴は次のようにまとめられる:

・ ドライバーは予測時間にわたる近未来を予測し、その中で最適な挙動を選択する。

・ 予測時間に、もっとも移動距離を長く獲得できる挙動を最適な挙動と定義する。

・ 予測時間の間は、周辺車両は現在と同じ車線を同じ速度で走行すると仮定する。

・ 予測時間をさらに細かな時間間隔dtに分割し、dtごとに車線変更するかしないかを選択するツリーを構成し、その選択肢ツリーの中の最適な選択肢を選択させる。

このように予測モデル自体はシンプルではあるが、このような戦略的な行動を挙動モデルに組み込んだという点に新規性が認められる。

提案モデルは、サンフランシスコ郊外のハイウェイI-80で観測されたNGSIMデータを用いて、パラメータの同定および検証を行っている。NGSIMデータは約900mにわたる道路区間の車両挙動をビデオ観測したもので、すべての車両の走行軌跡が連続的に計測されており、本研究のような微視的な車両挙動の研究にはきわめて貴重なデータである。

提案モデルに内生化されている数種類のパラメータについては、マクロ的な観点から交通量-速度関係に対する感度分析を行っており、各パラメータとこの巨視的な交通状態との関係を明らかにしている。また、ミクロ的な観点からも車両走行軌跡や車線変更の有無がパラメータによってどのように変化するのかという感度解析を行い、その関係を明らかにしている。

本研究で定量的な解析を行ったモデルは、前述の通り比較的シンプルなものであり、各方面における拡張が考えられるが、今後のモデル発展の方向について具体的な考察を加えている。たとえば、最適基準の修正のあり方、予測時間内における周辺車両の挙動にも戦術的な行動を加味する可能性などであるが、これらは今後の微視的ドライバーモデルの研究に有用な指針を与えているものと評価できる。

以上のように、本研究は、車両の微視的な挙動モデルに近未来の予測という戦術的な要素を組み込んだ初のモデルとして学術的な新規性を有するものと評価できる。また実用上も、このようなドライバー行動の記述の改良によって、各種の交通規制・制御の設計と評価、さらにナビゲーションシステムなどの各種車載器の設計に貢献するものと認められる。

よって本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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