学位論文要旨



No 122316
著者(漢字) 大槻,晶
著者(英字)
著者(カナ) オオツキ,アキラ
標題(和) リサイクルのための希土類蛍光体粉の液液抽出選別
標題(洋) Liquid-Liquid Extraction of Rare Earth Fluorescent Powders for Recycling
報告番号 122316
報告番号 甲22316
学位授与日 2007.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6521号
研究科 工学系研究科
専攻 地球システム工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 藤田,豊久
 東京大学 教授 山冨,二郎
 東京大学 助教授 増田,昌敬
 東京大学 講師 定木,淳
 東京大学 助教授 島田,荘平
内容要旨 要旨を表示する

 2000年に成立した資源有効利用促進法により、10業種69品目が本法律の対象業種・対象製品と指定され、事業者は3R(リデュース、リユース、リサイクル)の取り組みを求められている。その対象製品の一つとして、蛍光灯が挙げられ、蛍光灯に含まれるガラスおよび水銀の回収、リサイクルが義務付けられている。しかし、蛍光体粉などその他の物質は廃棄処分され、リサイクルされていない。本論文では、三波長蛍光灯に使用されている希土類元素を含む希土類蛍光体粉の選別に着目した。希土類元素はその供給源を中国に依存していること、近年の原油価格の高騰に伴い価格が上昇していることなどから、需給リスクの高い元素として、そのリサイクルが求められている。また、蛍光灯の販売高(2003年は2650億円)、消費量(2003年は4億5千万本)は年々増加しており、その結果廃棄物量も今後は増加することが予想されるため、蛍光体粉など蛍光灯に使用されている物質のリサイクルとそれを経済的に可能にする技術開発が求められている。

 (1)廃蛍光灯から回収される蛍光体の劣化の度合いが蛍光体の種類によって異なること、(2)製品によって蛍光体の配合比が異なることから、本研究では、リサイクルの前処理として希土類蛍光体粉混合物(赤、緑、青)の選別を行ない、各蛍光体粉を高品位の粉体として回収した。回収した蛍光体粉の用途としては、(1)蛍光灯製造時に使用する希土類蛍光体粉としての再利用、(2)希土類元素を原料とする製品(例:LEDや研磨剤)に二次原料として利用することが考えられる。過去、希土類蛍光体粉のリサイクルのための前処理として、(a)浸出と再合成、(b)重液選別、(c)浮遊選別などの手法を用いて希土類蛍光体粉の選別に関する研究が行なわれている。しかし、品位、回収率の向上が課題として挙げられる。本研究では、これらの課題を解決するため、希土類蛍光体粉の液液抽出選別を試みた。高い選別成績を得るためには選別メカニズムを明確にすることが重要である。液液抽出における支配的な作用力は微粒子-油滴間の相互作用力であり、その作用力をDerjaguin-Landau-Verwey-Overbeek(DLVO)理論に基づくポテンシャル計算を行い評価することで、液液抽出選別のメカニズムを解明した。

 本研究では、液液抽出という手法を希土類蛍光体粉の選別に適用した。この手法は、界面活性剤(陽イオン活性剤、陰イオン活性剤)被覆により疎水化した粒子を水相および有機相(非極性溶媒)の界面に回収することで、沈降する親水性粒子との選別を行なう。液液抽出選別においては疎水性粒子と非極性油滴間の相互作用力が支配的なことから、粒子の非極性油滴との衝突(拡散)、粒子の疎水性、親水性(粒子の濡れ性)、DLVO理論に基づくポテンシャル計算から評価することができる粒子-油滴間の相互作用力(凝集力、分散力)に着目した。

 微粒子の凝集分散状態の評価方法に関しては、DLVO理論と粒子間相互作用力測定を取り扱う。DLVO理論は、溶液中の微粒子間の全相互作用エネルギーをファンデルワールス相互作用エネルギーと電気二重層相互作用エネルギーの和として評価する手法である。本研究では、蛍光体微粒子と非極性油滴間の相互作用エネルギーを評価することから、粒子(蛍光体微粒子)と壁(非極性油滴)間の相互作用エネルギーを評価するモデルを用いた。ファンデルワールス相互作用エネルギーのメインパラメータとして粒子半径があり、また、電気二重層相互作用エネルギーのメインパラメータとして粒子半径、粒子の表面電位(粒子のゼータ電位)、油滴の表面電位(油滴のゼータ電位)がある。それらは粒径測定およびゼータ電位測定によって得ることができる。粒子間相互作用力測定に関しては、微粒子の分散凝集状態を粒子径の直接測定により評価する測定装置として、装置の測定原理、および試料粒子を含む溶液の測定方法とその解析手法を提案する。球形粒子(シリカ)を含む水溶液を測定した結果から、粒子間相互作用測定は数nmから数十μmの微粒子の分散凝集状態の評価手法として有用であることがわかった。

 希土類蛍光体粉の液液抽出選別に関しては、(1)選別メカニズムの解明とそれに基づく選別条件の設定方法の提示、(2)選別実験、(3)選別結果の考察を行なった。選別メカニズムの解明とそれに基づく選別条件の設定方法に関しては、液液抽出選別に使用する2種類の溶媒(非極性溶媒、極性溶媒)の選択、界面活性剤濃度の最適化、蛍光体微粒子-油滴間の分散凝集状態評価手法を提示した。溶媒の選択には各溶媒中での微粒子の拡散係数の計算およびガラス面と溶媒の接触角測定の結果から、拡散係数が高く、接触角の小さい溶媒(非極性:n-ヘプタン、極性:N,Nジメチルホルムアミド(以下、DMF))を選択した。界面活性剤濃度の最適化には、ペレット化した3種類の希土類蛍光体粉と界面活性剤を添加したDMFとの接触角を測定し、接触角の値の差が大きく、接触角の絶対値の大きくなる濃度を選択した。分散凝集状態評価に関しては、まず、試料溶液中に界面活性剤を添加した状態における微粒子凝集体サイズを粒子間相互作用力測定により求めた。その凝集粒子径を用いてDLVO理論に基づくポテンシャル計算を行なうことで、極性溶媒中での蛍光体微粒子と非極性溶媒との相互作用を把握した。その結果、ある特定の蛍光体粉が非極性溶媒と吸引力を示し他の蛍光体粉は反発力を示すことから、特定の蛍光体粉と他の蛍光体粉の分離が可能となることがわかった。最適化した実験条件において、選別実験を行い、3種類の微細な蛍光体粉混合物を90%以上の品位、回収率でそれぞれ分離することを可能とした。本研究で提案した極性の異なる有機2相による液液抽出は新規の選別方法であり、従来の水-有機相を用いた液液抽出より選別結果が優れていることがわかった。

 希土類蛍光体粉の分散凝集状態を評価することで希土類蛍光体粉混合物の選別結果を予測し、リサイクルのために液液抽出選別によって混合粉を選別した。また、開発された微粒子の分散凝集状態の評価手法は、微粒子の選別や堆積等の微粒子が使用される系への適用が可能であり、希土類蛍光体粉の液液抽出選別は、他の微粒子の選別に応用が可能である。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は「Liquid-Liquid Extraction of Rare Earth Fluorescent Powders for Recycling」と題し、希土類蛍光体粉の選別手法として新規の液液抽出選別の提案と、微粒子の分散凝集状態評価法として粒子間相互作用力測定の提案を行ない、希土類蛍光体粉混合物を90%以上の品位回収率で分離することを可能とするに至った一連の研究開発をまとめたもので、六章から成る。

 第一章では、研究の背景・目的・構成について述べている。本研究では、三波長蛍光灯に使用されている希土類蛍光体粉の選別に着目する。希土類蛍光体粉を構成している希土類元素は、その供給源を主として中国に依存し、近年の原油価格の高騰に伴い価格が上昇していることなどから、需給リスクの高い元素であり、希土類含有粉のリサイクルが求められている。蛍光灯の販売高、消費量は年々増加しており、廃棄物量も今後は増加することが予想されるため、蛍光灯に使用されている蛍光体粉のリサイクルを経済的に可能にする技術開発が必要である。廃蛍光灯から回収される蛍光体の劣化の度合いが蛍光体粉の種類によって異なること、製品によって蛍光体粉の配合比が異なることから、本研究では、リサイクルの前処理として希土類蛍光体粉混合物(赤、緑、青)の選別を行ない、各蛍光体粉を高品位の粉体として回収する。回収した蛍光体粉の用途としては、蛍光灯製造時に使用する希土類蛍光体粉としての再利用、希土類元素を原料とする製品(例:LEDや研磨剤)に二次原料として利用することが考えられる。過去に、希土類蛍光体粉のリサイクルのための前処理として、浸出後の再合成、重液選別、浮遊選別などの手法を用いた選別に関する研究が行なわれてきた。しかし、品位、回収率の向上が課題であった。本研究では、その課題を解決するため、希土類蛍光体粉の液液抽出選別を試みる。

 第二章「Liquid-Liquid Extraction and Evaluation of Separation Efficiency」では、希土類蛍光体粉の選別に適用した液液抽出という手法を紹介する。本手法は、一方の蛍光粉を界面活性剤(陽イオン活性剤、陰イオン活性剤)被覆により疎水化し、水相および有機相(非極性溶媒)の界面に回収することで、沈降する界面活性剤が被覆されていない親水性粒子と分離する選別方法である。液液抽出選別においては粒子と非極性溶媒との相互作用力が支配的なことから、粒子の非極性油滴との衝突(拡散)、粒子の疎水性と親水性(粒子の濡れ性)、DLVO理論に基づくポテンシャル計算による粒子-油滴間の相互作用力(凝集力、分散力)に着目して示した。

 第三章「Evaluation of Degree of Coagulation」では、液液抽出選別のメカニズムを解明するための微粒子の凝集分散状態の評価方法として粒子間相互作用力測定を提案する。微粒子の分散凝集状態を粒子径の直接測定により評価する装置の測定原理、および試料粒子を含む溶液の測定方法とその解析手法を提案した。例として、球形粒子(シリカ)を含む水溶液中の凝集体径を測定した結果から、数nmから数十μmの微粒子の分散凝集状態の評価手法として有用であることが明らかとなった。

 第四章「Separation of Rare Earth Fluorescent Powders by Liquid-Liquid Extraction using Organic Phases」では、極性の異なる有機相を用いた希土類蛍光体粉の液液抽出選別を試みる。選別メカニズムの解明とそれに基づく選別条件の設定方法の提示、選別実験、選別結果の考察を行なった。選別メカニズムの解明とそれに基づく選別条件の設定方法に関しては、液液抽出選別に使用する2種類の溶媒(非極性溶媒、極性溶媒)の選択、界面活性剤濃度の最適化、蛍光体微粒子-油滴間の分散凝集状態評価手法を提示した。ある特定の蛍光体粉が非極性溶媒と吸引力を示し他の蛍光体粉とは反発力を示すことから、特定の蛍光体粉と他の蛍光体粉の分離が可能となることを示した。最適化した実験条件において選別実験を行い、3種類の微細な蛍光体粉混合物を90%以上の品位、回収率でそれぞれ分離できることが明らかとなった。

 第五章「Separation of Rare Earth Fluorescent Powders by Liquid-Liquid Extraction using Aqueous-Organic Phases and Evaluation of Separation Processes」では、有機-有機相を用いた液液抽出選別と、水-有機相を用いた希土類蛍光体粉の液液抽出選別について選別効率および選別に要するコストの比較を行う。蛍光体粉の分離において選別効率およびコストの点で、有機-有機相を用いた液液抽出選別が水-有機相を用いた液液抽出選別よりも良好な選別成績を示すことを明らかとした。

 第六章は、本研究の結論である。

 これら一連の研究では、溶液中での微粒子の分散凝集状態測定法を考案し、リサイクルのための希土類蛍光体混合粉の効果的な液液抽出選別を提案した。本論文は希土類蛍光体粉の選別をはじめとして、異なる微粒子混合物の液液抽出による相互分離に関する技術的発展に多大な貢献をしたと考えられる。

 よって本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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