学位論文要旨



No 122639
著者(漢字) スリングスビー ブライアン テラ
著者(英字) Slingsby Brian Taylor
著者(カナ) スリングスビー ブライアン テラ
標題(和) 外来診療における医師のコミュニケーション・スタイルに関する質的研究
標題(洋)
報告番号 122639
報告番号 甲22639
学位授与日 2007.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(保健学)
学位記番号 博医第2935号
研究科 医学系研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 川上,憲人
 東京大学 教授 甲斐,一郎
 東京大学 教授 大内,尉義
 東京大学 講師 神馬,征峰
 東京大学 講師 山崎,あけみ
内容要旨 要旨を表示する

『背景』医療従事者がどのように患者とコミュニケーションをとるかは、文化、言語、制度といった要因に影響される。臨床医学上、医療従事者が患者とどう接するかは、非常に重要な問題である。医師のコミュニケーション・スタイルに関するモデルは、これまでもいくつか提示されてきたが、それらはすべてアメリカにおける研究に基づいており、日本の医療現場にどれほど適応できるかは明らかでない現状にある。

『目的』本研究は、外来診療において、日本の医師がどのようなコミュニケーション・スタイルを取っているのか検討することを目的とした。ここでいうコミュニケーションとは、言語および非言語のコミュニケーションを意味し、話し方のみならず接し方も含まれる。外来診療における医師のコミュニケーション・スタイルの定義は、(1)患者を理解するためのデータ収集、 (2)患者との信頼関係の形成、(3)患者への情報提供の三点によって構成される。

『方法』本調査は、質的研究である。データの収集方法については、(1)京都にある総合病院の外来診療部門での観察データ、(2)外来診療で癌以外の疾患の患者を担当する内科医を対象とした半構造的面接、(3)その内科医と共に看護師を対象とした半構造的面接、(4)外来診療を受療している癌以外の疾患の患者を対象とした半構造的面接、という4つの方法にて収集。データの分析方法については、観察法、およびインタビュー法により収集したデータを継続的比較分析法にて分析。全てのデータ収集・分析は理論的飽和状態に達するまで続けられた。以上、調査研究の結果の信憑性は、データおよび方法トライアンギュレーション(それぞれのテーマは、医師・看護師・患者の参加者のカテゴリー間で、解答および直接観察のデータとの照合・確認)と、参加者へのメンバーチェックインタビュー(それぞれの参加者とのインタビューの結果についての話し合い)により確保した。

『結果』医師18人、看護師14人、患者17人にインタビューした時点で理論的飽和に達した。医師のコミュニケーション・スタイルは、医師がどのように患者と接して話すか、また、どのように看護師と接して話すか、の二点から構成されていた。この二種類のコミュニケーション・スタイルから、外来診療において、医師がどのように患者や看護師に接して話すかに関する四種の類型が明らかとなった。即ち、患者や看護師との医師の交流の仕方に関する二種類には、(1)協力的適応型、(2)協力的一定型、(3)単独的適応型、(4)単独的一定型の四種の類型が見られ、患者や看護師との典型的な医師の交流のあり方が示唆された。

『考察』本調査結果と先行研究で提唱されたモデルとの間には、いくつかの差異が存在する。最も重要な差異は、これまでのモデルが、医師のコミュニケーションの方法は医師と患者との交流にのみ依存するもの、と仮定していたことにある。今回の調査は、診察室に看護師が居合わせることが通常の外来医療部門で実施され、患者のデータ収集、信頼関係の形成、情報提供といったコミュニケーションにおいて、医師が看護師に頼っていることが認められた。この違いは、これまでの外来診療における医師のコミュニケーション・スタイルのモデルでは説明されていず、有効で注目すべきものである。従って、いわゆるチーム医療で機能するコミュニケーションを説明するモデルの構築も必要される。今回の調査結果は、外来診療におけるコミュニケーションのMulti-provider Patient Modelの必要性を示唆している。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究は、外来診療において、日本の医師がどのようなコミュニケーション・スタイルを取っているのか検討するため、質的研究手法にて、(1)京都にある総合病院の外来診療部門での観察、(2)外来診療で癌以外の疾患の患者を担当する内科医を対象とした半構造的面接、(3)その内科医と共に働く看護師を対象とした半構造的面接、(4)外来診療を受療している癌以外の疾患の患者を対象とした半構造的面接を行ったものであり、下記の結果を得ている。

 ここで言うコミュニケーションとは、言語および非言語のコミュニケーションを意味し、話し方のみならず接し方も含まれる。また、外来診療における医師のコミュニケーション・スタイルの定義は、(1)患者を理解するためのデータ収集、 (2)患者との信頼関係の形成、(3)患者への情報提供の三点によって構成される。

1. 医師18人、看護師14人、患者17人にインタビューした時点で理論的飽和に達した。

2. 医師のコミュニケーション・スタイルは、医師がどのように患者と接して話すか、また、どのように看護師と接して話すか、の二点から構成されていた。

3. この二種類のコミュニケーション・スタイルから、外来診療において、医師がどのように患者や看護師に接して話すかに関する四種の類型が明らかとなった。

4. 患者や看護師との医師の交流の仕方に関する二種類には、(1)協力的適応型、(2)協力的一定型、(3)単独的適応型、(4)単独的一定型の四種の類型が見られ、患者や看護師との典型的な医師の交流のあり方が示唆された。

5. 診察室に看護師が居合わせることが通常の外来医療部門で実施され、患者のデータ収集、信頼関係の形成、情報提供といったコミュニケーションにおいて、医師が看護師に頼っていることが認められた。

6. 以上の結果を踏まえ、医師、および患者はデータ収集、信頼関係の形成、情報提供において、しばしば看護師の仲介に頼ることから、外来診療におけるコミュニケーションのMulti-provider Patient Modelの必要性が示唆された。

 以上、本論文は、外来診療において日本人の医師がどのように患者、および看護師と交流するかを理解するためのモデルを開発した。本研究は、これまでの外来診療における医師のコミュニケーション・スタイルのモデルでは説明されていない外来診療におけるコミュニケーションのMulti-provider Patient Modelを提示することができ、チーム医療のコミュニケーションの理解に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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