学位論文要旨



No 122504
著者(漢字) 中川,崇
著者(英字)
著者(カナ) ナカガワ,タカシ
標題(和) パスウェイ解析 : 新規マイクロアレイ発現解析アルゴリズムの導入と膵癌発癌解析への応用
標題(洋)
報告番号 122504
報告番号 甲22504
学位授与日 2007.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2800号
研究科 医学系研究科
専攻 病因病理学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 宮園,浩平
 東京大学 教授 名川,弘一
 東京大学 教授 古川,洋一
 東京大学 講師 森屋,恭爾
 東京大学 講師 野村,幸世
内容要旨 要旨を表示する

[内容の要旨]

1. 背景

近年の急速な技術の発達により、組織中に発現している転写産物の網羅的測定が可能となった。そのため従来に比べて遙かに多くの実験データを得られるようになったが、その解釈、解析は困難な問題となった。これまでも多くの解釈法が提案され、いくつかの手法はその妥当性を認められてきたが、既存の手法だけでは実験データから十分な生物学的知見を抽出し切れているとはいえない。また、膵癌は既存の生物学的特性の解明が不十分で、診断および治療ともに困難な疾患である。本研究では、大量の発現データを解析する一つの機械的新手法を提案し、膵癌患者の膵組織32例の発現データ解析への応用を通して本手法の妥当性を検討した。

2. 本研究で提案する新手法

計算機で実行可能な形式でプログラミングを行い、転写産物の生物学的な機能に応じたセットごとに主成分分析を行いその第一主成分得点をそのセットの代表値とした。これまでは転写産物ごとにその発現値に注目していたが、それだけでは発現プロファイルの生物学的意味を見出すことが困難であった。この新手法は生物学的機能と関連した転写産物セットの総合的な動きを評価することができる。

3. 膵組織発現解析

正常組織4例を含む32例の発現データに対して新手法を適応し、そのプロファイルを正常組織と腫瘍組織とで比較した。

発現差異を示したセットに関連する生物学的機能のうち多くが既に膵癌の発癌に関連されているとされたものだった。

このことは本手法が既存の膵癌に関する生物学的知見と矛盾のない知見を示しうること、また同様に新たな知見をも示しうることを示唆している。

4. 既存の類似手法との比較

転写産物を生物学的な機能に応じたまとまりに区分けし、発現解析に用いている手法には既存のものがあり、そのうちもっとも普及していると思われる一つの手法と本研究で提案する新手法との対比を行った。

結果として、既存手法では示し得なかったセットの発現差を示すことができた。

また、これまでに報告のない生物学的機能に関連したセットをも示すことができた。

以上、発現解析の新手法を提案し、膵癌と正常組織の発現差解析へ応用した。

そして膵癌発癌に関わる既存の生物学的機能を見出すともに、新たな発癌に関わる生物学的機能を指摘しうる可能性を示すことができた。

審査要旨 要旨を表示する

近年の急速な技術の発達により、組織中に発現している転写産物の網羅的測定が可能となった。そのため従来に比べて遙かに多くの実験データを得られるようになったが、その解釈、解析は困難な問題となった。これまでも多くの解釈法が提案され、いくつかの手法はその妥当性を認められてきたが、既存の手法だけでは実験データから十分な生物学的知見を抽出し切れているとはいえない。また、膵癌は既存の生物学的特性の解明が不十分で、診断および治療ともに困難な疾患である。本研究では、大量の発現データを解析する一つの機械的新手法を提案し、膵癌患者の膵組織32例の発現データ解析への応用を通して本手法の妥当性を検討し、以下の成果を得た。

1. 新手法の提案と実装

計算機で実行可能な形式でプログラミングを行い、転写産物の生物学的な機能に応じたセットごとに主成分分析を行いその第一主成分得点をそのセットの代表値とした。これまでは転写産物ごとにその発現値に注目していたが、それだけでは発現プロファイルの生物学的意味を見出すことが困難であった。この新手法は生物学的機能と関連した転写産物セットの総合的な動きを評価することを可能とした。

2. 膵組織発現解析への応用

正常組織4例を含む32例の発現データに対して新手法を適応し、そのプロファイルを正常組織と腫瘍組織とで比較した。

発現差異を示したセットに関連する生物学的機能のうち多くが既に膵癌の発癌に関連されているとされたものだった。

このことは本手法が既存の膵癌に関する生物学的知見と矛盾のない知見を示しうること、また同様に新たな知見をも示しうることを示唆した。

3. 既存の類似手法との比較

転写産物を生物学的な機能に応じたまとまりに区分けし、発現解析に用いている手法には既存のものがあり、そのうちもっとも普及していると思われる一つの手法と本研究で提案する新手法との対比を行った。

結果として、既存手法では示し得なかったセットの発現差を示すことができた。

また、これまでに報告のない生物学的機能に関連したセットをも示すことができた。

以上、本論文は数学的アルゴリズムとコンピュータを用いて発現解析の新手法を提案し、膵癌と正常組織の発現差解析へ応用した。そして新手法が膵癌発癌に関わる既存の生物学的機能を見出すともに、新たな発癌に関わる生物学的機能を指摘しうる可能性を示した。本研究はこれまで既存の確立した手法が皆無に近かった網羅的発現解析分野において重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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