学位論文要旨



No 122553
著者(漢字) 宮本,伸哉
著者(英字)
著者(カナ) ミヤモト,シンヤ
標題(和) 免疫刺激遺伝子発現型単純ヘルペスウイルスの脳腫瘍に対する治療効果の検討と新たなウイルスベクターの開発
標題(洋)
報告番号 122553
報告番号 甲22553
学位授与日 2007.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2849号
研究科 医学系研究科
専攻 脳神経医学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 加我,君孝
 東京大学 教授 宮園,浩平
 東京大学 教授 俣野,哲朗
 東京大学 助教授 井上,貴文
 東京大学 講師 後藤,順
内容要旨 要旨を表示する

目的:増殖型単純ヘルペスウイルスI型(HSV-1)ベクターを用いた腫瘍に対するウイルス療法の治療効果は、ウイルス複製と抗腫瘍免疫誘導の双方に依存する。本研究では、マウスインターロイキン12(IL-12)を発現する第3世代HSV-1ベクター(T-mfIL12)を使用し、免疫刺激遺伝子の発現が、ウイルス療法の抗腫瘍効果を増強するか否かを検討した。また、IL-12とIL-18の相乗的抗腫瘍効果が知られていることから、IL-18の全身投与の併用がT-mfIL12の抗腫瘍効果を増強するか否かを検討した。更にIL-12とIL-18を共に発現する第3世代HSV-1ベクター(T-mfIL12・IL18)を作製した。

方法: In vitroにおけるコントロールウイルスT-01とT-mfIL12の殺細胞効果の比較には、マウス神経芽細胞腫Neuro2aを使用した。In vivoにおけるT-mfIL12の抗腫瘍効果は、A/Jマウスを用い、免疫原性の低い同系のNeuro2aの皮下腫瘍および脳腫瘍モデルを用いて評価した。新たなウイルスベクター作製には、bacterial artificial chromosome(BAC)と2種のrecombinase系を利用した「武装」増殖型HSV-1ベクター作製システムを用いた。

結果:In vitroでT-01とT-mfIL12の殺細胞効果に有意差を認めなかった。A/Jマウスの両側皮下腫瘍モデルを用い左側腫瘍のみに腫瘍内投与を行ったところ、T-mfIL12はT-01に比べて治療側において有意に優れた抗腫瘍効果を示し、非治療側においても優れた抗腫瘍効果の傾向を示したことから、IL-12の局所発現が増殖型HSV-1の治療効果を増強することが示された。ヌードマウスに両側Neuro2a皮下腫瘍を作り同様の治療実験を行ったところ、非治療側においてT-mfIL12による抗腫瘍効果の増強が消失した。A/Jマウス両側皮下腫瘍の左側のみにウイルスを腫瘍内投与したのち、経時的に腫瘍を採取し、X-gal染色によるウイルス複製とreal time PCRを用いたウイルス量の評価を行ったところ、治療側では、day 9においてもウイルスの存在を認めたが、非治療側では、ウイルスの存在を全く認めなかった。皮下腫瘍におけるin vivoのウイルス複製能を定量したところ、回収された感染性ウイルス量は、T-01とT-mfIL12で有意差を認めなかった。T-mfIL12を投与した皮下腫瘍を投与1,3,5日後に回収しIL-12とインターフェロンγ(IFN-γ)を測定したところ、腫瘍内のIL-12の発現量はday 1で最大値を示し、その後経時的に減少したのに対して、腫瘍内IFN-γの含有量は、経時的に上昇し、day 5で最大値を示した。T-mfIL12腫瘍内投与とIL-18全身投与の併用は、両側皮下腫瘍モデルにおいて、T-mfIL12単独投与に比べて治療側では優れた抗腫瘍効果の傾向を認め、非治療側では有意な抗腫瘍効果の増強を認めた。脳腫瘍モデルにおいては、T-01またはT-mfIL12の腫瘍内投与は、共にMockと比べ有意な延命効果を示したが、2つのウイルス間では有意差を認めなかった。また、IL-18の全身投与併用による抗腫瘍効果の増強も認めなかった。IL-12とIL-18を同時に発現する第3世代HSV-1ベクター、T-mfIL12・mIL18の作製に成功した。

結論:免疫刺激遺伝子IL-12で「武装」し、腫瘍内でIL-12を発現することにより、増殖型遺伝子組換えHSV-1の抗腫瘍効果が増強されることが示された。T-mfIL12腫瘍内投与に伴う遠隔腫瘍に対する抗腫瘍効果の増強は、ウイルスの遠隔感染によるものではなく、全身性抗腫瘍免疫を介しT細胞を要することが示唆された。単独では抗腫瘍効果を呈さないような低用量のIL-18の全身投与の併用が、T-mfIL12の抗腫瘍効果を一層増強することが示された。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究は、増殖型単純ヘルペスウイルスI型(HSV-1)ベクターを用いたウイルス療法の抗腫瘍効果に重要と考えられる抗腫瘍免疫が、免疫刺激遺伝子の発現により増強されるか否か、また、IL-12とIL-18の相乗的抗腫瘍効果が知られていることから、IL-18の全身投与の併用がT-mfIL12の抗腫瘍効果を増強するか否かを明らかにするため、マウスインターロイキン 12(IL-12)を発現する第3世代HSV-1ベクター(T-mfIL12)、マウスインターロイキン18を用いて、A/Jマウス、ヌードマウスのマウス神経芽細胞(Neuro2a)腫瘍モデルにおいて抗腫瘍効果の解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。

1. In vitroでT-01とT-mfIL12の殺細胞効果に有意差を認めなかった。

2. A/Jマウスの両側皮下腫瘍モデルを用い左側腫瘍のみに腫瘍内投与を行ったところ、T-mfIL12はT-01に比べて治療側において有意に優れた抗腫瘍効果を示し、非治療側においても優れた抗腫瘍効果の傾向を示したことから、IL-12の局所発現が増殖型HSV-1の治療効果を増強することが示された。

3. ヌードマウスに両側Neuro2a皮下腫瘍を作り同様の治療実験を行ったところ、非治療側においてT-mfIL12による抗腫瘍効果の増強が消失した。A/Jマウス両側皮下腫瘍の左側のみにウイルスを腫瘍内投与したのち、経時的に腫瘍を採取し、X-gal染色によるウイルス複製とreal time PCRを用いたウイルス量の評価を行ったところ、治療側では、day 9においてもウイルスの存在を認めたが、非治療側では、ウイルスの存在を全く認めなかった。T-mfIL12腫瘍内投与に伴う遠隔腫瘍に対する抗腫瘍効果の増強は、ウイルスの遠隔感染によるものではなく、全身性抗腫瘍免疫を介しT細胞を要することが示唆された。

4. 皮下腫瘍におけるin vivoのウイルス複製能を定量したところ、回収された感染性ウイルス量は、T-01とT-mfIL12で有意差を認めなかった。

5. T-mfIL12を投与した皮下腫瘍を投与1,3,5日後に回収しIL-12とインターフェロンγ(IFN-γ)を測定したところ、腫瘍内のIL-12の発現量はday 1で最大値を示し、その後経時的に減少したのに対して、腫瘍内IFN-γの含有量は、経時的に上昇し、day 5で最大値を示した。

6. T-mfIL12腫瘍内投与とIL-18全身投与の併用は、両側皮下腫瘍モデルにおいて、T-mfIL12単独投与に比べて治療側では優れた抗腫瘍効果の傾向を認め、非治療側では有意な抗腫瘍効果の増強を認めた。

7. 脳腫瘍モデルにおいては、T-01またはT-mfIL12の腫瘍内投与は、共にMockと比べ有意な延命効果を示したが、2つのウイルス間では有意差を認めなかった。また、IL-18の全身投与併用による抗腫瘍効果の増強も認めなかった。

8. IL-12とIL-18を同時に発現する第3世代HSV-1ベクター、T-mfIL12・mIL18の作製に成功した。

 以上、本論文は、免疫刺激遺伝子IL-12の発現が増殖型遺伝子組換えHSV-1の抗腫瘍効果を増強することを示し、さらに低用量のIL-18の全身投与の併用がT-mfIL12の抗腫瘍効果を一層増強することを明らかにした。本研究は、悪性脳腫瘍に対してより抗腫瘍効果の高いウイルス療法の開発の方向性を示唆する重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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