学位論文要旨



No 122686
著者(漢字) 今岡,知己
著者(英字)
著者(カナ) イマオカ,トモキ
標題(和) 抗ウイルス薬Adefovir、Tenofovirの腎排泄及び腎毒性発症メカニズムの解析
標題(洋)
報告番号 122686
報告番号 甲22686
学位授与日 2007.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(薬学)
学位記番号 博薬第1231号
研究科 薬学系研究科
専攻 生命薬学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 杉山,雄一
 東京大学 教授 松木,則夫
 東京大学 教授 澤田,康文
 東京大学 助教授 楠原,洋之
 東京大学 講師 樋坂,章博
内容要旨 要旨を表示する

[序論] 核酸アナログであるadefovir,cidofovir,tenofovirはB型肝炎ウイルス、エイズウイルスに対する抗ウイルス薬として開発された。Adefovirとtenofovirはプリン塩基、cidofovirはピリミジン塩基の誘導体であり、細胞内でリン酸化を受け、活性体へと変換される。これらの薬物は主に腎臓で排泄され、糸球体ろ過の他に近位尿細管における能動的な分泌(尿細管分泌)を受ける。尿細管分泌は、近位尿細管の血管側から尿細管管腔側への方向性輸送であり、側底膜側における取り込みトランスポーターと、刷子縁膜側におけるトランスポーターが協奏的に働くことにより、効率的な薬物輸送が達成されている。Adefovir,cidofovir,tenofovirは、生理学的pHでは負電荷を有している有機アニオン化合物である。遺伝子発現系を用いて、側底膜上のorganic anion transporter 1 (OAT1/SLC22A6)と刷子縁膜上に発現するmultidrug resistance-associated protein 4 (MRP4/ABCC4)の基質となることが報告されているが、尿細管分泌におけるそれぞれの寄与率は明らかにされていない。そこで本研究では、OAT1、MRP4に着目しadefovir、cidofovir、tenofovirの腎排泄への関与について検討を加えた。

 Adefovirは腎臓中への蓄積がdose-limiting toxicityに結びついていることが知られている。活性体である2リン酸化体はミトコンドリアのゲノム複製に関与しているDNA polymerase γを阻害することから、ミトコンドリア毒性がadefovirの腎毒性を誘発する要因となっていると考えられている。Adefovirの細胞内でのリン酸化、adefovir及び活性体のミトコンドリア膜を介した膜輸送が活性体のミトコンドリアへの暴露を決定する因子であると考え、これら諸過程についても併せて検討を加えた。

[方法および結果]

1. Adefovirの腎排泄メカニズムの解析

Adefovirの腎取り込み過程はOAT1によって説明される。

 Adefovirの血液側からの取り込み過程をヒト腎スライス法を用いて検討した。Adefovirのヒト腎スライスへの取り込みは飽和性を示し、そのKm値は131μMであった。Adefovirの腎スライスへの取り込みに対するOAT1、OAT3の寄与をそれぞれOAT1、OAT3選択的阻害剤であるp-アミノ馬尿酸(PAH)、ベンジルペニシリン(PCG)を用いて検討した。結果、adefovirの腎への取り込みはPAHによって濃度依存的に阻害されるが、PCGによっては阻害されず、OAT1が主に関与していることが示唆された。

MRP4は,Adefovir,Tenofovirを基質として輸送する

 MRP4cDNAを組み替えたアデノウイルスをHEK293細胞に感染させ、MRP4を過剰発現した膜ベシクルを得た。MRP4発現膜ベシクルを用いた輸送実験の結果、MRP4を介したATP依存的なadefovir、tenofovirの輸送が観察された(図3)。一方で、cidofovirのATP依存的な輸送は観察されなかった。ATP依存的なadefovir、tenofovirの輸送は1mMまで飽和せず、そのKm値は大きい(>1mM)ことが示唆された。

Mrp4(-/-)マウスにおいてAdefovir、Tenofovirの腎排泄クリアランスが低下する

 野生型マウス、Mrp4(-/-)マウスに静脈内定速投与を行い、定常状態においてadefovir、cidofovir、tenofovirの血漿中濃度、尿排泄速度、腎臓中濃度を測定した。マウスにおいても、全身クリアランスの大部分は腎クリアランスによって説明され、糸球体ろ過速度よりも大きく、尿細管分泌の関与が示唆された。Adefovir、tenofovirの腎臓内濃度はMrp4(-/-)マウスでは野生型に比べ有意に高く(それぞれ130 vs 66、191 vs 87(pmol/g組織))、腎臓内濃度基準の腎排泄クリアランスはMrp4(-/-)マウスにおいてそれぞれ約40%に低下した(表)。また、腎臓中のadefovir 1リン酸化体(adefovir-p)及び2リン酸化体(adefovir-pp)の蓄積を陰イオン交換HPLCを用いて測定したところ、いずれの代謝物もMrp4(-/-)マウスにおいて野生型マウスに比べ顕著に上昇した。一方で、cidofovirに関しては、Mrp4(-/-)マウス、野生型マウスで動態学的パラメータに差異は認められなかった。

2. Adefovirの腎毒性メカニズムの解析

 非発現細胞に比べて、OAT1発現HEK293細胞ではadefovirに対する感受性が増加する。以降の実験は全て、OAT1発現HEK293細胞を用いて行った。

Adefovir処理によりミトコンドリア毒性が生じる。

 Adefovir存在下でOAT1発現HEK293細胞を培養し、細胞内ATPレベルに対する影響を検討した。暴露96時間後の細胞内ATPレベルは、adefovirの濃度依存的に減少した。さらに、adefovirによるミトコンドリアDNA(mtDNA)複製阻害についても検討した。定量的PCRによって測定したmtDNAゲノムのコピー数(mtDNA (cytochorome b)量/核ゲノムDNA(serum albumin)量)は、adefovirの濃度依存的に減少した。

Adefovirリン酸化酵素(AK2、AK3、AK4)過剰発現によって毒性が上昇する。

 Adefovir耐性細胞においてadefovirリン酸化酵素活性が低下していることが知られている。Adefovirリン酸化酵素の候補としてAdenylate Kinase(AK)2、AK3、AK4に着目して検討を加えた。各酵素の細胞内分布は図4に示した。AK2/OAT1、AK3/OAT1、AK4/OAT1共発現HEK293細胞を構築し、MTT法により、AK2、AK3、AK4強制発現によるadefovirの毒性への影響を調べた。結果、AK2/OAT1、AK4/OAT1発現細胞、若干ではあるがAK3/OAT1細胞においてOAT1発現細胞、コントロール細胞に比べ、adefovirの細胞毒性は上昇した(図4)。AK2/OAT1、AK3/OAT1、AK4/OAT1発現系において細胞内の有意なリン酸化体の上昇が観察された。Adefovir-p、およびadefovir-ppの割合はAK2/OAT1細胞でそれぞれ26%、45%、AK3/OAT1細胞で23%、25%、AK4/OAT1細胞で15%、35%であり、コントロール細胞(OAT1)では、13%、23%であった。

[3H]dATP、[3H]dCTPのHEKより調整したミトコンドリアへの取り込みに対するadefovir、adefovir-ppの阻害効果の検討

 ミトコンドリア内膜を介したadefovir、adefovir-ppの輸送について検討を加えた。dATP、dCTPの輸送に対するadefovir、adefovir-ppの阻害効果を検討したところ、2mM adefovirではdATP、dCTPのミトコンドリアを介した輸送が促進され、一方で2mM adefovir-ppにおいてはdATP、dCTPの輸送が阻害された(図5)。

[考察]

 本研究により、抗ウイルス薬であるadefovirの腎排泄に関して、血液側からの取り込み過程にはOAT1が、管腔側への排泄過程にはMRP4が協奏的に機能していることをMRP4発現膜ベシクル及びMrp4(-/-)マウスを用いて明らかにした。ただし、Mrp4(-/-)マウスでも尿細管分泌は完全に消失しておらず、他のトランスポーターも刷子縁膜側の排泄過程に関与しているものと考えている。Mrp4(-/-)マウス腎臓において、adefovirリン酸化体の蓄積は有意に高く、一方でadefovirに対するリン酸化体の割合はMrp4(-/-)マウス、野生型マウスともに変化は見られず、Mrp4ノックアウトにより腎臓内adefovirが上昇した結果、リン酸化体が上昇したものと考えられる。MRP4が直接adefovirリン酸化体を輸送するか否かについては今後の検討が必要である。Tenofovirもadefovir同様、Mrp4(-/-)マウスで腎臓中濃度基準の分泌クリアランスは有意に低下し、Mrp4が関与していることを明らかにした。一方で、cidofovirも尿細管分泌を受け、adefovir、tenofovirと同じくOAT1の基質となるが、MRP4の基質とはならず、別のトランスポーターが管腔側への排出に関与していることが明らかとなった。

 Adefovirは活性体であるadefovir-ppがDNA polymerase γ阻害活性を有していることから、adefovir-ppによるミトコンドリアDNA複製阻害が細胞毒性の主要因と考えられている。DNA polymerase γはミトコンドリアマトリックス内に局在していることから、DNA polymerase γ阻害定数のみならず、adefovir-ppのミトコンドリアへの暴露も毒性を支配する因子である。AK2、AK4発現系において毒性は顕著に上昇、AK3発現系でもわずかながら上昇したことから、AK2、AK3、AK4がadefovirのリン酸化に関与していることが示唆された。AK2は細胞質及びミトコンドリア膜間スペースに、一方でAK4はミトコンドリアマトリックス内に局在していることから、AK2は細胞質及びミトコンドリア膜間スペース内でadefovirからadefovir-pへ、AK3、AK4はミトコンドリアマトリックス内でadefovirからadefovir-p、adefovir-pからadefovir-ppの両過程を促進しているものと考えられる。

 ミトコンドリア膜を介したdCTP、dATPの輸送に対してadefovirによりdATP輸送およびdCTP輸送がtrans-stimulationを示し、これら核酸と輸送系を共有していることが示唆された。Adefovir-ppについてもdATP、dCTP輸送をcis-inhibitionしたことから、dATP、dCTPのミトコンドリア輸送に関わるトランスポーターの基質となる可能性がある。今後、adefovir、adefovir-pp輸送の直接的な測定を含めた詳細な解析が必要であると考える。

 Adefovir、tenofovir、cidofovirなどの逆転写酵素阻害薬の薬効メカニズムは、細胞質内でのウイルスの逆転写酵素の阻害であることを考慮すると、ミトコンドリアへの活性代謝物の暴露を最小限にすることで抗ウイルス薬の副作用を回避することが可能になると考えられる。ミトコンドリア膜を介したトランスポーターあるいは、AK2-AK4によるリン酸化によるミトコンドリア内への活性代謝物の暴露を回避した創薬研究への応用が期待される。

[参考文献]Imaoka T, Kusuhara H, Adachi M, Schuetz J D, Takeuchi K, and Sugiyama Y, Functional involvement of multidrug resistance associated protein 4 (MRP4/ABCC4) in the renal elimination of the anti-viral drugs, adefovir and tenofovir, Mol.Pharmacol. in press

図1 Adefovir,Cidofovir,Tenofovirの腎排泄の模式図

図2 考えられるAdefovirの毒性メカニズムの模式図

図3 MRP4を介したAdefovir,TenofovirのATP依存的な輸送

表 Adefovir,TenofovirのMrp4(-/-)マウス及び野生型マウスにおける各動態学的パラメータ

図4 AK2,AK3,AK4/OAT1共発現系、OAT1発現系、コントロール細胞におけるAdefovirの濃度依存的な細胞毒性

図5 [3H]dATP,[3H]dCTPのHEKより調製したミトコンドリアへの取り込みに対するadefovir,adefovir-ppの阻害効果

審査要旨 要旨を表示する

 Adefovir,cidofovir,tenofovirはB型肝炎ウイルス、エイズウイルスに対する抗ウイルス薬として開発され、adefovirとtenofovirはプリン塩基、cidofovirはピリミジン塩基の誘導体である。これらの薬物は細胞内でリン酸化を受け、活性体へと変換される。生体内からは腎排泄が主要な排泄経路であり、糸球体ろ過の他に近位尿細管における能動的な分泌(尿細管分泌)を受けることが知られている。Adefovir、cidofovir、tenofovirはいずれも生理的pHでは負電荷を有している有機アニオン化合物であり、有機アニオントランスポーターorganic anion transporter 1 (OAT1/SLC22A6)とmultidrug resistance-associated protein 4 (MRP4/ABCC4)の基質であることが既に報告されている。特に、adefovirとcidofovirはdose-limiting toxicityとして腎機能の低下が知られている。活性体である2リン酸化体はミトコンドリアのゲノム複製を行うDNA polymerase γの阻害能を有することから、ミトコンドリア毒性がadefovirの腎毒性を誘発する要因となっていると考えられている。

 申講者はadefovirの腎毒性について、親化合物の細胞内濃度を支配する腎近位尿細管上皮細胞内への取り込みおよび管腔側への排出の両過程に関与するトランスポーター群、更に、細胞内において2リン酸化体のミトコンドリアへの暴露を決定する要因となるリン酸化過程ならびにミトコンドリア膜を介した膜輸送過程を解明するべく研究に取り組んだ。

1. Adefovirの腎排泄メカニズムの解析

ヒト腎スライス法を用いて、adefovirの血液側からの取り込み過程についての解析が行われた。Adefovirのヒト腎スライスへの取り込みは飽和性を示した(Km値は131μM)。遺伝子発現系を用いた輸送実験の結果によると、adefovirは側底膜側有機アニオントランスポーターであるOAT1とOAT3の基質となることから、OAT1,OAT3選択的阻害剤であるp-アミノ馬尿酸(PAH)とベンジルペニシリン(PCG)による阻害実験が行われた。その結果、adefovirの腎への取り込みはOAT1選択的阻害剤であるPAHによって濃度依存的に阻害されるもの、PCGによっては阻害されない。この結果は、OAT1が主に腎取り込み過程に関与していることを示唆している。Adefovir、cidofovir、tenofovirの尿管腔中への排泄過程に関わるトランスポーターとして、MRP4を仮定し、MRP4を過剰発現した膜ベシクルを用いて輸送実験が行われた。MRP4発現膜ベシクルでは、adefovirおよびtenofovirについてはATP依存的な取り込みが観察されたが、cidofovirのATP依存的な輸送は観察されなかった。この膜ベシクルへのATP依存的な取り込みでは飽和性は観察されていないが、コントロールベシクルではATP依存的な取り込みが見られないこと、漫透圧依存性を示すこと、MRP4基質であるDHEASにより阻害されることから、MRP4による能動輸送を反映しているものと考察されている。Mrp4のin vivoでの重要性を明らかにするために、Mrp4(-/-)マウスを用いて、定常状態においてadefovir、cidofovir、tenofovirの血漿中濃度、尿排泄速度、腎臓中濃度が測定された。マウスにおいても、全身クリアランスの大部分は腎クリアランスによって説明され、腎クリアランスは糸球体ろ過速度よりも大きく、尿細管分泌の関与が示唆された。Adefovir、tenofovirの腎臓内濃度はMrp4(-/-)マウスでは野生型に比べ有意に高く、Mrp4(-/-)マウスでは腎臓内濃度基準の腎排泄クリアランスが有意に低下することを見出している。また、腎臓中のadefovir 1リン酸化体及び2リン酸化体いずれもMrp4(-/-)マウスにおいて野生型マウスに比べ顕著に上昇した。一方で、cidofovirに関しては、Mrp4(-/-)マウス、野生型マウスで動態学的パラメータに差異は認められなかった。これらの結果からadefovirおよびtenofovirの腎排泄メカニズムに関して、血液側からの取り込み過程にはOAT1が、管腔中への排泄過程にはMRP4が少なくとも一部は関与していることが明らかにされた。一方で、cidofovirについては取り込み過程については、adefovir、tenofovirと共有しているものの、排出側には別のトランスポーターが関与していることが明らかとなった。

2. Adefovirの腎毒性メカニズムの解析

 申請者はOAT1発現HEK293細胞において、adefovir処理によってミトコンドリア毒性が生じることを細胞内ATPレベル及びmtDNAゲノムのコピー数の減少によって確認した。adefovirのリン酸化に関わる酵素として、ATPの再生に関わる酵素群adenylate kinase (AK2-4)を候補として仮定し、各酵素の過剰発現系をOAT1過剰発現HEK293細胞を宿主細胞として構築し、adefovirの細胞毒性に関する感受性を比較した。本実験で用いたadenylate kinaseのうちAK2は細胞質とミトコンドリアの外膜と内膜との間の膜間スペース、AK3とAK4はミトコンドリアマトリックスに局在する。MTT法により細胞毒性を比較すると、AK2/OAT1、AK4/OAT1発現細胞、若干ではあるがAK3/OAT1細胞においてOAT1発現細胞、コントロール細胞に比べ、adefovirの細胞毒性は上昇した。細胞内のadefovirおよびリン酸化体の割合を測定したところ、AK2/OAT1細胞ではそれぞれ29%(adefovir)、26%(adefovir-p)、45%(adefovir-pp)であり、AK3/OAT1細胞では52%、23%、25%、AK4/OAT1細胞では50%、15%、35%であった。コントロール細胞(OAT1)では64%、13%、23%であることから、AK2では親化合物の割合が減少しており、リン酸化が促進されていた。AK3/OAT1ならびにAK4/OAT1細胞では、細胞毒性が増強されるものの親化合物の減少はAK2過剰発現ほど顕著ではなかった。この結果は、AK各分子種の細胞内局在の違いにより説明されると考察されている。以上の結果をあわせると、AK2、AK3、AK4のいずれもadefovirのリン酸化に関与すると考えられる。特にAK3、AK4過剰発現により毒性が増強されたことは、adefovirないしadefovir-pがミトコンドリアマトリックスへ移行していることを示唆している。ミトコンドリアマトリックス内の膜電位は-180mvと細胞質側よりも負であり、adefovirおよびそのリン酸化体のように生理的pHでアニオンである化合物の膜透過性は低いことが想定される。そこで、申請者はトランスポーターの存在を仮定し、単離ミトコンドリアを用いて輸送実験が行われた。dATP、dCTPの輸送に対するadefovir、adefovir-ppの阻害効果を検討したところ、2mMadefovirではdATP、dCTPのミトコンドリアを介した輸送が促進され、一方で2mM adefovir-ppにおいてはdATP,dCTPの輸送が阻害された。Adefovir,adefovir-ppはミトコンドリア膜におけるdATP-、dCTPの輸送担体と相互作用することを見出した。

 本研究により、adefovirの腎取り込み機構にOAT1が中心的に機能し、管腔への排泄にはMRP4が関与していることが示唆された。取り込み過程とは異なり、有機アニオンの管腔側排出メカニズムはほとんど明らかにされておらず、ABCトランスポーターであるMRP4が一部ではあるが管腔側排出輸送に関わることを示した本研究の意義は大きいものである。MRP4を介した薬物間相互作用やSNPsによるMRP4の機能低下はadefovirの腎組織滞留性を上昇させ、腎毒性増強因子となり得ることが考えられる。反対に、OAT1を阻害する医薬品を添加することで、adefovirやtenofovirの血中滞留性増加による治療効率の向上と、腎臓への蓄積を阻害することで腎毒性を予防できるものと期待される、このように、動態学的観点から、申請者の研究は医療に貢献するものと考えられる。Adefovirなどの逆転写酵素阻害薬の薬効ターゲットは細胞質内のウイルス逆転写酵素であり、ミトコンドリアへの活性代謝物の暴露を最小限にすることで、抗ウイルス薬の副作用を回避した創薬が可能になると期待される。現在、薬物によって惹起される肝毒性、腎毒性の発現予測・回避は創薬過程で注目されている。申請者の得た研究成果はより安全な医薬品の創製に貢献できるものと考え、博士(薬学)の学位を授与するに値するものと認めた。

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