No | 122533 | |
著者(漢字) | 森川,鉄平 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | モリカワ,テッペイ | |
標題(和) | 腎細胞癌におけるTLR3の発現および機能解析 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 122533 | |
報告番号 | 甲22533 | |
学位授与日 | 2007.03.22 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第2829号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 病因・病理学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 1. 緒言 腎細胞癌(RCC)は成人悪性腫瘍の2-3%を占め、日本およびアメリカでは罹患率・死亡率ともに増加傾向にある。RCCの治療としては早期外科的切除が有効とされているが、根治的切除不能例や再発例のような進行性腎細胞癌には有効な治療法がない。すなわち、化学療法や放射線療法はほとんど効果を示さず、最も有効とされているインターフェロンα(IFNα)やインターロイキン2といった免疫療法の奏効率も低い。本研究では、RCCの大部分を占めるClear cell RCC(CCRCC)に着目し、CCRCCの新たな治療標的となりうる分子を見出すことを目的とした。 2. 方法と結果 A. CCRCC特異的高発現遺伝子の探索 東京大学医学部附属病院で切除されたRCC 30例および非癌部正常腎9例の凍結組織から抽出したRNAならびに15種類の正常臓器から抽出された市販のRNAを用いて網羅的遺伝子発現解析を行った。その結果、正常腎および各種正常臓器で発現が低く、CCRCCで特異的に発現が亢進している遺伝子として36遺伝子が選出された。その中からtoll-like receptor 3 (TLR3)に着目した。定量的RT-PCRによって、正常腎と比較してCCRCCでTLR3の発現が亢進していることを確認した。 B. TLR3タンパクのCCRCCでの発現 CCRCC組織でのTLR3タンパクの発現を調べるため、イムノブロッティングおよび免疫染色での検討を行った。市販の抗TLR3モノクローナル抗体を用いたイムノブロッティングではTLR3強制発現細胞株およびCCRCC組織において特異的なタンパク発現を認め、同抗体特異性の確認とともに、CCRCC組織におけるTLR3特異的発現の可能性が強く示唆された。次いで、同一の抗体を用いて多数症例のRCC組織に対して免疫染色を行った。対象としては1993年から2004年にかけて東京大学医学部附属病院にて手術的に切除された原発性RCC 208例およびCCRCC肺転移巣8例のパラフィンブロックを用いた。原発性RCCについてはティッシューマイクロアレイを作成して免疫染色を行った。結果として、CCRCCでは189例中184例(97.4%)にTLR3の陽性像が得られた。Papillary RCCでも11例中9例(81.8%)に陽性像を認めた。しかし、Chromophobe RCCでは8例中全てが陰性だった。CCRCCの肺転移巣においても高頻度にTLR3の発現を認めた。さらに、CCRCC 189例について、TLR3発現と臨床病理学的因子との相関を検討した。TLR3高発現群では低発現群に比べて静脈侵襲が少ない傾向があったものの、TLR3の染色強度と、年齢・性別・核異型度・pT・静脈侵襲との間に有意差は見られなかった。 C. RCC細胞株に対するTLR3リガンドの効果 8種のRCC細胞株を用いてin vitroでのTLR3の機能について検討を行った。まず、定量的RT-PCRによって各細胞株でのTLR3 mRNAの発現を確認した。10μgのpoly I:C(TLR3 リガンド)を投与して72時間後の生細胞数をMTT assayで評価したところ、5個の細胞株で有意な増殖抑制効果を認め、TLR3の発現が高い株ほど強い増殖抑制効果を示す傾向があった。Poly I:Cによる増殖抑制効果は用量依存的であり、その機序としてはアポトーシスの誘導が考えられた。Poly I:C投与によってIFNβや各種サイトカインなどの発現が亢進した。siRNAを用いたTLR3遺伝子のノックダウンにより、poly I:CによるIFNβ発現誘導および増殖抑制効果はTLR3依存的であることが示された。また、IFNα投与により、TLR3 mRNAの発現およびpoly I:CによるTLR3下流遺伝子の発現、増殖抑制効果が増強した。 3. 結語 本研究では、TLR3がCCRCC組織で高発現していることを遺伝子レベル、タンパクレベルで初めて明らかにした。また、RCC細胞株へのpoly I:C投与によりIFNβなどが誘導され増殖抑制効果を発揮すること、さらに、IFNαとpoly I:Cの併用によって相乗的な増殖抑制効果を発揮することなどを明らかにした。以上のことから、TLR3はCCRCCに対する有望な新規分子治療標的候補であると考えられた。 | |
審査要旨 | 本研究は腎細胞癌に対する新規治療標的分子を同定するため、腎細胞癌臨床検体を用いた発現解析および腎癌細胞株を用いた機能解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。 1. 腎細胞癌 30例および非癌部正常腎9例の凍結組織から抽出したRNAならびに15種類の正常臓器から抽出されたRNAを用いた網羅的遺伝子発現解析により、腎細胞癌の大部分を占める淡明細胞腎細胞癌で特異的に発現が亢進している遺伝子として36遺伝子が選出された。その中からtoll-like receptor 3(TLR3)に着目し、定量的RT-PCRによって、正常腎と比較して淡明細胞腎細胞癌でTLR3の発現が亢進していることを確認した。 2. Tissue microarrayを用いた200例超の腎癌症例に対する免疫染色により、原発性および転移性の淡明細胞腎細胞癌においてTLR3タンパクが癌細胞特異的に高頻度に発現していることを見出した。一方、TLR3は嫌色素性腎細胞癌では全く発現しておらず、しばしば形態学的に判別困難である淡明細胞腎細胞癌と嫌色素性腎細胞癌のよい鑑別マーカーにもなりうることがわかった。なお、TLR3の発現強度と臨床病理学的因子との間には有意な相関はなかった。 3. TLR3を発現している腎癌細胞株に対してpoly I:C(TLR3リガンド)を投与することにより、用量依存的な増殖抑制効果およびアポトーシスの誘導が認められた。また、インターフェロンβや各種サイトカイン遺伝子の発現が亢進した。 4. siRNAを用いたTLR3のノックダウンにより、poly I:Cによる増殖抑制およびインターフェロンβ遺伝子発現の誘導はTLR3依存的であることが示された。 5. インターフェロンαを投与することにより、腎癌細胞株におけるTLR3 mRNAの発現およびpoly I:CによるTLR3下流遺伝子の発現誘導、増殖抑制効果が増強した。すなわち、poly I:Cとインターフェロンαの併用投与によって、腎癌細胞株に対する相乗的な増殖抑制効果がみられた。 以上、本論文は腎細胞癌でTLR3が高発現していることを遺伝子レベル、タンパクレベルで初めて明らかにした。また、TLR3を発現している腎癌細胞株をTLR3リガンドで刺激することにより直接的な増殖抑制効果が認められることを明らかにした。これらの結果はTLR3が腎細胞癌に対する分子標的治療のターゲットとして有望な分子であることを示し、腎細胞癌の治療法開発に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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