学位論文要旨



No 122489
著者(漢字) 王,大亮
著者(英字) Wang,Daliang
著者(カナ) オウ,ダイリョウ
標題(和) キネシンスーパーファミリー蛋白KIF13Bの分子遺伝学的研究
標題(洋) Genetic Study of Kinesin Superfamily Protein, KIF13B
報告番号 122489
報告番号 甲22489
学位授与日 2007.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2785号
研究科 医学系研究科
専攻 分子細胞生物学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 井原,康夫
 東京大学 教授 三品,昌美
 東京大学 教授 宮園,浩平
 東京大学 教授 宮崎,徹
 東京大学 助教授 中村,元直
内容要旨 要旨を表示する

 キネシンスーパーファミリ(KIFs)は微小管をレールとしてカーゴ(貨物)を輸送する分子モーター群である。その中の1つであるKIF13Bの生体内での機能を解析するために、KIF13B遺伝子欠損マウスを作成した。KIF13Bは他の臓器と比べ肝臓で非常に発現が多く、肝臓では肝細胞の血管に接した細胞膜直下に局在した。KIF13Bノックアウトマウスは、肝臓において脂肪の蓄積がみられ、さらに高コレステロール血症を示した。これらのことからKIF13B欠損マウスは脂肪肝を呈し、KIF13Bが肝臓における脂肪代謝に重要な役割を任っていることが示唆された。

序論

 細胞ではタンパク質の多くは細胞体で合成され、それらが必要とされる場所に運ばれる。キネシンスーパーファミリータンパク(KIF)は微小管をレールとしてATPをエネルギー源として細胞内で物質を輸送する分子モーター群であり、私たちの研究室を中心に40種類以上のKIFが同定されてきた。本研究ではこのKIFタンパク群の中の1つであるKIF13Bに注目し、KIF13B遺伝子欠損マウスを作成・解析することで、KIF13Bの分子レベルから個体レベルに渡った解析を行った。

 通常、肝臓は重量あたり2-4%程度の脂肪を含む。これには中性脂肪、リン脂質、脂肪酸さらにコレステロールなどが含まれる。脂肪肝は脂肪が肝重量の5%以上、あるいは肝細胞の30%以上に脂肪が蓄積した状態を指し、主として糖尿病、肥満、アルコール、薬剤、高脂血症などでみられる。単純な脂肪肝は良性疾患だが、時に肝線維化、肝硬変、さらに肝癌に進展することもあり、脂肪肝の発症メカニズムを解明することは大変重要である。

 本研究ではKIF13B が肝臓でとりわけ多く発現していることを見いだした。また、KIF13Bの欠損マウスは肝臓に脂肪が蓄積し、高コレステロール血症を示した。したがって、KIF13B遺伝子欠失マウスは脂肪肝を発症していると考えられ、その解析を通じて、KIF13Bの生体内での機能についての知見を得ようと試みた。

方法と結果

【KIF13Bに対する抗体の作製とKIF13Bの肝臓における局在を観察】

 キネシンスーパーファミリータンパクとして40種類のKIFが同定されてきたが、これらは15種類のサブファミリ(Kinesin1-13,14Aと14Bファミリ)に分類される。KIF13BはこのうちのKinesin 3ファミリに属し、1826アミノ酸から成り、SDS-PAGEで約250kDa のバンドとしてみられる。まずKIF13Bの中央部とC末端のアミノ酸配列の合成ペプチドを用いてKIF13Bに対する抗体を作製し、各種臓器におけるKIF13Bの発現を調べた。KIF13Bは肝臓、精巣、卵巣などで発現が高かったが、脳、心臓、脾臓では少なかった。さらにKIF13B の局在を肝臓について調べたところ、KIF13Bは肝細胞の血管に接した細胞膜の直下の部位に限局していた(Fig.1)。

【KIF13B欠損マウスの作製と解析】

 次にジーンターゲッティングの手法を用いてKIF13B遺伝子欠損マウスを作成した 。KIF13B欠損マウスは外見上目立った異常は見られず、野生型マウスと同様に成獣になった。しかし、KIF13B欠損マウスの肝臓では肝細胞中にさまざまな大きさの脂肪滴がみられた(Fig.2)。血中GPT, A/G比などの値が正常だったことからノックアウトマウスの肝機能に大きな障害はみられなかったが、1年齢以上のマウスの肝細胞で高度の脂肪沈着を含む細胞変性が認められた。さらにKIF13B欠損マウスは高脂肪飼料による脂肪負荷に対し野生型マウスより脂肪肝になりやすく、野生型マウスより血清コレステロールの値も高かった。

【KIF13Bの運ぶカーゴの探索】

 KIF13B欠損マウスは野生型マウスと比べ摂食量に差がみられなかったことから、この脂肪肝は肝臓における脂質代謝に障害があるためだと考えられた。現在KIF13B欠損マウスの肝臓のさらなる解析とともにKIF13Bが運ぶカーゴの同定を行っている。

結論

1. KIF13Bは肝臓での発現が非常に多い。

2. KIF13Bは肝細胞の血管に接する細胞膜の直下に局在する。

3. KIF13B欠損マウスは脂肪肝になる。

Fig.1 野生型マウスの肝臓におけるKIF13の局在。KIF13は肝細胞の血管に接した細胞膜の直下の部位に限局していた。

Fig.2 KIF13B欠損マウスの肝臓における脂肪滴の蓄積。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究はキネシンスーパーファミリ(KIFs)の中の1つであるKIF13Bの機能を明らかにするために、KIF13B遺伝子欠損マウスの作製・解析を通して、KIF13Bの生体内での役割の解明を試みたものであり、下記の結果を得ている。

1. KIF13Bに対する抗体を作製し、各種臓器におけるKIF13Bの発現を調べた。KIF13Bは肝臓、精巣、卵巣などで発現が高かったが、脳、心臓、脾臓では少なかった。とりわけ肝臓におけるKIF13Bの発現は高く、脳の20倍に及ぶことが示された。

2. 肝臓におけるKIF13B の局在を調べたところ、KIF13Bは肝細胞の血管に接した細胞膜の直下に限局していた。

3. KIF13B遺伝子欠損マウスの肝臓の肝細胞中に多くの脂肪滴がみられた。特に1年齢以上のマウスの肝細胞では高度の脂肪沈着を含む細胞変性が認められた。さらにKIF13B欠損マウスは高脂肪飼料による脂肪負荷に対し野生型マウスより脂肪肝になりやすく、同時に血清コレステロールの値も高かった。

 以上、本論文はKIF13Bの肝臓での発現が高く、その欠損マウスは脂肪肝になることを明らかにした。本研究はこれまで未知に等しかった、KIF13Bと脂肪代謝との関係の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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