No | 122410 | |
著者(漢字) | 安,善榮 | |
著者(英字) | An,Sun-Young | |
著者(カナ) | アン,ソンヨン | |
標題(和) | Microbacteriaceae科およびBacillaceae科細菌の系統分類に関する研究 | |
標題(洋) | Phylogenetic and taxonomic studies on the families Microbacteriaceae and Bacillaceae | |
報告番号 | 122410 | |
報告番号 | 甲22410 | |
学位授与日 | 2007.03.22 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(農学) | |
学位記番号 | 博農第3134号 | |
研究科 | 農学生命科学研究科 | |
専攻 | 応用生命工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | はじめに 微生物が持っている様々な情報を整理し、グループ化することを分類(Classification)と言い、その分類された菌に対して名を付けることを命名(Nomenclature)と言う。微生物を自然界から分離した時、その微生物を体系化された分類システムに基づいて検索すればそれが既に知られているどの菌種に属するのかを正確に決めることができるようになる。このような手段を同定(Identification)と言う。さらに微生物の分類、命名及び同定を含んだ生物学の分野を微生物分類学(Microbial Toxonomy)と言う。この微生物分類学は微生物学研究の基礎になる重要な分野で生物科学及び関連分野の進歩と共に発展し、また進化系統学(Phylogeny)が反映された分類体系に改革されている。このような微生物の分類、同定、系統関係の解明は微生物を理解するうえで最も基本であり重要である。 本研究では微生物の分類、同定、系統関係の理解の為 1.16S rRNA遺伝子と機能タンパク質をコードする3つの遺伝子(gyrB、rpoA、recA)を用いてMicrobacteriaceae科細菌の系統関係を明らかにする比較研究を行った。 2. Bacillaceae科の分離株の同定試験を通じた分類、同定を行い新属及び新種を提案した。 Microbacteriaceae科細菌の系統分類に関する研究 Microbacteriaceae科はActinobacteria門に属し、主な特徴としてグラム陽性、高G+C、好気性、Bタイプの細胞壁ペプチドグリカンを有する。現在までに22 属が16S rRNA 遺伝子の系統解析に基づいて分類されているが16S rRNA 遺伝子は塩基置換率が低いため、Microbacteriaceae科の属内の近縁種の識別が困難であり、属以下の種・亜種レベルの分類や検出・識別においても解像度が不十分な問題点がある。さらに、16S rRNA 遺伝子による系統解析でSalinibacterium、Leifsonia、Rhodoglobus属が同じクラスタを、またZimmermannella、Pseudoclavibacter、Gulosibacter属が同じクラスタを組んでいるが、1つの遺伝子の解析結果でこれらの属の分類学的な位置を明らかにするのは困難である。本研究では16S rRNA 遺伝子よりも進化速度が速く、生物全体に広く存在する機能クンパク質をコードする遺伝子に着目した。これらの遺伝子を用いて系統解析を行い16S rRNA遺伝子の結果と比較検討することでMicrobacteriaceae 科細菌の系統関係をより明らかにすることを目的として研究を行った。本研究で利用した機能タンパク質をコードする遺伝子は、DNAジャイレースサブユニットB遺伝子(gyrB)とRNAポリメラーゼの(αサブユニット遺伝子(rpoA)とリコンビナーゼA遺伝子(recA)である。 3つの遺伝子断片を増幅するために各機能タンパク質のアミノ酸配列の保存領域からプライマーを設計した。IAM、JCM、DSM、CIP、LMG、MTCC、KCTCなどの様々なカルチャーコレクションから取得した菌株を培養しDNAを抽出した後、設計したプライマーを利用して目的領域を増幅した。各遺伝子の増幅産物の塩基配列を決定後、系統樹を作成し、既知の16S rRNA遺伝子による系統樹と比較検討した。 以上分析の結果、recAに基づいた系統解析では、各属のなかの種のまとまりが見られなかったことより、分子マーカーとして適当ではないと考えられたが、gyrBとropAはMicrobacteriaceae科に属する細菌の系統関係をより明らかにする有用な分子マーカーであることが判明した。また、gyrBとrpoAの塩基置換率は16S rRNA遺伝子のものより早いことから、近縁種での識別に高い解像度を持っていることが判明した。16S rRNA遺伝子のみの解析では分類学的位置が混乱していたSalinibacterium、Leifsonia、Rhodoglobus属とZimmermannella、Pseudoclavibacter、Gulosibacter属はgyrBとrpoAの解析結果からこれらの属の再整理が必要であることがより明らかにされた。 これまで機能タンパク質をコードする遺伝子を利用して属レベルで又は属を代表する菌株を対象にした科レベルでの系統研究は数多く報告されているが、一つの科全般を対象にした研究は少ない。また本研究でMicrobacteriaceae科細菌の全般にわたって有用な2つの分子マーカー(gyrBとrpoA)の塩基配列を明らかにしたことで、今後 Microbacteriaceae科細菌で16S rRNA遺伝子と共にgyrBとrpoAを利用した系統解析も活発になることが期待される。さらに16S rRNA遺伝子のみならずgyrBとrpoAを共に利用する研究によってMicrobacteriaceae科細菌の系統関係がより明らかになり、より正確で充実した新属及び新種の提案ができるものと考える。 Bacilliaceae科細菌の系統分類に関する研究 Bacillaceae科はFirmicutes門に属し、芽胞を形成する特徴持つ絶対好気性もしくは通性嫌気性のグラム陽性桿菌である。水圏や土壌など自然環境に広く分布し非常によく増殖する。また、高pHや低温、高塩濃度、高圧といった様々な極限環境にも適応したものもあり、非常に多くの属や種が存在する。この科の代表的な属はグラム陽性桿菌のモデル生物として重要であるBacillus subtilis(枯草菌)や生活にも密接に関連している病原菌のBacillus anthracis(炭疽菌)やBacillus cereus、Bacillus thuringiensisなどの種を含むBacillus属がある。この科の細菌は微生物学や分子生物学分野などの基礎研究のみならず食品産業、下水処理、農業などの様々な分野で広く用いられている。 本研究では多方面で利用されている有用な微生物資源であるこれらBacillaceae科の細菌の確保及び応用研究の基盤構築を目的として水圏及び土壌由来の好気性有芽胞子菌の分離株について分類学的な研究を行い、新種提案を行った。 水圏由来の12株と土壌由来の10株、総計22株について16S rRNA遺伝子塩基配列に基づく系統解析を行った結果、Bacillaceae科の既知属あるいは新属であると推定された。これら分離株についてHPLCによるDNA G+C含量と細胞壁アミノ酸組成の測定及びキノン分子種の決定、MIDI法での菌体脂肪酸組成の分析、フォトビオチンを用いたマイクロプレート法によるDNA-DNAハイブリダイゼーションを行った。さらに光学顕微鏡による栄養細胞と胞子の形態観察、生育温度、pH範囲、耐塩性、API 20E、API 50CHBなどによる生理・生化学的性状も調べた。 以上の試験結果より、分離株1株はBacillus属の既知菌種と同定されたが、分離株21株は新種であることが明らかになった。21分離株中、3株はBacillaceae科の新属(Terrihacillus)の新種(2種)、6株はBacillus属の6新種、2株はVirgibacillus属の1新種、1株はHalobacillus属の新種、1株はAmphibacillus属の新種、8株はSporosarcina属の3新種と同定した。 Bacillaceae科細菌の再分類が活発に進んでいるなかでBacillus属の5新種は Sphaericus-type Bacillus周辺菌の系統関係を明らかにする重要な役目が期待される。また、Bacillaceae科の中でも中度好塩性グループに入る新属Terribacillusの提案、及びVirgibacillus、Halobacillus、、Amphibacillus属の新種提案はこれら属の種の多様性を広げることで意味があると考える。 まとめ Microbacteriaceae科細菌の全般を16S rRNA 遺伝子と機能タンパク質をコードする3つの遺伝子(gyrB、rpoA、recA)を用いて系統解析を行った結果、Microbacteriaceae科に属する細菌の系統関係がより明らかなものとなった。また、本研究で利用した機能タンパク質をコードする3つの遺伝子のうち、gyrBとrpoAは新たな分子マーカーとしての可能性を示すと共に、16S rRNA遺伝子では困難であった近縁種の識別を明確にした。このように多数の遺伝子を利用した系統解析はMicrobacteriaceae科細菌の系統研究において、非常に有用であると考えられる。 水圏と土壌からの22分離株について16S rRNA遺伝子塩基配列に基づく系統解析、化学分類、顕微鏡による胞子や形態観察、生理生化学試験を含む多相分類を行って、Bacillaceae科の1つの新属に属する2つの新種、5つの既知属に属する12の新種を提案した。 | |
審査要旨 | 細菌の分類体系は分子系統(Phylogeny)研究が反映された分類体系に改革されている。しかしこのような中で、まだ系統解析の不十分な分類群も数多く残されている。そのような分類群の一つとしてとして本研究ではMicrobacteriaceae科とBacillaceae科細菌を取り上げ、この分類群に系統解析を加えたものである。 第1章ではMicrobacteriaceae科細菌の系統分類に関する研究について述べた。Microbacteriaceae科はActinobacteria門に属し、好気性、グラム陽性、高G+Cで、Bタイプの細胞壁ペプチドグリカンを有する。本科には22属が含まれていあるが、16S rRNA遺伝子は塩基置換率が低いため、Microbacteriaceae科の属内の近縁種の識別が困難であり、属以下の種・亜種レベルの分類や検出・識別が不十分であった。本研究では16S rRNA遺伝子よりも進化速度が速く、生物全体に広く存在する機能タンパク質をコードする遺伝子とDNAジャイレースサブユニットB遺伝子(gyrB)とRNAポリメラーゼのαサブユニット遺伝子(rpoA)とリコンビナーゼA遺伝子(recA)を用いて系統解析を行い16S rRNA遺伝子の結果と比較検討した。3つの遺伝子断片を増幅するために各機能タンパク質のアミノ酸配列の保存領域からプライマーを設計し、入手した各菌種の基準株のDNAを用いて設計したプライマーを利用して各遺伝子の目的領域を増幅した。各遺伝子の増幅産物の塩基配列を決定後、系統樹を作成し、既知の16S rRNA遺伝子による系統樹と比較検討した。その結果、recAに基づいた系統解析では、各属の中の種のまとまりがなかったことより、分子マーカーとして適当ではないと考えられたが、gyrBとrpoAはMicrobacteriaceae科に属する細菌の系統関係をより明らかにする有用な分子マーカーであることが判明した。また、gyrBとrpoAの塩基置換率は16S rRNA 遺伝子のものより早いことから、近縁種での識別に高い解像度を持っていることが判明した。16S rRNA 遺伝子のみの解析では分類学的位置が混乱していたSalinibacterium、Leifsonia、Rhodoglobus属とZimmermannella、Pseudoclavibacter、Gulosibacter属はgyrBとrpoAの解析結果からこれらの属の再整理が必要であることが明らかになった。 第2章ではMicrobacteriaceae科細菌の分類学的検討結果について述べた。主にLeifsonia属の菌種について分類学的位置が適当でない菌株についてその正しい位置について検討した。その結果、Rhodoglobus属へ移行してRhodoglobus aureaとすること、地衣類からの分離株2S-B株を新種Leifsonia licheniaとすること,野外からの分離株KHIAについて新属Iamella luteolaとすることを提唱した。 第3章ではBacilliaceae科細菌の系統分類に関する研究について述べた。 Bacillaceae科はFirmicutes門に属し、芽胞を形成する絶対好気性もしくは通性嫌気性のグラム陽性悍菌である。本研究では多方面で利用されている有用な微 生物資源であるこれらBacillaceae科の細菌の確保及び応用研究の基盤構築を 目的として水圏及び土壌由来の好気性有芽胞子菌の分離株について分類学的な 研究を行い、新種提案を行った。水圏由来の12株と土壌由来の10株、総計22株について16S rRNA 遺伝子塩基配列に基づく系統解析を行った結果、Bacillaceae科の既知属あるいは新属であると推定された。これら分離株につい て形態観察、生理・生化学的性状、化学分類、DNA-DNAハイブリダイゼーションによる比較検討を行った。その結果、分離株1株はBacillus属の既知菌種と同定されたが、分離株21株は新種であることを明らかにした。21分離株中、3株はBacillaceae科の新属(Terrihacillus)の2新種、6株はBacillus属の6新種、2株はVirgibacillus属の1新種、1株はHalobacillus属の1新種、1株はAmphibacillus属の1新種、8株はSporosarcina属の3新種ととすることを 提唱した。 以上、本論文はMicrobacteriaceae科細菌の系統関係およびBacilliaceae科細菌の系統分類学的位置を明らかにしたもので、学術上、応用上、貢献するところが少なくない。よって審査委員一同は本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。 | |
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