学位論文要旨



No 122245
著者(漢字) 熊谷,知久
著者(英字)
著者(カナ) クマガイ,トモヒサ
標題(和) 固体系における原子間ポテンシャル作成のための枠組みの提案 : 共有結合・金属結合系への適用
標題(洋)
報告番号 122245
報告番号 甲22245
学位授与日 2007.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6450号
研究科 工学系研究科
専攻 機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 泉,聡志
 東京大学 教授 酒井,信介
 東京大学 教授 丸山,茂夫
 東京大学 教授 加藤,孝久
 東京大学 教授 吉川,暢宏
内容要旨 要旨を表示する

 これまで,原子間ポテンシャルの不足が古典分子動力学普及の障害となってきた.特に近年では多元系や希少な元素系における原子間ポテンシャルへの需要が高まっているにもかかわらず,様々な系に対応できる原子間ポテンシャルの作成手法というのはないというのが現状である.このため,本論文においては,解析者が自分の目的に合わせて,簡易に原子間ポテンシャルを作成するための枠組みを提案した.提案した原子間ポテンシャル作成のための枠組みは計算目的の設定,ポテンシャル関数の決定,合わせ込みデータの選択/収集,ポテンシャルパラメータ最適化,ポテンシャルパラメータセットの評価/選択の工程からなる.また,なるべく実用に耐えるような原子間ポテンシャルを作成できるように各工程における経験的な指針も示した.提案した原子間ポテンシャル作成の枠組みを共有結合単元系(Si,B),共有結合2元系(Si-B),金属結合単元系(Zr,Ni),金属結合2元系(Zr-Ni)に適用できることを確かめた.提案した原子間ポテンシャル作成の枠組みを用いることによって,融点の再現,拡散現象,クラスタリング現象の再現,アモルファス構造の再現できるような原子間ポテンシャルを作成することができた.将来的には枠組みの適用範囲の拡大,枠組みをもとにした汎用ソフトウェア化,枠組みを用いた原子間ポテンシャル情報の蓄積,多くの種類の原子間ポテンシャルを1つの解析に用いるような使用法の提案などを考えている.

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、分子動力学計算に不可欠な原子間ポテンシャルを作成するための枠組みを提案するものであり、固体系において、解析者が自分の目的に即して、容易に原子間ポテンシャルを作成するための枠組みの構築を行った。枠組みは、5つの工程からなり、それぞれの工程において、実用に耐えるような原子間ポテンシャルを作成する目的で、豊富な経験的な指針も示されている。提案した手法を用いれば、これまで原子間ポテンシャルが開発されていない系においても、原子間ポテンシャルを容易に開発することができ、分子動力学の工学的な応用における貢献は大きいと考えられる。論文では、具体的な応用先として、共有結合単元系、共有結合2元系、金属結合単元系、金属結合2元系のポテンシャルが開発されたが、より広い範囲への適用の可能性を持つ手法であり、他の系への発展性は高いと考えられる。

 「第1章序論」では、近年におけるポテンシャル作成手法のための枠組み構築の必要性が述べられ、また、本研究の目的と意義および本論文の構成を示されている。近年、商用ソフトウェアの普及などにより、分子動力学計算が企業などでも解析に用いられるようになってきているが、現在までに開発されてきた精度の良いポテンシャルは種類が少なく、実用における大きな障壁となっている背景の中、簡単に分子動力学ポテンシャルを作成する枠組みの必要性と意義を述べている。

 「第2章本研究で用いる基礎的な計算手法」では本研究において用いられる古典分子動力学,第一原理分子動力学,数値最適化手法の一般的な計算手法について説明が行われている。

 「第3章原子間ポテンシャル作成手法の提案」では、計算目的の設定、ポテンシャル関数の決定、合わせ込みデータの選択/収集、ポテンシャルパラメータ最適化、ポテンシャルパラメータセットの評価/選択の5工程からなる原子間ポテンシャル作成のための枠組みが提案され、それぞれの工程について、経験的に得られた具体的な作業方針である指針が豊富に示されている。

 「第4章共有結合単元系への適用-ボンドオーダ型ポテンシャル関数を用いたSiの弾性定数と融点を再現する原子間ポテンシャルの開発-」では提案した枠組みを用いたダイヤモンドシリコンの融点を再現するSi系原子間ポテンシャルの作成工程について述べられている。開発された原子間ポテンシャルは、Siの融点を含む基礎的な物性を再現しており、提案した枠組みが共有結合単元系、融点の再現について有効であることが示されている。

 「第5章共有結合2元系への適用-SiB系の拡散現象、クラスタリング現象を再現するポテンシャルの開発-」では、提案した枠組みを用いた拡散現象とクラスタリング現象を再現するSi-B系原子間ポテンシャルの作成工程について述べられている。開発された原子間ポテンシャルは、合わせ込みに用いたSiB系の基礎的な物性や拡散現象、クラスタリング現象を再現しており、提案した枠組みが共有結合2元系、拡散現象、クラスタリング現象の再現について有効であることが示されている。

 「第6章金属結合2元形への適用-ZrNiアモルファス構造を再現するZrNiポテンシャルの開発」では、提案した枠組みを用いたアモルファスの構造を再現するZr-Ni系原子間ポテンシャルの作成工程について述べられている。開発された原子間ポテンシャルは合わせ込みに用いたZrNi系の基礎的な物性とZr70Ni30のアモルファスの動径分布関数を再現しており、提案した枠組みが金属結合単元系、金属結合2元系、アモルファス構造の再現について有効であることが示されている。

 「第7章結言」では本論文により得られた結論と、その意義を述べ、今後の提案した枠組みのさらなる発展について展望を述べている。

 以上のように、本研究は、これまで困難であったポテンシャルの作成工程の枠組みを作成することに成功しており、分子動力学分野における大きな貢献がなされた。本手法の適用範囲はさらに広くなることが予測され、最終的には汎用的な手法、汎用的なソフトウェアへとつながっていくものと考えられる。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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