学位論文要旨



No 122532
著者(漢字) 室橋,道子
著者(英字)
著者(カナ) ムロハシ,ミチコ
標題(和) 胚盤胞内幹細胞を制御するFGF4ならびにBMP4によるシグナル伝達の分子機構解析
標題(洋)
報告番号 122532
報告番号 甲22532
学位授与日 2007.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2828号
研究科 医学系研究科
専攻 病因・病理学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 中内,啓光
 東京大学 教授 吉田,進昭
 東京大学 教授 栗原,裕基
 東京大学 助教授 宮澤,恵二
 東京大学 助教授 仙波,憲太郎
内容要旨 要旨を表示する

 幹細胞はin vitroにおいて、さまざまな増殖因子やサイトカインを用いてその未分化性の維持や増殖および分化を人為的に制御できることが知られている。しかし、in vivoにおいて幹細胞が増殖因子やサイトカインによってどのように制御されているのかについてはいまだ不明な点が多い。哺乳類における初期発生の胚盤胞期において、内部細胞塊(inner cell mass)にはES(embryonic stem)細胞が、栄養外胚葉(trophectoderm)にはTS(trophoblast stem)細胞が含まれていることが知られている。そこで私は、内部細胞塊から分泌されたFGF4(fibroblast growth factor 4)によって栄養外胚葉でBmp4(bone morphogenic protein 4)が誘導・分泌され、内部細胞塊に伝達されるメカニズムについて解析を行った。TS細胞において、Bmp4の5'プロモーター領域のルシフェラーゼアッセイを行ったところ、FGF4反応性に活性が増強するエンハンサーが見出され、その部分は転写因子Cdx2の結合部位を含んでおり、ゲルシフトアッセイによりこの部位とCdx2との特異的な結合がみられた。また、FGF4によって活性化したERKが、Cdx2ならびに細胞培養液中に分泌されるBmp4の発現を誘導することがわかった。われわれはこれまでに、TS細胞においてFGF4がERKを活性化する際に、FGF受容体によってドッキング分子FRS2αが活性化することが必須であることを示してきた。今回さらに、このFrs2αノックアウト胚盤胞の培養を行ったところ、この変異胎児の胚盤胞において内部細胞塊が小さくなるという表現型がみられた。そして、この変異はBMP4を培養液に添加することで野生型と同程度まで改善された。これらの結果より、栄養外胚葉内TS細胞においてFGF4はFGF受容体-FRS2α-ERK経路を活性化してCdx2の発現を増強するとともに、Cdx2はBmp4の転写活性化に重要な役割をはたし、さらに分泌されたBmp4は内部細胞塊の成長に必要なパラクライン因子であることが示唆された。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究は、哺乳類における初期発生の胚盤胞期において、内部細胞塊から分泌されるFGF4によって栄養外胚葉でBmp4が誘導・分泌され、内部細胞塊に伝達されるメカニズムを明らかにするため、栄養外胚葉をはじめとする胎盤系組織の幹細胞であるTS細胞ならびにFRS2αのノックアウト胚盤胞を用いてシグナル伝達経路の解析を行ったものである。

 TS細胞において、Bmp4の5'プロモーター領域のルシフェラーゼアッセイによりFGF4反応性に活性が増強するエンハンサーが見出され、その部分は転写因子Cdx2の結合部位を含んでおり、ゲルシフトアッセイによりこの部位とCdx2との特異的な結合がみられた。また、FGF4によって活性化したERKが、Cdx2ならびに細胞培養液中に分泌されるBmp4の発現を誘導することがわかった。さらに、TS細胞におけるFGF4のシグナル伝達に重要な役割を果たしているドッキング分子FRS2αのノックアウト胚盤胞の培養を行ったところ、この変異胎児の胚盤胞において内部細胞塊が小さくなるという表現型がみられ、この変異はリコンビナントBMP4を培養液に添加することで野生型と同程度まで改善された。

 これらの結果より、栄養外胚葉内TS細胞においてFGF4はFGF受容体-FRS2α-ERK経路を活性化してCdx2の発現を増強するとともに、Cdx2はBmp4の転写活性化に重要な役割をはたし、さらに分泌されたBmp4は内部細胞塊の成長に必要なパラクライン因子であることが示唆された。

 以上、初期発生において栄養外胚葉のマスターレギュレーターといわれるCdx2によって活性制御をうけている遺伝子については不明な点が多かったが、本論文は初めてTS細胞内でCdx2によって正に転写制御される遺伝子のひとつとしてBmp4を同定したとともに、分泌されたBmp4が内部細胞塊の発達をin vivoで支持している可能性を示した。

 本研究は哺乳類の発生初期におけるシグナル伝達系ならびに幹細胞の性質およびその制御メカニズムと役割の解明に寄与することで再生医療研究への応用に重要な貢献となると考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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