No | 122378 | |
著者(漢字) | 丸岡,慎太郎 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | マルオカ,シンタロウ | |
標題(和) | 超好熱古細菌Pyrococcus horikoshii OT3由来GMP合成酵素の結晶構造解析 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 122378 | |
報告番号 | 甲22378 | |
学位授与日 | 2007.03.22 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(農学) | |
学位記番号 | 博農第3102号 | |
研究科 | 農学生命科学研究科 | |
専攻 | 応用生命化学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 1. 背景 ヌクレオチドの合成は、5-ホスホリボシル-1α-二リン酸(PRPP)を利用するde novo合成系と、外部から摂取した物質の分解産物である遊離塩基を用いるサルベージ合成系がある。GMP合成酵素はde novoプリン合成系においてXMPをGMPへ変換する反応を触媒する。この変換は、グルタミンの加水分解によりグルタミン酸とアンモニアを生成する反応と、そのアンモニアを利用してXMPをGMPへと変換する反応からなる。グルタミンの加水分解を触媒するのがグルタミンアミドトランスフェラーゼ(GATase)であり、GMPを合成するのはXMP、ATP、Mgイオンを基質としATPピロフォスファターゼ活性を持つGMPシンターゼである(図1)。バクテリア、真核生物ではこの一連の反応が一つの酵素の別々のドメインにおいて起こるのに対し、古細菌では別々に存在している二つの酵素によって行われる。 現在までにGMP合成酵素の構造は、E.coli由来のものしか知られていなかった。本研究では古細菌のGMP合成酵素の詳細な機構の知見を得ることを目的として、超好熱古細菌Pyrococcus horikoshii OT3のGATase(PH-GATase)とGMPシンターゼ(PH-GMPシンターゼ)の結晶構造解析を行った。 Pyrococcus horikoshii OT3は、沖縄海溝内の熱水床付近より単離された絶対嫌気性の超好熱古細菌である。硫黄の存在下、88℃〜104℃(至適生育温度は98℃)で生育する。生産されるタンパク質は高い耐熱性を有し、化学、食品、医薬品など産業分野への応用が期待できる。 2. PH-GATaseの結晶構造(文献1) GATaseは広く生物に存在している酵素であり、GMPシンターゼだけでなく、アンモニアを必要とする多様な合成酵素(アミノ酸、核酸、アミノ糖、補酵素、抗生物質)と共に働く酵素である。Pyrococcus horikoshii OT3は5つのGATaseを持っている。GMP合成系で働くGATaseはClassIに属し、Cys-His-Glu triadを活性部位に持つという特徴がある。 PH-GATaseはSAD (Single-wavelength anomalous dispersion)法を用いて1.9Åの分解能でその結晶構造を決定した(図2(a))。PH-GATaseは、α/β構造をとり、11本のβストランド、5つのαヘリックス、1つの3(10)ヘリックスよりなっていた。活性部位のCys78の主鎖二面角はφ=55.9°、ψ=102.5°であり、これはラマチャンドランプロットで許容されない角度であるが、Cys-His-Glu triadの形成の際によく見られる。結晶構造は単量体であり、PH-GATaseは溶液中でも単量体として存在していることがゲルろ過クロマトグラフィーにより確認された。 構造解析の結果、PH-GATaseは、同じClassIアミドトランスフェラーゼファミリーに属するE.coli由来GMP合成酵素(GuaA)のGATaseドメイン(アミノ酸配列相同性34%)やSulfolobus solfataricus由来アントラニル酸シンターゼGATase(TrpG)(アミノ酸配列相同性33%)の構造と類似していることが明らかになった。活性部位の重ね合わせを行った結果、PH-GATaseのCys Cβ-Sγの方向はTrpGと同じ向きであり、GuaAのCysを100°回転した位置にあることが明らかになった(図2(b))。TriadのCysはグルタミンと反応してグルタミルチオエステル中間体を形成する残基であることから、PH-GATaseのグルタミン認識機構はGuaAよりTrpGに近いことが示唆された。 3. PH-GMPシンターゼの結晶構造 PH-GMPシンターゼの結晶構造はE. coli GMPシンターゼの構造(PDBid 1gpm)をモデルとして用い、MR (Molecular Replacement)法により1.8Åの分解能で決定した。PH-GMPシンターゼは9本のβストランド、10本のαヘリックスよりなっていた。PH-GMPシンターゼの結晶構造は二量体であった(図3)。ゲルろ過クロマトグラフィーを用いた分子量分析により、PH-GMPシンターゼは溶液中でも二量体で存在していることが分かった。 GMPシンターゼはN末端側のATPピロフォスファターゼ(ATP-PPase)ドメインとC末端側の二量体化ドメインからなり、この二つのドメインはPro-Phe-Pro-Gly-Pro-Gly-Leuというプロリンとグリシンに富んだリンカー配列により分けられている。二量体化ドメインはC末端側の3本のβシート、1本のαヘリックスより構成され、二量体化にともない6本のβバレル構造を形成していた。 A鎖、B鎖いずれにおいてもアミノ酸残基131-154の電子密度は見られなかった。この24残基のアミノ酸は基質がない状態ではゆらいでおり、基質がGMPシンターゼに結合したときに蓋として働くのではないかと考えられる。二量体を構成するA鎖とB鎖の構造を比較した結果、root-mean-square deviation (RMSD)は0.8Åであった。最も構造が異なっていた領域は二量体化ドメインに存在するGly241-Ala248であった。これは結晶構造のパッキングによる影響であると考えられる。 PH-GATaseとPH-GMPシンターゼの複合体形成能を調べるため、ゲルろ過クロマトグラフィーを行ったところ、その相互作用を確認できなかった。PH-GATaseとPH-GMPシンターゼが溶液中で複合体を形成しなかったことから、PH-GATaseにより生成されたアンモニアは自然拡散によってPH-GMPシンターゼへ伝達されると考えられる。また、このことからPH-GMPシンターゼ以外の酵素もPH-GATaseにより生産されたアンモニアを利用することが可能である。 4. まとめ P. horikoshii OT3由来GATaseおよびGMPシンターゼの結晶構造をそれぞれ決定した。PH-GATaseの活性traidの比較により、その基質認識機構はアントラニル酸シンターゼのものと類似していることが示唆された。PH-GMPシンターゼとPH-GATaseとは複合体を形成しないことが明らかになった。 図1 GMP合成反応 図2(a) PH-GATaseの結晶構造(単量体) (b) 活性部位の重ね合わせ(PH-GATase,E.coli由来GuaA, S. solfataricus由来TrpG)表示してあるアミノ酸残基の番号はPH-GATaseの残基の番号に対応している。 図3 PH-GMPシンターゼの結晶構造(二量体) | |
審査要旨 | 本論文では、超好熱古細菌Pyrococcus horikoshii OT3由来のGMP合成酵素であるグルタミンアミドトランスフェラーゼ(PH-GATase)とGMPシンターゼ(PH-GMP Synthase)の結晶構造解析を行い、その全体構造および活性部位について述べている。また、PH-GATaseとPH-GMP Synthaseを混合し、基質非存在下、基質存在下においてゲルろ過実験を行い、2つの酵素の相互作用機構を明らかにしている。 序論では、GMP合成酵素はde novoプリン合成系においてキサントシン5'-一リン酸(XMP)をグアノシン5'-一リン酸(GMP)に変換する反応を触媒する酵素であり、この反応はGATase活性とGMP Synthase活性という二つの酵素活性からなる二段階の反応であることを説明している。GATase活性はグルタミンを加水分解し、グルタミン酸とアンモニアが生成する反応を触媒する。GMPSynthase活性はXMP、ATP、Mg(2+)と、GATase活性により生成したアンモニアを基質としてGMPを合成する反応を触媒する。この一連の反応は真正細菌、真核生物では一つの酵素の別々のドメインにおいて起こるのに対し、多くの古細菌では二つの酵素によって行われる。古細菌Pyrococcus horikoshii OT3由来のGMP合成酵素の構造解析および相互作用解析を行うことは、GMP合成が二つの酵素により行われるメカニズムを明らかにするために大いに役立つものと説明している。 本論では、PH-GATaseの結晶構造解析、PH-GMP Synthaseの結晶構造解析、PH-GATaseとPH-GMP Synthaseの相互作用解析について述べている。 GMP合成反応の第一ステップを担うPH-GATaseの結晶構造は、セレノメチオニン置換体を作製し、単波長異常分散法により、1.9Åの分解能で決定した。その結果、PH-GATaseは11本のβストランド、5つのαヘリックス、1つの3(10)ヘリックスよりなり、単量体であることを明らかにした。PH-GMP Synthaseは溶液中においても単量体として存在することをゲルろ過クロマトグラフィーにより示した。Cys79、His166、Glu168により活性部位トライアドが形成されていることを示し、グルタミンチオエステル中間体のモデルを作製することにより、Gly52、Pro53、Asp130がグルタミンの認識に関わるアミノ酸残基であると推定している。 GMP合成反応の第二ステップを担うPH-GMP Synthaseの結晶構造は、E.coli由来GMP合成酵素を分子置換のモデルとして用いることで、1.8Åの分解能で決定している。その結晶構造から、PH-GMP Synthaseは9本のβストランド、10本のαヘリックスよりなり、二量体を形成していることを明らかにした。PH-GMP Synthaseは溶液中においても二量体を形成することをゲルろ過クロマトグラフィーにより示した。得られた結晶構造を用いて反応産物AMP、ppiとの結合モデルを作製することにより、基質と相互作用するアミノ酸残基を推定しており、Val31、Asp32、Ser33、Lys166、Arg185がピロリン酸を、Val53がアデニル基を認識する結合モデルを提唱している。また、二量体間の相互作用を調べており、Arg292とAsp296が形成するイオンペアネットワークが二量体の形成において特に重要であることを示した。 PH-GATaseとPH-GMP Synthaseの相互作用を調べるために、基質非存在下および基質存在下の条件でゲルろ過クロマトグラフィーを行った。その結果、PH-GATaseとPH-GMP Synthaseは、(1)基質なし、(2)Arp、Mg(2+)存在下、(3)XMP、Mg(2+)存在下、の三条件ではいずれも相互作用しないが、(4)ATP、XMP、Mg(2+)存在下、の条件において相互作用することを明らかにした。この結果から、PH-GMP Synthaseに基質ATP、XMP、Mg(2+)が結合することにより構造変化が引き起こされ、PH-GATaseとの相互作用が可能になるという活性制御機構を提唱している。 以上のように、本研究で得られた知見は、学術上貢献するところ大であると考えられる。よって、審査委員一同は、本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。 | |
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