No | 122364 | |
著者(漢字) | 廣田,晃輔 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ヒロタ,コウスケ | |
標題(和) | 機能性ポリマーのナノ構造制御に関する研究 | |
標題(洋) | Study on Nanostructure Control of Functional Polymers | |
報告番号 | 122364 | |
報告番号 | 甲22364 | |
学位授与日 | 2007.03.22 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第6569号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 先端学際工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 1.緒言 近年有機・無機など種々の材料を用いたナノ構造について盛んに研究が行われている。新規な材料、新規な構造形成法など構造構築に着目した研究が非常に多い一方、ナノ構造ならではの機能発現、形成された構造の利用にまで踏み込んだ研究は未だ多くは見られない。本研究は特にポリマー材料の相分離構造や自己組織的な構造形成に着目し、数10ナノメートルスケールで構造を制御することで新たな機能材料の開発へ繋げることを目標としている。 [1]ブロックコポリマー相分離構造の利用 異なる二つのポリマーセグメントが共有結合で結ばれているブロックコポリマーは、両成分の比率や分子量、相溶性の違いにより様々な相分離構造を自己組織的にとることが知られている。近年これらのナノ構造をテンプレートとしたパターニングなど構造利用について報告されているが、構造制御に特殊な装置を必要とする、一方のセグメント除去のために複雑な操作が必要であるなど課題が多い。本研究ではポリマーの自己組織化構造を活かした比較的容易な操作によるナノ構造の作成・機能化を行った。 [2]導電性ポリマー内の自己組織的ナノ構造形成と有機光電変換素子に向けた試み 近年盛んに研究されている導電性ポリマーを用いた有機薄膜光電変換素子はウェットプロセスが可能であり大面積化が容易であることから次世代の太陽電池として注目を浴びている。その光電変換の機構は電子ドナーである導電性ポリマーからアクセプタへの光誘起電子移動であるが、(1)光吸収後に生成した励起子のドナー/アクセプタ界面での電荷分離、および(2)生成した電荷の各電極への電荷輸送、の2つのプロセスが重要となる。電荷分離の向上には励起子の拡散距離(〜10 nm)のスケールでドナー分子、アクセプタ分子がミクロに相分離することが必要であり、一方電荷輸送には輸送パスの形成が重要である。そこで本研究では特に輸送パスの自己組織的な形成を目指した。 2.光触媒反応を用いたブロックコポリマーナノ構造の無機ナノ構造への1ステップ転写 2.1.実験 ポリスチレン(PS)とポリジメチルシロキサン(PDMS)のブロックコポリマー(P(S-b-DMS))のトルエン溶液をディップコート法により作製した酸化チタン薄膜上にスピンコートしてP(S-b-DMS)/酸化チタンフィルムを作成した。得られたサンプルにUV光(365nm)を連続照射し、経時による表面形態および組成の変化の解析を原子間力顕微鏡(AFM)走査電子顕微鏡(SEM)観察およびX線光電子分光(XPS)組成分析により行った。 2.2.結果および考察 図1に初期(A)および20時間(B)、68時間(C)、216時間UV照射後(D)のP(S-b-DMS)/酸化チタン表面のAFM像を示す。ブロックコポリマーのラメラ状の相分離構造パターンが光照射後には徐々に変化し、216時間後には凹凸が完全に反転した10nm程度の隆起構造が確認された。XPSからは経時に伴いCの減少、TiO2由来のTiピークの出現、Siピークの高エネルギー側へのシフト(SiO2の生成)が観測された。以上の結果から、炭化水素で構成されたPSは酸化チタンの光触媒効果により分解され消失し、一方PDMSはパターン構造を保った状態で酸化されてSiO2となったことがわかる。PS/PDMS比率の異なるサンプルを用いたところ柱状の相分離構造が同様に構造を保持したままSiO2に変化することが観察された。光触媒反応を用いることでブロックコポリマーの有機ナノ構造をSiO2/TiO2無機ナノ構造へと転写することに成功した。 3.両親媒性ブロックコポリマーナノ構造を用いたナノ電極アレイ形成 3.1.実験 ベンゼンに溶解させたブロックコポリマーP(S-b-EO)をITO上にスピンコート法で塗布することによりブロックコポリマー被覆電極を得た。原子間力顕微鏡(AFM)の高さ像、位相像から凹凸が5nm程度の平滑な被覆が行われており、またブロックコポリマーがミクロ相分離構造となっていることが観察された。ポリマーの体積比率などから電極表面に垂直な柱状構造であることが示唆された。電気化学測定は一室セルで行い、対極に白金、参照極に銀擬似参照極を用いた。電解液はテトラメチレンスルホン(スルホラン)、電解質はLiClO4(0.1M)を使用した。 3.2.結果および考察 ITO基板上に厚さ50 nmとなるようP(S-b-EO)をスピンコートし、規則的に配列した相分離構造を得た。スルホラン電解液に浸漬したP(S-b-EO)薄膜表面をAFMで観察したところ表面の隆起が確認された。乾燥後のSEM像と合わせて考慮すると、電解液中ではPEO部が選択的に膨潤されていることが推察される。そこでP(S-b-EO)により被覆した電極を作製し、フェロセンの酸化還元反応を行ったところ平板状の拡散を示す酸化還元挙動が確認された。薄膜中に10(11)個cm(-2)オーダーで存在するブロックコポリマーのPEOドメイン中をフェロセンがトンネルのように拡散し、電極表面で反応しているナノ電極集合体として働いていることが考えられる。一方同様にポリスチレンホモポリマーで被覆した電極ではポリマーが絶縁層として挙動し電気化学反応が観察できなかった。スキャン速度を変化したところ平板状の拡散によるI-V挙動から半球状の拡散を示すS字型のI-V挙動に変化した。(図2)。拡散挙動が変化する条件からPEOドメイン中の拡散係数は4 x 10(-11)cm2/s程度と見積もられた。 4.新規なディスコチック液晶性アクセプタを用いた有機薄膜光電変換素子 4.1.実験 1,7,13-トリヘプタノイルデカシクレン (C7DC) は既報に基づき合成した。得られたC7DCは102℃以上で液晶性を示すことがDSC、偏光顕微鏡により確認された。ポリ([2-メトキシ-5-(2'-エチル-ヘキシロキシ)-p-フェニレンビニレン])(MEH-PPV)とC7DCの混合溶液(4 g/L、クロロホルム)を用いてスピンコート法によりITO電極上に薄膜を作成した。真空蒸着したアルミニウムを裏面電極として光電変換測定を行った。 4.2.結果および考察 MEH-PPVの吸収極大である波長500 nmの可視光を励起光としてフィルムの蛍光測定を行ったところ、混合フィルムでは蛍光の消光が確認された。C7DCにはMEH-PPVの蛍光波長(600 nm)での吸収がないことなどから消光は電子移動によるものであることが推察される。さらに同様のフィルムをアクティブ層として光電変換デバイスを作成し、光電変換測定を行った(図3)。波長500nmの光を照射したところ約Voc=1.3 V、外部量子効率(EQE)=1%強の光電変換素子として作用した。MEH-PPV単独のフィルムを用いた時に比べ5倍以上の量子効率となっていることからC7DCがアクセプタとして作用していることが確認された。フィルム表面のAFM観察を行ったところMEH-PPVのみ、C7DCのみの場合とは異なるミクロ層分離構造が観察された(図4)。MEH-PPV中にC7DCと見られる比較的大きい構造(数100 nm程度)が形成されている。EQEの値が1%台と低い理由は結晶性の高いC7DCのMEH-PPVとの相溶性が低く、比較的大きな相分離構造をとったことによると推察された。 図4 MEH-PPV/C7DC混合薄膜表面のAFM位相像 5.新規なロッド-コイル型導電性ブロックコポリマーの合成 5.1.実験 モノマーは既報に従い合成した。合成後のポリマーは1H NMR(500MHz)、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により分析した。ガラス基板上にスピンコートし、紫外可視吸収スペクトルおよび原子間力顕微鏡を用いて物性評価を行った。 5.2.結果および考察 無水THF中で2.5-ジブロモ-3-ヘキシルチオフェンと等モルのtert-BuMgClを反応させた後[1,3-ビス(ジフェニルフォスフィノ)プロパン]ジクロロニッケル(II)(Ni(dppp)Cl2)を加えた。反応液は紫色の懸濁液となり、その時点でサンプル採取すると赤紫色の固体が得られた。GPC、NMRの分析から(1)はMn=5500、Mw=7400のレジオレギュラーなポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)であることが分かった。さらに2.5-ジブロモ-3-(2-エチルヘキシル)チオフェンとtert-BuMgClの反応物を(1)の懸濁液に加えて一晩反応させて得られた固体をメタノールでソックスレー抽出・ヘキサンで再沈して洗浄し、紫色の固体(2)を得た。(2)はMn=8100、Mw=11200のポリマーであり、P3HTとポリ(3-(2-エチルヘキシル)チオフェン)(P3EHT)のセグメントを約1:0.6の比で含むことを確認した。(1)と(2)のGPCチャートが1つのピークをもつ形状を変えずに高分子量側にシフトしていること、分子量分布(Mw/Mn)が(1)1.34、(2)1.38と小さい数値を維持していることなどから(2)がブロックコポリマーであることが分かる。P3EHTホモポリマーがゴム状のポリマーであることから、合成したP(3HT-b-3EHT)は導電性ポリマーのみからなる新規なロッドコイル型ブロックコポリマーである。P(3HT-b-3EHT)フィルムを作成しクロロホルム雰囲気中でアニーリングを行ったところ結晶化に伴う吸収波長の長波長シフトが見られた。AFMを用いて表面の構造を確認したところドメインサイズが20nm程度のナノ構造が観察された(図4)。結晶性、非晶性の二つのセグメントを持つブロックコポリマーのミクロ相分離構造であると推定される。 図1 P(S-b-DMS)/酸化チタンのUV照射下での経時変化(AFM高さ像)、初期(A)および20h(B)、68h(C)、216hUV照射後(D) 図2 5mMフェロセン/スルホラン溶液中でのP(S-b-EO)被覆ITO電極によるサイクリックボルモグラムのスキャン速度依存性:v = 50 mV/s(破線)、20 mV/s(点線)、10 mV/s(一点鎖線)、5 mV/s(二点鎖線)、2 mV/s(実線) 図3 C7DC分子をアクセプタとして用いた場合の電流-電位曲線(光照射なし(点線)、500nm単色光照射(実線)) P(3HT-b-3EHT)合成スキーム 図4 P(3HT-b-3EHT)フィルムのAFM高さ像(a)、位相像(b) | |
審査要旨 | 本論文は六章より構成されており、機能性ポリマーの相分離構造をナノメートルサイズで制御する二つの手法を提案し、それらによる新規機能材料の開発への方向性を議論している。手法の一つはコイル・コイルブロックコポリマーの相分離構造を利用し、従来の方法より飛躍的に簡便な新しい機能化の方法を提案するものである。もう一つは分子の自己組織化により導電性ポリマー内にナノメートルサイズの構造形成を行い、光電変換の重要な一成分である電荷輸送を有利に行うための新規な材料を提案するものである。 第一章ではポリマー中のナノメートルサイズの構造形成およびその機能化について既存の研究例紹介と研究の方向付けがなされ、続く四つの章で具体的な研究成果が示されている。第二章、第三章はコイル・コイルブロックコポリマーを利用した手法について、第四章、第五章では自己組織性分子を利用した有機薄膜太陽電池の新材料について提案が行われている。最後の章では全体の総括と研究に関する将来の展望が述べられている。 第一章は序論として、まずポリマー中の相分離構造の形成過程について物理化学的見地から、また現実のプロセス下の場合について工学的見地から過去の研究例を踏まえて制御因子と構造の相関について詳述されている。さらに相分離によるポリマー中のナノメートルサイズの構造形成と、それを利用した機能化についても既存の研究例を踏まえて研究の方向付けが示されており、明確に本論文の目的を定義している。 第二章ではコイル・コイルブロックコポリマーのテンプレートとしての工学的応用の際に問題となっている、一方のセグメントのみを選択的に除去する方法について新規な手法の提案を行っている。基板として酸化チタンを使用し表面の光触媒的酸化反応を利用することにより、ポリスチレン等からなるセグメントのみが酸化分解され、ポリジメチルシロキサン等炭素原子以外の構成原子を含むセグメントはシリカ等無機物へと変質する。その際数十ナノメートルサイズのナノ構造は保持されたままであることが原子間力顕微鏡観察や高解像度の電子顕微鏡観察により示されている。これは有機物のナノ構造を無機物ナノ構造へと一段階で転写する新しい手法であり、ブロックコポリマーを利用した簡便なナノ構造材料開発手法の提案として重要な意味を持つ。 第三章では電極表面を被覆したブロックコポリマー(ポリスチレン・ポリエチレンオキシド)中の一方のセグメントのみを選択的に膨潤させる溶液(スルホラン)を電解液として選択することにより、数十ナノメートルの柱状構造中を電気化学種が拡散し、ナノ電極集合体として機能するという新しい手法を提案し、実証している。従来は一方のセグメントを選択的に除去するために大掛かりな装置が必要とされていたが、本手法では必要ないため工学的な応用範囲が広い。また本章ではフェロセンがブロックコポリマーの25nm程度の構造中を拡散する際の拡散係数の算出まで行っており、ポリマー被覆電極等に用いられる材料探索の手法としての可能性も示している。材料の利用手法の提案という見地のみでなく、新しい電気化学系の提案として学術的にも意味を持つ。 第四章では自己組織性の高いディスコチック液晶分子を有機太陽電池の新規な電子アクセプタ材料として使用することを提案している。対称性が高く電気化学的な電子授受が高速で行われるという特徴を持つデカシクレンに電子吸引性の官能基を導入することでアクセプタ性を持たせ、その結果導電性ポリマーの電子アクセプタとして光電変換が可能となることを示している。光電変換効率が相分離構造の影響を強く受けていること、および液晶転移温度付近でアニールすることで結晶性が向上し電荷輸送が向上している可能性が高いことを原子間力顕微鏡による観察と光電変換の測定結果を関連付けて説明している。さらに用いられた系では有機太陽電池としては比較的高い開回路電位を示しており、電気化学測定から算出された化合物の高いLUMO位置と相関づけられている。エネルギー変換効率の高い有機太陽電池開発に向けた手法の一つとしてアクセプタ側のLUMO位置制御が重要であることを示唆しており当該分野での工学的な意味を持つ。 第五章では自己組織性を持つロッド・コイルブロックコポリマーとして新規なポリチオフェン設計と合成を行っている。従来カップリング反応により合成され低分子に留まっていたπ共役系ブロックコポリマーを近年提案されたリビング重合的な方法(Grinardメタセシス重合法)を用いている。特に結晶性の高いセグメントとアモルファス状セグメントを併せ持つ全芳香族系のロッド・コイル状ポリマーは前例がない。ゲル浸透クロマトグラフィーや核磁気共鳴スペクトルなどによりリビング的な鎖長伸長による合成が行われていることを示している。また得られた新規化合物が数十nmのミクロ相分離構造を形成すること、セグメントの体積比により相分離構造が異なることも示している。数十nmの構造形成を最も重要な技術課題としている有機太陽電池分野の新しいドナー材料として有用性が高い。 第六章では本論文で独自になされたことをまとめ、今後の展望について述べている。 以上のように、本論文ではポリマー相分離構造を利用した機能材料の開発について多くの提案がなされており、材料化学を始め、電気化学など関連の様々な学際領域の発展に寄与しうると認められる。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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