学位論文要旨



No 122219
著者(漢字) 大和田,瑞乃
著者(英字)
著者(カナ) オオワダ,ミズノ
標題(和) 超高齢社会における温泉地のユニバーサルデザインに関する研究 : 湯河原の温泉利用施設の連携に向けた基礎調査
標題(洋)
報告番号 122219
報告番号 甲22219
学位授与日 2007.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6424号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 長澤,泰
 東京大学 教授 難波,和彦
 東京大学 教授 岸田,省吾
 東京大学 助教授 西出,和彦
 東京大学 助教授 千葉,学
内容要旨 要旨を表示する

 現在、我が国では世界でも類を見ない高齢社会を迎えており、医療費の高騰が大きな社会問題となってきている。特に老人医療費の伸びが著しく、医療保険財政を安定化させるためにも、高齢期をいかに心身ともに健康で自立して過ごすかが、重要な課題となってきている。これに対し近年、温泉を健康の維持・増進、病後の療養などに積極的に活用しようという動きがある。

 国民健康保険中央会では、上記のような観点から平成12年9月、「医療・介護保険制度下における温泉の役割や活用方策に関する調査研究会」を設置して、温泉を保健事業や健康増進に活用することについて研究した。平成13年3月には、その研究結果を「医療・介護保険制度下における温泉の役割や活用方策に関する研究」という報告書にまとめている。それによると、温泉を活用した保健事業を積極的に推進している市町村では、老人医療費が低下しており、特に温泉をよく利用する人の医療費は平均して約6%の減少がみられるとの結果を示している。

 このような高齢者の医療費抑制効果への期待の他に、日本人が古来より温泉を愛し、長く湯治文化に慣れ親しんできていること、日本が気候風土や温泉資源に恵まれた国であるというような歴史・気候・地理的背景からも温泉の有用性が着目されている。また温泉医学の多くの研究においても、温泉の健康への効果が示唆されている。以上の理由から、温泉を精神的なリラックスや休養のためだけではなく、本来の湯治という目的に立ち返り、疾病の予防・健康の維持増進・病後の療養などに広く積極的に活用していくことは、これからの超高齢社会において、大変有意義であることが推測されている。

 こうした温泉の保健・医療面での利用は、休養・保養・療養(リハビリテーションを含む)に分けることができる。このうち休養は、ストレスの多い日常生活の中で蓄積する疲労を取り去る目的で、1〜3日温泉地に滞在する形である。温泉旅館に1泊2日するという短期滞在のことで、現在の日本の温泉利用形態の殆どを占めている。保養とは、体力を蓄えて健康体を取り戻す目的で、1〜3週間と比較的長い期間を必要とする滞在の形態である。更に療養とは、病気の治療のために温泉を利用する形態である。現在の日本の温泉関連の医療機関でこうした療養を実施できる所は極めて少ない。

 本来は、温泉の目的(休養・保養・療養)に適した施設が、全国の温泉地に存在するというのが理想である。しかしこれまで日本では、そのような目的に応じた温泉地づくりや温泉利用施設の整備が全く行われてこなかった。そのため、新規にこうした施設を作ることは現状では不可能なので、既存の温泉利用施設の機能を、相互に連携させていくことが必要となっている。したがって、温泉利用施設の連携にはどのような形態があるかを、まず精査していかなければならない。

 同時に超高齢社会では、温泉地を訪れ、滞在する高齢者の増加が見込まれる。そのような状況に対応するために、温泉地のユニバーサルデザインの構成要素や温泉利用施設の建築計画上の留意点についても検討していくことが求められよう。

 本研究では温泉地の将来を見据え、検討しなければならない様々な課題に対応するために、神奈川県の湯河原温泉における温泉利用施設を対象に、様々な調査を行った。その調査結果をふまえ、本論文は下記のような内容によって構成されている。

 第1章では、温泉にまつわる社会的背景、理論的背景に触れ、本論文の研究目的について述べている。

 第2章では、全国の温泉の医療・保健的な利用形態の事例について調べている。温泉利用施設の複合の形態を収集し、分類して考察している。

 第3章では、神奈川県の湯河原温泉における温泉利用施設に関する調査方法、調査期間、調査内容等について述べている。調査は、(1)施設提供者、(2)利用者、(3)施設・設備の確認、の3つの視点から実施している。(1)と(3)については全ての温泉利用施設に対して、(2)については病院と有料老人ホーム、グループホームを除いた温泉利用施設に対して行っている。

 第4章では、湯河原町について述べ、湯河原の温泉利用施設の概要や特徴、温泉の利用についての実態について説明している。

 第5章では、湯河原厚生年金保養ホームの利用者へのヒヤリング結果、温泉旅館館主へのヒヤリング結果、温泉旅館と日帰り温泉施設の利用者へのアンケート調査結果についての説明と考察を行っている。

 第6章では、湯河原における全ての温泉利用施設の施設・設備の整備状況の確認の結果を示し、考察を行っている。

 第7章では、上記の調査結果をふまえて、湯河原の温泉利用施設の現状と、それぞれの有意義な連携にはどんな形態が可能であるかについて述べている。

 第8章では、まずヨーロッパ(ドイツ・イタリア・フランス)の温泉保養地の事例を収集し、それぞれがどのような構成要素によって成り立っているのか、その特徴について明らかにし、温泉保養地に必要な施設と環境について検討している。またヨーロッパにおける温泉保養地の、施設計画上の留意事項についてまとめている。

 次に日本の温泉保養地について、国民保養温泉地の基準についての問題点に触れている。我が国唯一の温泉滞在型施設である厚生年金保養ホームについて、湯河原と湯布院の比較、前出のヨーロッパの温泉保養地の構成要素や滞在費の比較を行い、日本の温泉地に欠けているものに関する検討を行っている。

 最後に、湯河原を調査候補地として選んだ理由に触れ、湯河原の温泉保養地としての可能性について多方面から検証している。

 第9章(最終章)では、これまで得られた調査結果から、全国の温泉利用施設にも共通すると思われる、温泉利用施設の建築計画上の留意点についてまとめている。

 さらに第8章の温泉保養地としての可能性を受けて、湯河原温泉に対し、具体的な施設間の連携に関する提案を行っている。

 またこれまでの調査結果、更に日本やヨーロッパの温泉保養地の事例を総括し、超高齢社会における温泉地のユニバーサルデザインとして考えられる要素について示し、その理由を説明している。

 最後に、今回の調査研究の限界について明らかにし、残されている今後の課題と、継続研究に向けた具体的な計画について示している。

 以下に、本論文における主な結果を総括する。

I.温泉利用施設の建築計画上の留意点

 利用者による温泉旅館の「温泉」「客室」「バリアフリー(建物内の垂直・水平移動、経路表示)」「水まわり」「清掃」「従業員」「料理」に対する評価、及び温泉利用施設の「施設・設備の整備状況に対する確認」の結果から、建築計画上、参考にすべき事例として下記の内容が明らかとなった。

(1)新築の温泉旅館に対しては、利用者による総合評価が高い。

(2)最近になって、浴室の数を増やした温泉旅館に対しては、利用者による「水まわり」に対する評価が高い。

(3)車椅子で進入できる大浴場や露天風呂、車椅子でも利用者できる専用客室(通称:ユニバーサルルーム)などを有する温泉旅館に対しては、利用者による総合評価が高い。

(4)大浴室までの動線が長い、途中に階段などがある温泉旅館や、階段が狭い、勾配がきつい、手摺がついていないというような温泉旅館でも、野趣溢れる露天風呂を持っていたり、温泉の効能に効き目があるなど、温泉自体に魅力のあるもの、または大浴室には行かれなくても客室に温泉かけ流しの内風呂があるというような選択肢があるものについては、利用者による総合評価が高い。

(5)利用者の多様なニーズ(脱衣室の備品充実やベビーベッドの設置、チャイルドルームやエステルームの完備、あかりの演出)への配慮がある温泉旅館に対しては、利用者による総合評価が高い。

(6)有料老人ホームや厚生年金保養ホームなど、主に高齢者が利用する施設の大浴室においては、利用者の入浴を見守ることのできる何らかのシステム(ルームキー等による大浴室入出管理、従業員の控室等)が必要である。

 次に建築計画上、検討が必要な事例としては、

(1)温泉利用施設で、階段昇降機や段差解消機等が形式的に設置されていても、係員を呼ばないと使えない場合、または自走式車椅子では通れない長いスロープがある場合、「水まわり」や「バリアフリー」に対する利用者の評価が低い。更に設置されていても、配管の故障で利用できない運動浴槽や個人浴槽などの温泉設備も問題である。

(2)温泉旅館で屋上に露天風呂を設置している場合は、「水まわり」に対する利用者の評価が低い他、自由意見の中では、その使いにくさや危険な経路であるとの指摘が多い。

(3)温泉旅館で大浴室がなく客室内に温泉の内風呂だけがあるものについては、狭い等の理由で「水まわり」に対する利用者の評価が低い。

(4)大浴室までの動線が長い温泉旅館では、「バリアフリー」に対する利用者の評価が低いものが多い。

(5)EVがなく階段だけで大浴室に行く温泉旅館では、「水まわり」に対する利用者の評価が低いものが多い。

II.湯河原温泉への提案

 今回の湯河原での温泉利用施設やその利用者に対する調査結果から、超高齢社会における湯河原温泉に対し、以下のような提案を行った。

(1)湯河原厚生年金病院との連携

湯河原厚生年金病院と温泉旅館が連携し、温泉旅館の利用者が1泊2日程度で、病院の健康相談や人間ドッグが受けられるようにする。

また隣接する厚生年金病院で現在使われていない病院の運動浴槽や個人浴槽を復活させ、厚生年金保養ホームの入居者にも使えるようにすることで、有意義な連携を構築する。

(2)温泉旅館同士の情報の連携

温泉旅館が小規模ながら多種多様な個性を持つ旅館の集まりであることから、旅館相互の情報を共有し、各旅館の強みを更に活かせるような連携を持つ。

(3)温泉旅館での2泊3日以上での休養・保養プラン

現状では、温泉旅館の利用客の大半は1泊しか泊まらないが、湯河原が温泉保養地として良い条件を備えていることをアピールして、宿泊数を延ばすような休養・保養プランを提案する。

(4)温泉旅館と厚生年金保養ホーム、有料老人ホームとの連携

湯河原には温泉病院をはじめとして、有料老人ホーム、厚生年金保養ホーム、グループホームといった入院・入居施設が多い。そうした病院や施設の入院患者・入居者と、その家族を対象に、湯河原の温泉旅館への宿泊割引などを企画する。高齢者を温泉地の病院、福祉施設に入院、入居することで、家族が交流できる機会を得ることができる。

(5)温泉旅館と介護ディサービスとの連携

平日の旅館は満室になる所が少ないことをふまえ、旅館の空室や温泉を湯河原町のディサービスの事業所として、地元住民が利用できるようにする。

(6)温泉資源のない市町村との連携

温泉資源のない自治体に対して、介護の地域支援事業の一環として、湯河原温泉旅館に宿泊させ、温泉に入浴させるようなシステムを作る

(7)地域住民との交流の仕掛け〜健康ウォーキングのための散策路整備と足湯の設置〜

湯河原は千歳川(途中で支流から藤木川)沿いに温泉旅館が点在している。健康ウォーキングには適切なこの川沿いの散策路を整備し、休憩処として足湯を設けることが、地元住民と滞在者、宿泊者相互の交流が生まれる仕掛けづくりとなる。

III.超高齢社会における温泉地のユニバーサルデザインの構成要素

 超高齢社会を迎えるにあたり、誰にとっても訪れやすく使いやすい温泉地を作っていくことが必要である。現在は、1泊2日で温泉旅館に宿泊するというような休養を目的とした利用が主流であるが、今後は一定期間温泉地に滞在し、温泉に入りながら生活して健康的に老いる、保養を目的とした滞在型の利用が多くなると考えられる。今回行った全ての調査結果、全国の温泉の医療・保健的な利用形態の事例、厚生年金保養ホームの形態、連泊を行っている温泉旅館の取り組み、そしてヨーロッパの温泉保養地の施設と環境から、日本の温泉地におけるユニバーサルデザインを構成する要素として、以下のような内容を選出した。

(1)日本の温泉地は山の迫る谷あいの狭い所に形成される関係上、温泉利用施設も傾斜地に立地することが多い。この時に問題となる垂直移動については、階段だけで対応するのではなく、できる限りEVも設置する。

(2)温泉利用施設については、何よりも温泉自体に魅力があることが必須である。バリアフリー的な配慮は必須ではないが、その場合はそれに代わる何らかの選択肢があれば良い。

(3)温泉利用施設内は、利用者が独力で移動できることを前提とする。車椅子については自走式を想定し、長いスロープを作らない。また利用者が操作できない階段昇降機や段差解消機などの、大型福祉機器の設置は控える。

(4)高齢者だけが利用する大浴室には、利用者の入退出をチェックするシステムが必要である。また個室浴室内には、非常用呼出ボタン等の設置が必要である。

(5)滞在型の温泉利用施設には、一人で宿泊できる部屋が相当数必要である。部屋は洋室、もしくは車椅子の座面の高さで小上がりとなった畳のスペースを含む和洋室が望ましい。

(6)滞在型の温泉利用施設には、料理人と話をしながら一人で食事をすることのできるオープンキッチン形式のしつらえや、比較的小規模な食堂等が必要である。

(7)滞在型の温泉利用施設には、収納スペースの充実の他、パブリックスペースにランドリー設備が必要である。また洗濯するまで汚れた下着等を格納しておく箱や袋、及び収納スペースも必要である。

(8)温泉利用施設の中で、循環式の大浴場では、レジオネラ菌等を抑制するため、塩素投入を採る場合がほとんどであるが、露天風呂や家族風呂等、比較的小規模な浴槽には、温泉がもつ本来の成分を活かしたかけ流し方式と併用することが重要である。

(9)滞在型の温泉利用施設の温泉の維持・管理においては、塩素の投入量と浴槽の換水率に配慮を要する。滞在日数が多くなるにつれて、湯上り後に肌が荒れるという塩素の影響を受けるようになる。

(10)滞在型の温泉利用施設では、栄養管理された3食の食事が必須であり、メニューや食数の選択も柔軟であることが望ましい。

(11)温泉地には、温泉利用施設から歩いて行ける自然豊かな公園や散策路が必要である。その敷地内や要所に軽運動ができる(イタリアの温泉保養地にある命の小路)のような設備があれば望ましい。

(12)温泉地の日帰り温泉施設においては、宿泊できる施設とは異なり、入浴後、同伴者との待ち合わせや休憩に利用する場所が限定されているので、大広間や休憩所等のパブリックスペースの広さや数の充実が必要である。

(13)温泉地での滞在は、転地により気候の作用を人体に与えるものなので、利用者に対して温泉地の気象データ(年間日照時間、風向、気温、湿度、降雨量、降雪量、花粉量等)を情報公開することが必要である。

(14)散策路、足湯、飲食店、商店、土産物店、朝市、公園、広場、イベント等、地元住民と温泉滞在者や宿泊者が互いに交流できるような場所、機会等の仕掛けづくりが重要である。

 今後の課題としては、湯河原以外の温泉地でも同様の調査を実施し、温泉利用施設の建築計画上の留意点や温泉地のユニバーサルデザインの構成要素について、同様の結果が得られるかどうか比較・検討していくことである。またこれらに対して、今回得られなかった新しい内容を見つけ追加していくこと、また今回得られた結果が該当しない場合には、その内容が本当に妥当なものであるか精査していくことである。

 また日本だけでなく、施設や環境の構成要素の異なるヨーロッパの温泉保養地でも同様に、(1)施設提供者、(2)利用者、(3)施設・設備の確認、を行うことによって、温泉地のユニバーサルデザインに関する更なる見解を深めていくことが必要である。これについては、平成19年3月に、イタリアの代表的国際温泉保養地のアバノテルメ<温泉地>に於いて、アバノ温泉協会、及びパドバ大学の協力を得て、視察、研究を実施する予定である。さらにイタリアを代表する温泉施設運営会社STBの所有する、2箇所のテルメ、並びにナポリ湾にある温泉保養の島イスキアにおいても同様の考察を行う予定である。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、温泉地を訪れて、そこに滞在する高齢者が増加することが予想される超高齢社会において、現実に検討しなければならないさまざまな課題に対応するために、神奈川県の湯河原温泉における温泉利用施設を対象にした徹底的・多面的な調査を基にして、温泉地のユニバーサルデザインの構成要素や温泉利用施設の建築計画上の留意点を策定することを目的としている。

 本論文は9章で構成される。

 第1章では、温泉にまつわる社会的背景や理論的背景に触れ、本論文の研究目的を述べている。

 第2章では、全国の温泉における医療・保健的な利用形態の事例調査について述べている。温泉利用施設の複合の形態を収集し、分類・考察している。

 第3章では、神奈川県の湯河原温泉における温泉利用施設に関する調査の方法・期間・内容等を述べている。調査は、(1)施設提供者、(2)利用者、(3)施設・設備の確認、の3視点から実施している。(1)と(3)は、温泉利用施設に対する悉皆調査、(2)については病院と有料老人ホーム、グループホームを除いた温泉利用施設に対して実施している。

 第4章では、調査地である湯河原町について述べている。温泉利用施設の概要や特徴、温泉利用についての実態について説明している。

 第5章では、湯河原厚生年金保養ホームの利用者へのヒアリング結果、温泉旅館館主へのヒアリング結果、温泉旅館と日帰り温泉施設の利用者へのアンケート調査結果についての説明と考察を行っている。

 第6章では、湯河原における全ての温泉利用施設の施設・設備の整備状況の確認の結果を示し、考察を行っている。

 第7章では、これまでの調査結果を踏まえ、湯河原の温泉利用施設の現状と、各施設間の有意義な連携にはどんな形態が可能であるかについて考察している。

 第8章では、ヨーロッパの三カ国、ドイツ・イタリア・フランスの温泉保養地の事例を収集し、それぞれがどのような構成要素によって成り立っているのか、その特徴について明らかにし、温泉保養地に必要な施設と環境について検討している。またヨーロッパにおける温泉保養地の、施設計画上の留意事項についてのまとめを行なっている。

 また、日本の温泉保養地について、国民保養温泉地の基準についての問題点に触れている。我が国唯一の温泉滞在型施設である厚生年金保養ホームについて、湯河原と湯布院の比較、前出のヨーロッパの温泉保養地の構成要素や滞在費の比較を行い、日本の温泉地に欠損しているものは何かを検討している。

 最後に、湯河原を調査候補地として選んだ理由に触れ、湯河原の温泉保養地としての可能性について多方面から検証している。

 第9章では、これまで得られた調査結果から、全国の温泉利用施設にも共通すると思われる、温泉利用施設の建築計画上の留意点についてまとめている。

 さらに第8章の温泉保養地としての可能性を受けて、湯河原温泉に対して具体的な施設間連携に関する提案を行っている。

 また、これまでの調査結果、さらに日本やヨーロッパの温泉保養地の事例を総括して、超高齢社会における温泉地のユニバーサルデザインを実現するために必要な要素について示し、その理由を説明している。

 最後に、今回の調査研究の限界について明らかにし、残された今後の課題と、継続研究に向けた具体的な計画について示している。

以上のように本論文は、現状では1泊2日で温泉旅館に宿泊するというような、「休養」を目的とした利用が主流であるが、今後は一定期間温泉地に滞在し、温泉に入りながら生活して健康的に老いる、「保養」を目的とした滞在型利用が多くなるといった超高齢社会における温泉地の役割の変化を予測して、そこでのユニバーサルデザインの構成要素の策定を目的として、湯河原の施設のハードとソフト両面からの詳細な調査により、さまざまな問題点を抽出し、結果の分析に基づいた問題の構造を究明して基本的な知見を示し、建築計画学の発展に大きな寄与をしたものである。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク