学位論文要旨



No 122666
著者(漢字) 萩尾,浩之
著者(英字)
著者(カナ) ハギオ,ヒロユキ
標題(和) ポリマー担持型微小金属クラスター触媒の開発
標題(洋)
報告番号 122666
報告番号 甲22666
学位授与日 2007.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(薬学)
学位記番号 博薬第1211号
研究科 薬学系研究科
専攻 分子薬学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 小林,修
 東京大学 教授 柴崎,正勝
 東京大学 教授 長野,哲雄
 東京大学 教授 福山,透
 東京大学 助教授 金井,求
内容要旨 要旨を表示する

 回収、再使用可能な反応試剤、触媒の開発は、省資源化や産業廃棄物の低減化、資源のリサイクルなど、地球環境保護に繋がることから、現代有機化学における最重要課題の一つである。本研究で筆者は、金属粒子の凝集を抑制しつつポリマー上に均一に、分散、安定、固定化するという概念の基、実用性を視野に入れた固定化触媒の新たな合成法の開発の検討を行った。本論文は、その成果について4章に渡り、記述したものである。

 第1章ではまず、当研究室で開発された高分子カルセランド型パラジウム触媒(PI Pd触媒)の適用範囲の拡張としてポリスチレンをベースとするポリマーのベンゼン環とホスフィン配位子の配位子交換法を用い、高分子カルセランド型白金触媒が効率的に調製できることを見出した(第2節)。

 本手法においてはホスフィンオキシドが触媒中に残存してしまうものの、本触媒はヒドロシリル化反応において、白金の流出を伴うことなく有効に機能し、回収、再使用可能であることを見出した(第3節)。

また、ホスフィン錯体以外の白金源から配位子交換法によってホスフィンフリーカルセランド型白金触媒を調製する検討を行った。その結果、0価の白金ジベンジリデン錯体を白金源として用いると、白金粒子は直ちに凝集してしまうことがわかった。ホスフィン錯体を用いた時においてはこのように現象は観測されないことから、微小金属粒子を凝集させることなく固定化できたのはポリマーのベンゼン環のみならず、ホスフィン配位子そのものが固定化において凝集を抑制する安定化剤として、重要な役割を担っていることが示唆された。そこで、ホスフィンに替わるアンモニウム塩を外部安定化剤として加えることで、白金を凝集させることなくポリマー上に固定化できることを見出した(第4節)。

 第2章では、第1章で得られた「安定化しつつ固定化する」という概念の拡張として、安価で取り扱いの容易な2価のパラジウム塩からパラジウムを還元的にポリマー上に固定化する検討を行った。その結果、アンモニウム塩を添加せずにポリマーにより安定化しつつ徐々に加熱分解することによって0価に還元するという手法によって、パラジウムを凝集させることなく円滑に固定化が行えることを明らかにした(第2節)。

また、ここで調製したPI Pd触媒は溝呂木-Heck反応、鈴木-宮浦カップリング反応において有効に機能し、回収、再使用可能であることを明らかにした(第3節)。

 第3章では、上記の手法の他の金属錯体への適用として、2価の白金源を用い、これを還元的に固定化する検討を行った。その結果、ポリマー存在下、穏やかな還元剤にて徐々に還元することで、白金粒子を凝集させることなく担持できることを明らかにした(第2節)。また、ここで得られたPI Pt触媒は、コレステロールの還元、四級ピリジニウム塩やニトロ基の選択的水素化反応などにおいても有効に機能し、回収、再使用可能であることを見出した(第3節)。

 さて、これまでは、ポリスチレンをベースとする担体を用いてきたが、ここで得られた知見は他の担体にも適用できるのではないかと考えた。そこで第4章では、簡便かつ、実用的な触媒の調製ならびに多点安定化相互作用のコンセプトを生かせる担体として、新たにポリシランに着目した。すなわち、ポリ(メチルフェニルシラン)を用いれば、主鎖のσ電子とベンゼン環のπ電子の両者を活用することで、金属を凝集させることなく担持できるのではないかと考えた。

 検討の結果、ポリシラン担持型マイクロカプセル化パラジウム及び白金触媒が、効率的に調製できることを見出した(第2節)。また、ここで得られた触媒は、水素化反応等において円滑に機能し、回収、再使用可能であることを見出した。

 また、本手法を用いることで、白金の固定化も円滑に行えることがわかった。また、ここで得られた触媒はヒドロシリル化反応において有効に機能することを見出した。

 また、ポリシラン担持型マイクロカプセル化パラジウム触媒の触媒構造解析を行い、透過型電子顕微鏡(TEM)、(29)Si CPMAS NMR、XPS、GPCを用いた検討により、主鎖に非局在化したσ電子がパラジウムの安定化に充分に寄与していることを明らかにした(第3節)。更に、汎用性ならびに耐溶媒性ならびに耐久性の向上を目指し、カルセランド型パラジウム触媒の調製検討を行った(第4節)。その結果、側鎖にヒドロキシル基を有するコポリシランを用いることによって膨潤性のカルセランド型パラジウム触媒が円滑に調製できることを見出した。また、ここで得られた触媒は、水素化反応において有効に機能し、回収、再使用可能であることを見出した。また、ここで調製した触媒の構造解析を行った。

 以上、筆者はポリマー担持型微小金属クラスター触媒の開発を行った。ここで調製した触媒は、高活性であり、金属の流出が無く、回収、再使用可能であることから、医薬品や農薬などの有用な化合物を合成する上で、威力を発揮するものと期待できる。また、本研究はPI法の拡張のみならず他の固定化触媒を調製する上でも有用な指針を与えるものと考えており、学術研究のみならず産業界での幅広い活用が期待される。

Preparation of PI Pt (ligand exchange strategy)

Application to hydrosilylation

Role of phosphine ligand

New approach

Preparation of PI Pd (reduction strategy)

Mizoroki-Heck reaction

Suzuki-Miyaura coupling

Preparation of PI Pt(reduction strategy)

Application to hydrogenation

Expected interaction

Synthesis of PSi-MC Pd

Application to hydrogenation

Synthesis of PSi-MC Pt

Application to hydrosilylation

Synthesis of PSi PI Pd

Application to hydrogenation

審査要旨 要旨を表示する

 現代有機化学において、回収、再使用可能な反応試剤、触媒の開発は、省資源化や産業廃棄物の低減化、資源のリサイクルなど地球環境の保護につながることから、グリーンケミストリーの中核を成す最重要課題の一つである。本論文は金属触媒の固定化において、金属粒子の凝集を抑制しつつポリマー上に均一に分散、安定、固定化するという新しい概念に基づき、実用性を視野に入れた開発研究を行った結果について述べたものである。

 第一章ではまず、当研究室で開発された高分子カルセランド型パラジウム触媒(PIPd触媒)の合成法に基づき、高分子カルセランド型白金触媒が効率的に調製できることを見い出している。また、本触媒はヒドロシリル化反応において白金の流出を伴うことなく有効に機能し、回収、再使用可能であることも明らかにしている。さらに、ホスフィン錯体以外の白金源から配位子交換法によってホスフィンフリーカルセランド型白金触媒を調製する検討を行い、白金ジベンジリデン錯体を白金源として用いると白金粒子は直ちに凝集してしまうに対し、ホスフィンの代わりにアンモニウム塩を外部安定化剤として加えると、白金を凝集させることなくポリマー上に固定化できることを明らかにしている。

 第二章では、第一章で見い出した安定化しつつ固定化するという固定化の手法の拡張として、安価で取り扱い容易な2価のパラジウム塩からパラジウムを還元的にポリマー上に固定化する検討を行っている。アンモニウム塩を添加せずにポリマーによって安定化しつつ徐々に加熱分解する方法によって、パラジウムを凝集させることなく円滑に固定化が行えることを明らかにしている。また、ここで調製したPIPd触媒は溝呂木-Heck反応、鈴木-宮浦カップリング反応において有効に機能し、回収、再使用可能であることも明らかにしている。

 第三章では、第二章で開発した手法に基づき、2価の白金源を還元的に固定化する検討を行っている。その結果、ポリマー存在下、穏やかな還元剤にて徐々に還元することで、白金粒子を凝集させることなく担持できることを明らかにし、また、ここで得られたPIPt触媒は、コレステロールの還元、四級ピリジニウム塩やニトロ基の選択的水素化反応などにおいても有効に機能し、回収、再使用可能であることも見い出している。

 第四章では、新たな担体としてポリシランに着目し、ポリ(メチルフェニルシラン)を用いることにより、主鎖のσ電子とベンゼン環のπ電子の両者を活用することで、金属を凝集させることなく担持できるという仮説のもと、ポリシラン担持型マイクロカプセル化パラジウム及び白金触媒を開発している。また、ここで得られた触媒は水素化反応等において円滑に機能し、回収、再使用可能であることも明らかにしている。また、本手法を用いることで白金の固定化も円滑に行えることを見い出し、ここで得られた触媒はヒドロシリル化反応において有効に機能することを明らかにしている。さらに、ポリシラン担持型マイクロカプセル化パラジウム触媒の触媒構造解析を行い、透過型電子顕微鏡(TEM)、(29)SI CPMAS NMR、XPS、GPCを用いた検討により、主鎖に非局在化したσ電子がパラジウムの安定化に充分に寄与していることを明らかにしている。さらに、汎用性ならびに耐溶媒性ならびに耐久性の向上を目指し、カルセランド型パラジウム触媒の調製検討を行い、側鎖にヒドロキシル基を有するポリシランを用いることによって、膨潤性のカルセランド型パラジウム触媒が円滑に調製できることを見い出している。また、ここで得られた触媒は、水素化反応において有効に機能し、回収、再使用可能であることも明らかにしている。

 以上、本論文はポリマー担持型微小金属クラスター触媒の開発を行い、ここで調製した触媒は高活性であり、金属の流出が無く、回収、再使用可能であることを明らかにしている。これらの触媒は、医薬品や農薬などの有用な化合物を合成する上で威力を発揮するものと期待できる。また、本研究はPI法の拡張のみならず他の固定化触媒を調製する上でも有用な指針を与えるものであり、博士(薬学)の学位に値するものと判定した。

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