学位論文要旨



No 122545
著者(漢字) 関,毅
著者(英字) Guan,Yi
著者(カナ) カン,キ
標題(和) インターロイキン12発現型単純ヘルペスウイルスの静脈内投与による抗腫瘍効果の検討とインターロイキン23発現型新ベクターの開発
標題(洋) Antitumor efficacy evaluation of oncolytic herpes simplex virus expressing interleukin 12 via intravenous administration and development of new vectors expressing interleukin 23
報告番号 122545
報告番号 甲22545
学位授与日 2007.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2841号
研究科 医学系研究科
専攻 脳神経医学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 辻,省次
 東京大学 助教授 尾藤,晴彦
 東京大学 教授 宮園,浩平
 東京大学 教授 高橋,孝喜
 東京大学 教授 俣野,哲朗
内容要旨 要旨を表示する

 目的: 増殖型遺伝子組換え単純ヘルペスウイルスI型(HSV-1)ベクターを用いた脳腫瘍に対するウイルス療法の開発は、これまで主に腫瘍内投与により研究されてきた。静脈内投与法の実用化は臨床応用の面で有用である。この研究の目的は、マウスの腫瘍モデルにおいて、増殖型HSV-1ベクターの静脈投与での治療効果を検討することである。これと同時に、新しい免疫刺激サイトカインであるインターロイキン23(IL-23)を発現する遺伝子組換えHSV-1ベクターを作製し、その抗腫瘍効果を検証する。

 方法: 三重の欠失型変異を有し、安全かつ強力な抗腫瘍作用のある第三代増殖型HSV-1ベクターT-01のウイルスゲノムにマウスIL-12遺伝子を挿入した武装HSV-1ベクターT-mfIL12を使用した。A/JマウスにおいてNeuro2a (neuroblastoma) 細胞の皮下腫瘍、脳内腫瘍および全身転移腫瘍モデルを用い、T-01またはT-mfIL12の尾静脈内三回投与による抗腫瘍効果を検証した(5x106 plaque forming units(pfu)/200μl、隔日3回投与)。また、bacterial artificial chromosome (BAC)組み換え酵素を利用した遺伝子組換えHSV-1作製システムを用いて、マウスIL-23を発現する新規のヘルペスウイルスベクターを作製した。これについても、Neuro2a (neuroblastoma)皮下腫瘍モデルを用い、1x106 pfu/20μlで腫瘍内2回投与による抗腫瘍効果を検証した。

 結果: 皮下腫瘍と全身転移腫瘍モデルにおいては、T-01とT-mfIL12の静注治療群ともに対照群に比し優れた抗腫瘍効果を示し、T-mfIL12はT-01より高い治療効果を示した。脳内腫瘍モデルにおいてもT-mfIL12静注治療群のみ対照群に比し有意な生存期間の延長を認めた(p<0.05)。ウイルスの静注による全身的および神経学的な毒性は観察されなかった。マウスIL-23を発現する2種類の増殖型HSV-1ベクター、即ち二つのサブユニットを融合させsingle chainとして発現するT-mIL23scおよび二つのサブユニットを別々に発現するT-mIL23iresを作製した。皮下腫瘍モデルにおいて、T-mIL23sc、T-mIL23iresともにT-01に比し優れた抗腫瘍効果を示した。

 結論: 増殖型HSV-1は、安全に反復投与が可能で、特に全身転移腫瘍モデルにおいて静脈内投与法の治療効果が得られることが示された。安全域の広い増殖型HSV-1ベクターをIL-12やIL-23治療遺伝子などで「武装する」ことにより、脳腫瘍に対しても静脈内投与や腫瘍内投与で、より高い治療効果を発揮しうることが示唆された。

審査要旨 要旨を表示する

 増殖型遺伝子組換え単純ヘルペスウイルスI型(HSV-1)ベクターを用いた腫瘍に対するウイルス療法の開発は、これまで主に腫瘍内投与により研究されてきた。静脈内投与法の実用化は臨床応用の面で有用である。本研究は、マウスの腫瘍モデルにおいて、増殖型HSV-1ベクターの静脈投与での治療効果を検討することである。これと同時に、新しい免疫刺激サイトカインであるインターロイキン23(IL-23)を発現する遺伝子組換えHSV-1ベクターを作製し、その抗腫瘍効果を検証した。下記の結果を得ている。

 1. 皮下腫瘍モデルにおいて、静注投与によるT-01とT-mfIL12ともに対照群に比べて優れた抗腫瘍効果を示した。そして、T-mfIL12の静脈内投与がT-01と比較して抗腫瘍効果を増強したことが示された。脳内腫瘍モデルにおいてもT-mfIL12静注治療群のみ対照群に比し有意な生存期間の延長を認めた。これにより、HSV-1ベクターの静脈内投与は皮下腫瘍と脳腫瘍増殖抑制に有効な投与経路でありうることが示唆された。

 2. 全身転移癌モデルにおいて、静注投与によるT-01およびT-mfIL12治療群ともに優れた抗腫瘍効果が示され、長期生存が観察された(T-01およびT-mfIL12治療群の治癒率はそれぞれ20%、60%だった)。HSV-1ベクターの静脈内投与は全身転移癌の治療にも有効である、IL-12などの治療遺伝子で「武装」することでウイルスの静注治療効果の増強が得られることが示され、HSV-1ベクターの静脈投与は新治療戦略として使用できることが示唆された。

 3. HSV-1ベクター またはIL-12発現HSV-1ベクター は5x106 pfuの3回静脈内投与による全身的および神経学的な毒性は観察されなかった。

 4. Bacterial artificial chromosome (BAC)とDNA組み換え酵素を利用した遺伝子組換えHSV-1作製システムを用いて、新しい免疫刺激サイトカインであるインターロイキン23(マウス)を発現する2種類の増殖型HSV-1ベクター、即ち二つのサブユニットを融合させsingle chainとして発現するT-mIL23scおよび二つのサブユニットを別々に発現するT-mIL23iresを作製した。

 5. 皮下腫瘍モデルにおいて、腫瘍内投与によるT-mIL23sc、T-mIL23iresともにT-01に比し優れた抗腫瘍効果を示した。IL-23治療遺伝子で「武装」することによりウイルスの腫瘍内投与で治療効果増強が得られる。

 以上、本論文は増殖型HSV-1の安全に反復投与が可能で、特に全身転移腫瘍モデルにおいて静脈内投与法の治療効果が得られることと、安全域の広い増殖型HSV-1ベクターをIL-12やIL-23治療遺伝子などで「武装する」ことにより、脳腫瘍に対しても静脈内投与(や腫瘍内投与)でより高い治療効果を発揮しうることを明らかにした。本研究はウイルス静注療法と新規ウイルスベクター(HSV-1)の作製に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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