No | 122226 | |
著者(漢字) | 金,貞辰 | |
著者(英字) | KIM,JEONG JIN | |
著者(カナ) | キム,ジョンジン | |
標題(和) | 鉄微粉末混入によるコンクリート中の鉄筋腐食抑制技術に関する研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 122226 | |
報告番号 | 甲22226 | |
学位授与日 | 2007.03.22 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第6431号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 建築学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本研究の背景および目的 セメントが開発されてから現在に至るまで、多くの研究者達によってセメントを主原料とするコンクリートの力学的特性と強度発現など、主に性能向上のための研究が続けてきた。 一方、コンクリートの力学的特性と強度発現以外にもコンクリートの耐久性に関しての研究も進んで、最近ではコンクリート構造物の維持管理及び補修問題も注目されている。鉄筋コンクリート構造物は、コンクリートと鉄筋の複合材であり、力学的には、引張りに弱いコンクリートを鉄筋が補強し、また耐久性上はさび易い鉄筋をコンクリートが保護することにより、相互に相手の欠点を補う、優れた構造体である。日本の多くの社会資本が鉄筋コンクリート構造物であり、今後も鉄筋コンクリートに劣らない代替資材が開発さらない限り鉄筋コンクリートによる構造物が主流になるに違いない。 しかし、半永久構造物と考えられていた鉄筋コンクリート構造物は、時間の経過につれて次第に劣化し耐久性を喪失していく。この耐久性低下の要因としては、 ・材齢早期の養生が不十分な状態での乾燥収縮による表層劣化 ・寒冷地での凍結融解作用などの気象作用 ・塩害や中性化による鋼材の腐食とかぶりコンクリートの剥落 ・アルカリ骨材反応によるコンクリート内部の脇長劣化 ・繰返し荷重の作用による劣化の促進 ・施工不良に伴う品質の低下 などがあげられるが、これらのほとんどにはコンクリートの水密性や気密性が関与している。すなわち、コンクリートの耐久性低下は、各種イオンや水分、気体(酸素、二酸化炭素)のコンクリートへの浸透と、これら移動物質と水和生成物との反応に起因するものである。これらの物質移動は、物質単体の移動のみではなく、溶存イオンを伴う水分移動などのように複数の物質が移動する場合においては、物質の移流と移流に伴う化学反応も同時に起きることになる。 一般的に、コンクリート中の鉄筋は、セメント成分の水酸化カルシウム水溶液によるアルカリ性によって不動態化されて、さびにくくなっていると考えられていたが、実際は、コンクリート中に多く含有する空隙を介して、腐食反応に関与する酸素や水、塩化物イオン、あるいは、コンクリート中性化を促す炭酸ガスなどが侵入して鉄筋の耐久性を低減させる。 このような腐食に関与する物質の移動に対するコンクリートの耐久性向上を図るためには、水密性の向上やコンクリート中の細孔空隙量をできるだけ小さく抑えることが必要となる。実際のコンクリート構造物は、脱型後直ちに乾燥状態におかれるため、乾燥の程度によっては、表層部に微細ひび割れの発生や細孔空隙の増大をまねく可能性がある。 これまで、物質移動に関する研究として、Fickの拡散方程式の適用上問題や、浸透機構としての細孔壁面への固定塩分の影響、あるいは表面塩分量の経時的蓄積動態、さらに塩化物イオン拡散係数の時間の経過に伴う減少や温度による影響などについて多方面から研究が行われている。 コンクリート中への腐食要因物質の浸透問題は、移動経路としての細孔空隙構造と密接な関わりがあり、この構造の特定が支配的な要素をなすと考えられる。硬化前のプラスチック収縮による表層ひび割れや、硬化後の乾燥収縮による細孔空隙の増大、あるいは載荷によって発生した開口ひび割れなど、これらは全て物質の拡散経路となるので、その空隙構造の特性を把握する必要がある。 一方、このようなコンクリート中への腐食要因物質移動の遮断および鉄筋腐食を防ぐ方法の一つとして、外部からの塗覆装なく長期の耐久性を発揮する鉄微粉末をコンクリート中に混入させる方法が開発されている。コンクリートに鉄微粉末を投入することで、鉄微粉末が腐食することにより生じる腐食生成物の空隙充填効果を利用して鉄筋コンクリート造建築物の耐久性を向上させるものであり、いわば、建築物を人間に例えると「予防接種」を行って免疫性を高める原理の応用とも言える。そのメカニズムは、コンクリートに鉄微粉末を混入することで、鉄微粉末がコンクリートの内部に浸透する腐食因子(塩分、二酸化炭素、水分)によって、鉄筋に先んじて先行腐食を生じ、生じた腐食生成物が周辺のコンクリート中の空隙を充填することにより、覆装塗膜のような「保護性さび層」を形成する結果、腐食因子のさらに深部への浸入を低減するものである。また、腐食生成物の空隙充填効果を考慮した中性化進行モデルおよび塩化物イオン移動モデルの構築を図って、最終的には鉄筋コンクリート造建築物の耐用年数増大の予測も可能になると考えられる。 本研究は、「さびをもってさびを防ぐ」ことで鉄筋コンクリート構造物の延命を図るための維持保全・補修技術への応用、延いては断面修復工法およびひび割れ補修工法の開発に役立つことをその目的とする。 本論文では、7章から構成されており、以下に各章毎に内容と本研究で得られた成果および今後の課題をまとめた。 本研究では、中性化および塩害環境下におけるコンクリート中の細孔構造変化および物質移動による耐久性の低下現象と鉄微粉末の腐食反応によるコンクリート表層部での空隙変化およびそのメカニズムを明らかにした。また、空隙減少現象を実験的に把握するとともに空隙減少比モデルを用いてコンクリート中へのCO2ガス・塩化物イオンの拡散移動に関するモデルを構築し、異なる劣化環境下での鉄微粉末を混入したRC構造物の寿命予測した上で、鉄微粉末混入によるコンクリート中の鉄筋腐食抑制メカニズムの究明を目的とした。 第1章では、鉄微粉末混入によるコンクリート中の鉄筋腐食抑制技術に関する本研究の背景、これまでの研究成果、ならびに研究の目的、研究の構成が述べられている。 第2章では、本研究がコンクリート中での鉄微分末の腐食と腐食生成物の空隙充填効果による中性化や塩化物イオンの浸透を抑制させる研究であるので、コンクリートの中性化や塩化物イオンの浸透に関する既往の研究、ちなみに、コンクリート中の鋼材の腐食挙動に関する既往の研究を概観した結果、知見が得られるとともに、今後の研究に考慮すべき課題の必要性を認識することができた。 第3章では、鉄微粉末の生産方法および物性、また鉄微粉末混入コンクリートに関する基礎物性について述べられている。鉄微粉末は原料と生産方法により大きく還元鉄粉、アトマイズ鉄粉に分けられ、その成分も大きく変わる。鉄微粉末の基礎物性とコンクリート中に混入した場合の基礎物性を把握することによる各種劣化環境下での鉄粉混入コンクリートの物性変化の予測について述べられている。 第4章では、中性化環境下での鉄微粉末混入コンクリートでの鉄筋腐食抑制効果把握するため、W/C変化による特性把握、自然電位、透気係数、圧縮強度、中性化深さ、腐食面積率、腐食減量率などのマクロ的観察と空隙量、SEM観察、EPMAなどのミクロ的観察を行った後、表層部のコンクリートの細孔分布より、腐食生成物の空隙充填効果の影響を明瞭に反映する細孔径範囲を特定するとともに、この細孔径での空隙量と二酸化炭素の拡散係数の経時変化が述べられている。 中性化環境下での鉄微粉末混入がコンクリートに及ぼす影響を把握するため、自然電位、中性化深さ、空隙量、透気係数、圧縮強度を測定した結果、コンクリートの表層部に存在する鉄粉の腐食による空隙充填効果でコンクリートの比抵抗が変化し、自然電位値に影響を与えるのが明らかになった。また、表素部コンクリートの空隙量変化による中性化深さの減少、圧縮強度の増加幅の減少が明らかになったと考えられる。 表層部コンクリートでの鉄粉の腐食による空隙充填現象はSEMおよびEPMA測定結果からもっと詳しく把握することができた。EPMA測定結果からよると、中性化領域では鉄粉が腐食し、鉄粉周りはもちろん離れている骨材周りの空隙まで移動して充填する現象が確認された。従って、鉄粉の腐食によって生じる腐食生成物が移動し、空隙を充填する効果を説明するのが可能になった。また、実験結果から総空隙量の減少が認められ、打設面での全細孔空隙減少比の算定が可能であり、この全細孔空隙減少比が腐食促進養生期間のt(corr)/28平方根に比例して減少する傾向であることから、腐食生成物の空隙充填によるコンクリートの空隙減少モデルを構築し、腐食生成物の空隙充填によるコンクリートの空隙減少モデルを用いたRC構造物の寿命予測に適用可能であることを試みた。 W/C比の変化のよる影響を把握するための実験では無混入コンクリートの場合はW/C比が低下するほど全般的に耐久性能が増加したが、鉄粉混入コンクリートの場合は耐久性能に対し低W/C比への変化が大きな影響を与えなかった。従って、実験結果から鉄粉混入による耐久性の向上面ではW/C65%とW/C55%での耐久性がほぼ同様であることから、鉄粉混入によりW/C比を10%程度低下させる効果があると考えられる。 第5章では、塩害環境下での鉄微粉末混入がコンクリートに及ぼす影響を把握するため、自然電位、塩分浸透深さ、空隙量、透水係数、圧縮強度を測定した結果、コンクリートの表層部に存在する鉄粉の腐食による空隙充填効果によりコンクリートの比抵抗が変化し、自然電位値に影響を与えるのが明らかになった。また、鉄粉の腐食により表素部コンクリートの空隙量変化による塩分浸透深さは高水セメント比のコンクリートの場合は減少幅が大きかったが、低水セメント比のコンクリートでは小さかった。また、水セメントの変化による差はほとんどなかった。圧縮強度は鉄粉4%混入コンクリートが無混入コンクリートとほぼ同等な値を表したが、鉄粉2%混入コンクリートは若干減少する傾向であった。 表層部コンクリートでの鉄粉の腐食による空隙充填現象はSEMおよびEPMA測定結果からもっと詳しく把握することができた。EPMA測定結果からよると、鉄粉と塩化物イオンとの反応によって腐食生成物が生じ、移動しているような現象が確認された。このことで、腐食反応が活発に行われる表層部では空隙の充填が大きくなったと考えられる。また、腐食が活発に行われている鉄粉周りに塩分が凝集している現象が観察された。従って、塩害環境下に鉄粉が存在すれば鉄粉と塩分の腐食反応による腐食生成物の生成、腐食生成物による空隙充填効果だけではなく、鉄筋より比表面積が大きいな鉄粉の周りに塩分が凝集され、結果的に鉄筋まで到達する塩分の量を減少させ、鉄筋の腐食を抑制することが可能であった。また、表層部のコンクリートの細孔分布より、腐食生成物の空隙充填効果の影響を明瞭に反映する細孔径範囲を特定するとともに、この細孔径での空隙量の減少比と塩化物イオンの拡散係数の経時変化との関係が述べられている。 第6章では、中性化環境と塩害環境下での鉄微粉末混入コンクリートでの鉄筋腐食抑制程度を、細孔空隙量をファクターとする関数により評価するモデルを提案している。この評価モデルにより、任意の中性化また塩害環境を想定した、コンクリートの中性化および塩分浸透特性をシミュレーション解析に検討した結果とこの解析結果を基づいて、腐食生成物の空隙充填によるコンクリートの空隙減少モデルを用いたRC構造物の寿命予測に適用可能性について述べられている。 第7章では、本研究で得られた成果と今後の課題に関して述べられている。 | |
審査要旨 | 金貞辰氏から提出された「鉄微粉末混入によるコンクリート中の鉄筋腐食抑制技術に関する研究」は、コンクリート中に鉄微粉末を混入し、その腐食生成物の空隙充填効果を利用することによって、鉄筋コンクリート構造物の耐久性向上を図ろうとするものであり、人間に例えると「予防接種」を行って免疫性を高める原理をコンクリート構造物に適用したものである。コンクリート中には鉄筋腐食の原因となる塩化物イオン、二酸化炭素、水分などの物質の移動経路となる細孔が無数存在しているが、鉄微粉末が鉄筋に先行して腐食することにより生じる腐食生成物が、周辺のコンクリート中の空隙を充填することにより、腐食要因物質のさらに深部への浸入を抑制することを図ったものである。本論文では、中性化環境下および塩害環境下における鉄微粉末の腐食反応によるコンクリート中の空隙構造変化を明らかにするとともに、空隙減少モデルを構築して、コンクリート中における二酸化炭素および塩化物イオンの移動解析を行い、鉄微粉末を混入した鉄筋コンクリート構造物の寿命予測を行っている。 本論文は7章から構成されており、各章の内容については、それぞれ下記のように評価される。 第1章では、本研究の背景、目的、範囲、構成などが的確に述べられている。 第2章では、コンクリート中の二酸化炭素および塩化物イオンの移動ならびにコンクリート中の鉄筋の腐食挙動に関する既往の研究に関して網羅的にレビューがなされており、鉄微粉末を用いてコンクリート中の鉄筋の腐食抑制技術の開発を行う上で必要となる知見の集積がなされ、鉄微粉末を混入したコンクリート構造物の寿命予測技術を開発するに際して明らかにすべき課題がまとめられている。 第3章では、本論文で対象とする鉄微粉末の生産方法および物性についての調査結果がまとめられ、鉄微粉末を混入したコンクリートの基礎的性質について調べられており、鉄微粉末を混入しても、コンクリートの施工時に必要とされる流動性、コンクリートの硬化過程において重要となるブリーディング特性、硬化コンクリートの強度などに悪影響が生じることがないことを明らかにしている。 第4章では、コンクリート中への鉄微粉末の混入によりコンクリートの中性化が抑制されることを実験により明らかにしている。鉄筋が埋め込まれた水セメント比の異なるコンクリートに、混入量を変えて鉄微粉末を混入した試験体に対して中性化促進試験を実施して、コンクリート表層部の鉄微粉末を腐食させ、鉄筋の自然電位の経時変化、表層コンクリートの透気係数、中性化深さの経時変化、鉄筋の腐食量などの測定を行うとともに、コンクリート中の細孔空隙量の測定、鉄微粉末周囲の電子顕微鏡観察、EPMA分析などの微視的調査を行い、鉄微粉末の腐食生成物が鉄微粉末周囲だけでなく少し離れた位置にまで移動し、表層コンクリートの細孔空隙を充填することを明らかにし、それによって二酸化炭素がコンクリートのより深部に移動するのを抑制することを明らかにしている。また、鉄微粉末の空隙充填効果による中性化抑制現象は、コンクリートが粗な組織構造であるほど顕著であることをつきとめ、鉄微粉末の混入はコンクリートの水セメント比を10%程度低下させる効果があることを明らかにしている。 第5章では、第4章における鉄微粉末の中性化抑制効果の確認実験と同様に、コンクリート中への鉄微粉末の混入により、コンクリート深部への塩化物イオンの浸入が抑制されることを実験により明らかにしている。鉄筋が埋め込まれた水セメント比の異なるコンクリートに、混入量を変えて鉄微粉末を混入した試験体に対して塩水噴霧試験を実施して、コンクリート表層部の鉄微粉末を腐食させ、鉄筋の自然電位の経時変化、表層コンクリートの透気係数、塩分浸透深さの経時変化、鉄筋の腐食量などの測定を行うとともに、コンクリート中の細孔空隙量の測定、鉄微粉末周囲の電子顕微鏡観察、EPMA分析などの微視的調査を行い、鉄微粉末の腐食生成物が表層コンクリートの細孔空隙を充填するだけでなく、鉄微粉末の周囲に塩化物イオンが凝集することを明らかにしており、これらによって塩化物イオンがコンクリートのより深部に移動するのを抑制することを明らかにしている。 第6章では、中性化環境下および塩害環境下における鉄微粉末の腐食に伴う空隙充填による二酸化炭素および塩化物イオンの拡散係数低減モデルを構築し、そのモデルを用いて、実際の鉄筋コンクリート構造物中の鉄筋に関するケーススタディを行い、鉄微粉末の混入により鉄筋コンクリート構造物の長寿命化またはライフサイクルコストの低減が図られることを提示している。 第7章では、本論文の結論と今後の課題が要領よくまとめられている。 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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