No | 122557 | |
著者(漢字) | 中井,陽介 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ナカイ,ヨウスケ | |
標題(和) | 切除不能悪性胆道閉塞に対する内視鏡的治療 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 122557 | |
報告番号 | 甲22557 | |
学位授与日 | 2007.03.22 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第2853号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 内科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 1緒言 切除不能悪性肝外胆道閉塞に対する胆道ドレナージ法として、外科的バイパス術と比較してplastic tubeによる経皮的ドレナージやplastic stentによる内視鏡的(経乳頭的)ドレナージが、術関連死が少ない、入院期間が短いという報告がされ、近年内科的ドレナージ法が多く選択されるようになっている。しかし内科的ドレナージでは、ドレナージチューブが平均3ヶ月で閉塞するという問題がある。この問題を解決するために、自己拡張力を持ち、plastic stentの3倍程度の口径を持つメッシュ構造の金属ステント(metallic stent)が導入された。plastic stentとmetallic stentの無作為化比較試験により、metallic stentの開存期間が有意に長いことが証明された。しかし、metallic stentのメッシュ構造の間隙から腫瘍が入り込みステントが閉塞するtumor ingrowthを生じるという、これまでのplastic stentにはない欠点が出現した。このtumor ingrowthを防ぐために、金属ステントに薄い膜を張ったカバー付き金属ステント(covered metallic stent)が開発され、共同研究者である伊佐山らは、このcovered metallic stentを、polyurethaneで自作し、その有用性をこれまで報告してきた。今回siliconeによるcoverを用いたcovered metallic stentが市販されたため、この市販covered metallic stentのCovered Wallstentの有用性を検討した。 2方法 当院および関連施設(日本赤十字医療センター、三井記念病院、JR東京総合病院)において、Covered Wallstentの有用性と安全性を検証するためのprospective studyを行った。2001年10月から2003年10月までに当該施設において治療を行った切除不能悪性肝外胆道閉塞の69例を対象とした。 3結果 原疾患は、膵癌41例、胆管癌18例、乳頭部癌1例、胆嚢癌1例、リンパ節転移8例。年齢は36歳から90歳で、平均69.4歳。男性41例、女性28例であった。初回ドレナージ法を内視鏡的に施行した症例が51例、経皮的に施行した症例が18例で、最終的にCovered Wallstentを内視鏡的に挿入した症例が61例、経皮的に施行した症例が8例であった。 平均生存期間は200.9日、平均ステント開存期間は139.1日であった。ステント閉塞は7例(10.1%)で認め、閉塞原因は、胆泥3例、食物残渣3例、stentの範囲を越えて腫瘍が胆管に浸潤して胆管を閉塞するtumor overgrowth 1例であった。tumor ingrowthによるステント閉塞は認めなかった。Kaplan-Meier法による累積開存率は、3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月でそれぞれ93.9%、87.8%、82.7%であった。 ステント閉塞以外の合併症は、ステント留置位置不適例7例、胆管炎5例、ステント逸脱4例、胆嚢炎4例、膵炎4例で認めた。ステント留置位置不適例は、下部胆管狭窄症例で、ステント留置時にステントの中心部が狭窄部から外れていた症例であった。またステントを適切に留置した症例でも4例でステント逸脱を認めた。胆管炎は、ステントと胆管のkinkによるものが3例、腸管内容物のステント内への逆流によるものを2例認めた。胆嚢炎4例のうち、3例は胆嚢管への癌浸潤を有する症例、1例は有石胆嚢例であった。また、膵炎4例では主膵管への癌浸潤を認めない症例が3例、軽度浸潤が1例であり、主膵管が癌浸潤により閉塞していた症例では膵炎の合併を認めなかった。 4考察 Covered Wallstentの閉塞率は、これまでの自作のcovered metallic stentの報告と同様に、uncovered metallic stentと比較して低く、今回のsiliconeによるcoverは有効であった。 一方で合併症率はこれまでの報告と比較して高い点が、このCovered Wallstentの問題点であった。Covered Wallstentは自己拡張後の短縮率が大きいため、stent留置時の位置決めが困難で、stentの中央部と狭窄部の位置がずれていたために、後にstentが肝臓側に入ってしまった症例を認めた。胆管炎の原因は、Covered Wallstentの真っ直ぐになろうとする力が強いためにstentの上端と胆管がkinkした症例と、腸管内圧上昇のため逆行性胆管炎を発症した症例を認めた。また胆嚢管への癌浸潤を有する症例は胆嚢炎の、主膵管への癌浸潤がない症例は膵炎のrisk が高かった。 合併症の対策としては、ステントの逸脱の防止のためにはステント留置時の位置決めを適切に行う、胆管炎の防止にはkinkを防ぐために長いstentを留置する、胆嚢炎については胆嚢管への癌浸潤を有する症例では、他のstentも考慮する、また膵管への癌浸潤がない症例は膵炎の予防のために乳頭切開術を施行することが重要であると考えられた。 5結論 Covered Wallstentにおけるsiliconeのcoverは、tumor ingrowthを認めず、ステント閉塞率もこれまでのcovered metallic stentと同様に低く、有用であった。一方で、ステント閉塞以外の合併症が多い点が問題であり、合併症のriskの評価と対策が重要である。 | |
審査要旨 | 本研究は、悪性胆道閉塞に対するcovered metallic stentの有用性を明らかにする目的で行われた、市販のCovered Wallstentの多施設共同前向き研究であり、切除不能悪性胆道閉塞69例におけるCovered Wallstentの成績を、閉塞率、開存期間、合併症についての検討を行い、下記の結果を得ている。 1.Covered Wallstentの閉塞率は10.1%と、これまでのuncovered metallic stentの報告と比較して低く、累積開存率は、3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月でそれぞれ93.9%、87.8%、82.7%であった。特にtumor ingrowthによるstent閉塞は認めず、siliconeによるcoverの有用性が示された。 2.stent閉塞以外の合併症は、全体で34.8%と高率に認めた。ステント留置位置不適例10.1%、胆管炎7.2%、ステント逸脱5.8%、胆嚢炎5.8%、膵炎5.8%に認めた。ステント逸脱を多く認めたのは、ステント留置後の短縮率が大きいためと考えられた。ステントの真っ直ぐになろうとする力が強いために、胆管とステントがkinkしてしまい胆管炎を合併した症例を認めた。また、胆嚢管への癌浸潤を有する症例は胆嚢炎の、主膵管の癌浸潤のない症例は膵炎の高危険群であった。 3.以前に使用していた自作のcovered metallic stentであるpolyurethane-covered Diamond stentとの比較では、閉塞率は同等であったのに対して、開存期間は短く、合併症が多い傾向を認めた。これはCovered Wallstentの特性である強い拡張力、真っ直ぐになろうとする力、大きな短縮率によるものであると推察された。 以上、本論文は悪性胆道閉塞に対する内視鏡的治療を中心としたcovered metallic stentの有用性を明らかにした。covered metallic stentの特性による合併症の違いについての検討を行い、今後の悪性胆道閉塞に対する治療法の向上に貢献すると考えられ、学位授与に値するものと考えられる。 | |
UTokyo Repositoryリンク |