学位論文要旨



No 122583
著者(漢字) 瀧澤,泰伸
著者(英字)
著者(カナ) タキザワ,ヤスノブ
標題(和) 血液及び関節液中におけるペプチジルアルギニン・デイミナーゼ4、シトルリン化フィブリノーゲンの定量的解析及びその関節リウマチにおける臨床的意義について
標題(洋) Quantitative analysis of peptidylarginine deiminase 4 and citrullinated fibrinogen in blood and synovial fluid samples and their clinical significance in rheumatoid arthritis
報告番号 122583
報告番号 甲22583
学位授与日 2007.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2879号
研究科 医学系研究科
専攻 内科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 矢冨,裕
 東京大学 助教授 田中,廣壽
 東京大学 助教授 石川,昌
 東京大学 講師 田中,栄
 東京大学 講師 世古,義規
内容要旨 要旨を表示する

(緒言)

 関節リウマチ(RA)は多発性対称性の慢性滑膜炎及びその結果としての骨関節破壊を特徴とする自己免疫疾患であるが病因は不明であり、診断は関節腫脹等身体所見、骨レントゲン所見及びリウマトイド因子(RF)等血清学的所見により行われる。

 近年RA患者のゲノム上の一塩基遺伝子多型(Single nucleotide polymorphisms,SNPs)を調べた研究により、RA群で有意に高頻度に見られるSNPsとしてPeptidylarginine deiminase 4(PADI4)が疾患関連遺伝子の候補として同定された。PADIはアルギニンをシトルリンに変換する酵素であり(図1)、後述する抗シトルリン化ペプチド抗体(anti citrullinated peptide antibody,ACPA)との関連からも病因・病態に果たす役割が注目されている。PADI4は主として骨髄、多核球や単球といった免疫・血液系細胞に発現を認め、PADI2と同様RAの炎症滑膜でその存在が確認されているがPADI4が何を基質とし、どのような形で免疫反応の原因をなすシトルリン抗原の産生に関与しているかに関しては不明である。

 一方臨床面でも近年RAを診断する上で非常に有用な自己抗体が発見された。数十年の間RAに認められる自己抗体としてRFが広く用いられてきたが、RFは他の疾患でもしばしば検出され疾患特異性に乏しい問題があった。RAに特異的な自己抗体としてantiperinuclear factorや抗ケラチン抗体が報告されていたが90年代に入りこれらの抗体の標的がヒト表皮或いは頬粘膜・上皮細胞に発現するフィラグリンであることが分かり、その後エピトープにシトルリンが不可欠であることが分かった。現在はアルギニンをシトルリンに置換したペプチドライブラリーからRA血清に高い抗原性を示す配列を組み合わせ、環状にした抗CCP(cyclic citrullinated peptide)抗体ELISAが優れた感度・特異度ゆえに広く利用され、また同抗体は病態形成や重症度とも関連すると報告されている。現在抗CCP抗体を含むACPAが真に認識する抗原の探索が進められておりビメンチン,特にフィブリノーゲン(フィブリン)等が候補として挙げられている。

 2001年RA炎症滑膜に沈着するフィブリ(ノーゲ)ンの(A)α、(B)β鎖がシトルリン化していることが報告され、シトルリン化による新規エピトープの獲得により同分子が自己抗原となる可能性が示された。この知見はシトルリン化フィブリノーゲン(cFBG)に対する抗体が抗CCP抗体に遜色ないレベルでRA血清中に見出される事実によっても裏付けられる。

 PADI4の疾患感受性型ではmRNAの安定化及び産生量増大が認められ、また通常は核内に存在するもののアポトーシスに伴い細胞質へ移行してくることが報告されており、本研究ではアポトーシスに際しPADI4が最終的には細胞外に漏出しフィブリ(ノーゲ)ンをシトルリン化すると考えた。

 以上をふまえ本研究ではRAの病態に深く関与すると考えられるPADI4とACPAの標的抗原の有力な候補であるcFBGの二者に着目し、PADI4,cFBGの両者を定量できるsandwich ELISAの構築を試み、実際に検体の定量的解析を行ったうえでRAの病態や病勢との関連につき検討した。またcFBG由来のシトルリン含有ペプチドについて配列の相違により抗原性に差異があるか、RA滑膜や関節液に過剰発現していると推測されるPADI4が自己抗原性を持ちうるかについて検討した。

(方法)

 本研究で使用した検体はRA血清42例(27例は血漿も採取)、全身性エリテマトーデス(SLE)血清19例、他のリウマチ性疾患血清23例、健常人血清40例、RA関節液15例、変形性関節症(OA)関節液5例であり、全て倫理委員会の承認及び提供者の同意を得て採取した。

PADI4に関する研究

 Recombinant His-PADI4をマウスに免疫した後脾臓のリンパ球とミエローマ細胞を融合させハイブリドーマを作成、PADI4に高い親和性を示すモノクローナル抗体を選択しPADI4を測定するsandwich ELISAを構築、検体を測定した。またPADI4を固相化したELISA、同抗原に対するウェスタンブロットによりPADI4に対する自己抗体が存在するかを検討した。抗PADI4抗体のindexは(PADI4に対する検体のA450(450nmに於ける吸光度)-検体の対照となるA450)/(PADI4に対する陽性コントロールのA450-陽性コントロールの対照となるA450)x100で表した。

シトルリン化フィブリノーゲンに関する研究

 ヒトフィブリノーゲンをrecombinant PADI4あるいはウサギPADI2でシトルリン化しcFBGを作成した。またNon-citrullineコントロールとしてnFBG(native fibrinogen)を用意した。

 cFBGのAα鎖由来で16番、252番をシトルリンに置換したペプチドを合成し(R16Cit,R252Cit、図2)、マウスに免疫しハイブリドーマを作成した。各々のペプチドに強く反応する抗体はELISAのスクリーニングで非シトルリン・コントロールとも反応したためnFBG,cFBGに対するウェスタンブロット(WB)法によるスクリーニングを追加、cFBGに選択性の高い2クローンを選択した。(cF16.1,cF252.1)

 cFBGを測定するsandwich ELISAとしてcF16.1,cF252.1を固相化し、抗modified citrulline抗体(AMC)を検出に用いた系と抗ヒトフィブリノーゲン抗体(AFibA)を用いた系の2種類を作成しRA関節液、OA関節液、RA血漿を測定した。cFBGが存在すると考えられた検体に関してcF16.1による免疫沈降を行いWBでさらなる確認を行った。また検体中のcFBG濃度とRAのマーカーの間に相関があるか検討を行った。

 さらに、R16Cit,R252Citに対するRA血清の反応をELISA法で調べ16番、252番のシトルリン化の程度に相違があるかを検討した。

(結果)

 PADI4 sandwich ELISA 及び 抗PADI4抗体の有無の検討

 PADI4 sandwich ELISA(感度1.2ng/ml)を作成しRA血清、血漿、関節液の測定を50倍希釈で行ったが陽性と考えられるシグナルはなかった。

 抗PADI4抗体のindexの中間値(範囲)はRAで80.1(15.0-341.0),SLEで58.5(6.0-87.5),その他のリウマチ性疾患で52.5(1.5-75.0),健常人で38.8(4.5-87.0)であり、RAは他の3群と比べ有意に高値であった。(p<0.05)(図3)

 ROC解析に従い72.0をカットオフとするとRA42人中21人(50%),SLE19人中2人(10.5%),他のリウマチ性疾患23人中1人(4.3%),健常人40人中1人(2.5%)が抗PADI4抗体陽性であり、RAにおいて有意に陽性率が高かった。(p<0.001)

 ELISAで抗PADI4陽性であった血清につきWBによる評価を行ったが、15例中3例でのみ陽性のバンドを認めた。

cFBG sandwich ELISAの構築、検体の測定及び免疫沈降とWBによるcFBGの証明

 cF16.1,cF252.1を固相化しAMCを検出抗体とした系はシトルリンに特異的であり、また1:50血漿を加えてもcFBGの標準曲線はほとんど影響を受けず(図4)、高濃度のnFBGが干渉する臨床検体においてもcFBGを検出しうると考えられた。

 一方AFibAを用いた系はフィブリノーゲンに対する特異性はあるが高濃度領域でnFBGとも交差反応しシトルリンへの特異性は不十分であった。(図5)

 cF16.1,cF252.1-AMCの感度はそれぞれ16,30ng/mlであり、検体は全て1:25に希釈して測定、各々の陽性のカットオフ値を400,750ng/mlとした。

 cF16.1-AMCの系でRA関節液15検体中11検体に陽性シグナルを認め、OA関節液、RA血漿ではシグナルを認めなかった(図6)。RA関節液のcFBG濃度は500ng/mlから15.2μg/mlの範囲(総フィブリノーゲン量に対し0.21-2.5%)にあると推定された。

 一方cF252.1-AMCではRA関節液2検体でのみ陽性シグナルがあり(RASF3,4)、濃度は1.2,1.7μg/mlであった。(同検体はcF16.1-AMCで8.7,15.2μg/mlであった。)

 なお関節液のcFBG濃度とペア血清におけるCRP、抗CCP抗体価との関連を調べたが有意な相関は見られなかった。(図7)

 またAFibAを用いnFBGとの交差反応が消失する希釈倍率1:400で血漿、関節液を測定、AMCの系で陽性のRA関節液は本系でも陽性であった。(表1)

 次にRA関節液3,4をcF16.1で免疫沈降しAFibA(図8A)とAMC(図8B)を用いたWBを行った。AFibAにて免疫沈降サンプルではAα、Bβ、γ鎖の3位置にのみバンドを認めフィブリノーゲンを選択的に沈降していることが示され、またAα、BβはAMCでも陽性であり、RA関節液にcFBGが存在することを確認した。

RA血清のR16Cit,R252Citに対する反応

 シトルリン残基だけでなく隣接するアミノ酸配列もRA血清に対する抗原性を決定する上で重要であるが、RA血清36例のR16Cit,R252Citに対する抗体反応をELISAで調べたところ反応のパターンに多様性を認めるもののRA血清はR252Citに比しR16Citに有意に強い反応を示した。(p<0.05)(図9)

(考察)近年のSNPs解析によりPADI4とRAには有意な関連性があることが示されている。PADI4を発現する多核球・単球はRA滑液中に高度に浸潤しており、またRA滑膜において細胞がアポトーシスを起こしている部位でPADI4が強く染色される。このアポトーシスの際遊離したPADI4が関節液や血中で検出されるとの仮説をたてsandwich ELISAを構築し検体を測定したが明らかなシグナルは得られなかった。

 PADI4を中和する抗体が測定に干渉した可能性を検討するため行った実験により血清中に比較的RA特異的にPADI4に対する自己抗体を検出した。細胞核内に局在し免疫系から隔絶されているPADI4がRAでは関節液や血中に流出することで免疫システムに認識されるためと推測される。一方でELISAの感度不足の可能性も否定できず、今後より高感度なsandwich ELISAの構築が必要である。

 現在までシトルリン化の報告がある体内抗原として皮膚のケラチン・フィラグリン、関節ではフィブリン等が報告されているが、本研究においては初めて体液中に存在するシトルリン化抗原としてcFBGの同定に成功した。cFBGはRAの血漿にはなく関節液でのみ検出され、cFBGの生成がACPAと同様炎症関節で起きていることを確認した。

 現在利用できるシトルリン、シトルリン含有ペプチドの検出方法には種々の問題点があり、本研究で作成した抗体もcFBGへの強い選択性を示したものの部分的にはnFBGにも反応を示した。なお本研究により化学修飾の際抗原抗体間に解離を生じうる強酸性の反応液に検体を晒すにもかかわらずグルタルアルデヒドによる強固な固定のためAMCをsandwich ELISAにも応用できることが分かり、今後シトルリン化抗原の研究を進める上で有用な手段を提示できたと考える。

 cF16.1,cF252.1ともELISAの感度は同程度であったがcF16.1に比べcF252.1はcFBGをよく検出できなかった。R16R(Cit)と違いR252R(Cit)の配列はFDP等他のタンパクにも共有されるためシトルリン化FDP等がcF252.1と結合しcFBGの検出に干渉した可能性もある。しかし一方でcF16.1が高頻度にcFBGを検出し、またR16CitにRA血清が有意な反応を示したことはフィブリノーゲンの16番アルギニンがシトルリン化されている可能性を示唆している。同部位がトロンビンに認識されることでフィブリンへの重合が進むため、シトルリンへの置換によりcFBGの重合は阻止され関節液中にとどまり免疫原性を持つ可能性がある。

 本研究ではcFBGはRA関節液にのみ存在しOAでは認めなかった。一方滑膜フィブリンのシトルリン化はRAだけでなくOA等他の関節症でも共通に認められる。RA炎症関節では凝固系が亢進しておりフィブリノーゲンは速やかにフィブリンへ変換されるためcFBGの生成には高濃度、高活性のPADI4が必要と考えられる。一方でフィブリンは安定して存在するので細胞浸潤に乏しいOAでも緩徐にシトルリン化されうると考えられる。疾患感受性SNPの影響もありRA滑液中の好中球からは十分にPADI4が供給されると考えられる。滑膜シトルリン化フィブリンと異なり仮に滑液のcFBGがRAのみに認められるならばcFBGがACPAの真の標的抗原である可能性がある。

 なおRA感受性HLA-DRではshared epitope(SE)と呼ぶモチーフの共有が知られているが、ACPA陽性RAではSE陽性が多くまたSE陽性Class II分子はシトルリン含有ペプチドに高親和性を持つとされており、SEとcFBGが関連しあって病態を形成している可能性がある。cFBGはまた滑液中でACPA(抗cFBG抗体)と免疫複合体を形成し、炎症反応を促し関節破壊のエフェクターとして作用しているとも考えられる。

 以上PADI4及びcFBGの定量的解析の結果とRAの病態をなす炎症や免疫反応の機構との関連につき考察した。今後はPADI4がどのような形で抗原、特にフィブリノーゲンと出会いそのシトルリン化を引き起こすかのさらなる検討と、cFBGがRA特異的な免疫反応に果たす役割の詳細な解析が必要である。

図1 Peptidylarginine deiminases(PADIs)によるシトルリン化

PADIsはCaイオンの存在下でペプチドに含まれるアルギニン残基をシトルリン化する。

図2 フィブリノーゲンAα鎖及びR16R(Cit),R252R(Cit)の配列

Fibrinopeptide Aの開始点を矢印、配列を斜体で示す。R16R,R252Rの配列は下線で示してあり、*のついたアルギニン残基(R)をシトルリン(Cit)に置換したものがR16Cit,R252Citである。

図3 PADI4に対する抗体価(EHSA)

縦軸のindexは陽性コントロールに対する比x100で表している。ROC解析によるカットオフ値は72.0であり、RAにおける陽性率は50%とSLE(10.5%),他のリウマチ性疾患(4.3%),健常人(2.5%)群に比し有意に高かった。(p<0.05)

図4 AMCを検出抗体とするcFBG ELISAの標準曲線

AはcF16.1,BはcF252.1,コントロールとしてCは抗フィブリノーゲン抗体を固相化した。nFBGとは反応せず、cFBGのみと反応することを確認した。高濃度のnFBGを含む1:50血漿を付加したところ▲で示したようにCでは抗フィブリノーゲン抗体がcFBG,nFBG双方を認識するため血漿中のnFBGの干渉によりcFBGの認識能は大きく低下したがA,Bは血漿付加によっても標準曲線はほとんど影響を受けずcFBGを選択的に認識していた。

図5 抗フィブリノーゲン抗体(AFibA)を検出抗体とするcFBG ELISAの標準曲線

cF16.1,cF252.1ともcFBGをより選択的に認識しているが、高濃度領域においてはnFBGとも交差反応を示した。

図6 RA血漿、関節液、OA関節液のcFBG濃度(cF16.1-AMC ELISA)

RA関節液15例中11例でcFBG陽性と判断され、濃度は500ng/ml-15.2μg/mlの範囲であった。RA血漿、OA関節液中にはcFBGは認めなかった。

図7 関節液cFBG濃度とペア血清におけるCRP,抗CCP抗体価の相関

計8例につき検討した。ρはSpearmanの相関係数を表す。A,Bいずれも有意な相関は認めなかった。

図8 cF16.1を用いた免疫沈降によるRA関節液中のcFBGの証明

cF16.1-AMC ELISAでcFBG高値(8.7,15.2μg/ml)であった2検体RASF3,4を選択した。希釈した関節液では(図A,レーン5,6)フィブリノーゲン関連の多くのバンドを認めたがcF16.1はフィブリノーゲンのAα,Bβ,γ鎖を選択的に沈降していた(図A,レーン3,4)。また同じ免疫沈降サンプルにてAMCでAα,Bβ鎖のシトルリン化を確認した(図B)。これによりcF16.1がRA関節液でcFBGを認識していることが示された。

図9 ELISAで検討したR16Cit,R252Citに対するRA血清の反応

RA血清36例、健常人血清8例を200倍希釈して検討した。健常人では両ペプチドに対する反応はほとんど認めなかった。RA血清の反応は検体により多様であったが、全体としてはR252Citに比べR16Citに対し有意に強い反応を認めた。(p<0.05)

表1 cF16.1-抗フィブリノーゲン抗体の系における血漿・関節液の測定

RASFはRA関節液、OASFはOA関節液。検体は1:400に希釈して測定した。#で示したようにnFBGを最も高濃度で含むRA血漿でシグナルは消失しており、当希釈度でnFBGの干渉は無視できると考えられる。

*cFBG濃度はcF16.1-AMC ELISAで測定したもの。CF16.1-AMC ELISAで陽性の検体は下線で示したように本系でも陽性を示した。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究は関節リウマチ(RA)の関連遺伝子であるpeptidylarginine deiminase 4(PADI4),及びRAに高い感度・特異度を持ちまた関節予後とも相関する自己抗体、抗シトルリン化ペプチド抗体(ACPA)の標的抗原と目されているシトルリン化フィブリノーゲン(cFBG)に着目し、sandwich ELISAの手法によるRA患者血液・関節液中のPADI4,cFBGの定量的解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。

1. ヒト血球由来PADI4 cDNAよりrecombinant PADI4の作成、また同抗原に対するマウスモノクローナル抗体の作成を行い、モノクローナル抗体同士の組み合わせによりsandwich ELISAを構築し、同系がrecombinant PADI4を1.2ng/mlと高感度で認識しまた標準曲線を描出できることを示した。

2. 1.で作成したsandwich ELISAではRA血液・関節液中にPADI4は認識されなかった。PADI4の検出を阻害する因子として健常人、全身性エリテマトーデス等他のリウマチ性疾患群と比較する形で自己抗体の有無を検索したところRA血清42例中21例(50%)でPADI4に対する自己抗体を認めた。また特異度も93%と良好であり、RA血清中に良好な感度・特異度をもってPADI4に対する自己抗体が存在することを示した。

3. フィブリノーゲンAα鎖の16番或いは252番アルギニンをシトルリンに置換し、同アミノ酸残基を中心となるように作成したペプチド(R16Cit,R252Cit)に対するマウスモノクローナル抗体(cF16.1及びcF252.1)を作成した。作成したモノクローナル抗体は非シトルリン化フィブリノーゲン(nFBG)に比べcFBGをより選択的に認識した。cF16.1,cF252.1を固相化抗体、抗フィブリノーゲン抗体或いは抗modified citrulline抗体(AMC)を検出抗体とするsandwich ELISAを構築し、抗フィブリノーゲン抗体を検出抗体とする系がnFBGに比べcFBGを選択的に認識することを示し、またAMCを検出抗体とする系においてnFBGは認識せず、また高濃度のnFBGの混入下でもnFBGの干渉をほぼ受けることなくcFBGを選択的に認識することを示した。

4. cF16.1を固相化抗体、AMCを検出抗体としたcFBG sandwich ELISAにてRA関節液に陽性シグナルを検出し、また抗フィブリノーゲン抗体を検出抗体に用いた系でも陽性となることを示した。他のRAの臨床マーカーであるC反応性蛋白(CRP)、抗環状シトルリン化ペプチド(CCP)抗体とsandwich ELISAの定量の結果につき関連の有無の検討を行ったがRA関節液中のcFBG濃度とペア血清中のCRP,抗CCP抗体価との間に相関はなかった。cF16.1とほぼ同感度であるにも関わらずcF252.1-AMCの系ではcF16.1と比べ陽性シグナルを呈したRA関節液の例数は少なかった。またcF16.1を用いたRA関節液からの免疫沈降によりsandwich ELISAで認識している抗原がcFBGであることを確認し、cFBGを体液中に存在する新規シトルリン化抗原として同定した。

 以上、本論文はRAの関連遺伝子であるPADI4に対してRA患者血清中に高い感度・特異度を持って自己抗体が検出されること、またRA関節液中にシトルリン化フィブリノーゲンが存在することを明らかにした。本研究成果は未だ難治性疾患であるRAの病因に深く関わると考えられ最近注目されているPADI4、シトルリン化抗原に関する新しい知見であり、今後の関節リウマチの研究の進歩に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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