No | 122520 | |
著者(漢字) | 高橋,浩一郎 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | タカハシ,コウイチロウ | |
標題(和) | TLR4、TLR2によって誘導される炎症性サイトカイン産生におけるProtein associated with TLR4(PRAT4A)の役割 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 122520 | |
報告番号 | 甲22520 | |
学位授与日 | 2007.03.22 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第2816号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 病因・病理学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | Toll-like receptor(TLR)は自然免疫系において、病原体由来の成分を認識することによって迅速な免疫応答を惹起し生体の防御機構を発動する。TLR1、TLR2、TLR4、TLR5、TLR6は細胞表面に発現し、主に病原体由来の脂質やタンパク質を認識する。一方、TLR3、TLR7、TLR8、TLR9は細胞内に発現しており、病原体由来の核酸成分を認識する。これらTLRの細胞における分布の違いは、それぞれのリガンドをより効率よく認識するためであると同時に、類似する自己の成分(たとえばDNAやRNA)との識別において重要であると考えられている。グラム陰性菌の膜成分であるLPS (Lipopolysaccharide)は、TLR4とその細胞外領域で会合するMD-2のヘテロ2量体によって認識される。MD-2はLPSに直接結合するとともに、TLR4の細胞表面への発現にも影響する。MD-2ノックアウトマウスにおいては、TLR4は糖鎖修飾されずそのほとんどが小胞体やゴルジ体に留まり、細胞表面に発現することができない。TLR4の細胞表面への発現にはMD-2が重要であるにもかかわらず、いくつかの研究グループからMD-2がなくてもTLR4単独で細胞表面に発現しLPSに応答できるという報告がなされている。このことは、MD-2以外にもTLR4の細胞表面への発現を調節している未知の分子が存在していることを示唆している。最近、当教室において、TLR4に会合しその細胞表面への発現調節を行う分子としてPRAT4A(Protein associated with TLR4)がクローニングされた。 私は、このPRAT4Aのマクロファージ、樹状細胞における役割について検討するために、マクロファージ細胞(RAW264細胞株)および骨髄由来樹状細胞(BMDC ; Bone marrow derived dendritic cell)におけるPRAT4Aの発現を、RNAiによってノックダウンし、その細胞の病原体成分に対する応答性を解析した。この結果、PRAT4Aノックダウンによって、細胞表面のTLR4/MD-2発現が低下し、同時にLPSに対するTNF-α、IL-6、IL-12などの炎症性サイトカイン産生が低下することを明らかになった。生化学的検討においても、IRAK-1、IκBα degradationなどのシグナル伝達が低下・遅延していた。 さらに興味深いことに、LPSばかりでなく、TLR2リガンドであるPam3CSK4やFSL-1などのリポペプチド(Pam3CSK4はTLR1/TLR2ヘテロ2量体、FSL-1はTLR2/TLR6ヘテロ2量体のリガンド)に対する応答性も部分的に低下していた。これまでの解析で、PRAT4AとTLR2の会合は非常に弱いことが分かっている。そこで私は、PRAT4AがTLR1/TLR2または TLR2/TLR6ヘテロ2量体のうち、TLR1やTLR6に作用することによって、応答性が部分的に低下するのではないかという仮説を立てた。共沈実験において、PRAT4AとTLR1の会合が認められた。TLR1に対する新規モノクローナル抗体を作成し、TLR1の細胞表面の発現を検討したところ、PRAT4Aノックダウン細胞において細胞表面のTLR1発現が低下していた。さらに、PRAT4Aノックダウン細胞において、ウエスタン解析で糖鎖修飾されたTLR1が減少していた。つまり、PRAT4AはTLR4と同様にTLR1に会合しその細胞表面への発現を制御することによって、TLR1/TLR2リガンドに対する応答性が低下していると考えられた。PRAT4Aの細胞内局在を共焦点顕微鏡にて検討したところ、PRAT4Aは小胞体に局在していた。またTLR4やTLR1もその大部分は小胞体に局在している。TLR4は小胞体においてN-グリコシド型糖鎖修飾を受けることによって、成熟したタンパク質として、ゴルジ体系に輸送され細胞膜表面に発現することができる。PRAT4Aノックダウンによって、TLR4(TLR1)の糖鎖修飾された細胞表面のTLR4(TLR1)が消失・減少していた。PRAT4Aは、小胞体においてTLR4(TLR1)と会合しこれらの糖鎖修飾を促進する働きを担っていると考えられた。 次に細胞内に局在するTLR3、TLR7、TLR8、TLR9におけるPRAT4Aの解析を行った。PRAT4AをノックダウンしたRAW264細胞とBMDCにおいてTLR9リガンド(CpG-DNA)に対する応答性が低下していた。共沈実験において、PRAT4AとTLR9の会合が認められた。PRAT4Aノックダウン細胞におけるTLR9の細胞内局在を共焦点顕微鏡にて検討した。TLR9はもともと小胞体に局在しており、CpG-DNA刺激によってlysosomeまたはendosomeへ移動し、そこでTLR9とCpG-DNAが共局在することで応答することが知られている。PRAT4Aノックダウン細胞では、TLR9は小胞体からリガンド認識の場であるlysosomeまたはendosomeへの移動ができなくなっていた。つまり、PRAT4Aは小胞体においてTLR9とも会合し、TLR9の小胞体からの移動に重要な働きを担っていると考えられた。 以上より、RPAT4AはTLR4やTLR1の細胞表面の発現に加え、TLR9の細胞内局在を制御することで、病原体に対するマクロファージや樹状細胞の応答性を調節していることが明らかとなった。PRAT4Aは、細胞表面に局在するTLR4、TLR1(TLR2)のみならず細胞内に局在するTLR9も制御している。実際の感染症を考えた場合に、一つの病原体であっても糖脂質と核酸成分のように複数のTLRリガンドが含まれていることが多い。PRAT4AはTLR4(TLR1)のみならずTLR9も同時に制御しているため、今後感染症または自己免疫性疾患における治療の標的分子となる可能性が考えられる。関連する疾患における治療の標的分子となる可能性が考えられた。 | |
審査要旨 | 本研究は自然免疫系の病原体認識受容体であるToll-like receptor 4(TLR4)と会合し、その細胞表面への発現を制御している分子Protein associated with TLR4(PRAT4A)の機能解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。 1. PRAT4Aの機能解析を21塩基配列によるshort hairpin RNA(shRNA)を用いたRNA干渉法により行った。shRNAのoff-target効果を除外するために、silent mutationを加えたPRAT4Aの導入実験を行い、PRAT4A特異的である事が示された。RAW264細胞株やマウス骨髄由来樹状細胞において、PRAT4Aをノックダウンした場合、細胞表面のTLR4/MD-2発現が低下する事が示された。 2. RAW264細胞株や樹状細胞のPRAT4Aノックダウン細胞では、TLR4リガンドのLPS(LipidA)によって誘導されるTNF-α, IL-6, IL-12などの炎症性サイトカインとI型インターフェロン産生が低下する事が示された。さらに、TLR2リガンドのPam3CSK4、TLR9リガンドのCpG-DNAに対する応答性も低下していた。また、TLR下流のシグナル伝達分子の生化学的解析において、IRAK-1、IκBα degradationが減弱・遅延している事が示された。 3. PRAT4AノックダウンRAW264細胞株では、LPS(LipidA)に対するI型インターフェロン産生はコントロール細胞と差が認められなかった。生化学的解析においても、IRF-3リン酸化はPRAT4Aノックダウン細胞においても同等に認められた。RAW264細胞株においては、PRAT4AはMyD88依存的経路特異的に機能している可能性が示された。 4. Ba/F3細胞株を用いた会合実験で、生化学的解析においてもPRAT4AはTLR4以外にTLR1、TLR9と会合する事が示された。 5. 生化学的にTLR4およびTLR1の糖鎖修飾を検討した結果、PRAT4Aノックダウン細胞においては、両者ともにEndo-Hf処理抵抗性のTLR4(TLR1)が消失しており、小胞体に留まっている事が示された。さらに、TLR9の細胞内局在を共焦点顕微鏡にて検討した結果、PRAT4Aノックダウン細胞において、CpG-DNA刺激によるTLR9の小胞体からlysosome(またはendosome)への局在変化が認められず、TLR9は小胞体に留まっている事が示された。つまり、PRAT4AはTLR4、TLR1、TLR9が小胞体から細胞表面やlysosomeなどの認識の場への細胞内局在を制御している事が示された。 以上、本論文はTLRによる病原体認識機構において、RNA干渉を用いた機能的解析から、PRAT4Aは、TLR4、TLR1、TLR9の細胞内局在を制御している分子であり、この結果LPSやPam3CSK4、CpG-DNAによって誘導される炎症性サイトカイン産生やI型インターフェロン産生が低下することを明らかにした。本研究はこれまで未知に等しかった、TLRの細胞内局在に関する制御機構の解明に重要な貢献をすると考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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