学位論文要旨



No 122624
著者(漢字) 張,克明
著者(英字) ZHANG,KE MING
著者(カナ) チョウ,コクメイ
標題(和) 初発および再発肝細胞癌に対する肝切除における術中超音波検査の意義に関する研究
標題(洋) Impact of intraoperative ultrasonography during primary and repeated hepatic resection for hepatocellular carcinoma
報告番号 122624
報告番号 甲22624
学位授与日 2007.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2920号
研究科 医学系研究科
専攻 外科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大友,邦
 東京大学 講師 別宮,好文
 東京大学 講師 西松,寛明
 東京大学 講師 赤羽,正章
 東京大学 講師 椎名,秀一朗
内容要旨 要旨を表示する

【背景と目的】術中超音波検査(Intraoperative ultrasound:IOUS)は手術前には見つけることができない、小さい肝癌を検出する最も鋭敏な画像診断療法の1つである。今回、初発および再発肝細胞癌(HCC)に対して行はれた肝切除における超音波検査の効果を評価することを目的とした臨床研究を実施した。この研究の目的は以下の3つの重要な疑問に答えることである:1)どのくらいの頻度でIOUSにより「新しい腫瘍」が検出され、手術の方針が変更されたか2)IOUSで初めて発見された「新しい腫瘍」の特性(大きさ、占拠部位、その他の背景因子)は何か3)「新しい腫瘍」の検出が肝切除後の予後にどのように影響したか。

【対象と方法】:1995年1月〜2002年12月の期間に東京大学肝胆膵外科において、HCC患者430例に対して行われた555回の肝切除を対象とした。術中超音波(IOUS)のHCC病変検出感度と、術前体外式超音波、コンピュータ・トモグラフィ、Lipiodol-CT、磁気共鳴画像(MRI)、血管造影と比較した。初回と2回目の肝切除のときに術中超音波によって検出された「新しい腫瘍」の大きさ、位置、超音波パターンなどを含めて分析した。初回肝切除後の予後に関して、3グループすなわち、「新しい腫瘍」がなく単発腫瘍症例(284例);「新しい腫瘍」のがなく2個以上の腫瘍がある症例(112例);少なくとも1個の「新しい腫瘍」を持っていた症例(29例)に分けて生存率と無再発生存率を評価した。「新しい腫瘍」があった症例に関し、2グループ:同一領域(sector)内に主病巣と「新しい腫瘍」が見られた症例(IS群:11例)と「新しい腫瘍」が主病巣とは別の領域に見られた症例(OS群:18例)に分けて生存率と無再発生存率を比較した。

【結果】:各画像診断の検出感度による比較では、術中超音波検査の感度は最も高かった。いずれの画像診断療法でも、検出率は2回目の肝切除のときにわずかではあるか、一様に減少した。術中超音波検査により初回肝切除で30例(7.1%)において56個の「新しい腫瘍」が、二回目の切除では8例(7.3%)において13個の新しい腫瘍が検出した。平均の腫瘍径は初回と二回目の切除でそれぞれ8.7±3.と9.0±5.2mmであった。初回肝切除で見出された「新しい腫瘍」のうち、60.0%は主病巣の領域外(OS)に存在していた。手術前の外科的方針は、初回肝切除では24症例(5.6%)、二回目の切除では7症例(6.4%)で、IOUSの結果によって変更された。初回肝切除術中に「新しい腫瘍」が見つかった症例の切除後再発は高率であったが、再発に対する適切な治療により、「新しい腫瘍」が見つからなかった症例とほぼ同等の予後が得られた。初回肝切除で「新しい腫瘍」が検出された場合、それがISグループの場合、OSグループに比し無再発生存率が有意に高かった。

【結語】:各種の画像診断の最近の進歩にもかかわらず、肝細胞癌切除術中超音波検査は今なおもっとも感度の高い検査法であった。再肝切除の際にも「新しい腫瘍」に対し同等の注意が必要である。新しい腫瘍ある患者は再発リスクが高いので、厳重いフォローアプし再発に対して適切な治療を行うことが生命予後の向上につながる。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究は、初発および再発肝細胞癌(HCC)に対して行はれた肝切除における超音波検査の効果を評価することを目的とした臨床研究を実施した。この研究の目的は以下の3つの重要な疑問に答えることである:1)どのくらいの頻度でIOUSにより「新しい腫瘍」が検出され、手術の方針が変更されたか2)IOUSで初めて発見された「新しい腫瘍」の特性(大きさ、占拠部位、その他の背景因子)は何か3)「新しい腫瘍」の検出が肝切除後の予後にどのように影響したかについて下記の結果を得ている。

1.各画像診断の検出感度による比較では、術中超音波検査の感度は最も高かった。いずれの画像診断療法でも、検出率は2回目の肝切除のときにわずかではあるか、一様に減少した。

2.術中超音波検査により初回肝切除で30例(7.1%)において56個の「新しい腫瘍」が、二回目の切除では8例(7.3%)において13個の新しい腫瘍が検出した。平均の腫瘍径は初回と二回目の切除でそれぞれ8.7±3.と9.0±5.2mmであった。

3.初回肝切除で見出された「新しい腫瘍」のうち、60.0%は主病巣の領域外(OS)に存在していた。

4.手術前の外科的方針は、初回肝切除では24症例(5.6%)、二回目の切除では7症例(6.4%)で、IOUSの結果によって変更された。

5.初回肝切除術中に「新しい腫瘍」が見つかった症例の切除後再発は高率であったが、再発に対する適切な治療により、「新しい腫瘍」が見つからなかった症例とほぼ同等の予後が得られた。

6.初回肝切除で「新しい腫瘍」が検出された場合、それがISグループの場合、OSグループに比し無再発生存率が有意に高かった。

 以上、本論文は各種の画像診断の最近の進歩にもかかわらず、肝細胞癌切除術超音波検査は今なおもっとも感度の高い検査法であった。再肝切除の際にも「新しい腫瘍」に対し同等の注意が必要である。新しい腫瘍ある患者は再発リスクが高いので、厳重にフォローアプし再発に対して適切な治療を行うことが生命予後の向上につながる。そのことによって初発および再発肝細胞癌に対する肝切除における術中超音波検査の意義に関する研究に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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