学位論文要旨



No 122675
著者(漢字) 隈本,洋介
著者(英字)
著者(カナ) クマモト,ヨウスケ
標題(和) 接触過敏症を誘導する抗原提示細胞は表皮ランゲルハンス細胞ではなく真皮樹状細胞である
標題(洋)
報告番号 122675
報告番号 甲22675
学位授与日 2007.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(薬学)
学位記番号 博薬第1220号
研究科 薬学系研究科
専攻 機能薬学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 入村,達郎
 東京大学 教授 堅田,利明
 東京大学 教授 新井,洋由
 東京大学 教授 一條,秀憲
 東京大学 教授 関水,和久
内容要旨 要旨を表示する

【背景】

 樹状細胞(DC)は自然免疫系において最も強力な抗原提示能をもつ細胞群である。マウスを用いた解析から、現在in vivoのDCに関して機能的、発生学的あるいは解剖学的に異なる最低6種類の亜集団が知られているが、各亜集団間のin vivoでの抗原提示における機能的差異は不明な点が多い。一般的なin vivoの免疫応答では、抗原は皮膚または呼吸器、消化器、生殖器の粘膜上皮を経由して個体内に侵入し、DCによってプロセシングされた後、各臓器の所属リンパ節(LN)においてリンパ球へと提示され、抗原特異的な免疫応答を誘導する。このようなin vivoの免疫応答のうち、FITC等のハプテン溶液をマウス皮膚に塗布することで生じる接触皮膚炎(CHS)は、その簡便性から経皮感作による免疫応答モデルとして最もよく利用されるものの一つである。ハプテン誘導性CHSでは経皮投与されたハプテンが皮下LNでハプテン特異的T細胞に提示され、一定期間後に同一のハプテンで惹起することにより惹起部位の皮膚にT細胞依存的な炎症が誘導される。CHSの感作過程において表皮特異的なDC亜集団であるLCが所属LNへと遊走すること、またin vitroでハプテンと共培養した表皮由来LCの受動移入によりCHSを誘導できることなどから、古典的にLCがCHSにおける抗原提示細胞(APC)であるとされてきた。しかし、近年LC特異的な細胞表面分子としてlangerin(CD207)が同定され、langerinプロモーターを用いて遺伝子工学的にin vivoでLCを除去したマウスが複数のグループにより作製されたが、これらのマウスでCHSの発症が認められたことからCHSの感作過程にはLC以外のDC亜集団がAPCとして機能する可能性が指摘された。免疫解剖学的に、経皮的に侵入した抗原を提示するDC亜集団は、LC、真皮樹状細胞(DDC)および所属LNの常在性CD8α陽性DCであると考えられている。このうち常在性CD8α陽性DCはヘルペスウィルスの経皮感染時に主要なAPCとして機能することが示されているが、DDCには現在特異的なマーカー分子が知られておらず、in vivoにおけるDDCの機能を直接的に証明した例はない。一方、当研究室ではこれまでに、マクロファージ(M〓)ガラクトース型C型レクチン(MGL、CD301)を発現する真皮の細胞がCHS感作時に所属LNへと遊走することが見出されたが、MGL陽性細胞の免疫学的機能は不明であった。私はCHS感作時におけるMGL分子およびMGL陽性細胞の機能を研究する過程で、最近同定されたMGLファミリー分子であるMGL2がDDC特異的に発現することを発見し、これを指標としてCHSの経皮感作過程におけるDDCの動態と機能を明らかにしたのでここに報告する。

【結果および考察】

皮膚免疫系においてMGL1が複数のDC/M〓亜集団に発現する一方MGL2はDDC特異的に発現する

 MGLは分子内にガラクトース結合型のC型レクチンドメインをもち、マウスにはMGL1とMGL2の2種類が存在する。これまでに、MGLの発現が皮膚では真皮にのみ認められ、FITCによるCHS感作時にMGL陽性細胞が所属LNへと遊走することが報告されているが、近年MGL2が新規にクローニングされ、従来組織学的検討に多用された抗MGLモノクローナル抗体(mAb)LOM-14がMGL1とMGL2を区別しないことが明らかになった。CHS感作過程においては、リコンビナントMGL1のLNへの結合パターンとMGL陽性細胞のLN内分布の類似性からMGLが細胞間相互作用に寄与すると予想されたが、MGL2の発見を受け、私は分子機能の解析に先立ってMGL1およびMGL2の発現パターンに関する詳細な検討が必要と考えた。そこで、当研究室で最近樹立されたMGL2特異的mAb URA-1およびMGL1特異的mAb LOM-8.7を用いてMGL陽性細胞がどの亜集団に帰属されるのかを検討した。その結果、これまでの知見と同様、皮膚ではMGL1、MGL2共に真皮にのみ発現が認められ、いずれもMHC class II高発現のDDC様細胞集団に限局していた(図1AおよびB)。一方皮下LNの組織学的な検討では、MGL1が髄洞、辺縁洞および皮質T細胞領域の外側に発現するのに対し、MGL2は主に皮質T細胞領域の外側に限局して発現が認められた(図1A)。この結果から、皮下LNにおいてMGL2陽性細胞がMGL1陽性細胞の亜集団であることが予想された。さらに皮下LN細胞のフローサイトメトリー(FCM)によって、MGL1陽性の細胞集団にはMHC class IIおよびCD11c低発現かつB220およびGr-1陽性の形質細胞様DCと、CD8α低発現かつCD11cおよびCD11b陽性かつMHC class II高発現の間質性DCが含まれるが、MGL2陽性の細胞集団はMGL1陽性の間質性DCのみから成ることが明らかになった(図1C)。皮下LNの間質性DCはLCまたはDDCに由来することが報告されているが、MGL2が表皮に検出されないことから、私はMGL2がDDC亜集団の新規マーカー分子として利用できると結論した。

MGL2陽性DDCは共刺激分子を高発現するユニークなDC亜集団である

 先述のように、末梢から個体内に侵入した抗原は遊離の状態もしくはAPCに捕捉された状態で所属LNに輸送され、経皮的に侵入した抗原は皮下LNで、腸管より侵入した抗原は腸間膜LNあるいは腸管関連リンパ組織でリンパ球に提示される。したがって、所属する器官によって各リンパ組織におけるDC亜集団の構成は異なり、皮下LNには脾臓、胸腺、パイエル板等の他のリンパ組織には見られないDC亜集団が存在する。これらの皮下LNに特徴的なDC亜集団は皮膚に由来するとされており、未感作の状態でもリンパ球活性化に必要な共刺激分子を高発現することが知られている。そこで私は、共刺激分子であるCD40またはCD86とリンパ球系DCのマーカーであるCD8αの発現により皮下LNのCD11c陽性DCをフローサイトメトリーで分類し、MGL2陽性DDCがどの画分に帰属されるのかを調べた。CD40とCD11cの発現による分類では、これまでの報告で皮下LNに特有とされているCD40中発現かつCD11c高発現(図2亜集団I)、CD40高発現かつCD11c中発現(図2亜集団II)、CD40高発現かつCD11c高発現(図2亜集団III)の3種類のDC亜集団が検出された。このうちCD40高発現かつCD11c高発現の亜集団(亜集団III)がMGL2陽性DDCと一致した(図2)。同様にして、MGL2陽性DDCはCD86高発現かつCD8α低発現のほぼ均一なDC亜集団であることが示された(図2)。これまでの報告では、亜集団IIIのごく一部にLC特異的な細胞内小器官であるバーベック顆粒をもつ細胞が電子顕微鏡で観察されたことから、この集団は表皮由来であるとされてきた。しかしながら、MGL2をマーカーとして用いることで皮下LNのCD40高発現かつCD86高発現かつCD11c高発現の細胞のほぼ全てが真皮由来であることが強く示唆された。このようにMGL2陽性DDCに共刺激分子が高発現していることは、これまでLCが中心的な役割を果たすと考えられていた皮膚における免疫応答の中にあって、DDCのAPCとしての機能を強く示唆する結果である。

ハプテンを保持したMGL2陽性DDCがCHS感作過程の早期に皮下LNに集積する

 これまで皮下LNにおける皮膚由来のDCは、LCがCD205高発現かつCD207陽性であるのに対し、DDCはCD205中発現かつCD207陰性であるとされていた。しかし、この知見自体が経皮的に投与した蛍光物質を取り込んだ細胞の解析から得られており未感作の状態を反映している保証がないこと、CD207の発現がLNの常在性CD8α陽性DCの一部にも認められること、CD205の発現強度を組織学的に可視化することが困難であることから、これまでDDCの動態が直接的に解析された例は無かった。そこで、FITCによるCHS感作時のDDCの動態をMGL2をマーカーとして観察したところ、MGL2陽性DDCは未感作のLNでCD11c陽性DCの約10%を占め、FITC感作1日後には約50%となり、感作4日後で再び約10%に減少することが分かった(図3A)。このことから、一般に5日程度かかるとされるCHS感作過程において、MGL2陽性DDCが感作後24時間という比較的早期にLNへ遊走することが示唆された。また、感作1日後のMGL2陽性DDCの約80%がFITCを取り込むことが確認された(図3A)。一方、MGL1陽性細胞についても検討した結果、MGL1陽性細胞のうちDDC様亜集団のみが所属LNへの集積およびFITCの取り込みに関してMGL2陽性DDCと同様の挙動を示すことが明らかになった。さらに、未感作、感作1日後および感作4日後の所属LNにおいてMGL2陽性DDCの分布を組織学的にCD207陽性LCと比較すると、全ての時点でDDCがT細胞領域とB細胞濾胞の境界に存在する高内皮静脈(HEV)の近傍に集中的に分布していたのに対し、LCはT細胞領域全体に分散して存在することが判明した(図3B)。これは、同様に皮膚から皮下LNへ遊走するLCとDDCについて、その挙動が定常的に異なる機構により制御されていることを示唆するものである。経皮的に侵入した抗原に特異的なCD4陽性ナイーブT細胞の活性化は感作2日以内にHEVの近傍で生じること、また、CHSにおけるLCのLNへの遊走が早くとも感作後3日目以降であることを複数のグループが報告していることを考慮すると、CHSにおいて最初にT細胞を活性化するAPCはLCではなくMGL2陽性DDCであると予想される。

FITC感作1日後のLN由来MGL2陽性DDCはCHSを誘導する

 上記の結果から、皮下LNにおいてMGL2陽性細胞がDDC由来であること、CHS感作においてLCの遊走よりも早期にHEV近傍に集積することが示されたが、ハプテンを捕捉したMGL2陽性DDCが実際に皮膚から皮下LNへ遊走し、APCとして機能することは示されていない。そこで、CHS感作におけるMGL2陽性DDCの機能を検討するために、FITC感作1日後のLNからFITCを捕捉したMGL2陽性DDCを精製し、未感作のマウスに受動移入した。受動移入6日後にマウス耳介にFITC溶液を塗布し、その24時間後の耳介の厚さを測定した。その結果、FITC陽性MGL2陽性DDCを移入したマウスで耳介の腫脹が確認され、FITC感作1日後のLNに存在するMGL陽性DDCがCHSを誘導できることが示された(図4)。さらに、MGL2陽性DDCの受動移入による感作の成立は、グルタルアルデヒドで細胞表面を固定したFITC陽性MGL2陽性DDCを移入した場合には認められず、移入したMGL2陽性DDCの細胞表面分子を介するFITCの提示とそれに伴うリンパ球の活性化に依存的であると考えられた(図4)。本実験では、MGL2陽性DDCの受動移入によるCHS誘導は最少で104個程度のDDCを移入した場合から認められたが、これまでの報告によるとFITCを塗布した表皮のLCを移入した場合は最少106個程度のLCが必要であるとされており、104個程度の移入でCHSの誘導が認められるMGL2陽性DDCの抗原提示能は極めて高いものと考えられる。以上の結果を併せて考慮すると、in vivoのCHSにおける抗原提示はDDCによって感作後24時間以内にHEVの近傍で生じることが強く示唆される。

【結論】

 私は本研究で、MGL2が皮膚と皮下LNを結ぶ皮膚免疫系においてDDC亜集団特異的なマーカーとなることを示した。これまでマウスDDC特異的なマーカーは全く知られておらず、DDCマーカーを発見したことの有用性は大きい。さらに、皮下LNにおいてMGL2陽性DDCがT細胞活性化に必要な共刺激分子を高発現し、CHS感作過程においてLCよりも早期に所属LNに集積することを明らかにした。また、LCがLNの皮質T細胞領域全体に散在した分布を示すのに対し、MGL2陽性DDCがHEV近傍に局在することを示した。この領域はHEVから末梢LNに流入した未感作T細胞がDCにより走査される場所として知られ、抗原特異的T細胞クローンの増殖が生じる領域である。さらに私は、FITCで感作したLNより分離したMGL2陽性DDCを受動移入すると、レシピエントマウスがFITC特異的なCHSを発症することを示し、CHSの感作過程において、DDCがLCよりも初期にCHSを誘導することを示した。これは、LCが優位なAPCであるという従来のCHS発症機構の概念を覆す発見であり非常に重要なものである。

図1 皮膚免疫系におけるMGL陽性細胞の同定

(A) 皮膚および皮下LNにおけるMGL陽性細胞の分布.赤は核染色.E:上皮,D:真皮,ST:皮下組織,T:皮質T細胞領域,B:B細胞濾胞,S:辺縁洞,M:髄洞.スケールバーは100μmを示す.(B) 皮膚から単離した細胞のFCM.MGL2は真皮のMGL1およびMHC class II高発現細胞にのみ発現が認められる.(C) 皮下LNの細胞のFCM.MGL1陽性細胞には形質細胞様DC(画分P)および間質性DC(画分C)が含まれるが,MGL2陽性細胞は間質性DCのみからなる.

図2 皮下LNにおけるMGL2陽性DDCによる共刺激分子の発現

皮下LNからMagnetic cell sorting (MACS)により分離したCD11c陽性DC(>95% CD11c陽性)を標記のマーカーに対するmAbで染色した.左のパネルに示すように全DCをMGL2陰性(MGL2-)およびMGL2陽性(MGL2+)の画分にわけ、各々について各マーカー分子を染色したパターンを右に示す.亜集団I,IIおよびIIIはいずれも皮下LNに特異的に認められるDC亜集団である,MGL2+ DDCは亜集団IIIと一致し,CD86も高発現するほぼ単一の集団である.MGL2- DCの中にもCD8α低発現かつCD40(亜集団IV)およびCD86(亜集団V)高発現の亜集団が存在するが,MGL2+ DDCと比較してCD8α染色時の平均蛍光強度が有意に低い異なる亜集団である.

図3 FITCによるCHS感作時の所属LNにおけるMGL2陽性DDCの動態

(A) LNのCD11c陽性DCに占めるMGL2陽性DDCの割合.感作後の各時点における所属LNからMACSで分離したCD11c陽性DDCについて,MGL2の発現およびFITCの保持をFCMにて調べた(左).また,全CD11c陽性DCに占めるFITC陽性細胞の割合を右に示した.グラフは平均値±標準偏差を示し,3回以上の独立した実験から得られた代表例を示す.(B) FITC塗布後の所属LNにおけるMGL2陽性DDCとHEV(PNAd)ならびにLC(CD207)の分布.上段の枠内を下段に示す.スケールバーは100μm.感作1日後にMGL2陽性DDCがHEVの近傍に集積していることが分かる.また,全ての時点でLCは皮質T細胞領域全体に認められるのに対し,MGL2陽性DDCはHEVの近傍に留まった分布を示す.

図4 MGL2陽性DDCの受動移入によるFITC特異的CHSの誘導

FITC感作1日後の所属LNからMACSによりCD11c陽性DCを分離し,MGL2の発現とFITCの保持をFCMにて確認後,FITC陽性MGL2陽性DDCをFACS Ariaを用いて分離した(左).分離したMGL2陽性DDCを未感作のマウスに7.5×104個皮下投与し,6日後に0.5%FITCを耳介に塗布してCHSを惹起し,惹起24時間後における耳介の腫脹を計測した(右).MGL2陽性DDCを移入したレシピエント群(MGL2+)およびFITC塗布により感作した対照群(FITC painted)で耳介の腫脹が認められ,未感作のマウス耳介にFITCを塗布した群(naive)およびグルタルアルデヒド固定したMGL2陽性DDCを移入したレシピエント群(fixed MGL2+)では腫脹が認められなかった.グラフは平均値±標準偏差を示し,3回(fixed MGL2+は2回)の独立した試行から得られた代表例を示す.

審査要旨 要旨を表示する

 「接触過敏症を誘導する抗原提示細胞は表皮ランゲルハンス細胞ではなく真皮樹状細胞である」と題する本論文は、マウスを材料にMGL2/CD301bの発現に基づいて真皮樹状細胞を同定し、その接触過敏症における役割を明らかにした結果を述べたものである。全体は「序論」、「接触過敏症を開始させる抗原提示細胞は表皮LCではなく真皮のMGL2+DDCである」、「MGLはリンパ節に複数の内因性異リガンドをもつがMGL1はDDCの細胞交通に必要でない」、及び「結論」の4章から成る。

 樹状細胞(DC)は一次免疫応答において最も強力な抗原提示能をもつ細胞群と考えられており、多くの亜集団が知られている。低分子化合物が皮膚に付着することで生じる接触過敏症は、経皮感作による免疫応答モデルとしてよく利用され、マウスを対象にFITC等のハプテンを用いるモデルが多用される。接触過敏症の感作過程において表皮特異的なDC亜集団であるLCが所属リンパ節へと遊走すること、またin vitroでハプテンと共培養した表皮由来LCの受動移入によりCHSを誘導できることなどから、古典的にLCが接触過敏症における抗原提示細胞であるとされてきた。しかし、近年LC特異的な細胞表面分子としてlangerin(CD207)が同定され、langerinプロモーターを用いて遺伝子工学的にin vivoでLCを除去したマウスが複数のグループにより作製されたが、これらのマウスで接触過敏症の発症が認められたことから接触過敏症の感作過程にはLC以外のDC亜集団が抗原提示細胞として機能する可能性が指摘された。経皮的に侵入した抗原を提示するDC亜集団の候補である真皮樹状細胞(DDC)には現在特異的なマーカー分子が知られておらず、in vivoにおけるDDCの機能を直接的に証明した例はなかった。本論文では、マウスにおいて同定されたマクロファージガラクトース型C型レクチン(MGL)の一つであるMGL2がDDC特異的に発現することを発見し、これを指標として接触過敏症の経皮感作過程におけるDDCの動態と機能を明らかにした。

 学位申請者は伝田らによって新規に作製されたMGL2特異的モノクローナル抗体(mAb)URA-1およびMGL1特異的mAb LOM-8.7を用いて皮膚及びリンパ節においてMGL陽性細胞がどの亜集団に帰属されるのかを検討した。皮膚ではMGL1とMGL2は共に真皮にのみ発現が認められ、いずれもMHC class II高発現のDDC様細胞集団に限局していた。皮下リンパ節では、MGL1が髄洞、辺縁洞および皮質T細胞領域の外側に発現するのに対し、MGL2は主に皮質T細胞領域の外側に限局して発現が認められた。皮下リンパ節においてMGL2陽性細胞がMGL1陽性細胞の亜集団であることが推定された。フローサイトメトリーによって、MGL1陽性の細胞集団にはMHC class IIおよびCD11c低発現かつB220およびGr-1陽性の形質細胞様DCと、CD8a低発現かつCD11cおよびCD11b陽性かつMHC class II高発現の間質性DCが含まれるが、MGL2陽性の細胞集団は間質性DCのみから成ることが明らかになった。以上から、リンパ節の間質性DCはDDC由来であり、MGL2がDDC亜集団のマーカーとして利用できることが強く示唆された。そこで続いて、皮下リンパ節のCD11c陽性DCをフローサイトメトリーで各種のマーカーの発現に関して解析し、MGL2陽性DDCがどの用な性質を持つ細胞集団であるかを調べた。CD40とCD11cの発現による分類では、これまでの報告で皮下リンパ節に特有とされているCD40中発現かつCD11c高発現、CD40高発現かつCD11c中発現、CD40高発現かつCD11c高発現の3種類のDC亜集団が検出された。このうちCD40高発現かっCD11c高発現の亜集団がMGL2陽性DDCと一致した。同様にして、MGL2陽性DDCはCD86高発現かつCD8a低発現のほぼ均一なDC亜集団であることが示された。すなわち、MGL2をマーカーとして用いることで皮下リンパ節のCD40高発現かつCD86高発現かつCD11c高発現の細胞のほぼ全てが真皮から遊走した細胞であることが強く示唆された。リンパ節のMGL2陽性DDCに共刺激分子が高発現していることは、これまでLCが中心的な役割を果たすと考えられていた接触過敏症等の皮膚における免疫応答において、DDCが抗原提示細胞として機能する可能性を強く示唆した。

 FITCによる接触過敏症感作時のDDCの動態をMGL2をマーカーとして観察したところ、MGL2陽性DDCは未感作のリンパ節でCD11c陽性DCの約10%を占め、FITC感作1日後には約50%となり、感作4日後で再び約10%に減少することが分かった。このことから、一般に5日程度かかるとされる接触過敏症感作過程において、MGL2陽性DDCが感作後24時間という比較的早期にリンパ節へ遊走することが示唆された。未感作、感作1日後および感作4日後の所属リンパ節においてMGL2陽性DDCの分布を組織学的にLCと比較すると、全ての時点でDDCがT細胞領域とB細胞濾胞の境界に存在する高内皮静脈の近傍に集中的に分布していたのに対し、LCはT細胞領域全体に分散して存在した。従って、皮膚から皮下リンパ節へのリンパ管経由と考えられるLCとDDCの遊走が、異なる機構により制御されていることが示唆された。接触過敏症感作におけるMGL2陽性DDCの重要性を直接証明するため、FITC感作1日後のリンパ節からFITCを捕捉したMGL2陽性DDCを精製し、未感作のマウスに受動移入した。受動移入6日後にマウス耳介にFITC溶液を塗布し、その24時間後の耳介の厚さを測定した結果、耳介の腫脹が確認された。すなわち、FITC感作1日後のLNに存在するMGL陽性DDCが接触過敏症を誘導できることが示された。以上の結果から、CHSにおいては、感作後24時間以内にHEVの近傍で、DDCによって抗原が提示されることが明らかとなった。

 本研究において学位申請者は、CHSの感作過程に於ける細胞動態をMGL2をマーカーとして詳細に解析し、DDCがLCよりも初期に接触過敏症を誘導することを明らかにした。LCが主要な抗原提示細胞であるという従来の接触過敏症感作の概念を覆す発見であり免疫学的な意義が大きい。従って、本研究を行った隈本洋介は博士(薬学)の学位を得るにふさわしいと判断した。

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