No | 122620 | |
著者(漢字) | 斎藤,琢 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | サイトウ,タク | |
標題(和) | 軟骨細胞分化を制御する転写因子SOX関連分子の検討 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 122620 | |
報告番号 | 甲22620 | |
学位授与日 | 2007.03.22 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第2916号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 外科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 社会が急速に高齢化する中、変形性関節症に代表される関節軟骨の変性疾患への対策は必要性が増すばかりであるが、現在でもその治療法は対症的な保存療法か或いは侵襲の大きい手術療法に限られており、効果的な軟骨変性予防薬や軟骨再生医療は実現に至っていない。筆者は分子生物学的手法を用いてこれらの新たな予防法或いは治療法の実現を目指し、発生期・成長期の軟骨からのアプローチを試みた。 四肢の骨の形成には軟骨内骨化と呼ばれる分化過程が重要な役割を果たしている。軟骨内骨化とは、肢芽内に未分化な間葉系細胞が凝集して軟骨原基を形成した後、軟骨前駆細胞、軟骨細胞へと分化し、軟骨基質を産生しながら伸長増大し、さらに肥大細胞分化・石灰化を経てアポトーシスによる細胞死に至り骨組織に置換されるという、一連の過程を指している。近年の様々な研究から転写因子SOX9が軟骨内骨化において未分化間葉系細胞の凝集の段階からその後の分化に至るまで必要不可欠な役割を果たしていることが分かり、また同じSOXファミリーに属するSOX5, SOX6がSOX9の修飾分子として、軟骨細胞から増殖軟骨細胞、前肥大軟骨細胞に至る分化過程および軟骨基質産生において極めて重要な役割を果たしていることが明らかとなった。このように、これら3つのSOX(SOX trio)は軟骨細胞の発生分化において中心的な役割を果たすマスター転写因子と考えられているが、これらが軟骨細胞の発生分化を分子レベルでどのように制御しているのか、詳細は未だ分かっていない。本研究ではSOX trioによる軟骨細胞の分化制御のメカニズムを解明するため、SOX trioにより誘導される下流遺伝子を検討した。 まずSOX trioの下流遺伝子をマイクロアレイ法によってスクリーニングしたところ、全11,904遺伝子中603遺伝子が、SOX trioにより2倍以上誘導もしくは抑制された。それら候補遺伝子についてReal-time RT-PCR法で順次確認したところ、SOX trioにより最も強く誘導されていたのがS100A1とS100Bであった。複数の細胞においてReal-time RT-PCR法で検討したところ、SOX trioによるS100A1, S100Bの誘導は、調べた細胞種全てに共通してみられた。免疫組織染色法とin situ hybridization法によって正常マウス胎児の成長板における発現を調べたところ、S100A1, S100Bは成長板軟骨に広く発現がみられたが、特に前肥大軟骨細胞層から肥大軟骨細胞層にかけて強く発現していた。これはSOX trioの発現部位とほぼ重複するが、S100A1, S100Bの発現のピークはSOX trioのそれより若干遅れていた。また軟骨系細胞株ATDC5細胞の分化における発現の経時的な変化を調べたところ、やはりS100A1, S100BはSOX trioにやや遅れて発現が増加していた。 次にS100A1, S100Bの軟骨分化における機能を解析するためにATDC5細胞にS100A1もしくはS100Bを過剰発現させたところ、肥大分化と石灰化は抑制され、反対にS100A1とS100Bの両方をRNAiにより抑制すると肥大分化と石灰化は促進された。またATDC5細胞のペレット培養系において検討したところ、S100A1+S100Bによる肥大分化抑制作用がSOX trioによるそれと同等であった。さらにこのSOX trioによる肥大分化抑制作用は、S100A1+S100BのsiRNAによって打ち消された。 さらにプロモーター解析とElectrophoretic mobility shift assay (EMSA)、クロマチン免疫沈降アッセイ(ChIP)により、S100A1とS100Bのプロモーター内のSOX trioの応答配列も同定した。 以上の検討より、S100A1とS100BはSOX trioの標的分子として、軟骨細胞の肥大分化、石灰化を抑制するとの結論に達した。 | |
審査要旨 | 本研究は軟骨変性疾患に対する新たな治療法の手がかりとして、軟骨細胞の発生・分化のマスター遺伝子であるSOX9, SOX5, SOX6(SOX trio)の下流分子の検索、および候補遺伝子の検討を行ったものであり、下記の結果を得ている。 1. SOX trioの下流遺伝子をマイクロアレイ法によってスクリーニングし、Real-time RT-PCR法でその誘導を確認したところ、SOX trioにより最も強く誘導されていたのがS100A1とS100Bであった。この誘導は、調べた細胞種全てに共通してみられた。 2. 免疫組織染色法とin situ hybridization法によって正常マウス胎児の成長板における発現を調べたところ、S100A1, S100Bは成長板軟骨に広く発現がみられたが、特に前肥大軟骨細胞層から肥大軟骨細胞層にかけて強く発現していた。これはSOX trioの発現部位とほぼ重複するが、S100A1, S100Bの発現のピークはSOX trioのそれより若干遅れていた。また軟骨系細胞株ATDC5細胞の分化における発現の経時的な変化を調べたところ、やはりS100A1, S100BはSOX trioにやや遅れて発現が増加していた。 3. S100A1, S100Bの軟骨分化における機能を解析するためにATDC5細胞にS100A1もしくはS100Bを過剰発現させたところ、肥大分化と石灰化は抑制され、反対にS100A1とS100Bの両方をRNAiにより抑制すると肥大分化と石灰化は促進された。またATDC5細胞のペレット培養系において検討したところ、S100A1+S100Bによる肥大分化抑制作用がSOX trioによるそれと同等であった。さらにこのSOX trioによる肥大分化抑制作用は、S100A1+S100BのsiRNAによって打ち消された。 4. プロモーター解析とElectrophoretic mobility shift assay (EMSA)、クロマチン免疫沈降アッセイ(ChIP)により、S100A1とS100Bのプロモーター内のSOX trioの応答配列も同定した。 以上、本研究はS100A1とS100BがSOX trioの標的分子として、軟骨細胞の肥大分化、石灰化を抑制することを明らかにした。本研究は、新たな軟骨分化制御の解明のみならず変形性関節症の予防・治療にも繋がる、重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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