学位論文要旨



No 122330
著者(漢字) タン メイ リン ヘレン
著者(英字) TAN MEI LING HELEN
著者(カナ) タン メイ リン ヘレン
標題(和) 走査型マイクロプラズマジェットプロセスの開発とマイクロマシン及びバイオマイクロシステムへの応用
標題(洋) Development of Scanning Microplasma Jet Process and Its Application to Micromachining and Biomicrosystems
報告番号 122330
報告番号 甲22330
学位授与日 2007.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6535号
研究科 工学系研究科
専攻 マテリアル工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 一木,隆範
 東京大学 教授 鳥海,明
 東京大学 教授 石原,一彦
 東京大学 助教授 寺嶋,和夫
 東京大学 講師 高井,まどか
内容要旨 要旨を表示する

Abstract:

The motivation of microplasma research was based on the comprehensive study of the inherent characteristics of microplasmas, which can be derived from well-designed combinations of their extraordinary locality with the ordinal characteristics such as emissive, conductive, dielectric localized and highly-reactive properties, thus new applications which have not been realized, need to be developed. Hence, as an approach towards these objectives, this dissertation works towards the development of a novel scanning microplasma jet process and its application to rapid micromachining and biomicrosystems.

A miniaturized VHF-driven inductively coupled plasma jet source was initially developed for the production of high-temperature and high-density plasmas in a localized space. High electron density of 10(15) cm(-3) was diagnosed by optical emission spectroscopy and then applied it to silicon micromachining.

The microplasma process developed here is a combination of conventional electric discharge machining and the intrinsic characteristics of microplasma technology, enabling maskless pattern etching, localized and ultrahigh-rate etching to be achieved with smooth etched surface in silicon micromachining. A maximum etch rate of approximately 500 μm/min was attained.

The microplasma was also challenged for applications to surface modification of polymers and biocompatible PDMS polymer was used as the substrate material. Two different plasma systems of argon/oxygen and argon/nitrogen were implemented and HeLa and muscle cells were used in the studies. Water contact angles of 60-70° measured by home-assembly contact angle measurement revealed satisfactory good cells' adhesion.

Finally, after investigating the fundamental characteristics of the microplasma apparatus for silicon micromachining and surface treatment of PDMS, the main target of fabricating a robust biomicrosystem was worked towards. Successful results were attained from the etching of silicon and PDMS and then applied to the fabrication of microfluidics.

In conclusion, the developed scanning microplasma jet process has proven its novel applications to micromachining and biomicrosystem and the process will be useful for the fabrication of microfluidic devices and biosensing devices in the near future.

審査要旨 要旨を表示する

 20世紀を変革したマイクロエレクトロニクスに引き続き、ナノ・マイクロテクノロジーは21世紀のハイテク産業の成長においても、欠かすことのできない存在となっている。MEMS(Microelectromechanical System)が自動車、デジタル家電などの産業分野で本格的な実用化を迎え、さらに、医療やバイオテクノロジーの分野においてもμTAS(micro total analysis system)やバイオデバイスなどのバイオマイクロシステムが新産業技術の有力候補として急速に成長している。一方、プラズマ応用工学の分野でも微小化によるプラズマ技術の新たな展開を目指す「マイクロプラズマ」が近年注目され、プラズマ生成や計測に関する基礎的研究から様々な分野に亘る応用研究が盛んに行われているが、上述のような高付加価値・高機能マイクロシステム技術分野において有望なアプリケーションを見出し、産業技術としての有用性を認知されることは、マイクロプラズマ技術の今後の発展に繋がる有望なシナリオである。

 そこで、本学位請求論文においては、マイクロマシン製造技術を利用して製作される小型の大気圧マイクロプラズマジェット源を基材上で走査することによりマスクを用いずに微細なパターンを加工したり、局所的に表面処理を施したりすることが可能な新規なプラズマプロセス装置を開発し、マイクロプラズマジェット固有の特徴の理解に基づいてプロセスを構築し、有望なマイクロプラズマ応用技術を提示することを目指している。本論文は以下の七章から成る。

 第一章は序論である。本研究の背景となるマイクロプラズマについてのこれまでの研究・開発動向をまとめ、マイクロプラズマの物理的特徴やその発生技術、さらには光源、電子源、小型化学分析システム、材料プロセスなどへの応用についても述べている。続いて、プラズマのマイクロマシンならびにバイオ分野への応用技術についても概説し、近年のマイクロプラズマ研究における本研究の位置づけを明らかにした後、本論文の目的と構成について述べている。

 第二章では、本論文で用いるマイクロプラズマジェット源の構成と作製方法について詳細に述べ、さらにプロセス応用研究を進めるに先立って当該プラズマ発生装置の基本的特性を理解するため、生成されるプラズマの内部パラメータを計測している。マイクロマシン製造技術を用いて作製した小型プレーナーアンテナと直径100μmのノズルを有する石英放電管から構成されるマイクロプラズマジェット源にVHF電力を供給してArマイクロプラズマジェットを大気中で発生し、電子密度10(14)〜10(15)cm(-3)、Ar原子の電子励起温度3000〜4500Kが得られること、さらに、高い電子密度の達成には特にガス流速の最適化が必要であることを明らかにし、当該プラズマジェット源を局所高速プロセスに応用するために有用な知見を与えている。

 第三章では、第二章で示したマイクロプラズマジェット源を組み込んだ3次元走査型マイクロプラズマジェットエッチング装置を開発し、CADデータに基づいてマスクレスでSiウエファ上に最小300μm幅の微細パターンのエッチング加工を達成している。SF6/Ar系プラズマを用いてエッチング化学種であるフッ素原子を高密度に生成することで、従来の低圧プラズマを用いたエッチングの10〜100倍程度の約200μm/minの高速加工を達成し、実用化の可能性を示唆している。さらに、大気圧マイクロプラズマジェットを用いたプロセスでは微小なプラズマ体積の近傍に高反応性の空間が限定されるという特徴を考慮して、3次元構造加工におけるエッチング深さの制御指針を与え、階段状構造の加工実験においてその有効性を実証している。

 第四章では、走査型マイクロプラズマジェット装置を改造した走査型ラジカルジェット装置を試作し、マイクロ流体デバイスの材料として用いられるポリジメチルシロキサン(PDMS)の局所表面処理を行っている。O2/Ar系プラズマで生成したラジカルジェットを掃引照射することでPDMSの疎水性表面を局所的に酸化してシリカ層を形成し、親水性を付与している。ジェット源の走査速度の制御により、実効的な表面処理時間を変化させ、水滴接触角を未処理の約110度から70度まで連続的に変化させることが可能なことを示している。さらに、このマスクレスパターン表面処理技術を利用してPDMS上でのHeLa細胞のパターン化培養を達成している。

 第五章では、第四章に引き続き、反応性マイクロプラズマを用いたPDMSの局所表面修飾について述べている。N2/Ar下流プラズマを照射したPDMS表面からはXPS測定の結果、窒素は検出されず、酸化が起こっていることが示されている。この原因として、大気中の水、酸素の微量混入あるいはN2/Arプラズマからの紫外線照射によるポリマー表面層の化学結合の切断を推察している。さらに、X線光電子分光においてSi2pスペクトルの精密な波形解析を行い、PDMS表面層に存在するSiの酸化の価数を検討した結果、Si(3+)がほとんど存在せず、Si(2+)とSi(4+)から成ることを見出している。これは急峻な酸化膜界面が形成されたことを示しており、第4章の反応系では見られない興味深い現象であり、酸化機構の相違を反映するものと推察している。

 第六章では、マイクロプラズマジェット技術の将来のバイオマイクロシステムへの応用展開を視野に、SiならびにPDMSのエッチング加工によるマイクロ流体デバイス作製を実証している。特にPDMSに対して幅100μm以下の微細溝をエッチング加工できる可能性を示し、第四章、第五章で示した表面処理技術も併せて、バイオデバイスの迅速試作への有効性を示唆している。

 第七章は結論であり、本研究で得られた結果を総括している。

 以上のように、本学位請求論文においては、大気圧マイクロプラズマジェットを3次元走査する新規なプラズマプロセス装置を開発し、バイオデバイス材料であるSiならびにPDMSの高速局所エッチングおよび表面処理プロセスへの応用を実証するとともに、マイクロプラズマジェット応用プロセスの構築指針を提示している。本論文の内容は、マイクロマシンやバイオマイクロシステムをはじめとする高付加価値・高機能マイクロシステム分野におけるマイクロプラズマ応用技術の有効性を明確に提示しており、プラズマ技術の適用分野を大きく拡大したことの価値は高く、マテリアル工学に対する貢献は大きい。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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